ACM


ネタが尽きたので
ちょっと後輩にお願いして書いてもらいました
私より、ベテランですので面白いかも
ご感想をCajunに送って下さい

Ynabe



空中戦のお話

 これまで20年近くにわたって戦闘機に乗ると鬼のような顔をして
空中戦なるものをやってきたため、人格も性格もねじ曲がってしまった私ですが
人様にお話しできることはこんなことしかありませんので
お暇でしたら読んでやって下さい。

Cajun

1 体のお話

 まず、空中戦というやつはとってもきつい
今までかけた最高のGは8.3G、かけられたG(F−15DJの後席に乗っていた時に前席のアホな15年後輩にハメられた)は8.9G
パイロットならすぐ理解できるのですが、自分でかけた8.3Gはかなり狭い視野になるものの歯を食いしばっていれば何とかがんばれるけど
他人がかけた場合は6Gでもな〜んも見えなくて、な〜んもわかんなくてただただきついだけ
他人がかけた8.9Gは何とか意識だけは保ちつつ
「どうしてこんなやつと乗ってしまったんだろうか…?」「たのむからもうGを抜いてくれえ…!」と思うだけ
F−4なら6Gで20秒ほどがんばっていれば速度が減ってきてGも抜けてくるけど
F−15はバカ推力のエンジンがついているため、10000フィートぐらいの高度なら8.5G以上が1分以上かかりっぱなしという地獄絵となる
8Gという世界は首から上の重さ約4キロ プラス ヘルメットとマスクの計5.7キロ×8=46キロの重さが頸椎にかかる
ただかかるだけならまだしも空中戦(格闘戦)をやるためには相手を見続けなければならないので、後ろにでも回り込まれようならこの状態で首を90度以上ねじったり、このキチガイじみた重さに逆らって「ググァ〜…!」という擬音を発しつつ首を真上に持ち上げたり、絶対に体に良くないことをしている
(首を回すのはきついのと構造的に限界があるので、後は目の玉の動き(いわゆる流し目というやつ?)が勝負となる
ぎょろ目でじろっとにらむのは哀れな職業病と思ってお許しいただきたいましてや腰は200数十キロという荷重のかかった状態でひねることになる。こんなフライトを1日に2回も3回もやっている人間たちは腰や首だけでなく、脳細胞も毎回数十個死んでいっているためおりこうでなくなっているのです
 
2 レーダーのお話
 
 以前のレーダーは「コンベンショナル パルスレーダー」といってアンテナから発射した電波の反射波をアナログ的に処理して表示するものであったため、雲とか、地面とか、チャフ(アルミとかグラスファイバーの細い短冊みたいなものでレーダーを妨害するために蒔くやつ)とかがしっかり映るためにそれがじゃまになって本来見たい飛行機が見えなくなってしまう。
でも今は「パルス ドプラーレーダー」と言って速度成分をデジタル処理した結果をシンボルで表示する方式のため飛行機の位置だけでなく、進んでいる方向、速度、高度も一目瞭然でわかってしまうバカチョんレーダーになっています。
とっても簡単でいいのですがこれにも弱点があります。速度のないものは検出できないため、ヘリコプターなどが時速120から130キロ以下で飛んでいるのは全く見つけられないのです。
こうしたやつらが赤外線追尾の空対空ミサイルなんか積んでくると大変困ります。F−15の最大の敵はヘリコプターなのです。(固定翼と回転翼のおじさんたちが仲が悪いのはこれが理由なのです。)
ではここで質問です。速度の速い車はレーダーに映るでしょうか?
正解は「イエス」です。私が飛んでいた千歳基地の近くにはいすゞ自動車のテストコースや、高速道路があったため帰投して着陸するときなどは低空から接近するヘリかと思って混乱したことが何度もありました。
そのうち会社を辞めてF−15で空飛ぶ白バイになって「そこのディアマンテ30キロオーバー!」といって追っかけるのもいいなあと思ってます。
 
3 ミサイルのお話
 
 ミサイルというやつも付き合ってみるとなかなかナーバスなやつで面白かったです。
簡単に言うと2種類あって、レーダー(電波)で誘導されるのと飛行機の排気ガス等の赤外線を追っかけるのの2種類です。
航空自衛隊が使っているのは前者がスパロー、後者がサイドワインダーとAAM−3(国産品)です。
いずれもミサイル自体が空力的にどこまで飛べるかという距離とミサイルのシーカーという目玉が自分の追いかける電波や赤外線を捕まえることができるかという視力みたいな距離のどちらかで最大射程が決まります。
具体的に言うとスパローの場合はジャンボみたいなでっかい飛行機は反射する電波も大きいので高高度で正面から対進状態なら、100キロぐらいでミサイルを発射してブチ落とすことができますが、戦闘機クラスの飛行機ではせいぜい50キロ止まりです。
つまりこの状態では力ではなくて視力がものを言うことになります。逆に低高度では空気密度が濃いために抵抗が大きく目では捕まえていても30キロ以下まで撃てないようなことになります。
さらに海面すれすれの低高度ではクラッターという電波の乱反射のために目が見えなくなって15キロぐらいになるということも発生します。
また相手を後ろから追っかける時はミサイルが飛んでいく飛行機に追いついてブチ当たるためにはかなり引きつけないと届きません。ざっと言って正面から撃つケースの4分の1ほどになってしまいます。

サイドワインダーの場合は、正面で20キロぐらいですが、これはアフターバーナー全開で赤外線をまき散らしているやつに対してのみ撃てます。
つまり視力の限界です。後ろの場合は、空力的な力の限界で5〜6キロぐらいになります。

要するにミサイルを発射可能かどうかは相手との相対位置関係、電波や赤外線の状況等でめまぐるしく変わるため非常に複雑です。
でもこれはパイロットがその都度判断しているわけではなくセントラルコンピューターがレーダーや母機の高度、速度、ミサイルの目玉たちと相談して計算してくれますので、パイロットはただヘッドアップディスプレーに「撃っていいよ。」というシュートキューというマークが出たらスイッチを押すだけという状況です。(パイロットはアホなのでにこのようなことを期待する方が無理ですから…)
 

…まだまだいろいろなことが空中戦では起こりますがそれはまたの お・は・な・しということで続編にでも書いてみたいと思います。