FOD

(Foreign Object Damage)


今回は
FOD 異物による 飛行機の 損害の お話です


通常 FODというと
地上に 落ちている いろいろな物を 飛行機のエンジンが 吸い込んで 
エンジンが 壊されることを 言います
一番 多いのが 小石でしょうか

しかし 小石よりたちの悪い物が 金属です
金属は どんなに小さくても エンジンのブレードを傷つけるのに 十分な強度を持っています

戦闘機のエンジンは 最高性能を出すように 回っています
材料学的にも 熱力学的にも 機械力学的にも 限界ギリギリで回っています
マージンは ほとんどありません
そして 通常 1分間に 数万回転で 運転し続けられます

ここに 異物が入ると
想像以上のことが 発生してしまうのです

異物は 先ずエンジン入り口の コンプレサーブレードに 当たります
このエネルギーが 大きければ 当然 ブレードは 破壊されます
破壊された ブレードの 破片は 次の奥の段の ブレードを壊します
このようにして どんどんエンジンの破壊は 進んでいきます

仮に タービンブレードに 幸運にも 小さな変形が 起こっただけとしましょう
しかし その変形は ブレードの 1枚を失速させます
この失速を サージといいます
これは 次々に 発展していきます
そして ある時点で エンジンが必要としている 空気量を 供給できなくなります
こうなると エンジンは 窒息状態です
燃焼が 異常となって 今度は タービンを溶かしてしまいます

このように ジェットエンジンは 異物に 極めて弱いのです

昔 ある飛行場で ペイントはがしのために
小さな鉄の 固まりを 吹き付ける 方法を 使いました
本当に 小さな 玉です
目を凝らして見ないと 見えないような物です

しかし その飛行場では
次々に エンジンの不調を 訴える 飛行機が出始めたのです
最初は たんなる故障と 思っていましたが
あまりにも たくさん続けて 起こるので 調査が 始まりました
そると 滑走路の目地(コンクリートのつなぎ目)に 小さな金属が発見されました

犯人は この 鉄のボールでした
それからの 滑走路清掃には 膨大な時間と労力を必要としたのは 言うまでもありません
なにせ 滑走路は めちゃくちゃ広いのですから・・・

航空祭の後は 特に怖いのです
ランプには 大勢の見学者が入ります
その人たちは FODの 言葉さえ知りません
何でも ランプに落とします
ボールペン お金 小石 ピアス ストラップ etc
とても 危険です

航空祭で一番大変なものの1つが 
最後の ランプ清掃なのです
まあ これで 小銭を拾って 喜んでいる人もいますけどね・・・・

民間と供用の 飛行場は とても危険です
特に 同じランプを使用している所は なんでも落ちてます
そして 清掃もされません

民間機の場合 エンジンの位置が 高いのと
エンジンの サージマージンが 大きいので
それほど 問題にしていないのでしょう

一度民間の飛行機に 乗る前に エンジンをのぞいて下さい
ファンブレードは 傷だらけです
これでも 問題なく 動くのですから
マージンは かなり 高いのでしょう

民間航空では お客様を 運びます
しかし 人間は ボーディングブリッジや シャトルバスを 使いますので
ランプに降りるのは 全くないか ほんの僅かです

しかし そのお客様が 預けた 荷物は違います
飛行機から 降ろされて カートに積まれて
ランプ内を 右往左往
なにか落ちます
多いのは スーツケースの 車
キャスターです

それと 貨物機は もっと いろんな物を落とします
ウナギを拾った人もいます
ぼくは 松茸拾いました


コックピットFOD
FODは地上ばかりでは ありません

コックピット内の 異物も 危険です
操縦系統に入り込んで 操縦をじゃましたり
電気系統の ショートの 原因にもなります

不注意で コックピットをのぞき込んで
頭を下げた瞬間に
胸のポケットに 入っていた 小銭が コックピットに チャリン!
よくある話です

プロならば 危険を知っていますので
見つかるまで 探します
まあ 本当のプロなら 持って行きませんが

何を どのぐらい 落としたか 分からない場合は
飛行機を 分解してでも 異物が無いのを 確認します

戦闘機は 大きな機動を 取ります
−Gもかけます
異物は 自由に 飛行機の中を 駆けめぐります
その上 コックピットは 閉鎖された 空間ではありません
床板も 壁板も ありません
コックピットに 落ちた物は どこにでも 行けます

そのため 戦闘機乗りは 必要最小限の物しか
コックピットに 持ち込みません
その上 飛行服のポケットには 全てチャックが付いていて
物が 落ちないように なっています
鉛筆さしも ありますが それには 蓋も付いています

戦闘機乗りは 鉛筆しか使いません
ボールペンや シャープペンは 危険です
もし 何らかの理由で 飛行中 コックピット内に 落とした場合
絶対 拾えませんので そのままにします
これが 鉛筆ならば 操縦桿に挟まっても
力で 割る事が出来ますし
その上 材質が 木ですから ショートの心配もありません

まあ 持っていかないのが 最良なのですが
私の場合は 鉛筆にも ひもを付けて その端を 身体に結わえます
こうすれば 落としても ひもをたぐって 鉛筆が拾えます


飛行機は FODに 極めて弱い物です
ですから みなさんが 気にしていないような ことでも
すごく 神経を使っているのです
航空祭で 理解出来ない注意を受けた方も おられるでしょう
それは FODに対する 注意だったかも 知れません
 
車で言えば 道路に 上向きの釘が落ちていたり
運転席の足下に 缶ジュースが 転がっているような物なのです

ご理解いただけましたでしょうか?

これが整備員が ピアスを許されない理由です