外伝6〜秘密〜


 あの晩、俺は雑踏の中にいた。 このところ、和博の石をめぐり、妙な事件 ばかり起きていて、俺自身少々ブルーな気分だったので、たまには景気づけに女 の子とでも遊ぼうかと1人街にくりだした。 早い話が軟派でもしようかと街を さまよっていた。

 ふと見ると、今時珍しい長い黒髪の娘が俺の前を歩いている。 決めた、今 日はこの娘にしようと、俺は彼女に声をかけた。

「ねね、カラオケ行かない?俺すごい歌うまいよっ!」

 我ながら、相変わらず冴えない誘い文句だと思いつつ、振り向いた彼女を見 て俺は驚いた。 彼女の方もとても驚いている様子だ。

「・・・・・あっ!穂積君・・。」

 振り向いたのは、優等生の内藤さんだった。 何故? 何故彼女がこんな所 に、しかも女史は今日は眼鏡をかけていない。 髪もほどいている。

「なんで内藤さんがこんな夜夜中にこんなとこにいるのさ。 道にでも迷った か? あ、それとも眼鏡落として捜してるのかな?」

 女史は目を潤ませてこうつぶやいた。

「今日は・・コンタクトです。 ・・・家にいたく無いの。 たまにこうして 夜出歩いて、1人でお店でライブ聞きながらお酒飲んでたりするんです・・。  本当に家にいるのが嫌なの・・。」

 ふーーん、人は見かけによらない物だな。 内藤さん、真面目一徹だと思っ ていたのに。 取りあえずこんな盛り場にいるのは嫌だったので、俺は自分の知 り合いの店に連れていくことにした。

「俺もさ、知ってるよ。 ライブ聞きながら酒が飲める店。 こっちだ、おい でっ」

 店の前まで来ると彼女の表情がパッと変わった。 私もここよく来るんです 、今じゃすっかり常連ですよ、だと。 今思い起こすととても高校生の会話とは 言えないが、まあ、このさい細かいことは気にしない。 取りあえず中に入ろう 。
 店は割と小さな空間で一言で言うならボロい。 ハードロックがよく似合う 雰囲気だ。 奥の方に小さなステージ、フロアは客を入れるためにテーブルはほ とんど無い。 ここに来た客は殆どがカウンターで酒を飲み、またバンドの演奏 に燃える。

「おう、ノリちゃんっ久しぶり〜。 お、内藤さんもいっしょかい。 ほーほ ーほーほ〜、内藤さん、この狼野郎に気をつけるんだよ〜〜 ははははははっ」

 マスターの冗句に苦笑いしながら、オーダーを取った。 すでに飲んでいて 上機嫌のマスターはいらんことまで話し出す。 俺の長兄と友人だということ、 昔悪かった頃の俺を心配し、発散できる場所としてこのライブハウス兼バーに中 坊の俺をつれて来たこと、時々ここで飛び入りで歌っていること・・。 話は俺 のことだけでとどまらず、内藤さんの家庭の事情にまで及んだ。

「ところで、ご両親の方はどうなの、大丈夫なの?」
「・・・えぇ、変わらずです。 毎日喧嘩してます・・。 私のことなんて無 関心みたい。 夜中に帰っても何も言わないんだもの。 あんなの親じゃないわ よ・・。」

 内藤さんは吐き捨てるようにこう言うと、グラスの酒を一気に飲み干した。  をぃをぃ・・・これストレートじゃないか。 そんなに飲んで大丈夫なのかと 言うと、お酒は強いんです、こんなじゃ飲んだうち入りません、という答えが帰 ってきた。

 以外な人の以外な一面を見た。 もっと女史のことを知りたくなった俺は悪 いとは思いながらも、家庭の事情についてもう少し聞いてみた。 もう何年も両 親が不仲だという。 両親の争う姿を見ながら、自分はあんな大人にはなりたく ないと、いつかこの家を出ていってやろうと・・。 勉強をするのはそのため、 大学へ行き少しでも良い仕事についてさっさと家から逃げ出したい・・。 今は まだ高校生だから甘んじてこの家にいるが、本当は一時でもあんな殺伐とした場 所には居たくない・・だからこの店に来てバンドの演奏を聞きながらひとときの 安らぎを得ていると・・・。

 時計を見た。 今日はライブは無い用だ。 もう終電は行ってしまった。

「タクシーでも拾って帰るか・・。 割り勘だったらさ、たぶん平気だと思う よ。」

本当なら夜が空けるまでだらだら飲んでいるつもりだったけど、女史をつきあ わすわけにはいかない。 いくら家が嫌だっていっても、まあ取りあえずは家に 返さないとなぁ・・。

「・・・・歩いて帰ろう! 今日は空も綺麗だし、そうだ、線路を伝って行け ば早く帰れるわ! 始発が出そうな時刻になったら線路を降りて最寄りの駅から 電車に乗って帰りましょうよ!」

普段なら大却下の俺だが、俺も彼女も酔っぱらい。 女史の提案に即座に乗り 、俺達は店を出て深夜の線路を歩きだした。 楽しそうだ。 バーでふさぎ込ん でいた彼女が嘘みたいだ。 それにこんな笑顔、学校では一度も見せなかったし 。
 そうこうしてる間に夜が空けてきた。 俺達は線路を降りて駅を捜し、電車 に乗って無事に地元の駅までたどり着くことが出来た。
 別れ際に内藤女史は、今日のことは秘密にしておいて下さい、あ、でも岩館 君だけなら良いですよ、きっと止めても話してしまうでしょうから、と微笑みな がら俺に告げた。 俺もあぁいいよ、俺のがよっぽど秘密だらけだからさ、とこ の申し出を受け入れた。 ・・・・秘密かぁ。 秘密・・二人の秘密・・・・・ ・何か、何だろう、何とも言えぬ気分だ。 しかも、悪く無い・・・。

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**その後カズとの会話**
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「とまあ、こんなことがあったのさ、カズ。」
「・・・・で?」
「で?て何だよ・・・・」
「で、それだけなの? 二人で飲んで線路歩いてそれだけなの? 他に何かア クションは何もなかったわけ??」
「アクション?? ・・・・・・・・ばっかたれぇ〜〜〜!! そ、そんな、 ハレンチな、そんな軟派な真似ができるかーーーーーーっ!! アホかお前は、 この性少年めぇぇぇ」
「わはははっ、僕、『アクションは?』て聞いただけだぜぃ、ノリミチは想像 力が豊かだね、お前のがスケベじゃん あっはっは・・」

 ・・・・・・・こうして想像力豊かな少年達の夜はふけていくのであった。


(SUM)


<PC−VANサークル「カフェテリア」#2355、2356より転載>


<筆者からのコメント>

時期としては・・・内藤さんが事情を知った時期で 和博の退院が間近い時・ ・

でも無理に本編と絡ませるつもりはなかったので・・。

まあ、以外な人の以外な一面、みたいなのを書きたかったわけであります

内藤さんに関してはですね・・

表向き優等生 でも時々そんな自分に疲れて 自分にとって気の休まる

(ライブハウスなバー)へ

人知れず赴く・・・・・・・・・・・・・・・・・そんな感じですねーー

あらすじ 外伝紹介 相関図

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