飛行特性
飛行機はその形状によって
その特性は大きく異なります
特性とは、その飛行機独特のくせの様な物です
何が普通で何が独特かは論議の対象となりますが
まずはとりあえず
特徴的な事です
先ずはF−4の低速域での特性についてです
某HPの操縦法の中にちょっと出てますが
別の観点から、見てみます
F−4の設計は、米国海軍仕様でスタートしてます
このため、空軍機では考えらられない特性や装置が付いています
それは、海軍故に空母運用が基本だからです
代表的なのはフックです
F−15にも自由に上げ下げ出来るフックは付いていますが
あんなに大きくはありません
F−4は異常な大きさです
あれを上空まで運ぶのには大きなエネルギーが必要です
もったいない話です
でも空母では毎回使うので
あの程度の物が必需品なのでしょう
F−4の特性のほとんどが空母運用から来ています
先ずは低速でのアドバースヨー
F−4で低速でエルロンを使うと
意図しない逆のロールが発生します
そしてデパーチャーから墜落となります
我が国でもこれに起因すると思われる事故が
数件起きています
その理由は、羽がたためるために起こるのです
F−4の翼は、真ん中で折れたためます
そのために外翼には、油圧管が通ってません
前縁フラップの配管はありますが・・・・・・
ですから、本来翼の先に取り付けられるべき
エルロンが、内翼に付けられています
こんな飛行機は他にはありません
そのためモーメントで力を稼げない分
大きなエルロンが付いています
フラップと同じ程度の大きさです
またフラップの幅もエルロンのために小さくなっています
大きなエルロンは、揚力以上に抵抗も増えます
それをうち消すために、スポイラーがあります
迎え角が少ないときは
エルロンの抵抗と、スポイラーの抵抗が釣り合い
変なヨーは発生しませんが
迎え角が大きくなると
スポイラーの利きが低下します
するとエルロンドラッグによる抵抗が増し
大きなヨーを発生させます
大きなヨーは、上半角効果で逆ロールを出します
結果的には、パイロットの意図したのと反対のロールが発生してしまうのです
具体的には、右旋回仕様と操縦桿を右に倒すと
不意に左のヨーが発生し
それと同時に、左のロールが発生するのです
本来ヨーによるロールはあまり発生しないのが飛行機ですが
F−4の場合は、上半角効果が当初少なかったために
後から外翼だけに大きな上半角をつけました
それ故、ヨーに対するロールが多機より大きいのです
ですからパイロットは大きな迎え角での旋回には
最新の注意が必要で
旋回時には、大きな上半角効果を利用して
旋回したい方のラダーを踏むのです
不思議な物でこれによりきれいなロールができます
しかしここで危険なのが、当て舵です
ロールインは意識的にラダーでやりますが
大きすぎたロールレートやバンク角を修正するには
どうしても操縦桿を使ってしまいます
具体的には、右ロールしようとして、右ラダーを踏みます
すると機体は右バンクをとります
バンクを止めよとラダーをゆるめればいいのですが
多くのパイロットは左エルロンを当てます
右ラダーに左エルロン
完全なクロスコントロール
どんな飛行機でもやってはいけない行為の1つです
これで思い切ってスティックを引けば
完全なスピンです
これがF−4の低速での最大の特性です
次に縦の静安定
F−4の大きさは空母のエレベータのサイズで決定してます
それ故、海軍仕様のオリジナルファントムは、なにか寸詰まりです
広い翼に短い胴体
これでは、安定して飛べるわけがありません
長尾胴体に長い翼これなら飛行機です
だからF−4は縦静が不安定なのです
空軍にわたってからは、GUNを積んだりして
やや鼻が長くなり、またスタビレータの力を大きくするために
水平尾翼に逆スラットを付けたりして
縦静安定を強くしようとしてますが
なにしろ基本設計がぶさいくですから後の祭りです
それ故F−4は縦が異常に軽いんです
SASを切ったら操縦が困難です
F15なんかはCASを切ってもほとんど変化有りません
設計が良いのでしょう
また、F−4で特徴的なのは
Mach.95あたりで縦静が逆転する事です
普通の飛行機は水平飛行して
増速すると押し舵が必要で
減速では引き舵が必要ですが
この領域のF−4は反対です
加速していくと、機首がどんどん下がってしまうので
引き舵が必要になります
それまでと急に逆操舵になるのです
それは上昇中に顕著です
同じ姿勢で上昇すると
温度の降下に伴いMach数が上がってきます
IASは同じですよ
そのうちMach.95を通過します
すると、急激に機種をさげ始め
更に加速しようとします
これはパイロットにとって
全くおかしな現象なのです
この付近で発生する危険な現象はマックタックです
音速を挟んで空力中心が移動し
急激にG変化を起こすのです
F−4の場合は、特に激しく
空力中心の移動と、縦静の逆転で
直ぐオーバーGしてしまいます
具体的にはMach1.2程度から旋回に入れます
旋回をすると抵抗増加により減速します
音速を切ると突然空力中心が移動し
機種上げ傾向になります
その上その付近では縦静が負なので
更に機種上げして
結果的に制限荷重をオーバーしてしまうのです
これもすべて空母のおかげです
次にフラップの話です
F−4のフラップは異常に下がります
それはエルロンのために面積が稼げない分
他の航空機以上に下がるのです
これでは、空気が剥離してしまうので
BLCなる装置がついています
これは高圧高温の空気をエンジンから吸い出して
フラップ上面を高速で流し
空気の剥離を見かけ上無くすのです
考え方は良いのですが
燃料がたくさん入っている主翼の中を
高温の空気を流すのは危険があります
しかしF−4はそうしなければ着陸出来ないのです
F−4の場合はF−104であったような
BLCの片利きによる事故は報告されてませんが
空中での突然の火災による事故はかなりの件数報告されてます
多分その中には、主翼内にBLCが漏れ
燃料に引火して、火災になった物もあるのではないでしょうか
いまでは米国の空軍仕様のF−4は全てBLCがはずされ
HALF FLAPでの着陸をしています
速度が12kts増しになり
着陸距離が1割程度増加しますが、滑走路は長いので空軍では問題ありません
ちなみに空軍と言ってもすでにF−4は州空軍の機体です
これらは操縦マニュアルの第6章に書いてあり
普通のパイロットは第1章から読んでいくので
第3章位までは、真剣に読みますが
重要な第5章、第6章は読まないかも知れません
マニュアルの順番を変えた方がいいのかも知れませんね
ちなみに第5章は制限事項の記載です
それでも、5000機以上の機体が空を飛んでいるので
F−4はすばらしい機体であったのでしょう
大きな機体に大きな2つのエンジン
無限の可能性を持っていた機体でした
その後30年、どんどん改良が加えられ飛んできましたが
やはり最近では、世界的にも第1線を退き始めています
時代は、進んでいます
15も同じ運命でしょう
しかしF−4は実に味のある機体でした
ダンプカーの乗り心地で
じゃじゃ馬で
しかし力強かった
これが総合的F−4ファントム特性の感想です