介護留学の意義と目的 
2019年早春      
学校法人 ベトナム・すばるアカデミー
                                       GM 藤澤謹志     
  もう随分以前から、介護が必要な高齢者が激増している状況にありながら、介護福祉士のなり手が少ないため、閉鎖・倒産する有料老人ホームや施設が増えてきている。この問題を解決するため様々な方法が検討・実施されたが根本的な解決には至っていない。

 団塊の世代の方々も70才台となり、介護保険を払ってきたにも関わらず、満足な介護を受けられない高齢者が国中にあふれる日が刻一刻と迫っている。正に本問題は、先延ばしが許されない喫緊の最重要課題となっているが、未だ解決の道標すら示されていない。

 そこで、窮余の一策として、外国の若者達に手伝ってもらいこの問題を解決しようと技能実習制度に介護を入れるよう団体などから要請・圧力が強くなっていった。

 そして、国は「介護は単純労働とは言えない専門職だ」とか「技能実習制度自体まだまだ改善の余地が少なくない」、「ベトナムなどで介護施設などそもそもない状況で何を実習して帰国させるのか」、「そもそも他の技能実習の初級日本語レベルでは、業務自体が困難と言わざるを得ない」などと言う有識者会議の意見に基づいた様々な理由で、なかなか認可に踏み切れずにいた。打開策が見いだせないそんな折、留学制度で介護福祉士を養成するというスキームが突如登場した。

 そのスキームは、当初は、介護という在留資格もなく、また私費で日本の介護を学ぼうというベトナム人青年もいず、環境は全くない状況で生まれた。しかし「この方法以外にベターな策はどう考えてもない」と見切り発車(募集と日本語指導)をした結果、マスコミが取り上げ、国も動いて頂いた結果、「介護」資格が誕生した。と同時に、技能実習生(介護)も認められたわけである。

 それから、2年ほど経った留学介護であるが、(初めてのこともあり)受け入れ側に求められる保証人資格がどうしても高くなる傾向があり、それほどの広がりはまだない。ただ、本校が取り組んでいる介護福祉士養成学園では、本校卒業生の学習や施設でのアルバイトや生活などでの評判は上々だ。N2・EJUレベルで直接、介護教育機関(専門学校など)に入学した学生はもちろん、N3レベルで、日本語学校に入り、6か月後に介護教育機関に入学する学生達も同様だ。当初は「日本語学校から介護専門学校にちゃんと進まない子が出るのではないか」と危ぶむ声も関係者からあったが、現状では、一人もそういった子は出ていない。

 これは、これまで本校が約15年間(私費)留学生を数百人程度送り出し、その殆どが問題もなく、大学などに進学を果たした経験が生きている。学生を1年も教えていると、この子が留学に向いているかどうか、留学の厳しさに耐えられるかどうかは、自ずと分かるからだ。

 遅刻が多かったり、宿題の提出率は低かったり、授業での学習意欲が弱かったりする学生は、「とにかく、行きたい。行ければいい」と考えがちで意識が未熟で精神力がまだ弱い。それらが出来るようになるまで日本には行かせないという線を譲らないということにつきる。本校は、朝9時〜午後5時までの7時間授業(授業は1時間半が一コマで、間の休憩もなし)だが、授業中、居眠りしている子は、まずいない。トイレに行きたい学生は、挙手してから行って戻るようにしている。

 どうして、そういう線を譲らないという面倒なことをしているのかと言うと、結局(学生が自分の不勉強や未熟さのせいで)留学の夢が破れたとしても、その親などからの批判を受けるのは、現地にいる本校だからだ。更に信用や評判にも傷がついたり、失ったりする。現地にいるからこそ避けられないリスクから逃げず、それをプラスに転化するには、本校から留学した学生への満足感を高めるしかないからするのである。それが緊張感を失わず、いつしか責任感となり、伝統へとつながっていく。

 私は、技能実習生については、門外漢だが、受け入れを政府監督機関が直接行い、現地に機関を設け、そこで責任をもって宣伝・募集・選抜・教育・送り出し・帰国時の就職紹介などのアフター・フォローまでしっかりするというのであれば、技能実習制度にも責任が持てるし、筋が通ると考える。現地にいることでしかできないことは、少なくない。さすが教育大国の日本だと世界から評価される首尾一貫した制度であってほしい。

 故日野原医師のお言葉で座右の銘にしているのが「医師や看護師など医療に携わる者は、患者を自分の家族のように思えるかどうかが一番大事」というのがあるが、私も(医療を教育に変えて)「我が子なら、このコースで留学させるかどうか。この学校で学びなさいと言えるかどうか」を常に自問して判断することにしている。
留学介護は、そういう点では、もし自分に甲斐性がなく、それでも子供を留学させたいなら、選択に足るものだと思う。親の金銭的援助が足りず、(つまり生まれ落ちた国や親の状況で)これまでどれほどの真面目で優秀な青年達が留学の夢を実現できずに悔しい思いをしてきたか、自分を活かせず地を這って来たかを後悔の念と共に振り返るとき、ある意味、夢の留学形態ではないかとすら思う。

 しかし、まだ問題もある。それは、N2レベルまで現地で取得させ、直接介護養成機関に留学させればベストなのだが、どうしても合格までの時間がかかり、また(指導側のスキル不足もあり)到達者も限定されることから、日本語学校に留学させて、1年とか2年後、介護養成機関に留学を果たすというスキームだ。

 本校もこのスキームを併用しているが、本校の場合、日本語学校への留学条件をN3レベル以上とし、日本語学校での学習期間も6か月と最短にした。その理由は、日本語学校生とは言え、アルバイト(介護実習を兼ねることもできる)があるので、その業務をこなすためにはどうしても最低限の日本語力が要るということ。そして、日本語学校の授業料は貸与(生活費は経費支弁機関給付)となっているため、学生も受け入れ側も負担が増すからだ。

 現状は、これで問題は出ていないが、日本語学校での学習期間中にN2レベルを習得できる割合を高めなければならない。学生達に訊くと「(日本の生活やアルバイト環境などに慣れないので)週28時間のアルバイトでもくたくたになる」そうだ。ただ、その環境でもどうやって学力を高めるかが求められる。そうでないと介護養成機関での高度な専門学習に理解不足という不安の種を蒔くことになる。

 それよりも問題というのは、手っ取り早く日本語学校にN5やN4で入学させてしまう学校の場合だ。そうなると(言葉のできない)生活やアルバイトで知力・体力を消耗し、学習への余裕がなくなるようだ。留学の意志も体力もまだまだ足りない。結果、進学はできるものの(理解できないので)授業中に居眠りしたり、試験が全くできなかったりという現状日本の多くの留学生を抱える日本語学校・専門学校や大学などと同じ光景(学級崩壊)が発生する。これでは、学ぶ側・教える側双方が不幸になる。

 それでも、「国家試験に合格しなくとも5年介護の仕事を続ければ、晴れて介護福祉士になれる」と高を括っているところがあるので、指導側も学習側も緊張感やモチベーションを更に維持できないでいる。単に出席すればいい、(学生が寝ていようがしゃべっていようが)教えればいいというのでは、専門を教え教わるという本末が転ぶ。

 更に言えば、それで、介護の仕事がきちんと勤まるだろうか。高齢者方に満足を感じて頂けるサービスが提供できるだろうか。そして、何より自己肯定感や自分の職業への誇りが持てるだろうか。生涯続ける天職に成り得るだろうかという根本が揺らぐ。

 日本人の同僚から漏れ聞こえる「ベトナム人は、良いな。試験に合格しなくても資格が取れて、日本人と一緒の給料がもらえるんだから・・・」というやっかみの声に耳を塞ぎ続けられるだろうか。異国でのそういう嘲りは、耐えがたく辛いものだ。

 そして、20数年後くらいに高齢者数が減少に転じ、介護福祉士の需要に陰りが見えて来た時、急に変わる政策(例えば、3年以内に国家試験合格しないとビザ更新はされないとか)があったとすれば、それに対応できるのだろうか。(日々の多忙な業務に追われる中)学習しなおす気力など残っているはずがない。結局は、報酬に見合う能力がない(結果を出せない)者は、遅かれ早かれ淘汰される運命にあるのである。

 それで介護士達は「仕方ない」とベトナムに戻るのだろうか? それまで10数年(ある者は、数十年)日本で生活をし、結婚や出産、家族の帯同や家屋の購入や子供の通学などを経ているのだ。ベトナムに生活基盤などあるはずがない。それでは、「日本にいたいけど帰国するしかない」という技能実習生と大差なくなる。制度は意味をなさなくなる。

 そうしないためには、どうしても介護福祉士のプロになって、誰にも後ろ指さされない高度人材になってもらうという留学の意義と目的を果たすことが不可欠となる。

 そのため、現状はN3レベルでの日本語学校からの入学者の併用を行いながら、日本語学校と介護養成機関の日本語と専門の指導スキルと学習環境(テキストのベトナム語翻訳なども含め)の向上の努力を継続することがどうしても求められる。

 こういったスキルは、5年ほどで(努力に応じた)実を結ぶので、あとは、その成功のスパイラルを回していけばよい。ベトナム人は、教えること(クラスメートの相互扶助)を厭わないので、それを最大限活用したい。、特に最初が肝心で3期生までしっかりした人材を養成すれば、あとは格段に楽になる。その成功スパイラルは、組織に活気と多様性(国際性)をもたらせ、将来に亘り組織が発展し続けられるために不可欠な新たな人材の基盤となるに違いない。

それが教育は国家百年の計と言われる所以だ。


                   取り組みの流れ

・ 日本で、介護福祉士養成機関(専門・専修・各種)学校を設立

・ 同時に(或いは前もって)日本語学校を設立

・ ベトナムで学生を募集し、日本語指導をJLPT・N3或いはNAT試験3Qなどまで行い日本語学校に半年在籍後、養成機関に内部進学。

・ 同時に、ベトナムで学生を募集し、日本語指導をEJU200点以上或いはJLPT・N2に合格した学生は、直接、養成機関に進学。

・ 養成機関修了者は、卒業時に国家試験に合格するか5年継続して介護業務を勤務し続ければ介護福祉士資格を取得。その後、長期に亘り勤務を継続可能。(適宜、指導を継続することで)日本語や技能スキルも向上し続け、将来的な幹部職員候補として施設を支える柱となる高度人材に育つ。

◆ 学習期間: 

ベトナムでN3まで指導 ⇒日本語学校進学⇒養成機関に進学の場合
(8〜10か月程度) + (6か月) + (12か月)=24〜30か月(約2年〜2年半)

ベトナムでN2まで指導  ⇒ 養成機関に進学の場合
(12か月〜18か月程度)  +   (12か月)     =24〜30か月( 同上 )

◆ 奨学金(給付):
ベトナムでの学習費+(日本語学校 生活費 )+ 養成機関 生活費
                  *学費は貸与       *学費は貸与
                  *公的奨学金有     *公的奨学金有

◆ 就業期間: 
日本語学校(6か月)+養成機関(2年)+5年+α(定年まで可)
   *アルバイト制約    *同左     *正社員 約10年〜40年以上
 以上