外伝4〜妙里の章〜


 肌寒い風が学校の校庭の、家路を急ぐ学生達の肌を優しく撫でていく。 

「待ちなさい!覚見!」 

 時ならぬ大声に遠くの者は振り向いて、近くの者は飛びのいた。 そして両 者共、再び何事もなかった様に歩き出した。
 一陣の風。 スカ〜トをはためかせた小学生大の女子が三つ網を後ろに引っ 張るかの様に全力で校門に走って行った。 帰宅途中の学生のすき間を縫うが如 く走り去る。 覚見 妙里である。
 その後ろから追い駆けてくる、先程の声の主らしい学生服の男は其れよりず っと足が遅かった。 男は立ち止まり、顔より出る汗も拭かずに叫んだ。 

「此処で覚見を校外に出して帰宅させては、阿久津さんに頼まれた此の私の沽 券に、いや、生徒会執行部の面子に係わるっ! 富律、機甲部隊を率いて覚見の 退路を阻め!」

富律と呼ばれた細面の男はさっき此の男に追いついたばかりのようで、後ろで 息を切らしながら言った。 

「しかし緒須香さん、校庭での此れの運用は校則にて禁じられて居ますが」
「執行部長の此の私が許可した!此の件は追って釈明する。案じるな!行け」
「はっ!」

 富律が叫ぶと右翼の自転車置き場より、1個小隊程の黒い原付が現れた。  富律が乗る原付を先頭にして黒い固まりが妙里に向かって行った。 

「猪突猛進こそ我らが本領よ〜ぉぉぉ!」

言葉が先か黒い旅団が先か、学生達の行列を縦に二つに分けていく。 どっち にしろ、突っ込まれた学生達は良い迷惑である。
 覚見は後ろから来た富律の部隊の突撃を横に移動することによって、植木を 利用して投網攻撃をかわした。 

「ち、かわされたか。まあいい。目的は退路を断つ事だ。」

黒い原付の部隊は校門付近に集結、守りを固めた。 富律は不満を隠すように 言った。 

「これでいかに覚見が竣動しようとも外には出られまい」
「この状況をどう思う?三田。」

緒須香は隣にいる級友に尋ねた。

「覚見は観念してはいまい。 恐らく、我らの油断を突いて突撃するに違いな い。」

 緒須香の色の違う両目は等しく興味の色を浮かべた。

「油断は無い・・と思う所こそ油断というべきかな。 此処は動くべきか。  動き出す前に。」
「時間も無い事だしな・・・」

 後方に現れた先生の姿にびびった事も有り、三田は残りの執行部員全てを動 員し、短期決戦を企図した。 三田が率いる自転車部隊は持ち前の快速を以て妙 里の潜む植木の間に向かって走り出した。 三田の快速に追いつくのは余人の良 くする所ではない。 植木の場所までに相当の数の自転車が遅れた。
 殆ど単身で植木に躍り掛かった三田は其処に覚見の姿を認めなかった。 ど こだ?! 焦る三田は、富律の部隊へ駆けていく覚見を発見した。 すぐさま遅 れた部隊を再編、今度は横隊でじょじょに覚見を追っていく策に出た。 結果と して三田は植木から覚見を追い出すのに成功したのである。

「富律!その場を動くな!」

三田と緒須香はほぼ同時に叫んだ。 下手に富律が動けば隙が出来る。 富律 が抜かれれば後は無い。 学校から離れれば後はもう逃げ放題だ。 捕まえる事 は出来なくなる。 それよりも、封鎖を続けて居たほうが確実に違いない。
 三田は自部隊を止めた。

「覚見!大人しく投降せよ! 夏姫さんのお呼びだ。」
「やだよ〜〜〜〜〜〜!」

と叫んだ覚見は意外な行動に出た。三田の部隊に突撃してきた。



 覚見は一寸は知られた空手使いである。 その空手使いが突進してきては数 の上では圧倒的有利な執行部員でもたじろぐ。 そして三田の部隊が防御を覚悟 した時おもむろに覚見は退却、元の場所に戻る。
 それを3度、繰り返した頃には三田の部隊は不安から当惑、そして4度目の 突進を覚悟して4度目にはまたか、と思い出した。

「もうそろそろ来るぞ・・・」

三田は予感した。 此れは擬態だ。 こうして油断した頃に本当の攻撃が来る 。 覚見の空手は迂直、虚実が基本ではないか。 覚見の、夏姫の空手の流派は 「正拳無し」と言われる独特の流派だ。 勿論正拳突きは有るが正拳を実践する ことは無い。 円を基本運動とする。 そのことによってスピ〜ドと力を増し、 尚且つ、相手の意表を突く事になる。 意表を突くのは自分も得をし、相手も自 分の実力を知る。 いらぬ争いは減る、というのが教えらしい。

 その時、執行部陣営においては富律のみ気がついた事が有った。 覚見の立 っている場所が擬態の数を重ねる度に自分の方へ近づいている事を。 恐らく、 擬態を繰り返す真の理由は我が方との間合いを縮めて一気に突破することなのだ ろう。
 と判断した富律はほくそ笑んだ。 実は富律の投網の間合いに覚見は入り込 んでいた。 全軍に投網を構えさせた。
 その時、覚見が動いた。 後方の富律の部隊の方に。

 富律の部隊は原付に皆、乗っていた。 身動き出来ない上に両手が投網で塞 がっている。 覚見は富律の視界の真下に潜り込みそこから一気に擦り抜けよう とした。 慌てて片手のみ投網を放して掴み掛かった富律の左腕を覚見は体を捻 る事によってかわした。 見た目には、いや富律の目にも擦り抜けたとしか見え なかった。 覚見は擦り抜け、こうして校外の土を再び踏む事となった。

「ごめんね〜っ、きょぉね〜、あんぱんまんのビデオ予約忘れちゃったの〜」

 という言葉を残して覚見の姿は消えた。

「富律は投網を出すタイミングが早過ぎたのだ!」

・・・と言って緒須香は考え直した

「いや、俺が熱くなり過ぎたのだ・・・・・。」


 此の後、覚見こと妙里は、結局夏姫に捕まり、ノ〜トパソコンを和博に届け るというお使いを頼まれる事になるのだがその話は後程・・・・・・


(ねこかず)


<PC−VANサークル「カフェテリア」#2313、2314より転載>


<筆者からのコメント>

 新しい登場人物には有る共通点が有ります。
 さて、何でしょぉか〜〜〜〜ぁ(^^;)


 ヒント、ねこかずは最近ようやく、銀英伝第四期のビデオを3巻だけ見まし た(^^)


 ううう・・・おすか〜〜〜〜〜〜ぁぁぁぁ(^^;)


【猫和画伯作】

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