砂塵…打猟組的香港大作戦

(チーム・ハンティングの香港大作戦♪)

--香港返還記念だぞ!--

お久しぶりのコージです(^^)♪ 今回の話は、前回の「オルゴール動乱」から半年ばかり前の話。


ということで、今回俺が来ているのは香港!1997年にイギリスから中国に返還されてから、この地域の経済力は衰退の一途をたどってる。返還に向けてせっかく取り壊した九龍城(旧香港のスラム街)が復活したのが、その証拠。返還後、香港と中国の民主化を求める活動家は、地下に潜った。そう、文字通り、地下に潜ったんだ。そうして造られたのが、一大地下都市、「新・九龍(ネオ・クーロン)」…

地上にある新香港は、まあ、とりあえずビジネス街やなにやらがあって、観光地になってるよ。でも、素人が一歩ダウンタウンに迷い込んだら、地下に引きずり込まれて命を落としかねない。地下スラムの新・九龍は、アジア屈指の無法地帯なのさ。

で、俺はそこにいた(^^;)。アルバイトするのに、ちょっと情報が必要だったんだ。アジアの裏世界では結構有名な、情報屋を訪ねていたわけ。

「坊や、本当にベトナムに行くんかえ?」

坊やと言われても、反論は出来ない。俺の前にいるのは、妖怪ババアのような趣のある、計寸婆婆(けいすんババ)。噂だと70歳らしいけど、実際は100近いらしい。身長140cmで、しわくちゃ。本当に中国妖怪の典型さ。彼女が、その情報屋。

「おう、行くぜ。婆ちゃん、他になんか耳寄りな話、ないか?」

「ベトナムなんぞ、何しに行くんじゃ?」

どうも婆ちゃんの様子がおかしい。3ヶ月ぶりに会ったんだけど、どうも言いたい事を言えないような感じ。だから俺は、その質問には黙っていた。そういうことは聞くもんじゃないし、答える義務もないもんな。だけど婆ちゃんは、俺を見上げ続けた。狭くて窓のない部屋の天井から、裸電球が下がっている。地上は昼の2時ってのに、それをつけてなきゃ真っ暗だ。もっとも今は11月。見かけはボロのこの部屋も、空調だけは最新だった。なんてったってここは、地下42階だもの(^^;)

「その、なんだ。悪気は…いや、詮索するつもりはない。ただ、坊や。最近のベトナムにはほら、その、あまりいい噂がないじゃろう?」

「噂は聞いている。“アルハンテリの黄金”の話だろう?」

婆ちゃんは、ほっとしたような顔をした。“アルハンテリの黄金”ってのは、昔からある噂なんだ。第3次世界大戦当時、朝鮮軍が占領下のベトナムのジャングルに隠したっていう、お宝のことなんだ。ただ、どういう宝物かは分かってない。軍資金とか、石油とか、それともなきゃ製造途中の核弾頭とか…いろんな噂がとんでいた。

「お前さんも、アルハンテリの黄金を探しに行くのか?」

「そんなヤバイ仕事、するもんか」

俺は、怪しい中国茶を啜った。渋いぞ!

「何だか知らないけど、物騒らしいじゃん。アルハンテリの黄金を探して、アジア諸国の軍や傭兵隊がジャングルに入り込んでる上、彼ら9割が戻ってこないんだろ?」

「そうじゃ。帰ってこないんじゃ。ワシから地図と情報を買っていった傭兵どもが、ほとんど戻ってこない。日本、シンガポール、フィリピン、韓国…」

婆ちゃんは、ほっと息をついた。黄金の話は昔からあるんだけど、最近急に、クローズアップされ始めたんだ。なんでも白人の結社が、黄金のある地帯を支配したらしい。

それで各国が、自国の工作部隊や名うての傭兵なんかを、ベトナムに送り込んでいるのさ。「黄金」とやらが財宝の類ならともかく、兵器だったら 怪しい結社に渡すわけにはいかないからね。

だけどそれを探りに行ったエージェントや傭兵が、ジャングルから戻ってこないんだ。

「中国の特殊工作部隊50人も、戻らない。それで、欧州の多国籍軍も、手を出し兼ねておる。坊やのボス…金髪巻毛の神父も、様子を見ているところじゃろ」

と、婆ちゃんはまたしても息をついた。

「だからこそ、お前さんに聞いておるんじゃ。何しに行くのかえ?」

「……」

俺は、肩を竦めた。

「いつもの、バイトだよ。それだけ行方不明者がいたら、けっこう稼げるだろうからな」

いつものバイト…それはもちろん、脱出案内。迷子になった兵隊さんを、安全地帯に案内して、案内料をふんだくるってやつ♪だからアルハンテリの黄金なんかに、深入りする気はさらさらなかった。

「それなら、頼まれてくれんだろうか?」

婆ちゃんは、しわしわの手をもじもじと動かす。

「引き受けてくれるんなら、情報代はタダでええ。もちろん、坊やの言い値の料金も払う」

「……婆ちゃんには世話になってるから、出来る事なら頼まれてやってもいいけど?」

ああ、俺ってお人好し…婆ちゃんは、顔をぱっと輝かせた。

「おお、いい子じゃのう♪」

「言っておくけど、頼まれてやるのは、出来る事だけだぞ」

「難しいことじゃない。その、実は…」

と、彼女はまたしても、もじもじと手を動かす。

「その、ワシのたった一人の身内…曾孫なんじゃが、そいつがやはり、ジャングルから戻らんのじゃ。坊やがバイトをする間、奴の…いや、奴が属してたチームの消息を、気にしていてはくれんだろうか?」

「婆ちゃん…血縁なんていたのか?俺はてっきり独身かと…(^^;)」

「何言っておる。ワシは若い頃、これでもミス九龍に選ばれたこともあるんじゃ!」

婆ちゃんは、でかい目玉とシワシワの口で俺に迫った。

「これでも、男には不自由しとらんかった」

「100年も前じゃ、美人の基準も違うのかな…」

「阿呆!たかだか80年くらい前の話じゃ」

80年前…(^^;)俺なんて、現在18歳だぜ。ばばあ、いったい今幾つだ?

「とにかく、龍衆(ロンチゥォン)という傭兵チームなんじゃ。ワシの手駒のチームで…聞いた事ないか?」

と、婆ちゃんは真剣になる。

「龍衆って、駕仙大兄(がせん兄ちゃん)がいるところだろう?駕仙大兄のことは個人的に知ってるんだけど、他の奴のことは知らないぜ?」

「黒眼金龍も…」

彼女は、俺の反応を探るように見る。

「金龍のことも、知らんかえ?」

「金龍(ツェイロン)なら、噂だけは知ってるよ。ブルース・リーもジャッキー・チェンも真っ青の、拳法の使い手だろ?本当か嘘かは知らないけど、中国の秘密警察100人を、素手でのしちまったって奴」

「100人は大げさじゃが…それがワシの曾孫なんじゃ」

と、彼女はいきなり目を潤ませた。

「3ヶ月前、坊やから買ったベトナムの地図を持たせて、送り出したんじゃ。やはりアルハンテリの黄金捜索の依頼があって…」

婆ちゃんは、口までもごもご動かした。

「2週間の予定だったのに、もう1ヶ月が経ってしもうた。あれならば、ワシより長生きしてくれると思っておったんじゃ。旦那が戦争で死んだあと、ワシは一人で10人の息子と4人の娘を育てた。息子も全員、旦那と同じように先の世界大戦で死んでしもうた。娘たちも、戦中の混乱を生き抜けるものはおらなんだ。今のワシが頼れるのは、曾孫のあの子だけなんじゃ。死んだなんて思いたくない。坊や、頼む。それでも死んでるのなら諦める。だからせめて、何かあの子の手がかりを、持って帰って来てくれんじゃろうか?」

うわあ…(^^;)俺、こういう話苦手。お涙頂戴モノに弱いんだよ…

「分かった、婆ちゃん…。とりあえず気にしておく。前金代わりに、情報代はチャラにしておいてくれ。死んでたら報酬はいらないけど、万が一生きてたら」

婆婆は、瞳に涙と期待を溜めて、俺を見つめる。

「……生きてたら、飲茶食い放題、おごれよ」

「ワシのキスもつけてやる♪」

婆ちゃんは俺の首に飛びついて、そのシワシワの口で頬に吸い付いてきたのだった…この妖怪ババア!お婿に行けなくなったら、どうしてくれるんだ!!

***

ということで10日後、俺はベトナムにいた。11月って言ったって、蒸すんだよ。しかもここはジャングル。ベトナム戦争でアメリカが敗退した一因が、このジャングルだもの。それに、プレデターがいそうだし…。とはいえ都市部では、観光シーズンが始まってる。

俺は、木の影から覗く星空を見上げた。こうして、一人でジャングルをうろつくのもたまにはいいものさ。ジャングルの南側に、多国籍軍が駐留しているんた。そこのオル・ダール軍のベースで4日に一度食料と弾薬を補給して、迷子を捜してうろついていたわけ。軍っていうのは、俺みたいな脱出案内人に、結構親切なんだぜ。傭兵隊みたいに、金でなんでも請け負うチームも歓迎されている。

なにしろ、自軍の兵士を危険にあわせることなく、作戦が効率よく進んでいくんだもの。俺は、7日間で5人の迷子をオルダール軍に届けていた。まあまあ、ってとこだな。うち二人はまとめて見つけたしね。

一方、計寸婆婆の依頼は、果たせないでいた。彼女の話によると、チーム「龍衆」のメンバーは、金龍と駕仙大兄も含めて11人。アジア・エリアでは有数の実力派らしい。これは俺の調査とも一致している。最近欧州の仕事ばかりだから、アジアのことはよく分からないんだよな(^^;;;)

それはともかく、寝床を作った俺は、手帳をめくった。11人全員の写真は手に入らなかったんだけど、金龍の写真はしっかりもらってあった。金髪、黒眼。オル人の親父と中国人のお袋のハーフ。写真で見る限りでは、すっごい美形だった。ファーダと張るよ。エキゾチックなんだ。映画スターにもなれそうさ。

彼らの作戦期間は2週間の予定だったが、それを過ぎても戻らなかった。が、俺が婆ちゃんを訪ねた5日ほど前、1人だけが戻ってきたらしい。チームのゲスト、ジークフリート、通称「シギィ」という21歳の男。2年ほど前から、龍衆に加わっていたドイツ人ということだった。

彼は全員が死んだようだと婆婆に伝え、それでももう一度探してくると言って再び出かけたらしい。彼が出かけて5日後、婆婆は俺に会ったわけだか、「シギィ」に頼んだことを、俺にも頼んだのはどうしてだ?

俺を信頼しているのかシギィを 信用してないのか?それともなきゃ、「ワラ」にもすがる思いだったのか…うーん。

とりあえず、缶詰と乾パンでも食って、寝るかな…明日の夕方にはベースキャンプに戻るから、そうしたらヨハンに連絡を入れとかなきゃ…

なんて考えながら、アリスバッグに手を突っ込んだ時だった。ちょうど俺の真向かいにある土手から、何か落ちてきたんだ。ガサガサ、ザザー…ドサッ……

正確には、俺が野営しようとしていた地点から右手20メートル程度の地点らしい。

俺は手早くバッグを背負い、マシンガンを引っつかんで茂みに飛び込んだのだった。

「……」

俺は、注意深く落ちたものに近づいていった。ゴミとか、他のグループの荷物とか、間抜けな野生動物ならいいけど、人だったりして…(^^;)

言っておくけど辺りは闇。頼りになるのは俺がつけてる暗視野スコープ。超音波を出して物体の概要を掴むヤツ。ソロソロと近づいていくと…落ちていたのは、本当に人だったのさ!

<2>

そいつは、傾斜80度位の土手に寄りかかり、俯きかげんで座り込んでいた。 裸足で、上半身裸。両足首には枷の痕が残り、肉が裂けて膿をもっている。筋肉の落ちかけた胸と腕、伸びた髪…白人っぽい。どうみても、脱走兵か捕虜だよ。俺は、用心深く近づき、自動小銃を構えたまま彼の腕を掴んだ。

冷たくて、脈がはっきりしない。死体かな?小銃の先で肩をちょんと突ついて、顔を上げさせた。が、俺はその顔を見てびびっちゃった。左の頬が、焼けただれて歪んでいるんだもの。したがって、無精ひげも顔の右半分にしかなかった。まあ、戦場の死体は、もっとワイルド(笑)だからな。このくらいで「恐くなる」ことはないけどさ。

俺はそいつを暫く眺めた後、死体と決めた。

「やれやれ。こんなところで死んじゃって、せっかく逃げてきたのになぁ」

とりあえず手を合わせ、十字を切る。

「ええと、キリスト教かな?とりあえず、慈しみ深い父よ、今この世からあなたの元にお召になったこの男を心に留めて下さい。洗礼によってキリストの死に結ばれた者がその復活にも結ばれる事ができますよーに。途中省略、アーメン+」

と、俺はファーダに叩き込まれた、第3奉献文とかいう死者のための祈りを唱えた。

「万が一仏教徒だったことも考えて、般若心経も唱えとくか…観自在菩薩 行深般若波羅密多時 以下省略っと♪」

それにしても、何だかざわざわと上のほうが騒がしい。こいつを探しているのかな?俺は早々にずらかる事にした。もちろん手ぶらで行くわけにもいかない。こいつが誰か、身元を確認できるものと、顔の写真を撮っていかなきゃ。俺は、ズボンのポケットを漁ろうと手を伸ばして奴の足に触れた。

「!!!」

俺は悲鳴を飲み込んだ。そいつが俺の手を握ったんだ。しかも、すかさずパンチだぜ。辛うじて避け、しゃがんだ格好で一歩後退。彼は体を起こして手を伸ばし、俺の肩を引っつかむ。こんな素早い人間、初めてだよ!

「ちょっと待ったっ!」

俺は慌てて、首に下げていた国際赤十字の認証を奴の前に突き出した。なんだか、キョンシーの額に御札を貼った気分(^^;)

「俺は敵じゃない!これを見ろ、これを。俺は脱出案内人だってば!」

迷子になって心細くなってしまった兵士に、公的な肩書きはけっこう効果があるんだ。彼も、ピタッと止まった。

国際赤十字は、俺みたいな仕事してる奴に、『Extrication Guid』という証明書を発行してくれるんだ。これは、赤十字マークと同様の効力がある。どこかの軍に属する兵はもちろん傭兵も、これについては周知しているはずだった。赤十字は世界共通だからね。最初にオル語でまくしたてたんだけど、止まってる彼を見ながら、俺は英語で同じ事を言った。反応がない…だがしかしっ!こういう時に俺の語学力が役に立つ。俺は他の言葉数種類でまったく同じ事を喋り捲った。

「…Extrication Guid?あんたが?俺を助けてくれるのか?」

彼は、正しい英語で聞き返してきた。おお、英語圏の人間か♪

「Yes…」

「オル語でいい…」

それは、英語より正確なオルダール語だった。

「それが一番分かりやすかった…」

この瞬間が、一番ほっとするよ。こいつを連れて歩きはじめたら、また緊張しなきゃいけないんだものね。俺は、フレンドリーな笑顔を作った。

「ごめんよ、死人と間違えちまってさ。なあ、ジャングルから出るつもりがあるんなら、連れてってやるぜ?行き先は、オルダール軍ベースキャンプだよ。希望があれば、他の軍のキャンプでも街でもいいけど?」

「それより今、何日なんだ?」

彼の口元は崩れかけて、話しにくそうだった。頬のところどころが膿んでいる。

「今日は、11月20日だよ。午後11時だけど?」

「…11月20日…1ヶ月以上たってる……あんた、本当に脱出案内人なのか?それなら俺を、空港に連れてってくれ!俺は、香港に帰らなきゃいけない!」

「香港って…」

俺は、相手の顔をじっと見詰めた。ほら、写真にあったじゃないか。あのいい男だ!

「まさか、龍衆の金龍?」

「…俺を知ってるのか?」

当たりだったらしい。彼の顔は、警戒心でいっぱいになる。俺は、肩を竦めた。

「計寸婆婆と、馴染みなんだ。あんたと龍衆を探してくれと頼まれてた」

俺は、バッグから痛み止めのアンプルを出した。

「龍衆の方向担当者が、俺の描いた地図を持っていたはずだけど?」

「コージ…コージ・イツキのサインが入ってた、あの地図のことか?」

「そうそう。俺がそのコージ・イツキだ(^^)。よろしくな♪」

彼の表情から、警戒心が薄らぐ。

「この足の傷、痛むだろう?痛みが紛れる程度に麻酔かけとくぜ。なんだか、騒がしいからな。とっとと移動しよう」

「多分俺を探している」

彼は、再び地面に腰を下ろした。

「俺を連れてたら、逃げ切れないな。あいつらには、そんな認証は通用しない。俺は自分で何とかするから、先に逃げろ。計寸婆婆に、俺の無事を知らせて…」

「ド阿呆っ!先になんか、逃げられるか!」

俺は、彼の足首を手当てしながら言い返した。

「これは婆婆から、金(というより、情報代タダにして)貰って、請け負った仕事だ!脱出案内は信用第一の商売だぞ。死に掛けた奴ならともかく、自力で動ける奴を見捨てていけるか!」

彼は、俺の迫力に飲まれてたじろいだようだった。こうなりゃ自棄だ!

「あんたが望んだ通り、香港まで送ってやる。絶対送るからな!」

「…」

彼は、暫く俺を見ていた。

「わかった。だけど、俺が倒れたら見捨ててくれ。共倒れは困る。俺の消息を、絶対に婆婆に知らせてほしい。シギィに裏切られた、報復を頼むと伝えてくれ」

シギィ…?龍衆で、唯一生き残ったというドイツ人ゲストのことか?????

どうなってるのかよく分からなかったけど、俺の推測はまあまあ当たっていたらしい。計寸婆ちゃんは、一人で戻ったシギィを信用していなかったわけだ。

だけど俺は、そのことを黙っていた。やり返す、などと意気込まれては困るもん。俺は、チューブ式の高カロリー栄養剤と予備の靴下を出して奴に渡した。

「あっちに死にたての奴がいたから、上着と銃をとってくる。それ食って待ってな。靴下、履いておいてくれ。30秒で戻る」

俺は茂みの中の死後半日くらいの死体の荷物からシャツとレインコート、それから履いていた靴と自動小銃を失敬して再び金龍のところに戻った。彼はちゃんと、栄養剤を食ってたよ。逃げる気力は充分あるらしい。

「サイズ、だいたい合うと思うぜ。弾は2マガジンしか用意してやれない。暗視野スコープはないけど、なんとかなるだろ」

俺が荷物を整理している間に、彼は手早く身支度をしてくれた。

「それじゃあ、行こう…」

立ち上がりかけて、俺は敵の気配に気付いちゃったよ(^^;;;)今逃げたら、後ろから狙い撃ちだな。俺はため息をついた。金龍も、緊張している。

「…おい、麻酔が完全に効くまで、もう少しかかるんだ。違和感があるかもしれないけど、普段鍛えてる奴なら走る事に支障はない」

と、俺は金龍の耳元で囁いた。

「俺が手首を握ったら、目をつぶりな。引っ張ったら、全速力で走れ」

気配はどんどん近づいてきて、とうとう敵は姿を現した。中央に、金髪碧眼の偉そうな男がいて、その周りを15人くらいの武装集団が取り囲んでいる。

「やあ、金龍…手間かけさせてくれるな。そっちのボクは、仲間か?」

それは、あまり流暢とは言えない上海語だった。

「シギィ…」

金龍が、忌々しそうに呟く。

「…ボクってのは、ひどいよな。多分あんたと、あんまり年は変わらないと思うぜ」

俺も、上海語で応酬だ!彼は、驚いたように俺を見た。

「貴様も香港人か?」

「ちょっと違うけど、俺の上海語のが上手だな♪」

俺達は、立ち上がった。

「俺は、脱出案内人なんだ。そこ、通してくれない?」

「脱出…赤十字の、Extricasion Guidか。あいにく、我々には通用しない。残念だったな。我々の基地で、ゆっくりご滞在願おうか」

「せっかくのご招待、遠慮しとくぜ。早く帰らないと、ママが心配するからな。あんたも早いとこ帰って‘おしっこ’して寝たほうがいいぜ」

「………」

ありゃ、ちょっと怒らせちゃったかな(^^;)ま、いいさ。

「その認証の効力を、疑っていないようだな」

「そんなことはないぜ。この商売、長いからな。それに赤十字と国連に、このジャングルから人が戻らない理由を調べてくれって頼まれてるんだ。俺のゲストの傷と、あんたの態度からして、どーもあんたが黒幕ってことで間違いなさそうだな」

シギィの顔が強張る。ジャングルで何やってるのか知らないけど、国連と聞いて表情がかわるんじゃあ、かなりヤバイ事だよな。アルハンテリの黄金と、関係あるかどうかは知らないけどさ。

「地元の村人まで誘拐するから、国連が出てくるんだぜ」

そろそろ金龍の麻酔が効く頃だ。

「その冴えないツラ、覚えとくぜ。そんじゃな。再見♪」

俺は、金龍の手首を握った。と同時に辺り一面、白い光と煙が広がる。何をしたのかは、まあ内緒だ。俺のオリジナル兵器だからな。

それに、寝込みを襲われないように、あっちこっちに罠をしかけてあったんだよね。俺はその罠のさ中を通っていった。激しい銃撃音と悲鳴が、後ろから聞こえる。

1キロほど走ったところで、俺は手を金龍から手を放した。それでも彼は、ちゃんとついてくる。言っておくけど、シギィに言ったのは嘘じゃないんだ。国連にも赤十字にも、結社の事を「気にしておいて欲しい」と、頼まれていた。ついでに、黒幕のいる基地の正確な位置も調べておいてくれと言われてる。どっちがついでかわからねーけどな(^^;)

俺となじみの脱出案内人はみんな無事なんだけど、新参者が数人、迷子を捜しに行ったきり戻らないんだよな。それで赤十字のマークが入った「認証」が無視されているっていうんで、赤十字でも問題視しているんだ。

とにかく、詳しい話は金龍から聞けそうだ♪俺達は、オルダール・ベースまで20キロ余りの獣道を、とにかく走ったのだった。

ジャングルを抜けて、ベース・キャンプの飛行場にでる…この瞬間が一番危ないんだ。狙い撃ちされる可能性があるからね。俺は、その拓けた滑走路にでる手前で金龍を茂みに引きずり込んだ。その瞬間、後ろから機銃掃射!

「基地がすぐそこなのに…」

と、金龍が当惑する。

「心配すんな。これだけ派手に銃撃してくれりゃ、滑走路の警備部隊が駆けつけてくれるよ」

事実、俺の言葉が終わらないうちに、戦車が3台、猛スピードで向かって来た。

「そんじゃあまあ、行くぜ」

俺は残っていた手榴弾7個のうち4個を、金龍に渡した。

「…投げていいのか?」

「おう。それから、これから撃つ白と赤の信号弾は、俺のマークだ。その煙に紛れて戦車に向かって走れ。乗せてくれるはずだ」

俺は背中に背負ったグレネードに、信号弾を込めた。銃撃は続いていたが、基地の側からも部隊が次々集まってきた。敵の襲撃を知らせる警報、夜空を照らすサーチライト。

金龍が銃撃を仕掛けてくる一群に向かって、手榴弾を投げる。コントロールがいいんだよ。木々の間をうまい具合に飛んでって、てきのいる茂みにストライクさ。銃撃が止んだその瞬間に俺は、サーチライトで照らされている方向に信号弾を撃った。赤と白の煙が混ざり合って飛んでいく。ついでに足元にもスモーク弾を転がした。同じように赤と白の2色の煙が吹き出す。俺は金龍を引っ張り、戦車に向かって突っ走ったのだった。

「やっぱり、コージ!」

指令戦車の側面のハッチが開き、知ってる顔が覗いた。

「何やらかした?」

「何もしてないぞ」

金龍を中に押し込み、俺も乗り込む。

「やあ、コージ。派手な脱出劇だな♪」

と、隊長さんまでがにやついた。

「俺好みじゃないけどね」

「Extricasion Guidに銃を向ける不届き者を成敗してやるか。目標確認、撃てぃっ!!」

どーんっと砲弾が飛んで木々がなぎ倒される。あーあ、派手に環境破壊するよな。何も気にせず、徹底抗戦するのがオル軍のいいところさ。多分ね…(^^;)

とにかく俺達は助かった。金龍が、深いため息をつく。

そしていつもの事なんだけど、俺は事件に巻き込まれた予感がしたよ。俺一人でなんとかなりゃいいけれど、あいつら呼ばなきゃ無理かな?でも、ファーダに内緒のアルバイトだし…俺のジレンマを察したか、隊長さんが髭ヅラでにんまりと笑う。

でもこの笑みには、もっと深い意味が隠されていたんだ。でも俺がそれに気付くのは、翌日になってからなのさ。


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