エルロンロール


360度のロールです
飛行機に乗ると 最初にやりたくなる マヌーバーです
簡単な様で 奥の深い機動です

インメルマンの項でも書きましたが
その飛行機が どのような制御をされているのかで
操作方法が異なります

先ずは古典的な飛行機で
ご説明いたします

通常飛行機の運動は 重心を中心に動こうとします
また 各補助翼は 機軸線に運動を発生させるように 作動します

重心位置が 機軸線とずれていると 運動は
そのずれ分の モーメントが発生して かなり複雑になります
結局飛行機は このモーメント中立点を中心に動くようになります
この中立点が 不動ならいいのですが
飛行機の姿勢によって 微妙に変化して 簡単には解析できません

ところが 技術者ではない パイロットは
幸運にも これらを全て無視出来ます
              いや知りませんので・・・・・・
もっと簡単に アクロバットを 実施してしまいます

特にエルロンロールは 最も簡単に実施してしまいます

先ず 適当な速度を付けます
離陸速度の2倍程度が良いでしょう
F−15なら 250kts F−4なら 300kts F−2なら200kts ぐらいでOKです

その速度を付けたなら
機首を適当な角度に 上げます
水平飛行のままやると 終了時にダイブリカバリーをしなくてはいけなくなります
特に低速でやると 危険な状況になります

これは 普通の飛行機は水平飛行で 揚力を出すように設計されていますので
バンクを取ったときや 背面では所要揚力が出せないので
ロール中に 降下してしまうからです
特に90度バンクの時は 全く揚力が出せません(理論上ですが・・・・)
揚力が無いと飛行機は落ちます

落ちるときには 頭を下にしようとします
ですから 失敗のエルロンロールの終点は
機首が真下を向いて
急降下姿勢になります

これらを補完するために
さいしょから 機首を上げておきます

その 上げ量は 速度と飛行機の特性に関係します
特に低速で 頭の重い飛行機は 上げる量を 多くする必要があります

戦闘機で巡航速度程度なら θ=10度程度で良いでしょう
(θは ピッチ角)

適当な機首上げをしたら
ちょっと 操縦桿を押して
迎え角を下げます
そうすれば エルロンの利きも 良くなります

それからロール開始です
エルロンを いっぱいに切ります
センタースティックの戦闘機では みんな左ロールを得意とします
それは 左側の方が 力が入れやすいからです
出来れば 何も考えずに 真横に力一杯入力します
考えながら 入力すると
飛行機は 複雑な動きをしてしまいます
理由は 上記のモーメントの関係です

注意しなくてはいけないのが
戦闘機では想像以上のロールレートが発生してしまう事です
元気な戦闘機は 200度/sec程度の ロールレートが出ます
これは 360度回るのに 2秒弱を意味します

「わーーー」って 驚いているうちに 2回目のロールに入ってしまいます

ロール中に注意する事は
大きな迎え角でロールを始めた場合
迎え角 15度でスタートすると
90度ロールしたところで 横流れ角が15度になってしまいます

専門的に言うと
α=15°が β=15°に変化する事です
飛行機にとって α=15°は それほどシビヤーではありませんが
β=15°は かなり危険な状況です

こんな事を考えていると ろくな事にはなりませんので
何しろ速く回りましょう
速く回れば やばい領域も瞬時に通過してしまいます

ロール開始から270°ほど回ったところで
ロールアウトを考えます
しかし時間的には 開始から1秒半程度の時間なので
本能的に行動する必要があります

水平飛行に近い所まで帰ってきたら
鋭い操舵で ロールを止めます
この時 機首が下がっていなくて
水平線上付近にあれば ロールは成功です

うまく回れたと思っても
2回以上 連続したロールは避けましょう
通常の戦闘機は フルエルロン操舵での連続したエルロンロールは 禁止されています
連続横転は イナーシャーカップリングを引き起こして
操縦不能の状況になります
特に 重量バランスが 散らばっている飛行機は
これに陥る可能性も 増加します

イナーシャーカップリングとは
慣性力による 運動軸の連鎖反応です
実際には
横転によって 起こされる遠心力によって
ピッチ角が 増大して 飛行機が発散 破壊してしまうことです
詳しい 事が お知りになりたい方は
ここにお問い合わせ下さい



ここで 一風変わった 横転運動をご紹介します
F−4の低速領域では エルロンが うまく 働きません
アドバースヨーの発生で 意図した方向と逆に ロールが誘因されます
右エルロンを取ると 左のロールに入ってしまいます

そこで F−4では 低速になった場合
上反角効果を使用して ロールします
それには ロールしたい方向のラダーを踏み込みます
すると きれいなロール運動が発生します

ただし ロール中に迎え角が減ってしまうと
ヨーだけ発生して ロールしなくなりますので
ロール中にも 迎え角に注意しなくてはいけません

特に背面では 迎え角が少なくなろうと しますので
意識的に スティックを後ろに引かなくてはいけません
また そのときに エルロンを入れると アドバースヨーが発生しますので
特に注意が必要です

背面を過ぎて ロールアウトの準備をします
ロールアウトも ラダーでします
最も危険なのが ロールを止めるために
エルロンを使う事です

たとえば 右ロールしているときにには
スティックは やや後方
ラダーは 右
このままロールアウトしようとして エルロンを左に使うと
典型的な クロスコントロールになって 
運が悪ければ デパーチャーしてしまいます
でも この運動は他の飛行機にはまねが出来ませんので

もし F−15に追いかけられた場合は
急減速して ラダーでロールすれば
必ず 後ろにいた F−15は 前に追い出されて
FOX3です
ただし その前に 自分には F−15のFOX2が 刺さっていますが



もう一つ 変な エルロンロールを ご紹介いたします
某新次期支援戦闘機の場合の エルロンロールです
この飛行機は 完全に計算機制御です
ですから エンジニアの設計しやすい様に 動きます

設計しやすいとは 設計がめんどくさくないという事です

このため 飛行機はどんな場合でも空軸上で運動します
各舵は 今までの飛行機のように動きますが
それぞれの舵の動きは 微妙に異なり
飛行機が 空気の流れ軸を中心に 動きます

今までの飛行機はどちらかというと 機軸中心に運動しましたが
この機体だけは違うのです

エルロンロールを 例に取ると
迎え角が ある場合
今までの飛行機は 機軸上を運動するので 飛行機に当たる風は
飛行機の姿勢変化に対応して 変化していました
しかし 新次期支援戦闘機は 空軸上で運動しますので
運動中の 空気の流れは 飛行機に対して 一定です

極端に表現すると
今までの飛行機は エルロンロールは 自分の機首の向いている方向に
ロールするので 
コックピットからは 自分の正面の景色の中心を軸として
ロールしているように見えます

しかし 新支援戦闘機は 空気の来ている方向を中心として回りますので
飛行方向が中心になります

ですから 迎え角が大きい場合は
コックピットからの景色は 全体が大きく動きます
ですから ロールではなくて ヨー運動に感じます

うーーん 説明がまずいかな・・・・
お分かりでしょうか?

しかし これによって
飛行機は変な風を受けないので
デパーチャーやスピンに入ることはありません
また 低速で がばっと エルロンを使っても
平気でロールします
ですから 某次期支援戦闘機は 150ktsあれば 
くるくるロールします

もし貴方が 上空でこの戦闘機と空中戦する羽目になったら
少なくとも 低速域には入り込まないように 計画しましょう
低速では どんな戦闘もかないません
まあ 高速域でもこいつは 元気ですが・・・・・・