番号 00J-001  送信日 00/10/02  差出人 戸田 亜昭
件名 気象の教材をありがとう

 浅野さん
 気象の教材をありがとうございます。本校の生徒が塗り絵をしても雨の降り方が分かりますね。助けを求めたらすぐに反応していただいたのが大変嬉しいです。飯田さんからは土地条件図を貸してもらっています。『名古屋市史 自然編』が今回の災害を教材化するのに参考になりますね。このあたりは江戸時代より10年から50年間隔で水害にあっているようです。岐阜物理サークルの方たちからも続々と教材を送ってもらっています。人間的な扱いを受けていない被災現場にいると、このような荷物が楽しみです。 職場では一日で物理実験室、化学実験室、準備室を設計しろといわれ深夜までがんばらされています。しかし勤務は5時までやったことにしかならないそうです。
 まだ汚れの取れないうちに計っておかなくてはと校内の水深を測ってきました。各校舎で舗装やコンクリートの高さが違うため、違いがありますが、水深は220センチから240センチでした。近所の住宅より水深の深くなるところに避難所を指定してあるのはおかしいですね。水害に遭う前から近所の人には学校に避難してきてはいけないといっていましたが、避難民は8人でした。隣の桜台高校は避難所に指定されていないけれど700人ほど?の避難民があったとのことです。(飯田さん杉本さん、そのくらいでしたよね)
 今日学校の隣に流れている天白川を見てきたら、あちこちと決壊をしそうになっているところを見つけました。護岸工事の古いところがよく痛んでいました。野並ポンプ場には5台のポンプがあると書いてあったが、2台は取り壊し中のものであることが分かりました。証拠写真も撮ってきました。ポンプでくみ出しても支流の藤川の方から逆流して水が循環していたなんてお笑いですね。これで地下鉄の野並駅も水浸しになったのです。日本の土木水準はこんなものとはビックリします。でもこれは計算の上でのことでしょうか。
 木曽川、庄内川などは大丈夫でしょうか。被害にあった現場でしかできないことだが、調べておいた方がいいことがあったら教えてください。



番号 00J-002  送信日 00/10/10  差出人 林 正幸
件名 変わらないで進もう

 こんばんは、林 正幸です。
 このところ忙しくて久しぶりのメールになりました。戸田さん、その後はいかがですか。
 先週の土日は、皆さん、「科学の祭典」をご苦労さまでした。しかし子どもたちの素朴な感動や驚きが伝わってきて、体は疲れても気持は満たされました。そして家に帰ってテレビをつけると「高橋尚子の42.195キロ(NHK)」をやっていました。その中で彼女は、正確には覚えていませんが、次のように語っていました。
「優勝した明くる朝、ランニングに出ました。世界がばら色に見えるかとも想像しましたが、実際には風は2日前と全く同じ冷たい風でした。まわりの自然も、そして人々も何も変わっていませんでした。私は思いました。自分も変わってはいけないのだ。これまで同じように練習していこう。素質がない私は努力し続けてこそ楽しめるのだ。」
いい話を聞いたと思いました。
 明日から中間試験が始まります。昨日は生徒が質問に押しかけてきて、弁当は持って帰って4時過ぎに自宅で食べました。これはうれしい悲鳴です。
 県合同教研が近づいています。私は科学の祭典でも取り上げた「電気で字をかく」を紹介しようとプリントを準備しました。それから前のメールで送信したものですが、「放射性同位体と原子力発電」の4枚のプリントも印刷しました。これは資料として紹介するつもりです。皆さんからの感想・意見を聞きたいものです。
 ではまた。


番号 00J-003  送信日 00/10/12  差出人 林 正幸
件名 10円玉が酢と塩できれいになるのはどうしてか

 こんばんは、林 正幸です。
 よくある質問ですが、意外と難しく、参考になるかと思い、紹介します。

<ホームページからの引用>
質 問
 知り合いの中学生の子どもから化学のことで質問されましたが、答えられずに
 ホー ムページを探していたら先生のページにたどり着きました。もし分かる
 ようでしたら お知らせください。
質問
 酢に塩を混ぜて10円玉を入れると錆がよくとれるのはなぜですか。

説 明
 遅くなりましたが、どうやら質問に答えられるようになりました。これはひとえに私の仲間である藤田さんの調査・研究によるものです。
 通常の10円玉のさびは酸化銅(T)Cu2O です。黒っぽい場合は一部が酸化銅(U)CuO に変化しています。ここでは前者として話を進めます。
 酸化銅(T)は酢の酸性成分である酢酸と次のように反応します。
  Cu2O + 2CH3COOH ―→ Cu + (CH3COO)2Cu  (1)このように酸化銅(T)の中の銅元素は、銅 Cu 自身と、酢酸銅(U)(CH3COO)2Cuの中の銅(U)イオン Cu2+ のふたつに変化します。これは酢酸に代表されるカルボン酸という物質との反応に特徴的なことです。これに対してたとえば酸化銅(T)と塩酸の反応は次のようになり
    Cu2O + 2HCl ―→ 2CuCl + H2O
水に溶けにくい塩化銅(T)が生成します。
 ところで反応(1)は右に進みにくく、左の物質の割合が圧倒的に多い状態で止まってしまいます(反応が止まることは専門的には「平衡」と言います)。ですから酢だけでは10円玉のさびはなかなか落ちません。
 そこで塩の登場です。食塩つまり塩化ナトリウムは水に溶けて次のように
    NaCl ―→ Na+ + Cl-
ナトリウムイオン Na+ と塩化物イオン Cl- に分かれています(「電離」していると言います)。また酢酸銅(U)も水に溶けやすく次のように
    (CH3COO)2Cu ―→ 2CH3COO- + Cu2+
酢酸イオン 2CH3COO- と銅(U)イオンに分かれています。そして銅(U)イオンと塩化物イオンが次のように反応します。
    Cu2+ + 4Cl- ―→ [CuCl4]2-  (2)
できるイオンはテトラクロロ銅(U)酸イオンと呼ばれます。名前が難しいのですが、この種のイオンは錯イオンというものです。
 さて反応(2)は速やかに右に進みます。それは反応(1)の右の物質の酢酸銅(U)が変化して無くなることを意味します。すると反応(1)はまたすこしばかり右に進みます。すかさず反応(2)が酢酸銅(U)を処理します。またまた反応(1)がすこしばかり右に進みます。こうして反応(1)はずるずると右にすすむことになり、こうして10円玉のさびは反応によって取り除かれていくのです。
 実験するのは簡単なのですが、このようにその仕組みは複雑です。まとめれば
 「酢と塩の酢酸と塩化ナトリウムが協同して、10円玉のさびの酸化銅(T)と反応する」となります。
 ちなみに似た実験に、「10円玉をしょう油に浸けるときれいになる」というものがあります。この場合は、しょう油には各種のアミノ酸が含まれており、これが(1)と似た反応を起こし、続いてある種のアミノ酸が反応して錯イオンに似たキレートイオンというものができるためです。
<以上>


番号 00J-004  送信日 00/10/22  差出人 臼井 泰洋
件名 教研レポートです。御笑読あれ

2000年 教研レポート
          主題:  DNAに贈る言葉
                              **高校  臼井泰洋
最近地球に異星人が惑星探査に来ました。
その会話より−−−−
−−−−はじまり、はじまり−−−−

異星人モコ 「この惑星を探査するのはひさしぶりだな。」
異星人テツ 「そうですね、進化というよりは、かなり変化しているようです。
       早速、惑星のスキャンを開始します。
       ……………………………うーん、大気はかなり化学物質で汚染さ
       れており、水圏も同様に汚染されています。」
異星人モコ 「たしかに科学技術はかなり進歩したようだが、しかし無責任な使
       い方が多いようだ。テツ、人間社会をスクリーンに!」
異星人テツ 「はい。」
異星人モコ 「なんだ、これは。どの人間も髪を染め、顔面に顔が書いてある。
       何か疫病があったのだろうか?それとも何かの宗教のせいなのか?
       どう思う、テツ」
異星人テツ 「はい、原因はよく分かりませんが、精神文化のレベルが落ちてい
       ることは間違いないようです。今、この惑星の教育機関である学
       校の様子をスクリーンに出します。」
異星人モコ 「ほー、これがこの惑星の教育機関か。なるほど。」
異星人テツ 「ご覧下さい。生徒と呼ばれる受講者の半数ほどしかテーブルに教
       材を用意してません。」
異星人モコ 「興味深いことだ。さらに観察を続けよう。」
異星人テツ 「今、受講者のバックの中をスキャンしました。結果として中身は、
       通信機器、ミラー、顔面塗料、及び娯楽本が主です。」
異星人モコ 「なんなのだ、この惑星のこの教育は。無意味としかおもえんでは
       ないか。」
異星人テツ 「はい、原因を調べるために、ちょっとこの惑星のコンピューター
       にアクセスして情報を収集してみます。…………
       ……そうか!この惑星の教育は、次のレベルの教育機関に合格す
       るために行われているようです。
       それとおもしろいことに、その入学試験が大変複雑です。推薦入
       試、一芸入試、前期日程、………」
異星人モコ 「よくわからん、そんなに複雑にして何の意味があるのだろうか、
       たかが選抜ではないか」
異星人テツ 「この惑星のシステムは、選抜をくぐり抜けることが、成功者への
       ステップアップにつながっているようです。
       だからかなり怪奇な選抜制度あるようです。………………………
       …ちょっとお待ち下さい。……………………
       さらに興味深いことが分かりました。最高学府での知的レベルで
       す。レベル2.5です。」
異星人モコ 「2.5といえば分数の加減レベル領域ではないか?」
異星人テツ 「おっしゃるとうりです。この惑星の教育はもともと精神レベル、
       知的レベルの向上を図っていませんから
       このような結果が出ると思われます。」
異星人モコ 「………………ひどい現状だなぁ。この惑星の指導者はこの現状を
       いったいどう捉えているのだろうか。」
異星人テツ 「白書というデータによれば、それほど悲観的には捉えていないよ
       うです。それと指導者自身の子弟は特別に留学と形でハイレベル
       の学府で教育を受けていることが多いようです。」
異星人モコ 「無責任ということか?」
異星人テツ 「この惑星の文化のひとつに特徴づけられるのが、”本音とたてま
       え”という論理です。これもコンピューターにアクセスした結果
       得た貴重なデータです。どうもその論理で物事を判断している
       ようです。」
異星人モコ 「そうか、だから先ほど学校と呼ばれる教育機関であのような醜態
       が起こっているのか。」
異星人テツ 「はい、そのようです。試しに、指導者の行っている会議をスクリ
       ーンに出しますか。」
異星人モコ 「いや、やめとこう。この惑星の種族は、住民間の縦と横の関係に
       敏感で、それを気にするあまり、”本音とたてまえ”の関係がで
       きてしまうようだ。よくよく考えてみると精神文化の低い種族か
       もしれない。」
異星人テツ 「そうですね、彼らの科学技術は、ここ100年で素粒子の解明の
       分野まで到達しており、核兵器まで開発しています。」
異星人モコ 「核兵器まで達したか!それでいてあの精神文化か………………」
異星人テツ 「はい、生物分野では、DNAレベルに達し、その改変までも考え
       ているようです。」
異星人モコ 「DNAの操作も間近いなぁ!彼らは自分たち自身の本体がDNA
       であることを分かっているのだろうか?」
異星人テツ 「いや、彼らの思考は非常に直線的で、歴史からみると、物事の是
       非を考えるのは、核兵器の時のように大きな犠牲という結果が出
       てからしか考えないようです。そして悪いことにそれもすぐに忘
       れるようです。これを彼らは”懲りない”という言葉で表現して
       います。」
異星人モコ 「ふーむ、しかし、技術が格段に向上すれば当然負の結果による犠
       牲も格段に大きくなり、取り返しのつかない結果だって生じるこ
       とを認識しているのだろうかなぁ?」
異星人テツ 「……………………………おそらく”懲りないでしょう”…………
       ……………」
異星人モコ 「そうか、でも彼らも我々と同様の炭素有機体の生命体だから、何
       か親しみを感じるよ。何とか逸脱した軌道から、戻ってもらいた
       いものだ。」
異星人テツ 「はい。彼らの基本能力はかなり高いので、後は、それを使いこな
       す”智慧と勇気”だと思います。覚えてみえますか?20年前の
       我々の惑星に微惑星が衝突した”ドーエの破壊”を…………」
異星人モコ 「”ドーエの破壊”か、忘れもしないよ。今から思うと、よく我々
       はあれを乗り切れたと思う。」
異星人テツ 「はい、あの時は、星の生命維持エネルギーの30%が停止、食料
       不足、疫病、化学物質による環境破壊と続きましたね。」
異星人モコ 「そうだ。我々はあの時、パニックも起こさず、冷静だったな。だ
       から犠牲者も皆無だったのだろう。これも”智慧と勇気”を基本
       にした教育による精神文化のおかげだろう。」
異星人テツ 「…………そうですね。彼らもそこに早く気づけばさらなる向上が
あると思います。」
異星人モコ 「そうだな、私もそれを願っているよ。残りの情報を集めしだいワ
       ープ6で発進しよう。」
異星人テツ 「了解、情報収集後、ワープ6で発進!」
  −−−−−−−−−おしまい−−−−−−

追記−−35年位前のTV番組にス−パージェッターというのがありました。そ
の主題歌の歌詞の一部が
    ”智慧と勇気と力の子”という文句でした。これってひょっとしたら異
    星人が我々に諭したものかもしれませんね。
−−−−−−


番号 00J-005  送信日 00/10/29  差出人 林 正幸
件名 MOLの会報告

 こんにちは、林 正幸です。
 せっかくの日曜日が雨降りで残念ですね。でも庭仕事ができないお陰で、室内での仕事に取り組めます。
 昨日はMOLの会を開きました。その通信ができ上がりましたので、皆さんにお届けします。
 ではまた。

<ホームページからの引用>
                                  00.10
                               事務局 林 正幸

   MOlの会通信00−10

 参加者は岡田、鈴木とし、富田、林まさ、船橋、山本の6名でした。今回も話題豊富で、雨降りということもありましたが、終わったときは外は宵闇に包まれていました。

1.トンボ玉(岡田)
 アルケミストの合宿や通信資料を受けて、部活動でトンボ玉を作らせている。材料は東急ハンズで手に入る。生徒は夢中になり、どんどんうまくなっていく。生徒はガラス細工が好きである。普通のテクルバーナーを使っていたが、メッケルバーナーと電動ふいごが見つかり、これから発展しそうである。
 私たちも体験することになり、ひとりひとりチャレンジした。始めは剥離剤が少なくまた十分に加熱しなかったので、トンボ玉が鉄線(スポーク)から抜けなかったり気泡が入ったりしたが、その後はうまくいった。

2.アルソミトラの模型(船橋)
 科学の祭典でやっていたものを、さっそく授業に取り入れてみた。薄い発泡スチロールのシートを使うことがポイントのようである。頭に布製ガムテープを貼って重くして飛ばすと、本物の種子のように飛んでいく。ひらひらするときはガムテープがやや軽い、また旋回する場合は紙飛行機の要領で羽根の他方の後部を上にそらせればよい。生徒には飛行距離を競わせる。
 生徒机の天板を台にして、スチロールカッターを製作した。ニクロム線はワッシャ枚分だけ板から浮かせる。分子モデル製作のときの技術が活きている。まず本物を参考に工作紙で型紙を2枚作る。これで発泡スチロールのブロックをはさみ、これまでのスチロールカッターではみ出した部分を切り取る。そして上のカッターでスライスする。見事に薄いシートができる。このこと自身が面白い。
 私たちもそれぞれ製作して飛ばしてみた。「私も授業でやってみよう」と声が出る。薄切りカッターがちょっと難しいか。型紙の方は船橋さんからもらうことができました。

3.よく飛ぶ紙製ジャイロ(船橋)
 これも簡単に楽しめる。B5のコピー紙を横にして、4.5cm残して3回重ね折りにする。そして折り目を外にして円筒にしてセロテープで固定する。
 これだけで水平に平行に投げるとよく飛ぶ。プラスチック製のもの(商品はXジャイロ)は回転をかける必要があるが、これはあまり気にしなくてよい。それに紙だから頭に当たっても痛くない。

4.釜鳴り(船橋)
 これはNHK教育テレビ「やってみよう なんでも実験」からの情報。200mlの空き缶を使う。ひとつは上をくりぬいて釜にする。つぎに一方は上下くりぬき、他方は底にドリルで穴をたくさんあけ、ガムテープでつないで筒にする。これが重ねたせいろに当たる。「釜」に水を入れて「せいろ」をガムテープでつないでバーナーで加熱する。そして煮立ってきたら米を手のひらに乗せて注ぐと、数秒間ボーッという音が出る。もうひとつ缶を乗せて「せいろ」の長さを変えると音程が変わるが、今回は時間が短くてできなかった。
 それにしてどうして音がでるのだろう。米を入れると「せいろ」の底で温度ギャップができ、そこと上の口で音が反射して共鳴すると、説明されている。音叉の波長を水管で測定するのに似ている。

5.白金触媒の話題(船橋ら)
 芯に白金触媒を用いた「ターボライター」は、風があっても平気でたばこに火がつく。見ると白金部分が真っ赤になっている。それにしても橙色の炎が見えないのが不思議。部屋を暗くしてみると短い青い炎がすこし見える。完全燃焼しているのだ。そらならチャッカマンの炎に巻いた白金線を入れると炎の色が消えるだろうか。
 アンモニアを発生させて白金線をかざすと、真っ赤になる。アンモニアが燃焼するのだ。
オストワルト法による硝酸製造では、白金触媒が使われている。
    4NH3 + 5O2 ―→ 6H2O + 4NO
 古くは白金かいろや、前にやった白金黒による水素爆鳴気の爆発や、白金線によるメタノール蒸気の燃焼など、白金の触媒作用はすごいね。燃料電池もそうだよね。

6.マグネシウムと水の反応(鈴木とし)
 前に、水にマグネシウムを入れると常温でもフェノールフタレインが赤くなることを確認した。そのことで教科書の記述の検討を実教出版に依頼した。すると著者が追実験をして、同じ結果を得たと返事が来た。「金属のイオン化傾向と反応性」の表はどのように記述するべきか検討の必要がある。これはどの程度に反応するかがはっきりしないままに取り扱っていることが背景にある。
 似た例に二酸化炭素の実験室における製法がある。石灰岩に硫酸を注ぐと、できる硫酸カルシウムが水に溶けず表面を覆うので、塩酸を用いるとされている。製法としてはそれで正しいのだが、硫酸カルシウムの溶解度はそれほど小さくはなく、ゆっくりとなら二酸化炭素が発生する。
 受験参考書では、アルカリ土類金属の炭酸塩・硫酸塩は水に溶けないと言い切っている。受験の知識としてはそれでよいかもしれないが、これは科学的認識とは言えるだろうか。私たち教師自身がその種の記述から思いこみをしている可能性もあるわけで、理科教育が実験に基づくべきことの重要性がここにも現れている。
 また「分子レベルで見た体のはたらき」(平山令明著、講談社ブルーバックス)という本の紹介もあった。CD付きで、立体視できる面白い画像もあるが、まだ購入したばかりで勉強中とのことでした。次回が楽しみです。

7.「こつ」の科学(岡田)
 これも本の紹介。料理の「こつ」という意味で、杉田浩一著、柴田書店出版である。たとえば、りんごをむいて放置すると褐色になるのは、ポリフェノールが空気中の酸素で酸化されるためであるが、リンゴなどに含まれるオキシダーゼという酵素が反応を進めている。水や食塩水に浸けるのは空気を遮断するため、酸性の液を利用したり短時間加熱するのは酵素の作用を停止するため、そして「なし」などが褐変しないのは、ポリフェノールや酵素が欠けているためである。またジュースなどは還元剤のアスコルビン酸(ビタミンC)を加えてそれを防いでいる。
 という風に、ぜひ読んでみたい本である。
 また、中村理科が出している「モル実験びんセット」は予めびんに空気入れで空気を圧縮しておいて、それをメスシリンダーに放出して空気の分子量を測定する道具である。ところがこのびんには、船橋さんが工夫したボイルの実験の注射器がそのまま入るので、コンパクトに同じ実験ができる。

8.重曹の熱分解の反応(富田)
 ふくらし粉である炭酸水素ナトリウムはどのような反応をして二酸化炭素が生成しているのだろうか。
 考えられるのは
    2NaHCO3 ―→ Na2O + 2CO2 + H2O    (1)
    NaHCO3 ―→ NaOH + CO2          (2)
    2NaHCO3 ―→ Na2CO3 + CO2 + H2O    (3)
 試験管に炭酸水素ナトリウム1gを入れて導管をつけ、発生する気体を石灰水に通しながら加熱する。試験管の上部には水滴ができて水の生成することが分かる。この水を加熱で追い出してから、試験管に残った固体の質量を測定すると0.6gとなる。化学量論で求めた炭酸ナトリウムなら0.63gになるという計算と結び付けて、(3)が正しい反応式であることを発見できる。

9.1ファラデーの計測(富田)
 0.7mol/l硫酸銅水溶液に、銅板を陽極にステンレス板を陰極にして、1Aで10分間電気分解する。ステンレス板を水洗いした後アセトンで濡らしてドライヤーで乾燥して、質量増加を測定すると0.20gとなる。これから1ファラデーを求めるが、生徒実験の結果は10〜8万クーロンほどになった。ステンレス板はきれいに銅箔がはがれる。水溶液はそのまま来年まで保管する。

10.オリジナル鏡と銀めっきプレート(富田)
 8cm角のガラスにパラフィンを塗っておいて、シャープペンなどで削るように模様をかく。フッ化水素はドラフトで教師が塗ってやる。きれいに洗浄させてから、アンモニア性硝酸銀溶液をつくり、アルカリを加えたブドウ糖水溶液と混ぜて、バットの中で傾けながら鍍銀する。砂糖を加水分解して還元液をつくってみたが、うまくいかなかった。
 銅板に黒の油性ペンで絵や文字をかき(裏は完全に塗りつぶす)、加温した飽和塩化鉄(V)水溶液でエッチングする。これを、湿った脱脂綿に炭酸水素ナトリウム粉末を付けて磨くなどしてきれいにする。それから硝酸銀水溶液に浸けて銀を析出させ、水洗いした後やはり炭酸水素ナトリウムを付けた脱脂綿で磨くことを数回くり返すと、ぴかぴかになる。このときプラスチック製ピンセットを使うと「あと」がつかない。
 話を聞いてみんなから「次の会で実際にやってほしい」という要望がでました。詳しい内容は次の通信にまわします。

11.「電気で字が書ける」(林まさ)
 ステンレス板にろ紙を3枚のせ、5%ヨウ化カリウム水溶液を染み込ませる。6V乾電池ホルダーにつないで、ステンレス板を陰極に、そして黒鉛棒を陽極にしてろ紙の上を動かすと、褐色の字が書ける。プラス・マイナスを逆にすると、今度は書いた字が消えていく。
  陽極の場合  2I- ―→ I2 + 2e-
       ( I2+ I- ―→ I3 - )
  陰極の場合  2e- + I2 ―→ 2I-
 水溶液を2%硫酸ナトリウムにフェノールフタレインを加えたものに代えると、きれいな赤色の字が書ける。このときは始めに黒鉛棒を陰極にする。
  陰極の場合  2e- + 2H2O ―→ H2 + 2OH-
                      (塩基性)
  陽極の場合  2H2O ―→ O2 + 4H+ + 4e-
                  (酸性)

12.原子力教材(林まさ)
 原子力問題を化学の授業に取り入れたいと考えていた。授業プリント作っていく中で、「遷移元素の単体と化合物」の章に
    4.放射性同位体
    5.原子力発電
という形で作ってみた。
 同位体は混乱しやすいので入門期には扱わずここに持ってくる。放射線には中性子線を加える。核反応もすこし紹介する。そして光の部分としてトレーサーと年代測定を、陰の部分として放射線被害についてを教える。
 原子力発電では、ウランの核分裂とそのエネルギー、連鎖反応と臨界の意味を説明する。そして軽水炉でその仕組みを教え、ウラン濃縮の化学的過程とガス拡散法を説明する。つづいて事故例とその問題点、それに使用済み核燃料の再処理の現状などを示し、最後に「私たちは原子力発電をどのように考えたらよいか」と問いかける。
 被爆線量の説明は、以上を3時間でこなすという制約のなかで省くことにした。また「はかるくん」などを借りて計測をする場合は、放射線に馴染んでしまって問題点から目が逸れてしまわないように注意が必要である。
 ほかに、今年の科教協大会(千葉)で発表したレポート「酸化・還元の授業」を、その資料と共に配布した。

    次回は
  1月27日(土) 13〜17時
      **高校  化学室