Night Flight


夜間飛行
とてもロマンティックな言葉です
本当に素敵なんです

町の灯りは
クリスマスのイルミネーション
でも
地上では、あんなにきれいな物を見ることは出来ないでしょう

ヘリで飛ぶともっと素敵です
地上に近いので、町の美しさは言葉に言い表せません
特に、私が気に入っているのは
自分のローターに町の光りが反射して
きらきら輝きながら回っている風景です

東京ではヘリによる
ナイトクルーズが商売になってます

一度乗ってみれば分かりますが
女の子は絶対にいちころです

ワインを傾けながらのナイトクルーズ・・・・・
お金があって、彼女の出来ない人には
一押しです

20分2万円位かな
でもその価値はあります・・・・・

飛行機に戻って
ちょっと上昇すれば
海岸線に沿ってきれいに明かりが
帯を引いて
日本地図と同じ様に見えます

海を見れば、数限りない漁り火
水平線の彼方まで続いています

上を見れば
数え切れない程のあふれんばかりの星々

全天を横断する天の川
流れ星のきれいなこと

高く上がれば上がる程
空はきれいになり
星の数が増えて、輝きを増します

昔、スクランブルで上がりました
夜中の3時
雨交じりの天気でした
A/Bを焚いて、離陸
直後に雲中へ・・・・・
上昇を続け、一気に20000feet

すると、スポンと雲を抜けました
そこは静寂な星空の世界
しかし風景がいつもと違いました

東の空から天頂をぬけ
西の空まで光りの帯が横切っているのです
天の川ではありません

それは76年周期で地球に近づく
ハレー彗星だったのです
1986年の事でした

空気がきれいだった昔には
地上でもこのような彗星が見られたのでしょう・・・・・

岐阜を飛び立ち、日本海で飛行
帰ってくると
名古屋上空だけが
白っぽい黄色い空気で覆われています

夜間飛行の場合は
特に激しく
この黄色いドーム上の物が
あやしく光っているのです
あんな空気の中に飛び込んでいくのは
いやだなと感じるぐらいです

そのくらい、名古屋の空気は汚れています


しかし夜間飛行は、こんなロマンチックなものではありません
特に任務を持った戦闘機には、緊張の連続です

夜間要撃は、通常のスクランブルで発生する
ありふれた状況です

夜中、寝ずにスタンバイします
本を読んだり、雑談をしたり
それぞれの時間を過ごします

すると突然ベルが鳴って、スクランブルです
シェルター内は照明がしてあるので
夜間でも昼間でも状況に大きな違いはありません

しかしエンジンをかけて
シェルターの外に出ると、状況は一変します
目が慣れていないせいもあり
真っ暗です

誘導路灯と滑走路灯を頼りに
アラインします
A/Bを選択すると
青い炎と共に、走り始めます

夜間のA/Bは、実にきれいです
青い炎の中に数個のダイヤモンドが光り
輝いています
それは
超音速流体内の衝撃波によって発生する
模様です
シュリーレンなど使わなくても
衝撃波を直接見ることが出来るのです

加速は夜間も昼間も変わりませんが
夜間の場合には滑走路がよく見えないために
残滑走路長が不明で
離陸断念時期の決心に大きく影響します
そんなことは滅多に起こらないので

普通通りに離陸
適当な速度でA/Bを切れば
あとは指示に従って、アンノーン機に向かいます
この頃には目も慣れ
水平線も見えるようになります

ただし、2番機は違います
通常2番機は、目視で1番機に追随します
しかし夜間の場合には
1番機が見えません
1番機がA/Bを切った時点から
目視は不可能になります

民間輸送機のように
大きなストロボライトでも点けていてくれれば
1番機の位置は目視で分かりますが
戦闘行動中は
通常自分の外部照明は
最低限の明るさにするか
消灯させます

ちなみにF−2は1つのスイッチで
全ての外部照明を消すことが出来ます

外部照明と言っても、たくさんあります
F−2では
ナビゲイション・ライト(翼端に付いてる赤と緑の電気)
アンチコリジョン・ライト(赤や白で点滅する物、パトカーのくるくる電気みたいなやつ)
フォーメーション・ライト(薄い緑色して、機体の向きをウィングマンに知らせるライト)
ストロボ・ライト(強烈な白い光りのパルスを出し、他機に自分の存在を知らせるライト)
フラッド・ライト(垂直尾翼や主翼を照らして、自分の機影を見せる物)
スリプウエイ・ライト(空中給油口照明用 給油母機に位置を教える)
エアーリフーエル・ライト(空中給油用照明 給油母機に機体の動きを知らせる)
ランディング/タクシー・ライト(着陸時に使用する)等

数えると、20程の照明が付いています
これらを点灯させるには
それぞれのスイッチを入れなくてはいけませんが
消すときは1つのスイッチで良いのです

それは、突然敵に出くわし
戦闘状態に入るときに便利です

戦闘の基本は
敵の位置を、いち早く察知し
自分の位置を最後まで知られないことです
そのために夜間では全ての照明を消すのです

スクランブルでも同じです
我が国の場合には
安全のため、自機の照明を完全に消して飛行する事は
極めてまれですが

要撃される爆撃機は違います
全ての照明を消して飛行しています

レーダーコンタクトして
接近します
通常ならば数十マイルで目視出来る大型爆撃機が
数マイルでも見えません

なおもレーダーを頼りに接近します
後ろに回り込み
速度を目標機よりやや多くして
注意深く接近します
なんとか数千feetまでレーダーで接近します
それでも見えません

ここで高度を少し下げます
すると大きな黒い物体の存在が確認できます
それは、星がそこだけ無くて
ただの暗黒の世界なのです

馬の首星雲
ブラックホール
そんなイメージです

真っ黒な部分に大きな爆撃機がいるのです
これを頼りに更に接近します
すると、爆撃機の爆音が聞こえ
飛行機がいることが確認できます
本来ならばここで写真撮影となりますが
真っ暗なので行動の監視のみになります

しかし通常は
相手も怖くなるので
ある程度接近すると
外部照明の一部分を点灯して姿を現してくれます

私が経験した物では
突然サーチライトの様な物で
激しく照らされて
「それ以上近づくなと、警告されたことがあります」

任務が終了し帰投に移ります
帰投時は、リーダーも照明を点灯し
2番機が追随しやすくしてあげます
しかしあまり明るすぎると
近接隊形を採ったときに
2番機が幻覚を起こし
事故につながる可能性があるので
2番機の距離に応じた、照明を考えなくてはいけません

近接隊形で照明が問題となるのは
特に夜間雲中飛行になった場合です
できれば、レーダータイドオンで帰投・降下・着陸がいいのですが
2番機の技量や、飛行機の状態によっては
変態で降下する事もあります

その際、照明がバーティゴを呼ぶのです
特にアンチコリジョンライトは、周期的に点灯するので
必ず2番機はバーティゴに入ります

理想的な夜間雲中飛行での照明は
1番機は翼端灯のみを薄く点け
2番機の照明で、1番機の姿が照らし出される程度がいいようです
これでも濃い雲中では、乱反射のため、視界が真っ白になって
バーティゴにはいります

へりのホワイトアウトやスノーアウトの様な物です

何とか降下をしたら着陸です
先ずは、飛行場探しです
IFRならTACANやILSでアプローチ
これなら問題ありません

VFRだと真剣に飛行場を探さなくてはいけません
飛行場にはいろいろな種類の照明があって
その位置を知らせる努力をしていますが
慣れないと飛行場を探すには、かなりの努力が必要になります

最近では町が明るくなったので
一番暗いところが飛行場です
そしてその部分をよく見ると
滑走路灯や着陸帯灯や誘導路灯が見えます

夜間の着陸は、昼間と違います
滑走路そのものが見えないので、高度判定が難しくなります
F−4の場合は、アプローチと接地が同じ姿勢と沈下率でも
問題がないので楽ですが
その他の飛行機は、接地直前に返し操作が必要ですので
高度判定は重要です

高度判定を間違えると
高返しによる失敗や
返し不足によるハードランディングとなり
飛行機を壊すことになります

多くのパイロットは、自分なりに高度判定の基準を持っていますが
一番確かなのは民間機の様に電波高度計を利用する事です
しかし多くの戦闘機の電波高度計は、爆撃用に設計されているので
着陸にはあまり役立ちません
それ故、最後はパイロットの勘です
勘を助ける物にランディングライトがありますが
これによる高度判定は
気象状態に左右され
また、滑走路がはっきり見えたときには
すでに返し時期を逸している場合もあります

だから、ランディングライトで
滑走路が照らされたかなと思った瞬間が
勝負です

接地後は、滑走路横の照明されているディスタンスマーカーを
頼りに減速します
滑走路の端が見えないので
この方法しかありません

それで夜間飛行終了となりますが
ランプインも昼間と異なりますが
それは、別の機会とします