rain voiceさんからのおすすめ作品

    
  The Amber Spyglass
by Philip Pullman
The Amber Spyglass



 皆さん、こんにちは。フィリップ・プルマンの"His Dark Materials"シリーズ三部作のラスト、"The Amber Spyglass"を紹介します。一巻二巻と続いてきて、あれだけ広げた大風呂敷をどう畳むのか、また、次から次へと現れる新キャラクターたちをどう収集させるのか、それを少し心配しながら読みました。結論からいうと、「あれだけの話をよく、ここまでまとめ上げる事ができたなあ」ですね(笑)。

 しかも、まだ、この最後の巻でも、新しいキャラがたくさん出て来ます。著者が作り上げる世界観も非常にユニークで、わくわくします。主人公ライラとウィルの関係も発展し、児童向けのファンタジーの要諦を取りつつも、著者の宗教観も絡まって壮大な物語に仕上がっています。では、簡単なあらすじを。

 前作で、ライラがコールター夫人に連れ去られてしまったので、ウィルは二人のエンジェル(!)と協力し、ライラを探す旅に出ます。一方、アスリエル卿はオーソリティやそれを信奉する教会側と対決姿勢を強め、背丈は手のひらサイズ、両足に強力な毒を持つ蹄を備えたガリベスピアン族(the Gallivespians)のリーダー、ローク卿たちの協力の元、活発な行動を起こしていきます。

 他方、前作でライラと知り合いになったメアリー・マローン博士は、異世界へとダストの謎を解明するために旅立ち、なんと、そこの不思議な住人、ミュレファ族 (the Mulefa)と仲良くなります。彼女はミュレファたちのために、「琥珀の望遠鏡」を作り、ダストの成り立ちと、この世界の関係を明らかにしようとします。

 また、教会側も、ライラの正体が何なのかを突き止め、アスリエル卿と対決するために行動を開始、ライラを暗殺しようと画策します。それを阻止しようとライラを探す、ペッカーラら魔女軍団、シロクマ王、イオレク、そしてジプシャンたち。

 三者、いや、四者四様と複雑に入り組み、けれども、すべてにリンクする二人の重要人物、ライラとウィルを求めて、怒涛のクライマックスへとなだれ込みます。死の国の不気味さ、象ともカバとも知れないが、高い知性を持つやさしいミュレファたち、ウィルたちに嫌々ながらも死の世界へ同行するガリベスピアン族の二人、レディ・サルマキアとチェバリエ・ティアリス。黄泉の国の番人、ハーピー。こんなにも個性豊かな登場人物たちの活躍に、私はお腹いっぱいになりました(笑)。

 さあ、ライラとウィルは敵対するオーソリティや教会一党から逃れられるのか。そして、ダストの正体は。意外なラストへと向かってページを捲る手が止まりませんでした。読んだ方にとっては、オックスフォ−ドの植物園のベンチはこれから印象的な場所になりますよ、きっと。 

 "His Dark Materials"シリーズは本当に深い、面白い大人向けファンタジーと言っていいと思います。ユニークな設定や、それぞれの巻で象徴的アイテムとして使われる不思議な道具、キリスト教などの宗教観についての著者なりの考察、ダイモン他、奇妙なキャラクターたちのオンパレードなど、読者を飽きさせない構成力には本当に驚かされますね。

 私自身が宗教、特にキリスト教に造詣が深くないので、宗教批判については欧米人読者に比べて、特に違和感も何も感じませんでした。むしろ、天使やハーピーなど、ファンタジーには使い古されたキャラを登場させている方が、その類のファンタジー作品を読まない私としては、少し引いてしまうところがありました(だいたい「天使」が出てくるファンタジー、って安っぽくて好きじゃないんだよなあ)。

 出てくるキャラの中でも、よく分からなかったのはコールター夫人。二作目までは圧倒的に嫌な敵役として活躍していた夫人が、この最後の巻ではいい母ぶりっこを演じて見せるのです。前作までのいきさつを知っているが故に、「いまさら、なんだよそりゃ」と言いたくもなりますよ。

 「うまい!」、と思ったのはやはりダイモンの存在設定。人間ひとり、ひとりにパートナーとして付いて、お互いが離されてしまうと魂が抜けたようになってしまう、という考え方はすごい。第一巻の一ページ目で、ライラのダイモン、パンタライモンが登場した瞬間、「あ、オレはこの小説に夢中になるな」と予感しました(そして、その通りになりました)。

 これが児童書のジャンルに収められているのはもったいないですね。ハリー・ポッター・シリーズに負けない支持を受けて欲しいと願わずにはいられないほど質の高い大人のファンタジー作品でした。映画はいつ完成するのかな? 待ち遠しいな。

■ジャンル:ファンタジー

著者のオフィシャルサイト
2003/11/24

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