『トゥイ・キォウの物語(金雲翹)』の翻訳・出版



著作名:トゥイ・キォウの物語(斷腸新聲・傳翹 Truyen Kieu)
原作:グエン・ズー、越英訳・脚注:レ・スァン・トゥイ
英和訳:佐藤清二・黒田佳子、発行:佐藤清二
発売:吉備人出版(株式会社吉備人、電話086-235-3456)
仕様:A5版上製252頁、ISBN4-86069-089-3 C0097
定価:1,680円(本体1,600円)、発刊日:3月上旬予定
備考:http://homepage3.nifty.com/daovaquat/で試読できます。


 この物語は、グエン・ズー(阮攸。1765〜1820)が、中国の通俗小説『金雲翹伝』(清・青心才人編述)から翻案した3,254行の長編詩で、ベトナム文学の金字塔と言われています。『物語ヴェトナムの歴史』(小倉貞男著、中公新書)の中では、「一人のうら若い女性の波瀾万丈の悲しいストーリィに盛られた教訓は小学校から教科書に取り入れられ、ベトナム人はしばしばこの物語の文章を日常会話の中に交える」と紹介されています。

 共訳者である詩人の黒田佳子さんは、「多くの日本人が見失った自分たちの判断の拠り所を考えさせてくれる。登場人物たちの描写は善人も悪人も生き生きとしていて、何度もの翻訳を経ても消えずに、なおも蘇ってくる力強い作品。一人の不運な女性の悲しみに読者も一緒に泣きたくなるような生々しく人間臭い面も、人間の一生を無限の闇にポッカリ漂うカプセルのように感じさせる宇宙感も備えた物語」と巻末に書いています。

 翻訳に当たっては、外国人の方や高校生以上の学生諸君など日本語中級の読者にも読みやすいように、平易な表現の散文にするとともに、漢字にはルビを振りました。

 この出版事業は、日越文化交流の促進を意図したものです。日越間では経済・技術交流が進み貿易量も徐々に増えていますが、文化交流面でもバランス良く進展するのが望ましいと考えています。『トゥイ・キォウの物語』は、ベトナム人の心に触れる近道でもあると言えるでしょう。是非ご一読下さい。




参考 『トゥイ・キォウの物語』 Q&A


Q1:ベトナムでの評価はどうか。
A1:ベトナムでは各家庭に1冊以上あると言われています。人口8千万人の国ですから、単純計算すると1千万部以上は売れているのではないかと推測されます。少なくとも、ベトナムでは超ロングセラーであり、他の追随を許さないベストセラーであることは間違いありません。

Q2:ベトナムでは普及しても、日本で普及するかどうかは全く別の話ではないか。
A2:作者グエン・ズー(阮攸。1765〜1820)が翻案する前の元の底本は、中国の通俗小説『金雲翹伝』(清・青心才人編述)です。物語の舞台、地名、人名、史実、いずれも昔の中国、明の時代の中国です。引用されている故事成語も、私たち日本人に馴染みのあるものがとても多いのです。物語の舞台・中国の隣国であるベトナムで普及したのですから、同じく中国の隣国である日本でも普及する可能性は大いにあるのではないでしょうか。中国、ベトナム、日本を含む東アジア文化圏の人々に等しく受け入れられる素地のある物語、と私などは考えています。ベトナムでの普及度の1%としても10万部。一度読めば満足され、二度読み、三度読みされる読者もいらっしゃるだろうと期待しています。

Q3:日本でも普及する可能性があるのなら、なぜ今まで普及しなかったのか。
A3:作者グエン・ズーによるベトナムの長編詩『トゥイ・キォウの物語』からは、1942年に小松清が仏語版からの重訳本を、1975年と1985年に竹内与之助が翻訳本を、1996年に秋山時夫が翻訳本を出しています。小松清の訳本は、戦時中ということもあり余り普及しなかったようです。竹内与之助の訳本は、氏が東京外国語大学の教授だったこともあり、ベトナム語学者・教育者として翻訳・出版に当たったためか、内容的にはベトナム語の語学教材の性格があること、本の定価が高かったこと(1985年の1/3圧縮版で4,120円。)が普及の妨げとなったのではないかと考えられます。秋山時夫の訳本は、200部限定個人出版だったことと、越式漢文詩の読み下し文スタイルだったため、普及には至らなかったものと考えられます。
 今回の訳本は、外国人の方や高校生以上の学生諸君など日本語中級の読者にも読みやすいように、平易な表現の散文(ルビ付き)にし、また、定価をお求めやすい1,680円と設定しており、普及の障害となる要素は極力取り除きました。
 なお、江戸時代には、中国の通俗小説『金雲翹伝』(清・青心才人編述)から、西田維則が翻訳本を、滝沢馬琴が翻案本を出していますが、同じく滝沢馬琴の翻案本である『南総里見八犬伝』のように奇想天外な伝奇小説ではなかったためか、後世に広く伝わることはありませんでした。

Q4:狙いとする読者層は?
A4:読者層は、これからの人生の展開に期待と不安を抱く高校生・大学生・20代ビジネスパースン、仕事・家庭・育児に一日の大半を取られ時間の余裕が無かった時期を越えて、多少は人生を振り返る余裕の出来る40代、定年が見えてきて自らの人生の点検と軌道修正に取り組もうとする50代、第二の人生を充実させたいと願う60代・70代、命の不思議を改めて考える80代・90代です。外国人の方にも読んで頂きたいと思います。中学生以下にはお薦めできません。
 日本人ははにかみ屋で本心を表には出さない傾向にあると言われますが、実は意外とピュアな精神を持ち合わせている人が多く、この物語は、そういった内面は真面目な読者に受け入れられるのではないかと考えています。

Q5:書店やインターネットで購入できるか。
A5:出版社と書店の間を取り持つ役目は、書籍取次企業が担います。『トゥイ・キォウの物語』の発売所である吉備人出版が契約している書籍取次企業は、地方・小出版流通センターです。日本出版販売梶A潟gーハン等との直接の契約はない由です。従って、書店が地方・小出版流通センターと契約していれば店頭に並ぶ可能性がありますが、契約していなければ店頭に並ぶことは恐らくないでしょう。但し、注文ということであれば、ほとんどの書店で受け付けてくれるようです。有名書店であれば、地方・小出版流通センターと契約している場合が多いと聞いています。書店では、「アジア文学」、「海外旅行」、「宗教思想」の何れかのコーナーに置かれることになるのではないかと思われます。インターネット購入については、amazon(アマゾン)、bk1(ビーケーワン)、ヤマトブックサービス、KinokuniyaBookWeb(紀伊国屋書店)、7&Y(セブンアンドワイ)等での注文が可能の由です。なお、発刊予定は3月上旬ですが、店頭販売、インターネット販売には、さらに多少時間がかかる模様です。