新潟県のバスリリース禁止は何がおかしいか

2001/12/19 改訂版


 以前、このコラムを書いたのだが新たな事実が浮き上がってきたことと、想像以上にバス反対派の事実認識におかしな点があるため、加筆しました。 ちょっと、腹が立って書いてたので不適切なわかりにくい表現があった点もあるし。

 新潟のバスリリース禁止は各方面でさまざまな論議を呼んでいます。

 その中でもいちばん馬鹿くさいのはこれを「条例」とか間違って表現しているメディアや団体が多いことです。
 このリリース禁止は条例ではありません。
 条例とは民主的な手続きで選ばれた議会が制定したものであり、当然従わなければ反社会的で違法な行為と言われても仕方が無いでしょう。
 しかし、この禁止措置はあくまでも「内水面漁場管理委員会指示」です。

 委員の選定も民主的ではないし、後で述べますが論理的に矛盾があっても指示を行うことができてしまうのです。

 本来このような指示は法律で適応できない細かいところを補強するものです。
 しかし、この指示についてはむしろ、法律に矛盾した内容である可能性が高いと思われます。
 これについて以下に考えをまとめてみました。

●漁業法に矛盾した指示の可能性

 今回のリリース禁止も遊漁規則だから内水面の遊漁規則を定めた漁業法第129条第5項に沿ったもので無ければなりません。

 この法では内水面の漁業権の特徴として
1.漁業を生業としない遊漁者が多くいるため内水面は公共的な側面があり、遊漁を不当に制限してはいけない。
2.資源が限られているため、増殖の義務が生じる。
 という2点を位置づけています。

 このため、漁業者に与えられる漁業権も『第5種共同漁業権』という、海などの漁業者とは かなり異なるものになっています。
 増殖の義務から漁協は漁業権の稚魚の放流などを行っているのはご存知のとおりです。
 しかし遊漁を不当に制限しないという考え方があることはあまり知られていないかもしれません 。
 漁業法129条第5項のこの考えによると遊魚を不当に制限する遊漁規則は問題です。

 では、不当な制限とは何でしょう?

 それは昭和37年11月10日に水産庁から出された(37水漁第6464号水産庁長官「遊漁規則の作成及び認可について」)という通達で述べられています。
 これによると不当な制限とは、「資源の維持、漁業紛争の防止、その他組合且の当該漁業権に対する生活依存度を考慮して行う最小限度の制限以外の制限をいう。」 と述べられ、具体的には、次の4点です。

@組合が漁業権行使規則で組合員に課している一般的制限、たとえば漁場の区域、採捕期間、体長または採捕尾数の制限等を遊漁者に課することは不当ではない。

 このような制限は確かに妥当だと言えると思います。
 むしろ、渓流魚などについてはC&Rを義務付けるなどの規則をどんどんやれることを明確に表しているのでhないでしょうか。
 バスのリリース規制より日本の内水面ではこれこそ必要かと思われます。

A資源の維持、漁業紛争の防止等からみて、採捕者の数を制限する必要があり、かつ漁業権行使規則で特定の漁法の使用を特定の資格を有する組合員にのみ認めて一般組合員には制限している場合には、遊漁者に当該特定漁具、漁法の使用を禁ずることは不当ではない。
B組合が漁業権行使規則で特に組合員に対して漁具、漁法を制限していない場合は,水産資源または漁業調整上著しい支障がない限り、遊漁者に対して当該漁具、漁法を制限することは不当である。

 この2項は、たとえば、なんか異常に獲れる漁法なり道具は乱獲になるから禁止しよう!と決めた際に漁師さんだけは 使用を認めるのは不平等だ・・・というところでしょうか。

C従来、慣行として容認されていた特定漁具、漁法による遊漁については、資源維持または漁業調整上著しい支障のない限り、当該漁具、漁法による遊漁を実質的に不可能にするような制限を加えることは不当である。

 新潟県の委員会指示はまさにこれに該当するのではないかと考えます。
 バスフィッシングはキャッチ&リリースが慣行であったことは紛れも無い事実です。
 バスフィッシングにおいてはキャッチ&リリースは慣行である上に文化でもあります。
 それは、人が生き物に対する思いやりを具体化したものです。
 キャッチ&リリースは文化じゃない、資源を減らさないためのものにすぎないと言う人も居ます。
 しかし、他者の文化を否定することはもっとも文化からかけ離れた野蛮な行為ではないでしょうか。
 つまり、バサーにとって慣行だったC&Rを事実上できなくする指示はこれに当たるということです。

 キャッチ&リリースという慣行、文化を不当に制限することは漁業法の考えから言っておかしいのです。

 とはいえ、Cの「資源維持または漁業調整上著しい支障のない限り」をバスの食害について適応という考えもあるが本当に著しいと言えるのでしょうか。
 私は実際にバスと深く触れていますが著しい食害などほとんどないと感じています。
 たとえば数年前、仕事で某川の魚類調査を行なったことがあります。
 調査では確かにバスも取れましたが、むしろ、魚食性のナマズ、ニゴイ、そしてバスと同じ移入魚のハスのほうがずっと多く居ました。
 さらに、捕食状況の調査も行ったが「空胃」のバスが多かったのです。
 だから、他の魚を食べまくる・・・などといわれると違和感を感じざるを得ません。
 その頃もバス釣りをしていましたが当時のほうが今よりよく釣れています。
 おそらく、当時のほうが今より生息数は多かったのではないでしょうか。
 バスの居るフィールドはどこも同じように生息数が減っていると言われています。

 最近、信濃川におけるバスの生息数の調査結果を見ましたが、なんと全採捕数の1%以下 しか生息していないという結果です。
 しかも、その1%もほとんどが魚食性のまだ無い10cm以下のものが大半です。
 また、「バスによる害が出ているのか?」という問いかけを新潟県水産課にすると「特に害というものは明らかになっていません。」という答え・・・
 科学的な調査ではバスは生息数もたいしたことはなく、水産課も特に害は無いとしているのです。
 そのような状況で近年の急激な増殖による食害、という説明がなぜできるか理解に苦しみます。
 つまり、「資源維持または漁業調整上著しい支障」はないのです。

 また、百歩譲ってバス自体に食害が著しくあったとしてもチャッチ&リリースは「資源維持または漁業調整上著しい支障」に当たりません。
 よく言われることですが、「釣りをしてキャッチ&リリースをした場合」と「ただ水辺に立っている」という二つの行為を比べてみると水中のバスの生息数に与える影響という面では全く同じで だからです。
 増えるわけでも無く、むしろリリース失敗で死んで減るやも知れません。
 キャッチ&リリースが「資源維持または漁業調整上著しい支障」とするなら水辺に「ただ立っている状態」も「資源維持または漁業調整上著しい支障」なのでしょうか?
 この理論なら水辺と関係なく生活してる人の行為も「資源維持または漁業調整上著しい支障」となってしまいますね。

 結局、「著しい支障」あたる要素はまったく無いことになり不当な制限といわざるを得ません。

●不当な指示でどうなる?

 このようにこの指示は漁業法に矛盾しています。
 でも、こんな違法な指示を出してもいいものかというと実は特に問題は無いかもしれません。
 なぜなら、漁場調整委員会は「漁場管理に関することならどんなことでも指示ができる」ということになっているのです。

 そんなとんでもないことが許されるの?感じですがそれゆえにこの指示における取締りは知事の権限と複雑な手続きが必要になってくるのです。

 今回の件も漁業法に矛盾した指示ですから県知事は取り締まりには矛盾が生じます。 

 現に2000年12月の新潟シンポで県の水産課の職員も
「このような指示が出来るものか・・・」と不当性を認める発言をしています。
 

●バサーの考える生態系におけるバス
 バサーの側から食害が無いことを説明せよ!と主張する人も居ますが、実際、水辺に立ち、バスと触れることで得られた実感から食害が無いことは多くのバサーが再三説明してい ます。
 それに、新潟の問題では先にアクションを起こしたのは内水面漁場管理委員会であり、本来バサーサイドより、むしろ、アカウンタビリティ(説明責任)が生じるのは委員会側ではない でしょうか?
 つまり、「漁場調整上著しい支障」と言うものを提示しなければならないと思います。

 漁場管理委員会の説明がおかしいことはバスの駆除によるデータでも証明されています。
 キャッチ&リリースの禁止の直接の原因となったといわれる奥只見湖の調査では昨年の調査で482匹の捕獲数があったが、今年は3回調査しても61匹と大幅に減少してい ます。
 調査実施機関はバスの増殖を説明するために捕獲を精力的に取り組んだはずではないでしょうか。
 それでも捕獲数が減少してしまったということは総生息数が劇的に減っているという事実を物語っています。
 漁協やバス反対派の駆除作業はほとんど実効が上がっていないのですから減少の原因は生態系内でバスの生息数が適当なところに落ち着いたという見方をすることが自然です。
 バサーの目から見ればこれは当然のことでこれまで主張してきたことが証明されたということに過ぎませんが。

 また、駆除時のデータにはもうひとつ数字のマジックがあります。
 ○○ダムではXX千匹も取れたと大きな数字がマスコミを賑わします。
 しかし、バスの産卵形態から言って孵化直後の稚魚はおびただしい数が確認されるのは良くあることです。
 プランクトン食の稚魚期なら何百、何千匹でも取れる可能性は高いです。
 しかし、多くのバサーが認識していることですが、釣れるくらい・・・食害を起こすくらいとしたほうがバス反対派には通りやすいですが10cmらいに成長するまでにはほとんどが淘汰され ています。
 この点を隠すためでしょうかマスコミ発表では「体長組成」のデータはけっして出しません。
 食害を科学的説明するならこのデータがないといえないはずなのですが。