21話「金沢、洋酒三昧」

『ちなみに、下記の出来事は20世紀終わり頃の話だと思います』 

先日、金沢全日空ホテルで土屋守先生の「スコッチ・モルト講演会」並びに

各メーカーの試飲会が行われた。わしも高岡の支部の面々と「雷鳥24号」に

乗って金沢に向かった。久々の汽車?と言うこともあって、ほんの隣の県にい

くぐらいなのに、なんか遠くに旅にでるみたいに「わくわく」してしまった。

 列車の中では、時代ですな、「モバイル」でインターネットを楽しんでいる若

いお父さんがいた。そのお父さんの隣にひょこっとかわゆい2才ぐらいの女の

子が座っていた。わしは最初、お父さんのことが気になっていたのだが、彼女

(かわいいかっこうしてたから、女の子だと思うが)と何度も目が合ってしま

った。子供って目が合っても、目を逸らさないのかなー。あんまり可愛いので

何度も見つめ返したら、しっかり答えてくれるではないか。ほんとは、金沢迄

は3.40分かかるので、車窓に流れる景色を眺めながら一時を過ごす予定だ

った。でも、結局彼女との一時の「見つめ合う恋」で、金沢に着いてしまった。

 小さな恋人に、未練を残しながら、我々は、ホテルの三階「鳳凰の間」に向か

った。三階の会場に着くと、二組の結婚式に遭遇する。片方が、大奥の御局さん

が着るような艶やかな金襴緞子(きんらんどんす)に高島田。もう一方は、洋風

何というのだろう、ようわからんが、とにかく純白のウエディングドレスだった。

支部の会員には年頃の娘さんもいて、うっとりした目つきで、新郎新婦を眺めて

おった(わしも、一瞬ではあるが、遠い昔の己の紋付き袴を思い出していた)。

 開演の2時に近づくと、富山、石川、福井の会員、そして一般の人達も徐々に

揃ってきて、待合室はタバコの煙でモウモウとする。そして、土屋さんの講演が

始まった。

 客席の回りを、各メーカーが軒(出店)を連ね、試飲会の為に待機していた。

まずは、金沢支部の支部長の挨拶があり、それに続いて土屋先生のお話が始まった。

 先生は、とても軽妙な話し方(ザ・ワイドの草野キャスターーを彷彿させる)で

最初は、スコットランドそして、モルトの概要を話して下さった。氏の著書によれば

氏は10年前に出版社の仕事の関係でスコットランドに滞在され、その時にモルトに

巡り会い、徐々に傾倒されたそうだ。もともとお酒は好きだったそうだが、要するに

モルトの魅力に「はまった」のだ。それに加え、現地での生活が長くなり更に拍車を

かけることになる。ちなみに、土屋氏は一見公家風の典雅な顔立ちのお方じゃ。

 さて、2時間という時間の制約があるにも関わらず、スライドを交えた、、まさに

「微に入り細を穿つ」そんな氏の話しぶりを聴きながら、いつしかわしの心は、スコッ

トランドに飛んでいた。そんな氏の絶妙な話の中で、一つ驚いたのは、「ブレンディド」

と「シングルモルト」の消費の対比である。てっきり「シングル」は相当数パーセントを

のばしていると思ったら、それはブレンディド93/シングル7という数字だった。

考えて見れば、モルトは稀少なものである。ブレンディドは無尽蔵は大袈裟だが、

相当の量は出来る。その点モルトは量が限られている、当然かもしれん。

 それから、もう一つ興味深かったのは、蒸留酒部門(どのような趣旨のものかは聞き漏

らしたが)、韓国の蒸留酒(今度調べておきます)が相当量消費されており、上位に食い

込み、意外やスコッチが7位ぐらいだった。更に驚きはインドにもウイスキーがあり、

人口の数にも影響していると思うが相当の量が消費されているとのことだった。結構健闘

しているものでは、ブラジルの「ピンガ」、ペルーの「ピスコ」等。

 その様な世界的なスピリッツの需要分布を踏まえてみると、モルトブームなんてことは

ほんの日本の片隅で密かに存在するかのように思える。しかし、書物には世界的なブーム

であるかのように述べているものも少なくない。実際のところはどうなのだろうか?

実際、日本ではモルトの在庫切れのお店もあると聞くのだが、それではコニャック

のような「ステータス」な酒にはほど遠いかも知れませんな、なにしろ量が足りません。

でも、だからこそ「ステータス」な酒になるのかも知れませんぞ・・・・

 さて、講師の土屋さんのお話が終わり、各輸入代理店の紹介に続いて、いよいよ試飲会

が始まった。わしはとりあえず「ジョニーウオーカー青」のあるコーナーに向かう。腐って

も鯛ではないが、我々の年代はやっぱり「ジョニーウオーカー」はステイタスなのだ。とに

かく青の味の確認をしてみた。さて、次はモルト。まずは土屋さんもマイケルジャクソン氏

も絶賛していた「バルヴェニー15年」、ふむふむ、とてもまろかや、でも量が多い。

メルシャンの方はサービスがいい。一応チェーサーで喉を潤し、更にチャレンジ。

人だかりが多いと思ったら「マッカラン」だ。それも25年に人が群がっている。

もちろんわしも25年をいただく。さて、次は「アイレイ」かと考えながら、はたと周りを

見回せば、驚いたことに、まだ若い今様なファションの女性達が、チューリップグラス

(スニフタータイプの)に鼻をつっこみ薫香を嗅ぎながら「ふむふむ」と頷き、したり顔で

味を確認しているではないか。彼女らはバー関係の人だろうか。最近は、ソムリエにも女性

の進出著しく(ソムリエールと言うらしい)バーテンダーの世界でも21世紀は女性の活躍

が期待される。それにしても、その女性達はとても「ナウイ」ファッショナブルな女性だ。

 さて、あんまり試飲ばかりやっていると本番の?夜の行動に支障をきたすので、とにかく

最後は「アードベック」の年数もので締めて、未練はあるが、ぐっと我慢した。

 ちなみに、その会場にはわしの「HP」を見てくれている女性も来ていたらしく、次の日に

メールが着ていて、二日酔いじゃなかったですかと心配して下さった。果敢にも、彼女は

アイレイ産に挑戦したそうな。一度わしの店に訪ねて来て欲しいですな。

 試飲会も終わり、各支部の人達も三々五々、金沢の街に散っていった。我が高岡支部も

タクシーでとりあえず北欧料理の「ピルゼン」に向かう。しかし、無情にも定休日、仕方

なく近くにあった「ライオン」のビアーホールに向かった。ビアホールに入るやいなや

みんなは飲むは食べるは凄い食欲。わしは次の店のことも考えほどほどの量を腹に収め

ホットコーヒーをもらう。さすがみんなからは、顰蹙(ひんしゅく)もんだった。しかし、

わしには心に決めたことがあった。今夜訪ねるお店では「ストレート」か「マーティニ」

しか注文しないつもりだった。わしは心の中でほくそ笑んだ。勝負はもう始まっている。

 さあー、バーにくりだすことになった。とにかく支部関係のマスターの店と言うことで

最初は「バー**ー*」へ。そこでの注文は「オールド・グランド・ダッド」の114の

ストレート。しかし、会員同士が久しぶりに逢ったと言うことも相まって、静かに酒をく

み交わすとは、ならなかった。これは当然なことで、仕方がないだろう。次のお店では

「ブッシュミルズ・モルト」をストレート。次の店では「J・W・ダント」のストレート、更に

次の店が「マーティニ」オリーブはカクテルピンに三個付き(店のマスターに団子三兄妹

みたいですねと、笑われる)、その後、みんなに悪いが、どうしても行きたいお店があっ

たので、そこでみんなと一時の間別れる。そして、4階にある「エスト・**」へ。

その店には7.8年ぶりなのだが、マスターが老眼鏡を首に吊っている他はほとんど

雰囲気は変わっておらず、大理石のカウンターも健在だ。ちょっとバーぽくはないのだが

マスターのモルト好きは変わらないと思う。案の定「モルトの臭いのを」と注文すると

今まで見たことのない様な「アードベック」をバカラのグラスに注いでくれた。

”口腔に広がる、ふくよかな香り、そして余韻は、アイレイモルト自身によるのは

論を待たないが、しかし、この空間を漂う心地よい雰囲気が加味され、今宵の極上

の酩酊感を与えてくれる。(なんてね)”「う〜ん、香りもいいし、微かな甘さも

ある」臭いばっかりかと思っていたが、こりゃきっと店の雰囲気もあるのだろう。

ただ、そんなに頻繁にこれる店ではないが、年に2.3回は訪ねたいものだ。

 その帰り、まだ時間があったので、ひょっとしてみんな居るかなと訪ねた店に

案の定みんなフラフラながらどうにかカウンターにへばりついていた。「や、まだ

いたの」って言うと、もう少しで「雷鳥」で帰るとのこと、とにかくわしは最後の

「マーティニ」を注文した。その時、講師の土屋さんがご来店。みんな「わっと」

先生の方へ飛んでいった(サインでももらいに行ったのかな)。しかし、わし一人

は、最後の「マーティニ」の締めくくりに余念がなかった。

ちなみに、「二日酔い」と言うことはなかった(ほんとうです)。

「今日の言葉」

☆この世に生まれてきた限り、人間はそれぞれの個性と才能に恵まれている

のであって、自分の独自性を信じずに、職がなんであろうと、その人間の

人生などありはしない。(石原慎太郎)

☆生きると言うことそれ自体が、絶えず何かの抵抗を求めることである。

        (吉田健一)

☆「高く心を悟りて俗に帰るべし」

 現実は俗ではあるが、その俗の中にこそ人間性の真実が隠されている。

        (芭蕉)