第8話〜僕たちの樹〜
「さて、退屈な午後だな」
則道の声でわれに返った僕は則道の背中を見ていた。
学校が終わり、則道と僕だけのバンド同好会の活動を終わらせた時には夕日
はすでに地平線を焦がして沈んだ後だった。 太陽の残光が空にグラディエ〜シ
ョンを作り、雲は陰影を濃くして妙に存在感を出している。
則道と校門で別れ、僕は帰宅の徒に付いた。
則道は偶然と言った。
石が光った様に見えたのも。同じ夢を見た事も。 偶然と。 偶然・・・。
伯父から取り返した石はまだ僕の胸にしまってある。 でも見る気はしない
。 ケチが付いたというのはこのことなのだろうか。 釈然とはしなかった。
だけど此れは手放さない。手放すものか・・・。
緩い上り坂に入る。 この坂の周りには樹が並んでいる。 並木道と言うの
だろうか。 そういえばこの樹の一本一本には思い出があるんだ。 小さいとき
に落ちた樹。 幼なじみの子と幼稚園の時結婚を約束して描いた相合傘が上に描
いてある樹。 小学生の時の雪合戦で伏兵を置いた樹。 友人と登って夕方まで
話し合った樹。 もう奴らには会えないのかなぁ・・・。
急に思い出した。通信だ。
僕が始めた事を今日、則道に話そうと思っていたのに。 バンドの仲間集め
たり、情報を収集したり出来るらしいし。 それに、則道もパソコン持っている
はず。 新しい樹に、パソコンを僕たちの新しい記念の樹に出来たらどんなに素
晴らしいのだろう!
坂に面する公園に入って、公園内の古い建物を横切り、右に曲がる。 公園
の出口で立ち話しているおばさんをよけて道を渡れば一寸した郊外に出る。 周
りを畑に囲まれて、近くにお寺がある僕んちに飛び込んだ。
「まぁまぁ、この子ったら、そんなに急いでどうしたの?」
「母さんただいまっ!あ、電話のコ〜ド切らないでよね」
玄関先に有る電話から電話線が2本、廊下に沿って伸びている。 僕はその
線をたどる様に二階の僕の部屋に上がった。 正確には今日初めて通信を繋ぐ。
今まではオンラインサインアップしたっきり書く勇気がいま一つ無かった。
ドキドキする。 新しいIDを入力して、通信を繋いだ。
「なんだこれ?」
メ〜ルが来ていた。
一つは事務局と有る。一つは・・だれだろう。
だれだろ・・・僕が通信しているのはまだ誰も知らないはずなのに・・・。
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電子メ〜ル 発信者 00000000 受信者 00000000
タイトル 和博様
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(ねこかず)
<PC−VANサークル「カフェテリア」#2200より転載>
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