61話「海幸彦・山幸彦」

60話「木花咲耶姫」

 アマテラスの孫ニニギノミコトは、日向国(ひむかにくに・宮崎県)に降りて、まもなく一人の美しい娘に出会う。名をたずねれば、「オオヤマツミノカミの娘で木花咲耶姫(このはなさくやひめ)」と答えが返ってきた。喜んだニニギはせっかちにも彼女の父に姫を妻にしたいと申し込んだ。

 高貴な若者に娘をくれと言われた娘の父は、喜び勇みさっそく多くの贈り物を用意し、木花咲耶姫ばかりでなく、彼女の姉のイクナガ姫までをもニニギのもとへ送ったのだ。

 ところがニニギは、姉の容姿に不満があったのか、即座に彼女を父の元へ送り返してしまった。そして、妹姫だけを妻とした。

 すると父であるオオヤマツミノカミは、ため息混じりにこう言った・・・。

 「姉娘も妻にすれば大王(おおきみ)の命は岩のように永くなったでしょうに、妹娘を妻とした大王の命は、樹々に咲く花のようにはかないものになりましょうぞ」(ちなみに、日本書紀では送り返された姉姫が直接ニニギに対して恨み、呪いの言葉をぶっつけている)。

 さて、ニニギと一夜をともにした木花咲耶姫は、あっというまに子を宿した。二人の愛の結晶なのに、ニニギは彼女を疑い、その子は自分と出会う前につくった「国神(くにつかみ・天孫に対抗する元々わが国にいた人々)の子ではないか、とまるで市井の俗人の男のようなデリカシーのない疑いを持つのだった。

 あったまに来た姫は、それならそれでいいと、出産したあと産屋(うぶや)に火を放ち、ニニギに対して女の意地を見せるのだ。

 「天孫の子なら無事でしょう。国神の子なら罰を受けて焼け死ぬでしょう」、とそう言い放ち、遂に火中で無事三人の子を出産する。

 さて、いつになったら一代目神武天皇にたどりつくのかと、やきもきするところだが、もう少しなのでしばらく我慢していただきたい。今しばらく待てば大和朝廷にたどりつくだろうと思うのだけど??

[その61でーす] /welcome:

61話「海幸彦・山幸彦」

 ニニギノミコトの疑いを晴らすため、コノハナサクヤビメは戸口のない家を造り、粘土ですっかり隙間を塗り塞いで、さらに火をつけて出産した。火が赤々と燃える中から三人の男子が誕生した(阿刀田高著・楽しい古事記より)。

 さて、その三人の息子はその後どうなったのか?日本書紀の史料のくだりには混乱を見て取ることが出来る。出生の順序、名前がバラバラでどうにもすっきりしないものがある。まあ、とにかく、二人の息子に関してははっきりしている。

 一人はホデリノミコトで「海幸彦」、もう一人がオホリノミコトの「山幸彦」だ。巷間によく知られている山幸海幸の有名な寓話だ。皆さんも先刻ご存じだと思うので詳細は割愛するが、あらすじを言えば、兄の海幸彦が、おれの貸した釣り針をどうするんだと無理難題を山幸彦に突き付けて、結局見つからないので山幸彦がついに海にまで探しに行くと言うお話。

 その途中、海神のトヨタマビメに山幸彦がみそめられて、三年間海の宮殿で暮らすことになる。結論を行ってしまえば、山幸彦は、大和朝廷の先祖となり、兄の海幸彦の子孫は朝廷を守る隼人(はやと)になる。

 ちなみに、山幸彦とトヨタマビメとの恋が気になるね。

 山幸彦(ホオリノミコト)は、三年間海の宮殿にいたのだが、さすがに倦怠を覚え、地上に帰ることになった(でも、これって浦島太郎に似ているよね)。その後、トヨタマビメは山幸彦の子を宿していることを知り、彼女も彼のもとへと地上に向かい、そこで山幸彦とひとつの約束事をした。

 「子を生むときは、女は本来の姿に帰って生むものです。だから絶対に覗かないでね。わたしの姿は見ないで欲しいの」、彼女はそう固く言うと産屋に隠れた。つづく