Super Sonic Flight


音速への挑戦は戦後まもなく始まりました
そして数多くのテストパイロットが、音の壁に敗れました
そんな中、最初に勝利したのが、チャック・イエガー氏です

そして50年
今では戦闘機乗りなら誰でも、スロットルを前に進めるだけで
簡単に音の壁を破ることが出来ます


超音速飛行はそれほど特別な飛行ではありません
航空法上は特殊な飛行になっていますが
パイロットにとっては、通常巡航とそれ程変わりません

36000〜40000feet程度にレベルオフします
加速方法は各種ありますが
最も簡単なのは、そのままMAX A/Bにして
真っ直ぐ飛ぶことです
もっと効率を考えるならPsにそって加速
戦闘を考えるならEmにそって加速します
ただし、残燃料量に十分注意が必要です

何しろ加速すればするほど多くの燃料が流れます
Mach2付近では
片方の220エンジンで35000〜40000Lbs/h流れてしまいます
両エンジンで7〜8万Lbs/h
想像を絶する流量です
比重を1としても
その量はドラム缶1本を20秒で燃やすのです
(私の概算が合ってればですが)

加速中はぐんぐん増えるF/Fと
どんどん減る総燃料量が気になります

では水平加速要領です
所望の高度でレベルオフして
スロットルをA/Bレンジに進めます
できれば.9ぐらいから始めるのが効率的には良いようです

.95頃から飛行機の特性に変化が見られます
特性変化とは、操縦要領がちょっと変わると言うことです
F4ならば縦静の逆転
15なら左ロール
F2ならば軽い上下振動
色々出てきます
原因は様々ですが
その多くは遷音速特有の現象で
空力中心の移動や、部分的衝撃波の発生等が考えられます

しかしその領域は狭く、
加速中のその現象は僅かな時間で消滅してしまいますので
これらに気が付くパイロットはごく少数なのが現状です

.98付近から顕著な現象が現れます
それは静圧系統の計器の異常指示です
むしろこの現象でパイロットは自分が音の壁に
近づいていることを知るのです

具体的には
昇降計の小刻みな振れ
高度計の不自然な指示
速度計の躊躇
HUD表示の乱れ
などが顕著です

ですから、この速度付近では
飛行機自身では、自分の速度・高度・昇降率等は
正確な値は分かりません
IRS・GPS・ドプラー等を使えば
地球に対する絶対位置と運動が分かりますので
その時間変化を計測して
上記値も算出できますが
それらは、物理学的値ですので
パイロットが必要とする
プレッシャーアルトやIASではないのです
これを出すには、外気温や空気密度等が必要になり
遷音速中の飛行機からの観測は、かなり手間のかかる事となります

機体が音速を超えても、多くの機体は音速を示しません
理由の多くは、全圧口と静圧口の位置が離れていることです
これにより、音の壁が機体にあるこれらのセンサーを通過するまで
不安定な指示が継続します
また静圧系統の遅れも考えられます

何はともあれ、1.05付近で
突然高度計が2000feetほどジャンプして安定します
それと同時に、速度計も音速以上で安定します

このときのコックピット内の変化としては
外音が突然静かになることです
ただし機体を通じて感じられる心地よいエンジンの振動は
そのままです

機体も極めて安定します
特に操縦上顕著なのが縦静が強化されることです
しかし現代の戦闘機は、コンピュータの発達により
これらの操縦上の変化は、パイロットに感じさせないように
作られているのが現状です

どの飛行機も1.2から1.5ぐらいまでの加速は極めて良好です
これは超音速の衝撃波による圧縮で
エンジン効率が向上するからです
この領域を追いかけるのがPs加速
それに飛行機の運動エネルギーを加えて
スケジューリングしたのがEm加速です
この他に自分の機体重量を利用した、緩降下加速
自機の抵抗を減らしながら加速するLOW AOA加速等もあります
しかし理論的にはPs加速が最も短時間で加速する方法です
ただしスケジューリングは複雑です

また単に音速の数字だけをねらうなら
上昇が有利です
上昇により外気温が下がり
同じ機体速度でも、実音速が低下するので
Mach数は上がります
これは、Mach数に対して特性の変化を見るときなどには
極めて有効ですが
多分戦闘に使うことはないでしょう
なぜならば、戦闘はIAS CASが示す
動圧でするからです
Mach2でも動圧が200ktsでは、敗北は明らかです

またISAでは36000feet以上では
外気音が−56.5度Cで一定となっていますが
現実は、TASとIASや音速を見る限り違うようです

高度にもよりますが通常Mach1.5付近から加速は、ゆっくりになります
それは速度の2乗に比例して抵抗が極端に増加してくるからです
この間に、光線の具合が良ければ
キャノピーの向こう側に衝撃波を見ることが出来ます

衝撃波は、空気の不連続面です
そこで外の景色に、段差が出来ます
見えるときは本当によく見えます

ちなみにあなたもそのPCで同じ体験ができます
体験ご希望の方は私の友人のホームページをおたずね下さい
そこに丁寧な、シミュレーション手順が掲載されております

1.7から2.0までの加速は、けだるい物です
ただ単に速度計を見ているだけです
その間も、燃料はぐんぐん減っていきます

2.0に近づくと
機体のきしむ音
金属のやける様なにおい
何とも言えない不安感がでてきます
なにしろ時速2000km以上の速度でぶっ飛んでいるんです

通常の機体はMach2.2程度で制限されます
それはアルミ系の金属の強度が低下してくるからです
アルミは200度Cぐらいで金属の強度を失います
Mach2.2では、機体表面温度は150度C程度になり
それ以上の温度上昇は、機体の破壊につながります
それ故、通常のアルミ系機体の速度制限は
Mach2.2で
機体表面温度制限となります

またエンジンも暖かい空気を極端に嫌います
衝撃波は、空気の圧縮された壁です
断熱圧縮を純粋に理論的に考えると温度は無限大に上昇します
インテイク内に発生した衝撃波は
空気を圧縮してエンジン効率を上げますが
そのかわり、流入空気の温度も上昇させます
エンジンのストールマージンが温度により
少なくなり、ある限界を超えると
コックピット内に警報が点灯し
パイロットに減速を促します

そろそろ帰るための燃料ぎりぎりです
加速開始から約2分半
Mach Run 終了
飛行機も「BINGO!!!」と言っています

減速に移行します
減速も簡単にはいきません
音速以下にするためにはそれなりの努力が必要です

とりあえずA/Bを切ります
最近のエンジンはデジタル制御になり
めったに、キャンセルサージは起こしませんが
以前は、A/B CUTも注意が必要でした

MILからパワーを引きます
さらにちょっと引きます
でもエンジン回転は、下がりません
IDLEまで引いても変わりません
−220でも−100でも−129でも同じです
J−79は違います
79は素直にIDLEとは言いませんが82〜85%程度に減速します
どこが異なるのでしょう

オタク族のあなたには直ぐお分かりと思いますが
エンジンの種類が異なるのです

79はターボジェット
−220や−100や−129たちはファンエンジンです
ファンエンジンのストールマージンは小さいのです
高速で飛行中エンジンを減速すると
ファンがストールを起こし
最悪の場合には
バイパスを経由して排気圧力を高めて
タービンを溶かしてしまうのです
コンプレサーとタービンの無いエンジンは
ラムジェット
残念ながらまだ実用化されてません

だからA/Bを切ってスロットルを引くだけでは
減速しないのです
スロットル位置に関係なく、エンジンは機体がある程度に減速するまで
MILを保持するのです
長い目で見れば、そのうち減速して遷音速領域までいきますが
その間エンジンは、MILパワーに必要な燃料を流し続けます
これでは、飛行場まで帰れません

そこでなんとか早急に減速する必要があります
先ずはスピードブレーキ
大きな板を立てます
しかしこれも空気圧に押されて十分開きません

時速60kmで走るトラックの上にベニヤ板を立てるのも大変でしょうが
時速2000kmで飛ぶ飛行機の上に畳み1畳ほどの板を立てるのは
もっと大変です
ほぼ不可能と言えるでしょう

直接抵抗のスピードブレーキが役に立たないなら
次はエネルギー変換です
運動エネルギーを位置エネルギーに変換することです
言い換えれば速度を高度に変えて、減速するのです
加速時の降下加速の反対です

しかしこれにも問題があります
あまり考えずに、機首を上げると
Mach2まで加速した機体は
簡単に70000feetぐらいに上がってしまいます
70000feetは、ほぼ宇宙
真空状態
コックピット内の圧力も外圧+5psi
純酸素を吸っても、意識時間は数分です
もしここでキャノピーから空気が漏れれば
意識有効時間は数秒
それよりも前に血液が沸騰してしまいます
現在F−4EJ以外には、これを防止する装置がありません
それ故F−4EJ改 F−15J F−2は50000feet以上には
上がれないのです
飛行機の性能的には問題ないのですが
人間の限界です

上昇も制限されるなら
どうやって減速するのでしょう
その解は、誘導抵抗です

Clを増やせばCdiも増える
当たり前です
Cdiを増加させる
Cl増加は上昇を引き起こす
だから大きなバンクをとってClを増加させるのです

操縦方は、いとも簡単
80度程度のバンクをとって
Gを掛けるのです
超音速ではアベイラブルGが小さくなるので
思い切って引くとオーバーGしてしまいます
そのためOWSと相談しながら
Gを増加させます

これで減速は出来ますが
実際は上記3つの方法を併用して減速します
Mach1近くまで減速すれば
エンジンもIDLE回転まで減速して
急激に機体を音速以下まで、引きずり降ろします

減速中に体験できる事は
音速から遷音速に移る際に
運が良ければ、衝撃波が自分を「ズボン」と音を立てて追い越していくのが
観察出来ます
あたかも、映画のタイムマシーンから出てきたような感覚です
「これで自分も、現代に帰れた」と言う感じですか

これで超音速飛行は終了です
僅か4分程度のmissionですが
別世界を体験できます

近い将来
SSTが本格的に実用化され
誰でも超音速飛行が出来る時代になるでしょう
でもここに掲載した感覚は
コックピットでの感覚です
多分客室は、平常そのもの
ただ、前方に掲示されている
デジタル文字が嘘っぽいMach数を表示するだけでしょう

だから
せめてこのページで、音速を体験していただければ
幸いと思います