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満ち足りた家族
(A Normal Family)

監督:ホ・ジノ
ソル・ギョング、チャン・ドンゴン、キム・ヒエ、クローディア・キム
'2025韓国/日活、KDD/1h49
辛口度△2

「八月のクリスマス」「春の日は過ぎゆく」のホ・ジノの作品。私にとって「八月のクリスマス」は恋愛映画としてはベストワンの作品であり、この監督の演出は好きである。今回の作品は、内容が内容だけに愛するべき作品にはならなかったが、やはり、演出は上手い。それにしても」この内容は、自分自身の倫理観を問われる作風になっており、中々手ごわい。作品自体は、手堅い演出で、伏線回帰も上手く使われており、韓国映画が好みそうな内容である。出演陣も良く、倫理観が右往左往する辺りが面白い。この手の内容は、日本でもドラマなどで使われているように思うので、どこかで見たような内容だなという感はある。私にとっては、韓国の映画監督だと、「別れる決心」のパク・チャヌク、「殺人の追憶」のポン・ジュノ、そしてのこのホ・ジノが三大監督。一応新作が出た時にはチェックをしている。今回のこの作品、エンドタイトル出た後のカットも意味深なので見逃さないほうが良いと思う。このカット、写真撮影のリバースから正転し、兄に対してのカメラマンのコメント、中々憎い。

エイリアン ロムルス
(Alien: Romulus)

監督:フェデ・アルバレス
ケイリー・スピニー、デビット・ジョンソン
'2024米/ディズニー/1h59

辛口度△1

監督のフェデ・アルバレスは、「蜘蛛の巣を払う女」を見て、うまい監督だなあという印象があった。「ドント・ブリーズ」は未見だが、多分面白いのだろう。今作は、「エリアン」へのオマージュが満載で、「プロメテウス」「コヴァナント」の関連性も回収されており、今までの疑問の多くが回収というか筋道だって作られている。いかにこの作品を見ると「エイリアン」という作品が偉大な傑作だったことを再認識させる。 さて、この監督にしては、今一つ怖さ不気味さが伝わってこなかった。ストーリー展開はかなり面白く、飽きさせない展開だが、どうもしっくりこない部分がある。もっと、上手くできたのではないかということである。多分、編集と音の使い方かな?とも思う。そして、この位のストーリー展開なら、もっと長尺でもよいのでじっくり描けたのではないかなと思う。残念である。それにしても、ふんだんにちりばめられた「エイリアン」へのオマージュ。最も驚いたのは、イアン・ホルムが登場したことだ。本作ではルーク役、「エイリアン」ではアッシュ役。この方すでに亡くなっているので、CGだろう。フェイスハガー、ゼノモーフも初期タイプと思えるし、寄生してお腹を破って出てくるシーン、背後からゼノモーフが登場したり、人々を餌として捕獲していたり、強酸の血液が船体を溶かす、妊娠しているケイが寝そべっている格子となった床を間にして逃げるシーン、レインが肌着でポットに入るシーン、ラスボス対決で肌着のケインが宇宙服を着るシーン等、シガニーウィバー張りである。そしてラスボスを宇宙空間に放り出すラストはまさにエイリアン。小惑星に衝突する時限も、「エイリアン」同様自爆までの時限展開。エレベータを駆使する辺り、宇宙空間ではあるが宇宙船と宇宙ステーションを結び付けて行き来する辺りは「エイリアン2」だし、とにかく「エイリアン」シリーズのファンには堪らない。間違いなく次作はあるだろうが、いい加減、あまり前後せず、分かりやすい展開でお願いしたい。そういう意味では本作は新たなシリーズとしての可能性を示している。でもなあ、もう少しゼノモーフ出しても良かったかも?

マッドマックス フュリオサ
(Furiosa: A Mad Max Saga)

監督:ジョージ・ミラー
'2024米/ワーナーブラザース/2h28
アニヤ・テイラー=ジョイ、クリス・ヘムズワース
辛口度△3

「マッドマックス 怒りのデスロード」の前日譚。科の作品ではフュリオサはシャーリーズ・セロンが演じていたが、個人的には彼女の最高傑作だと思っている。そのフュリオサの生い立ちを描いているのだから、期待せずにはいられない。物語の展開はさておき、期待にそぐわない出来栄え。2時間28分を一気に見せる。目を離せない映画とはよく言われるが、この作品はまさにそうで、一瞬たりとも目が離せないアクションシーンの連続。撮影にはかなりの時間を費やしているに違いないが、それを感じさせない画面作り。前作で度肝を抜かれたアクションシーンだが、今回もどうやって撮っているのだろうと思わせるシーンが満載だ。しかも章を区切っての展開でその各々に見せ場を散りばめている。見事としか言い表せない。今回は前作よりVFXを使っているように思えるが、ほぼ本物のアクションシーンで、リアル感が高い。主演のアニヤ、適役のクリスが妙に敵対しているのに、していないような、むしろ互いを理解しているような気にさえなる。そして、残酷で奇異な結末。見る人によっては不快感を味わうかもしれないが、「コックと泥棒、その妻と愛人」のピーター・グリーナウェイを連想させる。いずれにしても、怒涛のアクションシーンはまさに芸術の域で、また新たな傑作を生みだしている。残念ながら、前作のような感慨深さまでは行かなったけど、次があるならぜひ見てみたい。

ゴジラ−1.0

監督:山崎貴
'2023日/東宝/2h05
神木隆之介、浜辺美波、安藤サクラ
辛口度△0

日本版ゴジラとしては、「シン・ゴジラ」と同系列か。期待しすぎた感があり、今一つの印象がぬぐえない。ドラマ部分は「らんまん」の神木がやたら暗いバージョン。ドラマ部分とゴジラの部分が相まってこのシリーズは成り立つのだが、「シン・ゴジラ」がひど過ぎたので、まだ、こちらの方がやりたいことは分かる。でもなあ、ゴジラの動きがあまり良くないのは、あえてなのだろうが(シン・ゴジラも同様)、もう少し動きに滑らかさがあってもよいような。マイナスになる意味も戦後の日本が舞台だから、特攻との兼ね合いも内容的には難しい部分がある。これは、日本人だけが感じるもので、海外には今一つこの内容の意味が分からないのでは?ゴジラに敬礼する辺りも意味不明。今回のゴジラは一方的に悪いのだ。人間が生み出した化け物であることなどの説明は一切なし。これはこれで良いが、ならばもう少し人間ドラマの部分も思い切って切り刻んでも良かったかも。東京を壊滅させる描写は「シン・ゴジラ」とどっこいどっこい。う~ん、ちょっと、期待していたものと違ったので、コメントも中途半端になる。もっと、ワクワク感があっても良いように思うなあ。次回は、誰がゴジラを撮るのだろうか?

BAD LANDS バッド・ランズ

監督:原田眞人
'2023日/東映、ソニー・ピクチャーズエンタテインメント/2h23
安藤サクラ、山田亮介、生瀬勝久、サリngROCK
辛口度△5

文句なしの原田眞人節。「ヘルドッグス」に続き、快心の面白さ。冒頭からのカメラ割やワークには思わずにんまり。「タフ」のあの興奮が蘇る。毎回思うが、原田監督のカメラ割はハリウッドの影響を大きく受けていて、この真似は最近の若手監督も出来ていないように思う。原田監督のような感性を真似できるような若手の登場を期待しているのだが。安藤サクラは上手いし、良い。実は今回アクションシーンを期待したのだが、それは無。ストーリー展開と演技、演出で引っ張る。所々、無理な部分や突っ込みどころはあるが、そんなことは気にしない。良いよなあ、こういったキャストとスタッフでこのような映画を作ることができるのだから。原田監督はこの路線をしばらくやるのだろうか?大分年齢的にも高齢になったが、この感性をもっと見てみたいと思わせる。安藤サクラとの出会いというか、安藤サクラ自体が素晴らしいのだが、このようなキャスティングをもっと続けて、新たな日本映画の傑作を残していってほしい。

ミッション:インポッシブル デッドレコニング PART ONE
(Mission: Impossible - Dead Reckoning Part One)

監督:クリストファー・マッカリー
'2023米/東和/2h44
トム・クルーズ、ヘイリー・アトウェル、スティッケルビング・レイムス、ダンサイモン・ペッグ、レベッカ・ファーガソン
辛口度△3

当たり前だが、トム・クルーズが作りたい映画を作ったのだから、トム・クルーズは最高にかっこ良いし、脇を固める共演者たちも魅力的だ。久しぶりにアクションシーンの連続に興奮を覚えた。まぎれもない娯楽作品。演出も手堅く、どこかクリストファー・ノーランぽさもあるが、やはり、そこは底抜けのアクション映画。あまり、上質さを求めても仕方がない。それにしても、前半のアクションシーンの連続と展開の速さには興奮させられる。人間ドラマとしても、これまた、トムがやりたい設定なのだろうな?今後の展開に期待をするが、2年位先なのか?走るトムはもう還暦。それでも走り続けるのだろうな。脇を固める女性陣の魅力にも感心させられる。自分が好きなようにやりたい放題できるということは映画自体も自ずと高みに行かせることになるのだろうか。

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス

監督:ダニエル・クワン ダニエル・シャイナート
'2022米/ギャガ/2h19
ミシェル・ヨー、キー・ホイ・クァン
辛口度△3

中々の傑作ではある。ただねえ、下ネタと少し視覚的に耐えかねない部分は減点で好みではなかった。なので、見返すことはないように思う。しかし、家族再生の物語をかくもマルチバースという背景を使いながら、しかも限られた空間(事務所内、店舗内等)で積み上げていく脚本と手法には舌を巻く。そして、単純ストレートなテーマ性。家族の愛をこのように複雑な画面展開で見せきるという製作者の勇気もすごいが。これは、A24が製作しているということなのだろう。A24は、「ルーム」「エクス・マキナ」「レディ・バード「ミッドサマー」等いずれも癖のある作品ばかりである。正直愛される作品がラインナップされているとは私にとっては言い難い。ただ、このような新たな映画の可能性を生み出していくということは、やはり、ニュースなのだろう。ミシェル・ヨーの存在感、グーニーズのキー・ホイ・クァンの何ともアンバランスな演技と存在感が心憎い。

別れる決心

監督:パク・チャヌク
'2022韓/ハピネットファントム・スタジオ/2h18
パク・ヘイル、タン・ウェイ
辛口度△4

「オールド・ボーイ」「お嬢さん」のパク・チャヌク監督。期待せずにはいられなかった。私としては、彼の作品では、やはり今でも「JSA」の衝撃が忘れられない。この作品で、 ソン・ガンホ、イ・ビョンホン、イ・ヨンエの存在も知った。「オールド・ボーイ」のこの上ない後味の悪さ「お嬢さん」のとてつもないエロティシズムの洪水。そして、この作品は、今までのどの作品にも属さないが、間違いなく彼の作品だった。長すぎる、難しい、期待外れ等、酷評も多いが、私は好意的にこの作品を受け入れた。ストーリーとして消化しきれない、不明な部分も残ったが、そういった面も含め、この作品の魅力になっているように思う。正直それほど、エロティックには思えなかった。もちろん、直接的な性的な描写がほとんどないことにもよるが、むしろ、この主人公二人の切ない想いが画面、演技、音楽、撮影にうまく出ていたように思う。エンディングでの風景もしかり。感情をうまく描写したカメラも秀逸だった。長い映画ではあるが、ストーリー展開も中々奇抜で、伏線も多く、むしろ飽きることがなかった。孔子の言葉を引用した巧みな二部構成、「賢い者は水を好み、慈悲深い者は山を好む」前半の山と後半の海。様々な要素が山と海に凝縮されていく。そして、主人公二人の前半と後半の反転。スマートウォッチに録音するのが逆転する部分も凄い。ラスト、海に昇華されていく描写の妙味。見事である。音楽もマーラー辺りを使うのがありきたりとも思えるが、やはり、効果を盛り上げる。二人の表情と距離感が何とも哀愁を誘う。秀作だと思う。

ヘルドッグス

監督:原田眞人
'2022日/東映、ソニー・ピクチャーズエンタテインメント/2h18
岡田准一、坂口健太郎、松岡茉優、MIYAVI
辛口度△5

圧倒的面白さ!今年NO1.原田眞人が戻ってきた。本当に久しぶりに面白いと思える映画を見ることができた。原田眞人監督は、「タフ」「金融腐蝕列島〔呪縛〕」のあの興奮が蘇る。引きと寄りのカメラも健在。セリフも自然さを役者に要求するあまり、今回はかなりセリフが聞き取りづらいが、全体の流れはつかめるし、中盤からの怒涛の展開には舌を巻く。ハリウッドを意識した演出は健在。カメラワークは、最近のカメラの性能を活かしながらもしっかりとフレーム全体を使い迫力を出している。キアヌ・リーヴスの「ジョンウィック」シリーズのアクションに匹敵する。それも岡田准一のアクションがあってこそだが。岡田が作るアクションシーンは実に奇麗だし、本物だけに変な違和感がない。さらに、他の監督、例えば白石和彌監督や三池崇史監督が作るアクションシーンのような汚さはあまり感じない。北野武監督の暴力の美学とも違う。程よさがある。だから、暴力映画が不得意な方でももしかしたら、見続けることができるかもしれない。岡田との原田監督の最近の歴史物シリーズは、それはそれで一つのテーマなのだろうが、やはり、この監督はアクションを含んだエンターテインメントが似合う。この監督今年で73歳だが、ハリウッドで学んだ感覚は衰えていないし、そういったハリウッドの感覚を初めて持ち込んだように私は思っている。オリジナルドラマの木村一八の「タフ」シリーズのカメラワークには本当に驚いたのを今でも鮮明に覚えている。そして、「金融腐蝕列島〔呪縛〕」のエンターテインメントの高さ。今回の岡田准一とのコンビでは最高作品だろう。というか、全く新しい違う傑作となっている。それにしても岡田のアクションの質の高さ、そして今回はそれをとりまく俳優陣のアクションも岡田の演出でリアル感が高い。怒涛のクライマックスのアクション、そしてエンディングも良い。とにかく、当分出ないであろう傑作の誕生に久しぶりに興奮が止まない。

リコリス・ピザ
(Licorice Pizza)

監督:ポール・トーマス・アンダーソン
'2021米/ビターズ・エンド、パルコ/2h14
アラナ・ハイム、クーパー・ホフマン、ショーン・ペン、トム・ウェイツ、ブラッドリー・クーパー
辛口度△5

「マグノリア」「ゼア・ウィルビー・ブラッド」のポール・トーマス・アンダーソン=PTAの青春映画。1970年代を舞台に二人の青春が描かれる。主演は、故フィリップ・シーモア・ホフマンの息子クーパー・ホフマンと、良く知らなかったが、サンフェルナンド・バレー出身の3人姉妹バンド「HAIM(ハイム)」のアラナ・ハイム。この二人、決して視覚的には美男美女とは言い難いため、好き嫌い、感情移入ができない可能性があり、実際そういったレビューも多い。私としては、フィリップ・シーモア・ホフマンの息子というだけで驚きだったし、アラナ・ハイムもユダヤ人と分かるとそんなものかとも思え、後半の二人は愛おしささえ感じる。実はこの作品は、PTAの実体験や知り合いの実話がベースのため、プロット自体が意外と自然に思える。二人の感情の行き違いなんかも極端に脚色されていないため、面白みに欠けると感じるかもしれないが、私にとっては、いたって自然だし、逆にトラックの逆走シーンやショーン・ペンが出てくる辺りは、ダイナミックで正直驚いた。そして、タランティーノの「ワンスアポンナタイム・イン・ハリウッド」を思い出した。 さすがに、PTAらしい癖の強い作品ではあるが、70年代を感じさせる映像の色、音楽は素敵だし、見ていて、PTAらしさが感じされ楽しかった。この時代背景時には、私はまだこの年齢には達していなかったが、十分にこの時代を感じることが出来た。PTAは、「ブギーナイツ」からこの路線は一緒だし、正直「ザ・マスター」「ファントム・スレッド」よりは、こちらが好み。残念ながら、「マグノリア」には到達していないけどね。でも、何とも言えない、楽しさと幸せを感じられる作品であった。二人の疾走シーンは、何度が繰り返されるが、その疾走感と躍動感そのものが、この映画が描きたかった部分だと思うし、この時代を象徴しているように思えた。もっともっと、この映画を自分自身掘り下げて考えたいような作品となった。

トップガン マーヴェリック
(Top Gun: Maverick)

監督:ジョセフ・コジンスキー
'2022米/G/2h11
トム・クルーズ、ジェニファ・ーコネリー
辛口度△3

一作目が36年前の1986年公開。当時の年齢が例えば30歳だとすると、既に66歳は超えている。私は当時20歳代だったので既に50歳以上ということになる。平日の日中の映画館、かつてない風景が。おじいちゃん、おばあちゃんが多数。一体ここはどこ?といった感じ。つまり、多くの70歳代以降の人が居たのだ。当時40歳代であれば十分に納得いく年齢層だ。
ところで、一作目をリアルタイムで見た私は、今回の作品を見てから、改めて一作目を見直した。当然ながら、演出の映像のすごさも比較しても意味がないほど、今作は進化している。実写に変わりはないが、やはり30年以上の経過は意味を持つ。しかし、すごい面白さだ。映像と音響のすごさもあるが、全く飽きさせない。クライマックスの映像と演出には度肝を抜かれる。近頃のVFXばかりの映像にこれでもかといったリアル感を与える。トム・クルーズの化け物振りは相変わらず。この方、59歳だぞ!ジェニファー・コネリーも懐かしく、若い頃の彼女を思い出すし、メグ・ライアンが回想シーンで出てくるのも感慨深い。この作品、リドリー・スコットの兄トニー・スコットの傑作の続編。エンドクレジットで彼に捧げると記す。トゥルー・ロマンスという傑作を残した彼。最後は不憫な亡くなり方をしたようだ。娯楽作品に徹する所は、リドリーとは違う路線だったが、職人芸だった。今回の作品の監督も中々。余分な部分をそぎ落とし、アクションと歯の浮くようなロマンス仕立て。これはこれで良しなのだ。

浜の朝日の嘘つきどもと

監督:タナダユキ
'2021日/ポニーキャニオン/1h56
高畑充希、大久保佳代子、柳家喬太郎
辛口度△3

いきなり、シネマスコープサイズに驚かされる。このジャンルの作品は、ビスタサイズが多い。しかもこの作品の後日談、逆に言えば、この作品がテレビ版の前日談なのだが。 実は、私はこの映画館と共に育ったと言って良い。特に中学校から高校生にかけて映画はこの映画館で見てきた。この作品に出てくる切符を販売する場所は、今でもはっきり覚えているし、映画館自体どの場所を取ってもすぐ目に浮かぶ位だ。南相馬市原町区、合併前は、原町市。5万人の市にしては、実はこの映画館の存在は凄い。エルマンノ・オルミ監督のカンヌ映画祭グランプリ作品「木靴の樹」をご存じだろうか。1978年のイタリア映画で確か公開は岩波ホールだったと思う。通常は地方には出回らない言わばミニシアター系の貴重な作品である。それを朝日座は公開した。当時の支配人の布川さんの尽力だ。その公開に当時高校生だった私はいたく感謝と感動をした。この作品3時間を超える作品だが、2回見に行った。当時、ぜひこの作品が見たいとお願いした記憶があるが、私の働きでそうなったかどうか記憶は定かではない。私が初めて見た洋画はスピルバーグの「ジョーズ」だった。確か同時上映は「ザ・ ディープ」だったような。この作品でも出てくるが、当時は、ロードショーと言っても、地方では二本立てが普通で、例えば朝日座で覚えているのは、「カサンドラ・クロス」「ラストコンサート」とか、高校生も後半になると、一本立てに移行していったかもしれない。いずれ、見たい作品が二本一緒となるケースが多々あった。古き良き時代なのである。そんなわけで、私にとっての映画の原点ともいえる映画館を舞台に描いたこの作品。そのような思い出とは別のところで、作品は成就している。東日本大震災を背景に、普通の人々の普通の日常と普通であるが本人たちに取っての人生そのもの。映画を見る時、一時でも通常の日常から離れることができる場所。映画に対する思い、それを提供する映画館を通しての人々の息づかい。実に心地よい良い空間をしかもシネマスコープで見せるあたりが朝日座に対する敬愛の念か。

ゴジラVSコング
(Godzilla vs. Kong)

監督:アダム・ウィンガード
'2021米/G/1h56
小栗旬
辛口度0

「ハリウッド版「ゴジラ」シリーズの「GODZILLA ゴジラ」(2014)、「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」(19)と、「キングコング:髑髏島の巨神」(17)をクロスオーバーして描く「モンスターバース」シリーズの第4作。単純に突っ込みどころ満載の薄い展開の中に、これぞと見せる二大怪獣のバトルは見もの。良くも悪くも楽しめる作品になっている。私としては、「キングコング:髑髏島の巨神」がお気に入りで、次の作品のキングオブモンスターズでがっかりしたのだが、今作は、二大怪獣のバトルで見せている点でまあ、楽しめた。香港の摩天楼を島の木々や岩に見立て木っ端みじんに破壊していく辺りはいろいろと意味を感じざるを得ないが、そこは、アメリカ映画なので、、、。 今作は、ゴジラ、コング共に顔のアップが多かった。ラスト近くのゴジラがコングに背を向け立ち去るカットは、かなりカッコよい。 日本でのゴジラシリーズも当然、ドラマ部分の展開があり、それが前半にあることで中盤からのゴジラが出てくる辺りにわくわく感をうまく持たせていた。子供ながらも、そういったドラマの展開が妙に気に入っていた。できるだけ単純な方が余計に中盤からも盛り上がりを引き立てる。今作も小栗旬の設定等、がっかりする点もあるが、地球空洞説のビジュアル化なんかは、好感をもって見てた。う~ん、こういった考察自体が無意味なんだけどなあ。ゴジラの顔のアップがやたらと印象に残るシリーズ4作目であった。

TENET テネット
(Tenet)

監督:クリストファー・ノーラン '2020米/ワーナーブロス/2h30
ジョン・デビット・ワシントン、ロバート・パティンソン、エリザベス・デビッキ
辛口度△3

「クリストファー・ノーラン期待の新作は、ダンケルクを超える出来栄えと興奮を覚えるものとなった。難解な展開はともかく、相変わらずの切れのあるアクションシーンと音の使い方が上手く飽きさせない。過去の作品でも魅力ある女優の使い方が上手く、今回は、身長190センチメートルのエリザベス・デビッキ。登場したすらりとしたスタイルを見るだけで、この女優ちょっと違うぞ、といった感じ。その印象が最後まで続くのだが、ノーランの女性に対する描き方は少し癖がある。今回も夫を殺害?するといったことをある意味さらりと描く。「ダークナイトライジング」では、マリオン・コテイヤール、敵対するバットマンとベッドインする。ノーラン作品では、他に、「インセプション」のエレン・ペイジ、「ダークナイト・ライジング」「インターステラー」のアン・ハサウェイ、他にジェシカ・チャステイン、ケイティ・ホームズ、ヒラリー・スワンクなど名だたる女優が名を連ねる。今回の作品は、時間の逆行を使っているので、より複雑に展開するが、あまり内容を追いかけなくても十分に楽しめる。彼の作品は、VFXを出来るだけ使わないので、ジャンボジェット機も本物を使うし、しかも今回はあまり派手に演出しないので、逆に本物っぽさが出る。ただなあ、最後の見せ場のシークウェンスは、もう少し分かりやすくても良かったかなあ。「ダンケルク」は、敵が一切出てこないし、これはこれで辛かった。なので、「ダンケルク」は私にとってはかなり酷評でレビューも書いていない。いずれ今回の作品、ノーランらしさが戻った感じがして良かったし、私としては、ハードボイルドとして見た。名もなき主人公自体がそうだし、親子を最後救うあたりもそう。名もなき主人公と相棒の関係もそんな感じ。そう思うと、この作品、中々良いぞ。

パラサイト 半地下の家族
(Parasite)

監督:ポン・ジュノ
'2019韓/ビターズ・エンド/2h12
ソン・ガンホ
辛口度2

「殺人の追憶」「グエムル 漢江の怪物」のポン・ジュノ監督が、カンヌ映画祭のパルムドールをとった作品となれば、期待せずにはいられない。ましてや、評価が高いとの評判も多いとなればなおさらだ。さて、その真価は? 正直、期待しすぎた。確かにポン・ジュノ監督のテイストもあり、楽しめたには楽しめたが、心に残る作品とまでは至っていない。やはり、「殺人の追憶」を超えることはできないのだ。「半地下」に込められたテーマは、わかりやすく、今時、この格差社会って韓国の現実なの?と思いたいが、予想外の展開や唐突的なシークエンスは好みではある。ラストのクライマックスは、「グエムル」を彷彿させるものだし、ソン・ガンホの存在は彼の作品にはなくては、ならないものだ。他の役者人もそれぞれに個性が光っていた。 ただね、何かが物足りない。比較してはいけないのかもしれないが、パク・チャヌク監督の「オールド・ボーイ」のようなショックがないのだ。それにしても、この手の作品が大ヒットするというのも面白い現象。この手の作品は、初めて見る者にとっては、はまる人、このテイストになじまない人と別れるところ。かくいう私は、この監督の作品を見てきただけに、さらにこの手の韓国作品を知っているだけに、複雑だ。

スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け
(Star Wars: The Rise of Skywalker)

監督:J・J・エイブラムス
'2019米/ディズニー/2h22
デイジー・リドリー、ジョン・ボヤーガ、アダム・ドライバー、マーク・ハミル、キャリー・フィッシャー ハリソン・フォード
辛口度0


レイの生い立ちが、今回の最大のキーワードであり、オチである。そのため、これから、見る方は、以下を読まない方が良いかもしれません。 どうも、今回のエピソード7~9も、前回の1~3に同じく暗いイメージ。明るさ感が保々無い。よって、ワクワク感も無い。これを良しとするかは、見る人の感覚だが、私は、やはりワクワク感が欲しいなあ。 リアルタイムでこのシリーズ全てを見てきているので、今回のエンディングのルークとレイア姫が出てくる辺りはぐっとくるものがある。今回で、このシリーズは終了になるかはどうか分からないが、終わりにしても良いように思う。アベンジャーズのような展開は、少し映画界自体を変えるものとなっているし。同系列の展開は望ましくない。レイ役のデイジー・リドリーは本当に頑張っている。演技もライトセーバーの扱いも上手い。ハリソン・フォードもビリー・デイ・ウィリアムズも出てきて、そしてパルパティーンも。この作品、賛否両論だそうだが、スターウォーズシリーズは、あまり批評にこだわる作品ではないように思う。好きなファンが居て、満足したりがっかりしたりと。そこも一つの楽しみのような。最初のタイトルは何回見てもそれこそ、ワクワクする。そういった意味で感慨深い作品となった。長い間、お疲れさまでした。

ジョーカー
(JOKER)

監督:トッド・フィリップス
'2019米/ワーナーブロス/2h02
ホアキン・フェニックス、ロバート・デ・ニーロ
辛口度△4

評価が高く、今年度の映画賞に間違いなくランクインする作品。アメコミながら、ベネチア国際映画祭金獅子賞受賞作品。 ここからは、ネタバレ注意。 様々な人が多くの詳細な批評と感想を述べていると思うので、私なりに徒然に。(いつもだが) エンディングで、牢獄(精神病院)の中でカウンセリングを受けていると、医師が話しなさいと言うが、ジョーカーは、「理解などできない」とつぶやく。このつぶやきは、自分のことを理解などできないと捉えられそうだが、私はむしろ、我々に問いかけているような。このような混沌とした世の中、自分のことを理解できるか?善悪の区分なんて分かるわけないだろう。と。つまり、現代は、それくらい病んでいるし、病んでいるかもしれない自分を確認すること自体無意味だと。この作品を見終わってから、自分が悪を肯定しているような気分になる。あるいはそう思えるとしても、それはいたって普通のこと。人生はコメディ。この映画もコメディ。暗くなる必要なんてない。だから、病院内を追い掛け回す、まるで、喜劇のワンシーンのようなシ-クウェンスで終わる。しかも、レトロなエンディングのロゴで。ジョーカー誕生は、現代の状況を作り出した縮図のようなもの。それをアメコミのバットマンのゴッサムシティで描き切る。スタイリッシュで刺激的なカメラ、大写しの多様もホアキンだから出来たこと。 ホアキンは、舌を出しているだろうな。監督も。これって、作り手のすごく気持ちの良い作品。どうだ、凄いだろうってね。ホアキンの演技、監督の架空の街ゴッサムシティと実際の街との区分がつかない、つけない融合の遊び。バットマンの誕生前のブルース・ウェインとの接触。面白い。デニーロが射殺されてのけぞるが、口を半開きにして死んでいる。デニーロは通常でも口が少し開いていて、そのまんまな事に少し笑えてしまう。これって狙っている、やっぱりコメディ?騙されてはいけない。あるいは、十分に騙されるべき?

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