19世紀初期

[К.Ф.ルィレーエフの作品][《成り上がり者へ》][《市民》][長詩《ナリヴァイコ》][詩作品]

[目次]


К.Ф.ルィレーエフ(1795-1826)の作品

 様々な傾向の間でのかなり激しい論争の19世紀10 -20年代の文学運動において、非常に目立つ場所をデカブリストの詩人の作品が占めている。貴族の革命家たちの中から、当時の政治的論争だけでなく、芸術文学論争に於いて重要な役割を演じた一連の詩人、作家たちが出てきた。デカブリストの詩人たちの名--ルィレーエフ(Рылеев)、オドエフスキー(Одоевский)、キュヘリベケル(Кюхельбекер)、В.ラエフスキー(Раевский)その他多く--が、18世紀末に、まだツァーリの圧制と農奴制に反対する闘争の旗を大胆に掲げたロシア最初の革命家、作家であるラジーシチェフに最も近い後継者として、ロシア文学史の中に入ってきた。デカブリストの詩人たちの中で最も輝き才能豊かであったのは、「北の結社(Северного общества)」の指導者、ルィレーエフであった。
 詩人の生命は強制的に断たれ、彼の作品が「歌い終わらぬ歌(недопетой песнью)」として残った。かつて、この歌の根本的モチーフが非常に明らかに表現豊かに響いたので、ルィレーエフを私たちは無条件に市民の詩人と呼び、その作品の中には生活と詩が完全に分かつことができないほど一体となっている。

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「成り上がり者へ」

 ルィレーエフの名は、彼の諷刺頌詩「成り上がりの寵臣へ(К временщику)」(1820)が出版された瞬間から同時代の読者たちに広く知られるようになった。人気のあった雑誌「ネフスキー・ズリーチェリ(Невский зритель)」に掲載され、それは首都の人々に大きな印象を与えた。みんな、当時、絶大な権力を振るったアラクチェエフ(Аракчеев)に対して向けられた諷刺であることを理解した。ルィレーエフは、非常な憎悪の念で、また一方さらに大きな軽蔑で彼に襲いかかり、その寵臣は道徳的にやっつけられた。著者は、次のような言葉で、自らの作品を始めている。

  傲慢な、そして卑しく狡猾な寵臣
  君主のずるくおべっか使いで恩知らずの友
  荒れ狂う自らの祖国の暴君
  重要な高位に狡猾さで就いた悪人
   (Надменный временщик, и подлый и коварный
    Монарха хитрый льстец и друг неблагодарный
    Неистовый тиран родной страны своей
    Взнесенный в важный сан пронырствами, злодей!)

 分けられた形容詞句が、鮮やかに民衆の死刑執行人への詩人の憎悪を伝えている。
 ルィレーエフは、「傲慢な成り上がり者の寵臣(надменному временщику)」を、民衆に対するあらゆる悪業のための報復が避けられない時だと脅している。「暴君よ、恐れおののけ!彼が生まれる。(彼とは民衆の復讐者である。)そして、その時はいかなる容赦もしないだろう。」詩人は、この復讐者を空想して語る。

  おお、いかにで私はそのことを褒め讃えようとするか。
  我らの祖国を、誰がお前から救うのか!
   ・・・
  お前のしたことは、お前を民衆に示し、
  お前が彼らの自由を圧迫したことを知る、
   ・・・
  その時、お前は震え上がれ、おお、傲慢な成り上がりの寵臣よ!
   ・・・
  悪と裏切り行為のために
  お前に自らの判決を子孫たちは宣告するだろう!
   (О, как на лире я потщусь того прославить,
    Отечество моё кто от тебя избавит!
     ・・・
    Твои дела тебя изобличат народу;
    Познает он, что ты стеснил его свободу,
     ・・・
    Тогда вострепещи, о временщик надменный!
     ・・・
    За зло и вероломство
    Тебе свой приговор произпесёт потомство!)

 アラクチェエフ(Аракчеев)は、描かれた成り上がりの寵臣に自ら自身を認めないわけにはいかなかった。そして、みんなは詩人への残虐な制裁を待った。しかし、同時代人の一人は書いている。成り上がりの寵臣は「公然と告白することを恥じ、嵐の通り過ぎるのを待った。(постыдился признаться явно, туча пронеслась мимо.)」
 自らの諷刺詩で、ルィレーエフは、もしいかに深く誠実であると同時に大衆の気分と一致したなら、詩の言葉はいかに大きな印象を読者に与えるかを示した。
 諷刺詩「成り上がりの寵臣へ(К временщику)」は、その芸術的特殊性からは、古典主義に近い。その中では、広く演説調の問いかけ、絶叫的な言葉、教会スラブ語の古風な言い回しの多い語彙(「взирать(眺める)」「потщусь(私は努力する)」「вострепещи(震え上がる)」など)、繰り返しの多い傾向のある言葉の使用などを用いている。久しい以前に構成された古典主義者たちの詩的方法で、諷刺詩の著者は、まさに芸術的な用法を導きだし、市民の摘発者としての詩人の高い志の与えられた機会に答えている。しかし、後の自らの作品の中では、ルィレーエフは、自らの市民的愛国的志向を表現するために新しい芸術的形式を探し求め、絶えず広くロマン主義を採用し始めている。

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「市民(Гражданин)」

 デカブリストたちの蜂起の直前に、ルィレーエフによって、小さな、しかしとても力強い詩作品「市民(Гражданин)」が書かれた。深い感情に貫かれ、この詩作品は、大きな芸術的力で表現され、革命的闘争に加わる市民自らの義務を遂行するように呼びかけている。と同時に、それは、「苦難の祖国の大いなる不幸(惨禍)に、冷静に冷たい視線を投げかけている(с хладнокровием бросат хладный взор на бедствия страдающей отчизны)」人々に宛てた警告が響いている。自らの考えを発展させながら、詩人はこう語る。

  彼らは後悔するだろう。民衆が立ち上がり
  彼らを無益な愛撫で抱擁の中に見いだすとき
  また、荒れ狂う暴動の中に、自由の法を捜し求めるとき
  彼らには、ブルータスもリエーゴも見い出さないだろう
   (Они раскаются, когда народ, восстав,
    Застанет их в объятьях праздной неги;
    И в бурном мятеже ища свободных прав,
    В них не найдёт ни Брута, ни Риеги. 1

  1. リエーゴ(Риего)--1820年、暴動を起こしたスペインの将校。
    ブルータス(Брут)--共和制ローマを守るために(古代)ローマ皇帝に対し、立ち上がったローマ人。

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長詩「ナリヴァイコ(Наливайко)」

 長詩「ナリヴァイコ」は、未完の作品である。この長詩のテーマは、16世紀の終わりのポーランド人の地主とのウクライナのコサックの国家独立のための闘争である。長詩「ナリヴァイコ」の英雄は、民衆に選ばれたウクライナ・コサックの首領であり、彼は「祖国のために剣を取った。(поднял меч за край родной)」

  しかし、圧制者による祖国の
  長年の陵辱を許し
  それに相応しい報復もなく
  侮辱の恥を残すこと--
  私には力がない。一人のただの奴隷
   それほどまでに卑しく弱いのかもしれぬ
   奴隷にされた同国人を
   私は冷静に見ることができるのか?
   とんでもない。そんなことなどできない。私の運命は
   圧制者も奴隷も等しく憎むこと
   (Но вековые оскорбленья
    Тиранам подины прощать
    И стыд обиды оставлять
    Без справедливого отмщенья
    Не в силах я: один лишь раб
     Так может быть и подл и слаб.
     Могу ли равнодушно видеть
     Порабощённых земляков?
     Нет, нет! Мой жребий: ненавидеть
     Равно тиранов и рабов)

 武装闘争の理念を宣伝しながら、ルィレーエフは、同時に、まるでその悲劇的な結末を予見している家のようだった。しかし、このことはそれを阻止しなかった。長詩の中に、私たちはその英雄の予言の言葉を見出す。

  私には分かっている。破滅が
  民衆の迫害に最初に
  反対した者を待っていることを--
  運命は、私をすでに運命付けた。
   しかし、話してくれ。いつどこに
   自由の贖われた犠牲のないことがあったろう。
   私は、祖国の地のために滅びる
   私はそのことを感じ、知っている。
   (Известно мне: Погибель ждёт
    Того, кто первый восстаёт
    На утеснитеся народа --
    Судьба меня уж обрекла.
     Но, где, скажи, когда была
     Без жерть искуплена свобода?
     Погибну я за край родной,
     Я это чувствую, я знаю.)

 長詩「ナリヴァイコ」は、ルィレーエフの他の長詩同様--革命的ロマン主義の精神で書かれた作品である。それは、民衆の自由への戦いを褒め讃え、ロマン主義的に重要な英雄の形象を描き、ナリヴァイコとポーランドの地主との軍人らしい決闘といった鮮やかなロマン的絵画を与えている。ロマン主義的に描かれた民衆は、人々の心的体験や気分と緊密に結びつけられている。

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詩作品(Песни)

 ルィレーエフの作品の中で、デカブリストのА.ベストゥジェフ(Бестужев)と共同で著作されたいくつかの抒情詩(песни)は、特別の位置を占めている。その独自の特徴は、それらがその構成において、民衆と極めて近いという点にある。これは、その内容自体、暴君のツァーリ、地主貴族、官吏たちによって奴隷にされた民衆の考えを伝えていることで、十分正しいと認められる。

  あぁ、私は吐き気をもようす、
  生まれ故郷の地においてさえ。
  すべては奴隷の状態で、
  重苦しい運命の中で
  恐らく、永遠に生活をするのだろうか?
   永く、ロシアの民衆は、
   主人の古着なのだろうか
   そして家畜のように
   人々は
   永く売買されるのか?
   (Ах, тошно мне
    И в родной стороне;
    Всё в неволе,
    В тяжкой дале
    Видно, век вековать?
     Долго ль русский народ
     Вудет рухлядью господ,
     И людями,
     Как скотами,
     Долго ль будут торговать?)

 一つの詩の初めは、このように鳴り響く。どこにも、誰の中にも真実の民衆は見出せない。「恥を知らない(без стида)」主人公たちが彼らを強奪する。さらに、ツァーリの苛酷な税が民衆に重くのしかかる。

  苛酷な税によってツァーリは、我々を
  乾しパンのように干からびさせる。--
    ある時は、道が(?)
    ある時は、租税が
  破滅させる。我らを完全に。
   (Нас поборами царь
    Иссушил, как сухарь, --
      То дороги
      То налоги
    Разорили нас вконец ... )

 しかし、極度の苦難にあっても、民衆は意気消沈しない。彼らは、自らの力と才能を信じ、遅かれ早かれ彼らの敵であるものを、たとえ「高き神であろうと、遠きツァーリであろうと(до бога высоко, до царя далеко)」打ち砕くと 信じている。

  そうだ。我らは、本当に
  よく知っているぞ。
  そのように心に留めておけ!
   (Да мы cами
    Ведь с усами,
    Так мотай себе на ус!)

 こうした喜ばしく元気に鳴り響く最後の詩行の中に、詩人は「迫害者たちの(утеснителей)」悪しき力に対する民衆の真実の勝利への自らの確信を表現している。デカブリストたちの詩作品の中で、この叙事詩(песня)は、その内容で特に優れている。その中に、民衆の革命という思想を私たちは見出すから。ゲルツェンは、自らの革命の宣伝において、しばしば、デカブリスト詩人、ルィレーエフの詩の遺産を引用している。ゲルツェンの最も近い戦友、詩人オガリョフ(Огарёв)は、ルィレーエフの死に際し詩を寄せている。この詩のもとに、すべての進歩的な人々、デカブリストの思想の後継者たちは署名する用意があった。

 一揆が起こり、消えた。苦悶が目覚めた。
 ほら、五人の絞首刑にされた人々・・・
 私たちの心は、黙って戦慄した。
 しかし、生きた思想は羽ばたきをした。--
 そして、道は人生すべてに徴付けられた。
  ルィレーエフは、私にとって初めての光だった。・・・
  私にとって、魂の生みの親--
  あなたの名は、この世界で、
  私にとって、尊き遺言
  導きの星となった。
   私たちは、あなたの詩を忘却の彼方から奪い取る
   ロシアの初めての自由な日には、
   若い世代に見えるところで
   あなたの苦難の霊は
   崇拝の対象へと回復される・・・
  (Бунт, вспыхнув, замер. Казнь проснулась
   Вот пять повешенных людей ...
   В нас сердце молча содрогнулось.
   Но мысль живая встрепенулась --
   И путь означен жизни всей
    Рылеев был мне первым светом ...
    Отец по духу мне родной --
    Твоё названье в мире этом
    Мне стало доблестным заветом
    И путеводного звездой.
     Мы стих твой вырвем из забвенья
     И в первый русский вольный день,
     В виду младого поколенья,
     Восстановим для поклоненья
     Твою страдальческую тень ... )

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