クワガタ事件
(Episode200X)
タマちゃん
「クワガタ発見」(昆虫)
「なんだ!、おめ、ここにいたのがよ!」と大声が耳に飛び込む。
紛れも無く、タマちゃんの声、つづいて「んだものわがんねべえ。
」
オフィス全体に響く声には、かなうものがいない。いても、もう一人ぐらいだ。
オフィスの全員が注視するが、タマちゃん、おかまいなし、「なんで、こんなところにいたんだあ!」と下を向いて大声で言っている。
どうも、デスクの下に誰かがいるようにも見えたが、電話をしているように思った。
「おめ、そんなところにいたら、たいへんだべえ」と今度は少し中声で話しかけている。
ははん、電話で誰かの所在を確認できたのかな、というような状況にも感じられた。
やがて、静かになって、急ぐようにタマちゃんが大きなカバンを持って、外出して行った。
そこで、タマちゃんの対面席に座っている、金ちゃんに聞いてみた。
「タマちゃんの大声には、いつもびっくりするが、今のは、何事だったの?」
「くわがたがみつかったようです。」と金ちゃん。
「そう、くわがたっていうのは珍しいね。どこにいたの?」と聞いた。
「つくえの下です。」と金ちゃんは言った。
「あれは、電話じゃなかったの?、なんで机の下にいたんだろうね。」
銭形という名ならば聞いたことがあるが、「くわがた」というのは鍬形=A桑方≠ニ
書くのかな、珍しい名前に、聞いている此方側としては興味がわいた。
「どういうかんじなの?」と聞いた。
「おおくわがたです。」と金ちゃんは普通に答えていた。
「エーッ、もしかして、昆虫の?」と確認した。
「そうですよ。クワガタムシ。」と簡単に答える金ちゃんだった。
オフィスに、まさかクワガタムシがいるとは、想像もしていないことが普通であろう。
「てっきり、くわがたという人物と電話で話をしていたと思っていた。」と言った。
「バックをよけたらば、クワガタを見つけたようです。」
タマちゃんが、外出した際に、何処かでクワガタを捕獲してきたのが、逃げられて、行方不明となっていたものを、捜索中に遂に発見
出来た事態なのか、そう思った。
それにしても、タマちゃんは、昆虫に対しても、人格があるような会話をしていた様子だった。
よほど愛玩していたクワガタムシのように思った。
タマちゃんは、釣りが大好き、それもメインが海釣りで、男なのに、料理も大好き、TVの料理番組を見て、レシピを憶えてしまうという人物である。
ただし、釣りは、キャッチアンドリリース≠ナ、釣り上げた魚は、料理しないそうである。
そのぐらいやさしい気持ちの持ち主だからクワガタを飼って、話しかけても不思議のない人物である。
この日は、直前の昼食時に、オフィスの近くにある此方と共通の御用達ランチ店で、おかずの焼き魚を食べかけ中に、箸から焼き魚を床へ落としてしまい、食べ損なって、「悔しいっ!」と大声を聞いてきたばかりである。
「釣りのキャッチアンドリリース≠ネらばまだしも、食事のおかずになった焼き魚までも、なにもキャッチアンドリリース≠しなくてもいいのに。」と言った。
「そうだよね。惜しかったなあ。」と大魚を釣り逃がしたようにがっかりしていた。
2003年7月25日13時30分のことであった。
それがあって、137日後の12月4日、きょうの午後、仕事をしているタマちゃんの直近を通ると、突然「アレッー!」と大声を上げた。
「なんだ、クワガタ≠ナもまた見つかったのか?」と聞いてみた。
「いや、ちがいますけど、プリンタで出力をしたものが、
違うもの思ったら、あ、これでいいんだ。」と言った。
「タマちゃんの大声は、また、クワガタ事件とすぐ思い出してしまうよ。あのクワガタはどうした?」と聞いてみた。
「あのクワガタは、オオクワガタで、今は、結婚して金ちゃんの家で優雅に暮しています。高いんですよ、あのオオクワガタは!」とタマちゃん。
「どうして、金ちゃんの家にいるんだ。」
「オレが最初に、豪華な虫かごを新規に購入して、飼っていたんですが『オス一匹ではかわいそうだ』と言っていたところ、薄澤さんが『おれのメスをやるから』というわけで、嫁さんが来たんですけれど、
オレも独身だから、みているのがつらくなって、金ちゃんのところにくれたんですよ。」とタマちゃんは言った。
「そうか、金ちゃんのところには、幼稚園年長の長男がいるから、クワガタを飼育するのは教育のためにも、それは良かった、良かった。」
「しかも、あれは、オオクワガタですからね、取引価格で、オオクワガタは、オス一匹が、天然もので四万円はするから、メスがF2として、只であっても、虫かごと餌附きの飼育セットですから、五万円の価値があるね。」とタマちゃんは言った。
「おおく、は・・・」、駄洒落もでない雰囲気になった。
「オフィスまで連れてきて、人間を相手に会話していたように思ったぐらいだから、可愛がっていたんだろうね。」と言ったら、すかざず。
「とんでもないですよ、たしか、あれはたしか、9月1日、外出するときに、バックを持ち上げたら、フロアのマットに角を刺していたんですよ。たまたま、オレが外の仕事に出かける時だったので、バックを持ち上げたから発見されたげんど、あと三日もバックの下で、フロアマットに角が刺さったまま
抜けないでいだら、まちがいなく死んでいましたよ!」と言った。
「なあんだ、行方不明になっていた愛するペットとの再会シーンかと、きょうの今まで、ずうっと思っていたよ。」と言った。
「あれは、夜にオフィスの窓を閉め忘れていたところから侵入し、たまたま、オレの机の下に置いた、仕事のバックの下に潜ったとおもうんです。」
「それで、そのクワガタは、金ちゃんの家で、元気に生きているのかい。」と聞いた。
「元気とおもいますよ、不幸があったという知らせが有りませんからね。なにしろ、あれは、オオクワガタですからね、取引価格で、オオクワガタは、オス一匹が、天然もので四万円はするから、メスがF2として、只であっても、虫かごと餌附きの飼育セットですから
ね、五万円の価値がありますね。」と再び繰返して言った。
きっと、金ちゃん一家では、「たまちゃーん、うらんちゃーん」と呼んでいるとおもった。
無事に冬を越して、来年の夏に二世誕生となったら、金ちゃん一家は、ひだりうちわだが、タマちゃんと金ちゃんが内輪もめしないように祈ってします。
(一回の繁殖で20匹、三年は冬越しするそうだが。)
ただし、タマちゃんは、7月25日の事件を「あれは、たしか9月1日」と言った。なんでだろう。
2003.12.4記 12.5加筆修正