Stall


失速これは飛行機がただの物体となる時です
しかし定義的は
MIL−F−8785Cによると次の3点のいずれかで
最も大きな速度となっています

もちろん水平直線飛行1G状態
速度は等価大気速度EASです

1 CLmaxで定常直線飛行する速度
2 制御不能な縦揺れ、横揺れ、もしくは偏揺れが生ずる速度
3 許容出来ないバフェット又は構造振動に遭遇する速度

また
MIL−S−83691Aでは
1 明確なGブレイク
2 急激な意図しない角運動
3 後方ストッパーに達してもAOAの増加がない
4 持続した耐えられないバフェット
これらいずれかが発生する速度
となっています

ちなみに
MIL−F−8785Cは米国軍戦闘機設計基準
MIL−S−83691Aは失速及び失速後の飛行特性基準を
定めた物です
我が国の民間機では耐空性審査要領みたいな物です
普通の製品だったらJISみたいなものでしょうか

では実際の飛行機ではどうなるのでしょう
古典的直線翼を持った機体では
通常CLmaxをストールと定義出来ます
この速度に達すると
急激に揚力を失い
機首下げが発生し
自然に、高度さえあれば回復します
これが普通の飛行機です

しかし戦闘機は異なります
特にデルタ翼の戦闘機の失速定義は
機種によって異なり
本当に失速してしまうと
極めてパイロットに不利な状況となります

本来飛行機は縦の静安定が正で
それもかなり強い正になっています
そのため、どんな状況でも
風に向かおうとしています
ヨー方向ばかりではなく
ピッチ方向の話です

しかし戦闘機は
運動性を重視するため
縦の静安定を少なくしてあります
このため、大きな姿勢で失速すると
機首が下がらない場合があります

機首が下がらなければ
増速しません
だから失速から自然にに出ることは不可能です

それとは別に、
CLmaxのAOAが大きいために
CLmax失速以前に
ヨー方向や、ピッチ方向の発散が発生します

具体的に言うと
水平直線飛行で徐々に減速します
すると突然意図しないヨーイングが発生して
機体がヨーの回転運動を始めます
ノーズスライスです

もしくは、急激にピッチが上昇して
どんなにスティックで押さえても
どんどん機首上げになります
これをノーズライズと戦闘機乗りは表現します

こうなってしまうと後は落ちるだけ
失速=墜落です
(ラダーさんごめんなさい)

回復手段は無いことはないですが
そのための高度ロスは10000feet以上必要で
完全なフラットスピンに発展してしまうと
F−4などは何万feetあっても回復不可能です

また一番問題なのは
これらの事象が
何の前触れもなく突然発生する事です
このためMILでは、
この前触れをパイロットに知らせるための
装置の取り付けを、厳しく命じているのです

その装置は、いろいろの種類がありますが
最も一般的なのが
スティックシェーカーやラダーシェーカーです
これらは、飛行機があたかもバフェットを起こしているように
パイロットに知らせます
F−104などは、キッカーといって
むりやりスティックを前に押してしまいます
当然飛行機は機首をさげますが
T型尾翼の飛行機のディープストールを防止するには
この方法しか当時は無かったのでしょう
でも頭から地面につっこむのより
お尻から落ちた方が
痛くなさそうですが・・・・・???

この他に音で知らせる物もあります
F−4、T−2などは両方を備えています

しかし戦闘機でもいい設計の飛行機は
いい失速をします

F−15の場合の1G失速は、極めて安定しています
(クリーン形態の話です)
パワーを絞り
減速します
スティックを引いて
水平直線飛行に努めます
すると燃料量によって違いますが
PA形態で
120kts程度で安定します
エルロンもラダーも十分利きます
ただしエレベータだけは後方いっぱいです
これを保持すると
姿勢変化しないまま
大きな降下率が発生し
どんどん落ちていきます
これが15の失速です

これでは面白くないので
大きな姿勢での失速に挑戦します

ピッチ角85〜90度にします
垂直にするわけです
25000feet450kts開始で
MIL POWER
3G引き起こしで
垂直で待ちます
垂直保持はかなり難しいワザです
AIなどは当てにならないし
水平線だけが頼りです
でも全周水平線なので
全てを均等にするようにします
すると35000feetぐらいで
速度0kts
垂直姿勢で停止します

こっからテールスライド
他の戦闘機では禁止されている運動です
まさにお尻から、落ちていきます
なみにこの間の操舵は逆操作です
落ち始めると直ぐに自分の排気の中に入ります
運が良ければ自分が今出した、飛行機雲の中です

排気の軽い振動を感じていると
急激に機首が落ち始め
機首を下に向けた垂直降下姿勢に移行します
この運動が大きいと
背面ストールに入るか
機首を下に向けた振り子運動に入ってしまいます
そのため、機首が真下を向く
ちょっと前にバックプレッシャーを加えて
機首が素直に真下を向くように
操作します
下を向いてしまえば
あとは加速し
250kts程度で引き起こせばよいのです

ちなみにDJでは、僅かなヨー運動が発生しますが
大したことはありません

これを横で見ていると
本当にお尻を下にして、落下していく奇妙なF−15を
観察できます

でも2〜3回やると飽きてしまい
もうやることはありません

失速は、高速でも発生します
Gを増加すればいかなる速度でも失速します
本当はその前に構造限界やGリミッターにかかり
あまり高速では失速しないのですが・・・・・・

戦闘機の高速での失速は、悲惨な物です
それは、失速によって誘発された運動が
きわめて激しいからです
この話は、別の機会にしましょう
Post Stallの項でも設けます

ではみなさん失速には気を付けましょう