一転して、今度は酒が飲めない世界のお話をしましょう。そう、禁酒の話です。「飲んだら乗るな、乗るなら飲むな!」酒を飲んで運転すれば、運が良ければ何回かは検問に引っかかることはないけれど、「しめしめ」と味をしめた矢先に御用ってなことに。最悪は、人身事故を起こしてしまいせっかくの人生を棒に振ることもあり得るわけです。
「ひと酒を飲み、さけ人を飲み、さけ酒を飲む」と言った諺もありますように、酒飲みは酔いがまわればまわるほど、ますます酒を飲みたがるものでありますから、酒の弊害も甚だ多いわけであります。
えらい学者様が説くところによりますと・・「酒は美禄と言う言葉がある。少し飲めば陽気を補助し、血気を和らげ、食気をめぐらし、愁を取り去り、興を起こして大変役に立つ。だがたくさん飲むと、酒ほど人に害をするものは他にない。ちょうど水や火が人を助けることもある一方で、またよく人に災いをするようなものである」等々。
ことほど左様に、酒には天使と悪魔が同居しているようなものであって、程良い量の酒には天使だけが棲息し、その量以上になると悪魔が人間を操り、功と罪、喜と悲、美と醜を表現させるのです。それ故、酒の異名には「百薬の長」、「薬王」、「玉露」と言った功名を持ったものと、「万病源」、「きちがい水」、「地獄湯」と言った罪名を付されるものなどがあるわけです。
さて、酒は左様のごとく、人によっては功となり罪となるものですから、これが社会の中に入りました後、罪の方に大きく傾くと、国家はこれを修正しなければなりませんので「禁酒令」を出すことがあるのでございます。
続く。00/9/30/AM3:10
禁酒令の一例を申しますと、日本におきましては孝謙天皇の天平宝字2年(758年)、国民の乱酒流行に対し社会秩序を維持する目的で禁酒令が発布されました。違反者に対しては、役人の場合、五位以上では年俸一ヶ年の停止、それ以下の位(くらい)のものは残念ながら免職、平民は尻を(棒で)八十杖(じょう)たたかれると言った罰が科せられましたが、親しいものが訪ねてきたり、祝い事などある時にはあらかじめ役所に届けて許しをえておけば、飲んでも宜しいという抜け道も設けてあったのはおもしろいことであります。
わが国において、このような禁酒令の最初は、大化2年(646年)3月甲(きのえ)申(さる)22日の「薄葬の詔(みことのり)」に遡りますが、その主旨は「農民の魚酒を禁ずる」というのもで、そこには「農業の忙しい時には、もっぱら耕作に努め、美味しいもの、例えば酒や魚を摂ることは止めること」というものでありますが、このような令はその後、天平4年(732)、同9年(737年)、同18年(746年)、天平勝宝元年(749年)、天平宝字2年(758年)、延暦9年(790年)、大同元年(806年)、昌泰3年(900年)というように、次々に発布されております。
当時、それらの令は、絶対服従と言うような厳しいものではなかったようで、庶民はそれらの禁酒令をよそめ(余所目)に、酒によって横のつながりを深めていったようであります。ただし、その様な比較的穏やかな禁酒令と申しますのは、酒乱や贅沢を抑えるためのものであり、干ばつ(日照り)や冷害、台風などによる凶作時や戦火による社会混乱などでの禁酒令は、ことのほか厳しかったのは言うまでもありません。
とにかく、禁酒令が歴史上、出しては破られ、破っては出されるという「いたちごっこ」の如きは、やはり酒の魔力がさせた罪な事象と言って過言ではないでしょう。
次回はお話を海外に向けましょうか。00/10/1/pm5:00
さて、話を海の外に転じますと、大昔から酒を禁じている国と言えば、宗教的戒律で厳しく戒められているイスラム(回教)圏でしょう。数億のイスラム教徒は一切酒を口に出来ず、この教義を破った者は大罪を犯した罪として、アッラーの聖法により80回の鞭打ちの刑に処せられる。
アラブ諸国の多くはイスラム教を国教としていますから、国家権力のもとで取り締まりがおこなわれています。参考文献の著者小泉先生もこれらの国には何度か行っておられるようで、異教の旅行者でさえ国内に酒を持ち込むことは出来ないし、また持ち運ぶこともできないと仰っています。ただし、ホテルのレストランでひっそり飲むことには目をつぶってくれるそうです。しかし、ゆめゆめ、法律を甘く見てはいけないとのことで、旅行者にとって、油断は禁物であると釘を差されています。
同じく数億の信者を抱えるインドのヒンズー教も、その聖典「リグ・ヴェーダ」(BC4〜5世紀)には”酒は早老を招くもの”とあり、昔からこれを社会的罪の一つとして教えてきましたので、酒は悪いものと言う扱いを受けて参りました。
ヒンズー教のマハトマ・ガンジーの生誕106周年を記念して、当時のインディラ・ガンジー首相が、1975年に飲酒制限令を出したことでもヴェーダの教えは今も生きている証左でもありましょう。
まあ、そんなわけで歴史上、いろいろ有名な禁酒令があるわけですが、何と言っても誰もが知っている最たるものは、アメリカの「禁酒法」ではないでしょうか。そうアル・カポネ、エリオット・ネスが繰り広げた13年のドタバタ劇です?。と言うわけで、次回はその「アメリカ禁酒法」です。00/10/6/2:30