隅の老人さんからのおすすめの作品           

    
  The Appeal

by John Grisham
The Appeal



ジョン・グリシャムが4年ぶりに発表した新作フィクション。オリンピックと高校野球のテレビ放送の合間を縫いながら読み終えたこの作品、グリシャムが得意の分野で持ち味を発揮していて楽しめるが、いくばくかの不満も残った。

アメリカのディープ・サウス、ミシシッピー州の田舎町ボウモア。町全体が、固唾を呑んである裁判の判決が出るのを待ち受けていた。最近までこの町で操業していたクレーン・ケミカル社の工場は、大量の有害物質を敷地の裏にある小川に多年にわたって流し続けた。町の水道の水源は完全に汚染され、多数の住民が被害を受けた。町民の間の癌の発生率は全米平均の10数倍に達した。

夫と息子を失った未亡人ジャネット・ベーカーが損害賠償を求めてクレーン・ケミカルを訴えて4ヶ月続いた裁判の判決が下されようとしていた。12名の陪審員は会社を有罪と認め、懲罰的賠償金を含めて4100万ドルの支払を命じた。クレーン社は当然、州の高裁に上告することになるが、上告審の判決が確定するのは18〜24ヶ月先と予想される。その前に、高裁の判事の一部は改選の時期を迎える。

会社乗っ取り屋として知られクレーン社の株の大半を握るカール・トルードーにある政治家が電話をかけてくる。「高裁での判決を会社に有利なものにする秘策を伝授するコンサルタントを知っているから紹介しよう」。このコンサルタント、バリー・ラインハートの提案とは、来るべき選挙で、地裁の判決を支持しそうなリベラル派判事を落選させ、クレーン社の望みどおりに動く親企業派の判事を送り込むこと。そのための費用は数百万ドル。フォーブス誌の全米資産家ランキング上位に入るトルードーから見ればピーナツともいうべき金額だ。トルードーの依頼を受けてラインハートは直ちに計画を実行に移す。果たしてその首尾や如何に?

トルードー、ラインハートの他に、クレーン社との訴訟で原告を代理する弁護士ペイトン夫妻、追い落としの標的とされるリベラル派マッカーシー判事、彼女の後釜に担がれるロン・フィスク、ラインハートの部下であらゆる策謀をめぐらせるトニー・ザカリーなどなど、グリシャムはいかにもそれらしき人物を登場させ、手馴れた語り口で物語を展開する。最後までサスペンスを絶やさぬストーリーテリングは典型的な「グリシャム節」と言える。残念ながら、エンディングが中途半端で肩すかしを食わされる。もう一ひねり、二ひねり欲しいところだった。

グリシャムにとってこれは16冊目のフィクションになる(そのほか彼は5冊のノンフィクションを発表しているが、私はすべて未読)。もともと彼はシニカルな傾向を持つ作家だったが、年を追ってそれが顕著になってきたようだ。この作品の結末もまことにシニカルで、いささか首をひねらされた。第二次大戦前後、一連のスパイスリラーの秀作を発表したエリック・アンブラーと一脈相通ずるものがある。ペーパーバックの裏表紙の惹句に《Politics have always been a dirty game. Now justice is, too.》とあるが、読み終わって、「民主主義社会における法の正義とは?」という命題について思いを致さざるを得なかった。

ジャンル:リーガル・スリラー
著者のオフィシャルサイト
2008/8/20

Amazon.co.jpで見る!

Back 投稿していただいた方のページにもどる

Home
 ホームページにもどる | 書名タイトルリストへ | 著者名リストへ