Speed Brake


地上 ブレーキに 引き続き 
今回は 上空での ブレーキの お話です


飛行機も いろんな場合に 減速しなくては いけません
しかし 当然 上空で ブレーキペダルを 踏んでも 減速しません

そこで いろいろな種類の 空中での ブレーキ用 装置が ついています
今回は その スピードブレーキです



通常 戦闘機では スピードブレーキと 言われる装置が 搭載されています
これは 機体を 空中で 急減速したり 急降下するとき などに 使われます
その多くは 大きな板を 空中に広げるタイプの物です

代表的なのは F−15の背中に ついている物でしょう
あれは 畳2枚分は あります
これを 空中に立てるのです

減速効果は 想像以上で
高速飛行中 スピードブレーキを 開くと 身体が前に 持って行かれるのが わかります
しかし ちょっとした風の 中で 畳を立てる 事を考えると
600ktsの 風の中で あの スピードブレーキを 広げるには
とてつもない 力と 強度が 必要であろう事は 容易に 想像できます

ちなみに 600ktsは 風速約 1200m/secです

スピードブレーキは どんな 時にも 作動しなくてはいけません
普通の 飛行機に 付いている 装置は
制限速度が 決められています
脚なら 300kts フラップなら250kts フックなら180kts etc
しかし スピードブレーキは いかなる状況でも 作動する必要があります

たとえば 飛行機が 飛行機の制限速度を 越えそうなときにも
正常に作動して 飛行機を減速させなくては いけません

そして 最も重要なのが 大きなトリム変化の 無いことです
トリム変化が 無いということは スピードブレーキを使っても 飛行機のバランスが 崩れないということです

たとえば 通常は フラップを下げると 機首下げの モーメントが出ます
爆弾を 落とすと 機首上げの モーメントが出ます
このように 飛行機は 形態を 変えると トリム変化が 発生して
操縦に 変化を くわえなくては いけません
また その モーメント変化は 一般的に 機速が速ければ 速いほど 大きくなります

仮に 高速で使用する 機会が 多いであろう スピードブレーキに
このような トリム変化を もたらす 特性があると 操縦は大変困難な 物になります

まして 機首下げの モーメントが発生する場合は 危険です
たとえば 急降下しているときに
減速目的で スピードブレーキを使います
もし 機首下げの モーメントが発生すると
機首は さらに下がって 機体を 増速させて しまいます
これに パイロットが 反応すると 機速が多いのでPIOに 入る可能性もあります

ですから 理想的スピードブレーキは いかなる場合に使っても トリム変化の 発生しない 装置でなくては なりません
また どうしても トリム変化が出てしまう 物ならば 僅かな 上昇モーメント程度が 許されるでしょう

T−1とうい JET練習機があります
この飛行機の スピードブレーキは お腹の下に 開きます
試験飛行の際に このスピードブレーキが 想像以上の トリム変化を 発生させることが 判明しました
そこで 量産機では スピードブレーキ操作と 同時に エレベータートリムを 作動させて
その トリム変化を 最少にするよう 設計変更が なされました

ここで いろいろなスピードブレーキにいて 機首毎に ご紹介します

先ずは F−15
これは 先ほども説明したように
機体の 上方に 開きます
それまでの 飛行機は みんな 機体の下に 装備されていたので
パイロットは スピードブレーキ操作を
「SpeedBrake UP」と「DOWN」で 開閉を表現していました
当然 スピードブレーキは 機体下面に ありましたので
「UP」が 閉で 「DOWN」が 開でした

しかし F−15では 機体上面に スピードブレーキがあので
「SpeedBrake UP」と「DOWN」では 意味が逆になってしまいます
そこで 今では パイロットは
「SpeedBrake OPEN」と「CLOSE」で 表現するようになっています

なにしろ F−15の スピードブレーキは でかい
異常に でかい
機体が 大きくて 重いからなのでしょうか

ここで F−15で特徴的なのは
速度に 従って スピードブレーキの 開度が 異なることです
高速で OPENしても 前開まで 開きません
空気の力と 釣り合った 所までしか 開かないのです
そして ある程度減速すると 全開になります

また F−15の場合は 2枚の垂直尾翼の 中央に スピードブレーキが 設置されていますので
スピードブレーキ OPENすると 2枚の垂直尾翼が 共振して 左右に大きく振れます
その際 飛行機にも 振動が発生するので
パイロットは インジケーターを 見なくても スピードブレーキの状態が 分かります

次に F−4です
F−4は 脚の後ろ フラップの前の 翼の下に スピードブレーキがあります
それほど 大きくはなくて 面積的には フラップの半分程度です
それでも 上空で 開くと かなりの減速力が 発生します

T−2/F−1は 胴体後方の 脚の 直ぐ後ろで 開きます

F−104 F−86は 胴体後方側面で 左右に開きました

F−2の場合は
エンジンの排気口 の左右に 上下に開く スピードブレーキがあります
これは 他機では あまり見かけない タイプです
その上 スピードブレーキの 開度は
脚 UPと DOWNでは 異なるのです

その理由は 上空では 最大に開いて 急減速に利用しますが
そのままだと 着陸の時に 滑走路に スピードブレーキが あたってしまうからだそうです
変な 設計です
まあ 自動ですから パイロットは それほど意識する必要は 無いのですが・・・・・

ほかの 飛行機も 似たり寄ったりで それほど特徴的なのもは ありません

また その動力は どの飛行機も 3000psiの油圧で 作動して
単純な 構造になっています

その上 インジケーターは 閉と開だけを 表示する物ばかりで
今 何度 開いているかは パイロットには 分かりません
ですから ちょっと 開きたい場合には パイロットの感覚だけです
まあ エンジニアは そんなに 繊細に パイロットがスピードブレーキを使用しているとは 思っていないのでしょう

編隊で 降下する場合
リーダー機が スピードブレーキ 全開で 且つ パワーを IDLEにします
これが 最大効果率を 発生しますが
ウイングマンには 僅かの 余裕すら ありません

ちょっと 定位置から 前に出ちゃった と 思っても
後ろに下がる 手段が無いのです
強いて言えば エンジンを 切る ぐらいでしょうか

これでは 困りますので
リーダーは スピードブレーキを 最大開度には せずに ちょっと閉側にします
その上 パワーも IDLEまでは 引きません
これによって ウイングマンに 減速余裕を 与えるのです

ちなみに スピードブレーキ操作の 手信号は
影絵の きつねさんの 耳を無くした 格好で きつねの口を パカパカします

スピードブレーキは 単純な 装置ですので 滅多に 壊れません
そのため 故障警報灯も ありません
しかし スピードブレーキを 2枚持っている 飛行機が
左右 均等に 動かなかったり 片方が 不作動の 場合には スピードブレーキ使用と 同時に 大きな ヨーイングが 発生します
今は あまり 大問題には なっていませんが
これから先 益々飛行機が 高速化すると もしかすると問題に なるかも知れません


飛行機は 上昇するのも 大変ですが
降下は もっと 大変です
もし スピードブレーキが 無かったら
降下するために 膨大な時間が 必要になります
多分 上昇に使用した 時間の 3倍ぐらい 必要でしょう

また 減速目的以外でも スピードブレーキは 使います
代表的なのは 着陸の時です
通常 小型ジェット機は 着陸時の エンジン応答を 良くするために
HIGH POWERを 使用したがります
そこで スピードブレーキも使用するのです

これによって 数%の 余分なパワーが必要となって
エンジンレスポンスが 良い領域で 着陸操作が 出来るようになります
その上 ゴーアラウンドするときにも 直ぐに最大パワーまで エンジンを加速することが 可能になります

特別な 使い方としては 昔は スピードブレーキの中に チャフを 入れておいたり
燃料を 短時間に消費させるために 使ったりしました

大型機では 翼上面に スポイラーを立てて 上空や 着陸滑走時の ブレーキとしているようです

ちなみに 着陸滑走中に 戦闘機等がが使用する ドラッグシュートは 上空では 使用不能です
多分 開傘と 同時に ちぎれてしまうでしょう