32話「日本人は思想したか」

「神話とは」

   ギリシアを知ることは欧米を知ることに通じると言われる。とりわけギリシア神話於いての後世への影響は計り知れないものがある。とにかく、欧米を知るにはギリシア神話の知識無しでは理解できないとさえ言われている。それでは神話の寓意性とは、我々にいかなるものを与えてくれるのだろうか?

 そんな折柄、それについての納得いく文面に出くわしたので引用させていただくことにした。

 「神話前置き」

 人類は文明に達する前には、何か漠然とした感情を抱きがちである。こういう力の信仰とそれに働きかけるための呪術とだけから成り立っていたのが人類の宗教の最も原初的な形態であったとみなし、それを「前アニミズム」と呼んだ。そこから文化や知能がやや発達すると、霊魂や精霊に対する信仰が起こってくる。それこそが、「アニミズム」と命名される段階だ。そして、そういう霊魂とか精霊が次の発達段階で、擬人化されることで、初めて多神教の段階まで宗教が発達して初めて創り出される、とみるのである(アニミズム→万物有魂論:自然のすべてのものに霊魂があると知る考え。ちなみに、ガイア理論とは、地球は一つの生命体)。

 歴史というとすぐ期待する「事実」とは、そもそも何か?そう問い直してみるのもよい。誤解を恐れずに言うなら、広い意味で考えればすべての歴史は神話なのである。なおかつ、「過去における一切の出来事は象徴」なのである。

 神話の本質を明らかにしようとする場合に、われわれがはっきり認識しておかねばならぬ前提は、神話の内容の今から見ての非常な不合理性、不条理性は、決してその様な話を生み出した人々が合理的に思考する能力を欠いていたことを意味するものではないということだ。そもそも人間がその中で合理的な思考を一切行わなかった文化などというものは、人間が地球上に発生して以来一つとしてない。

 かのヒットラー時代ですら(いや日本でもそうだろう)、彼の演説を聴いて信じたのはその熱狂ではなく、時局に向けてそのつど彼が発し訴えかけてきた「道理」なのであった。どんな時代にも人間は合理的思考にたより、それによって解決できる問題はすべて合理的に解釈しながら生きてきた。神話は一つにはその形象化である。しかし、解決することの出来ない問題が人間には残る。自分はどこから来て、どこへいくのか?この実存的問いに合理的答えを与えることは誰にも出来ない。そして、誰にも与えられることの出来ない答えに何らかの決着をつけているのが「神話」の根源にあるものなのである。

次回は「日本人は思想したか?」です。

[その32でーす] /welcome:

 突然だが、人のあり方、世界の本質、そして生命の意義なんて切り口は、酒場のおやじの言いぐさとしては似つかわしくないのだけれど、まあ、参考文献がほとんどしゃべっているのだからそこのところは十分わかっておられると思うので、一緒に勉強するつもりで読み進んでいただきたい(読み進む内に神話へと誘うでしょう)。

 さて、そんなそんな問題について思索し、分析し、論理化するという知的作業の成果をしてアカデミズムでは「思想」と呼んでいる。あるいは「哲学」と言えばもっとかっこいいかも知れない。

 とはいえ、我々が思想・哲学を学び、知ると言うことにはどんな意味があるのだろう。書物をひもとけば、それは「人が人として生きる」、すなわち「人としての精神に知的な喜びと充足を得る」、とのたまうのである。

 だから、思想・哲学は「人の本当の幸せ」になくてはならないものらしい。そして、そんな思想・哲学を我々によく示し与える人を、「思想家」もしくは「哲学者」と呼ぶんだ。

 ところで、我々が彼ら思想家・哲学者について思う時、まず浮かんでくるイメージはたいていしかめっつらのヒゲをたくわえた非凡人の風貌ではないだろうか。なんのことはない、かの有名なソクラテスやプラトンなんぞを思い浮かべるからである。だから、現代の我々日本人は、思想・哲学というものが「古代ギリシアに始まり、そのままヨーロッパ圏で発達してきた」、と思いこんでいるフシがある。

 わし自身は詳しくはしらんが、スコラ哲学、ルネサンス、イギリス経験論、社会契約論、そして実存主義(唯物論?)、社会主義等々、人類の思想と哲学ははるか海の向こうのヨーロッパ圏で脈々とダイナミックに発展してきたモノであり、我々日本人はそれらをこまめに輸入し続けることで、精神の充足のおこぼれにあずかってきたと考えている人が一般的ではないかと思う。実際に、学者の中にも「日本人には思想がない。日本人は人生の指針を持っていない」なぞと、情けない自嘲の言葉をとくとくと述べる方もいるらしい。いわんや、眉間にしわを寄せて、「現代日本人の精神的な枯渇と荒廃は、日本人が自ら確固たる思想を生み育てることを怠ったツケなのだ」なんて。でもでも、ちょっと待って下さいな。わたくしの参考文献の先生はこうおっしゃる。「実際には最もらしく聞こえる御説ではあるが、だが、そいつはウソ、あるいは誤解だよん〜」っておっしゃる。

 では、先生の仰る通りなら、日本を導き育んできたものがあるとするなら、どのようなものが我々日本人を現在に至るまで影響を与え続けたというのだろうか?それは次回にお話ししましょう。