15話・番外編「生命(いのち)の水」

 昨今の「ワインブーム」に触れたいのじゃが、ブームと言うより、もう

定着したと言っていいのかな。ワインに関しては門外漢なので、付け焼き刃的な

軽はずみな意見は憚らなくてはいけないが、一応、酒の世界に生きている人間に

とって、気にならないはずがないわけで、密かにその動向を傍観しているというの

が本当のところだろう。そんな気持ちを察してかどうかはしらんのだが、うちの

お客さんが、江川卓氏の著作、「夢ワイン」を貸して下さった。まだ読んだところ

なので、感想はまだ言えんが、プロローグを読んだだけでも、氏が「はまったな」

と言うことは十分伝わってくる。その「はまった」もう片方が、川島なお美さんだ。

ドラマでワインを飲んだのをきっかけに、「シャトーマルゴー」の大ファンになり、

そのあと休暇を取って、わざわざマルゴー村の畑まで出かけていったというのだから

半端じゃない。とにかく、マルゴーを飲んで、「ほんとに死んでもいいと思った」

そうだが、江川氏にしても「五十歩百歩」であろう(氏は、1996名誉ソムリエに)。

 さて、海外の有名人の中にも、二人同様、熱狂的なワイン(マルゴー)ファンがいる。

「武器よさらば」「誰がために鐘は鳴る」などの作者で、ノーベル文学賞受賞者、アメ

リカの作家、アーネスト・ヘミングウエイだ。彼の場合は、シャトーを見学に行ったばか

りか、頼み込んで数日間滞在。そして、ヴィンテージもののマルゴーを毎日、何本も空

にしたそうだ。しかも、孫娘が生まれると、名前をマルゴーと名付けたというから驚き

ではないか。その孫娘は有名な女優になったそうだ(残念だが、若くして逝去)。

 ワインに関しては、初心者のわしでも話題がつきないのだが、そろそろ本題に入ると

しよう。さて、そのワイン・・ヨーロッパでは13世紀、アラビアから伝わった錬金術

で蒸留していたそうな。そして、その頃の人々は、その液体を「燃える水」と呼んでいた。

その生産は微々たるものだったが、14世紀にはいるとこの「燃える水」は、突如として

大量の需要を見ることになる。それは、皆さんもよくご存知の、あの「ペスト」黒死病

とも言うのだが、その病気の大流行とともに、濃いアルコールが薬として有効であると、

まことしやかに流布され、そのことにより、ワインを蒸留した高いアルコール濃度は

「オウドヴィ」すなわち「生命の水」と呼ばれるようになったんじゃ。

 そして、もう一つ、わしの「うんちくしよう」の掲示板で常連である「rera」さんが(この方は、6年前ほどに、自転車に乗って私のお店に来られました。今ではとても懐かしい方です。その後、HPは削除されていました)

話題にされた「アクアビット」、スカンジナビアで造られる蒸留酒。穀物あるいは馬鈴薯

を原料として精製されて、それに「ういきょう」の実を加えて、芳香あるものにしてある。

アクアビットはまたの名を「シナップス」とも呼ばれ、有名なスカンジナビア料理の前菜

(約50種類もあるという)と共に、冷やして飲むのが昔からの習慣であるという。

 そもそも、この「アクアビット」、ラテン語で「生命(いのち)の水」を意味する。

13世紀、イタリアでぶどう酒から造った最初の酒も、アクアビットであると言われておる。

スウェーデンのストックホルムにおいて、最初にアクアビットの販売を許されたのは1498

年。その当時、それはワインを蒸留して造られていたらしいのだが、必要なぶどうは自国で

穫れないので、海外から輸入していたため大変高価であったという。やがて穀物から製造

する技術を覚え、最も安い馬鈴薯から造るようになったのは18世紀になってからである。

現在、スウェーデンには約20のアクアビットの工場があるそうだが、OP・アンダーソン

がよく知られている。だいたい、キャラウエイの種、アニスやういきょうの実で香りをつけ

ている。また、デンマークでは「シュナップス」と呼ばれて、国民に愛飲されているそうな。

参考文献・東京堂出版「酒の事典」、外池良三著

次回番外編は、昨今の「ワイン事情」