P.I.O.

(Pilot Induced Oscillation)

これは パイロットが起こす 振動です
しかしパイロットは振動を起こそうと 思っているわけではありません
むしろ 振動を止めようと思っているのに 振動が止まらなかったり それどころか振動が増幅したりします
これがPIOです

これには飛行機の特性が大きく関係します
特に最近の戦闘機は コンピューターで制御されていますので
そのゲインの具合で 簡単にPIOが発生します
このため FBWの機体では このPIO防止が 大きな課題となっています


私の実際の経験は 今まで2回あります

その一つは T−33での初めての離陸で発生しました
T−33とか言うと 年齢が・・・・・

T−33A初めての離陸です
離陸直後 ロールが止まらないのです
右に左に ふらふらなんです
水平飛行出来ないんです
「絶対この飛行機は 僕には操縦出来ない」と思いました
後席の教官が「力抜け!」「修正するな!」と

すると 不思議!
ロールがピタッと 止まるのです
「へーーー」 変に納得
このころは PIOなんて言う言葉も知りませんでした・・

もう1回は T−2で起こりました
ガナリーミッションでの帰投中
2番機でした
ノーマルフォーメーションで

金華山沖から 高速降下中 約450kts
リーダーから親指と他の指で ぱかぱか

うん〜と
左手を前に出して下さい
手のひらを下にします
親指以外を付けます
親指の先と薬指の先をくっつけます
丸が出来ましたか?
出来なかった人は また5行上から・・・

それで 今度は 親指と薬指をはなします
そしてまた くっつけます
これを繰り返します

これが スピードブレーキのサインです

リーダーは ウイングマンにこのサインを見せて
ウイングマンが了解したのを確認したら
頭を こっくり で
自分のスピードブレーキを 開きます
これにあわせて ウイングマンも スピードブレーキ開きます

えーっと 何でしたっけ
そーだ PIO

飛行機は 形態を変えると トリムが変わります
フラップを下げる とか 脚をおろすとか スピードブレーキ開くとか 爆弾落とすとか・・
それまでの形態と 変わることをやると トリムが変わるんです
本当は 変わらない方が いいのですが
それも限界があり
戦闘機では 5秒間に10lbs 以上の 操縦力に変化が無ければ 設計基準上 OKなんです
極端に言えば 6秒で10lbsは OK もしくは 1秒で 9lbs もOKです

自分一人で飛んでいるときは あまり関係ないのですが
フォーメーションとなると 話は変わります

ウイングマンは 何があっても 決められた位置に 止まらなくてはいけません
ですから 形態を変化させてても その位置に 止まるよう 努力します
これによって PIOが起こります

私の場合は 根がまじめなので 一生懸命ノーマルポジションをキープしようとしました
そしたら 見事な縦のPIOに入りました 

このころは すでにPIOなる言葉を 知っていましたので
教わった 通りに 対処したら PIOは収まりました
めでたしめでたし!

これらは きわめて軽度なPIOです
ひどいときには 墜落する可能性もあります


次は その発生原因です
私が経験した事象を分析すると
T−33の場合は 軽い横 操舵力が 原因です

私は それまで 人力で各舵が動く 飛行機に乗っていました
しかし T−33には エルロンブーストなる 機材が積んでありました
これは 横操作の 力を軽減するための物です
私は これに慣れてなかったので 操舵力が 大きかったのです
ですから 思ったよりも 大きなロールレートが発生して
これを修正するために 反対にまた 大きなロールレートが発生して
結局 修正動作が 過大で ロールが止まらなくなったのです

次にT−2の場合は 飛行機の大きなトリム変化が 原因です
T−2はその形状から スピードブレーキを開くと 機首上げの モーメントが発生します
また そのモーメントは 動圧に比例して 大ききなります
ですから 高速では 想像以上の 力が発生します

その上 ノーマルフォーメーションは 自分の位置を 数十センチ単位で キープしますので
一生懸命 操舵します
この状況で 大きなトリム変化が起きたのですから
その修正は 大きく かつ 機体の動きに対して 遅れが生じます
これで 縦のPIOが発生したのです

試しに後日 私がリーダーで
ウイングマンをつれて 同じ操作をしましたが
ウイングマンは同じようにPIOに入りました


PIOの発生 メカニズムは それを操作する人と
操作される機械との マッチングの問題です
人間が介在しなければ PIOは発生しません

人間は変えれませんので どうしても機械を変えなくてはいけません
車でも あまりにも操作力が軽いハンドルを付けたら
たぶん 高速道路で PIOに入るでしょう

だからといって 重いハンドルでは 困ります
まあ 適度に重くても PIOには 入りますが・・・

ですから 今では 飛行機の設計で かなり重要な部分を占めるのが
このPIO問題です
なぜなら 今の飛行機は 計算機制御で かつ 油圧で 操舵しますので
パイロットには 全くの人工感覚が与えられているからです

人工感覚は どのようにでも 調整可能ですし
計算機制御は どんな物でも 飛ばしてしまいますので
今まで 不安定で飛べない 機体まで 飛ばしてしまいます
この結果 計算機の制御と 人間の修正動作が 喧嘩 して
PIOを起こすことになります



PIOの防止

PIOの防止の基本は 良い設計です
これ以外にありません
パイロットがどんな操作をしても PIOが起こらないように 飛行機を作れば
問題は発生しません

しかし こんな完全な設計は まだ確立されていません
ですから 現在飛んでいるどんな飛行機も PIOは発生し得ます

PIOはパイロットが発生させる物ですから
操作を止めれば PIOは瞬時に収まります
では なんで こんなに 大きな問題になるのでしょう

それは PIOだと 認識出来ないからです
なにか 飛行機の異常だと パイロットが思うからです

飛んでいて 何らかの原因で 突然 機首が上下に 暴れ出したら
パイロットは どうしても それを修正しようとします 
そんな 普通の操作をしているのに PIOに入るのです

この場合 パイロットは 突然の機首の動きは スタビレーターやトリムの異常だと 考えます
もし 本当に これらの故障ならば 修正操作を止めたら墜落です
だから簡単には 修正操作を 止められません
PIOなら 操作を止めれば OKなのですが・・・

PIOの引き金は 何でも良いのです
私が経験したように 飛行機の形態の変化でも いいし
ちょっとした タービランス でも PIOを引き起こすのには 十分です

あなたが 高速道路で 走っていたら
目の前に 亀発見
それを避けたら 急に車が左右に 首を振り出しました
あなたは そこで ハンドル操作止められますか?
ちなみに ブレーキを踏むのは 反則です 飛行機は止まれません


良く 言われる PIO防止策は
どちらかに トリムをわずかに 取っておく ことです
完全にトリムオフされていると 
中立点を中心に 操舵されます
すると 押し舵と引き舵を繰り返さなくてはいけません
左右も同じです
人間は 0を中心に+とーの力を 出して小さな修正をすのは 得意としません 
特に0付近は 不感地帯があり 飛行機に命令が届きません

ですから どちらかに トリムをずらして おいて
+なら そちらの力の大小で 修正するのです
すると 無駄時間や 不感領域を通過することなく 飛行機が反応してくれます

また 特に低高度を高速で飛行する場合は
PIOの危険性が特に強い 領域です
ですから やや UPトリムと取って 押し舵を入れながら飛行します
もし 飛行機が変な動きをしたら
直ぐに手を離せば 少なくともPIOなら 緩い上昇姿勢で 飛行機は止まるはずです

また パイロットも 不意な操作をしないことです
飛行機の動きに敏感に反応して
直ぐに修正動作をすると 確実にPIOに入ります
ですから できるだけ おっとり 構えて 操縦する事です

のろまには PIOは 縁がない!
戦闘機乗りは とろいやつに限る!


MIO?

最近の設計者の興味は PIOからMIOに移っています
MIOとはMonkey Induced Oscillation です
これは 猿でも起こせる振動です
PIOはあくまでも 人です
パイロットが人でないと言うのなら別ですが・・・

事の始まりは 固定操縦桿でした
FBWにより 操縦桿はどんな形 どんな形式でも良くなりました
そして出た結論は 固定サイドスティックです
設計者の道楽の一つです

サイドスティック自体の問題は別の機会に譲って
今回の問題は 固定スティックです

固定操縦桿は パイロットの命令を 力として感知します
その力に合った ロールレートやピッチレートを発生させます
在来の飛行機は
パイロットの命令を 操縦桿のストロークとして感知してました(一部違いますが)
むしろ 直接 操縦桿で 各舵を動かしていたのと 同じです

しかし 固定スティックは たくさの問題を含んでいました
その1つがMIOです

固定操縦桿は
あなたの車のハンドルが 動かないのと同じです
ハンドルは動かないけど ドライバーが入れた力は 正確に感じて
方向変換してくれると 思って下さい

ではMIOの実例です
飛行機が 何らかの外的影響で 急に右にロールします
左翼に 上昇風が当たった様な時です

すると 操縦席も 右にロールします
しかし 中のパイロットは 慣性があるので 元の位置に止まろうとします
手も当然 元の位置に止まろうとします

手が止まっていて 機体が右にロールすると
固定操縦桿には 左向きに 力が加わります それも瞬時に
すると飛行機は 左に旋回しろ という 命令がたと 思います
すると 左に旋回します
ひだり旋回が始まると 同じ理由で
今度は右旋回しろ という 命令が 飛行機に出ます

これの繰り返しで バンクが止まらなくなります
これが 操縦する意志のない さるでもできるMIOです

縦も同じですが その運動は やや小さいようです


あれ〜 これでは お猿も パイロットも 同じじゃん!!!


PIOの例

横 PIO
縦 PIO

おっと 某所からの ぱくりです
ぱくり先へ!