翻訳家 梅田 達夫さんから
翻訳書紹介などのお便りです
プロの翻訳家、梅田達夫さんからメールをいただきました。翻訳書の紹介と翻訳というお仕事について教えていただきました。
★梅田さんのご紹介
梅田 達夫と申します。まだ、1冊の本を訳しただけの、新人翻訳家です。だから、プロというよりは、プロの卵と言ったほうがしっくりくるかもしれません。
一翻訳家としては、すでに邦訳が出ている英語の本よりは、今、まさに欧米で出版され、話題になっている本の情報がほしいのです。 個人的には、コンピュータ関係、特に、社会問題を取り扱ったノンフィクションを今後翻訳できたらいいと考えています。たとえば、ハッカーが、米国防総省へ進入した、なんていう作品が面白いですね。
自分でもまだ、実感としてプロの翻訳家と言えるのか、すこし疑問に思い、まだまだ勉強不足だと思っています。
★翻訳書の紹介
実は、まだ1冊しか訳していないのです。著名な作家ではなく、素人に近い人の作品で、アルツハイマー病患者の手記、ノンフィクションの作品です。もっとも、訳してみて、これはノンフィクションではあるものの、文芸作品に近いものだと思いました。
原題 Show Me The Way To Go Home
作者 Larry Rose ルイジアナ州ラフィエット在住
邦題 「私の家はどこですか」
出版 株式会社DHC
6月末、もうそろそろ、この本が出るはずです。紀伊国屋書店など、限られた本屋に最初は置くようです。爆発的ヒットはしないだろうと私自身思います。
日本では、アルツハイマー病に理解のある人は少ないので、そういう人にもっとよく知ってほしいと私は思います。日本には正式な統計がなく、痴呆患者と呼んでひとくくりにして、現在、100万人ぐらいと推定していますが、その半数、50万人くらいが「アルツハイマー病」と考えられています。実は、この「痴呆患者」という言い方がくせもので、著者のラリー・ローズ氏自身が54歳でこの病気と診断され、本を書こうという気持ちになったのも、実は、世間で思うほど、「アルツハイマー病」患者は「痴呆」とはほど遠い、豊かな内面性を持っているのだと知らせたかったというのが、主たる動機のようです。
★翻訳という仕事
私個人のことしかよく知らないのですが少し、述べさせてください。
翻訳家だから、英語はペラペラで、同時通訳ぐらいお茶の子さいさい、っていうふうに、ふつうの人なら、考えるかもしれません。実際は、翻訳というのは、さほどかっこいい仕事ではなく、泥臭いものです。 たとえば、簡単な英語の会話があったとします。同時通訳なら、局面に応じてすぐさま、日本語に直して伝えないと意味がありません。
翻訳の場合、一応、最初の印象で、同様の意味の日本語を探し、訳を決めます。でも、これをすぐに本にすることはまずありません。本全体を通してみると、その会話が実は、なにげない日常会話に見えて、重要な裏の本当の意味を隠して持っていることがあるかもしれません。 会話に限らず、地の文章でも、よく調べてみると、複数の意味に解釈できることがあるのに気づきます。原書の著者が、なぜ複数の意味に取れる言い方を選んだのかは、自分の頭で時間をかけて考えなくてはいけません。
駄洒落もあります。異なる文化の駄洒落をもう一つの文化の言語で表現するのは、「井上ひさし」でも無理かもしれません。
結局、一人の力では、解決不能な問題に遭遇し、調べごとをしたり、友人に尋ねてみたり、出版社の人材のつてを頼って、間違いがないかどうか確かめたり、結構、大変な作業が翻訳の裏側にはあります。
最後に、完璧に仕上げられればいいのですが、今回訳した作品でも、まだ自分で十分納得がいかなかったこともあり、翻訳の難しさを身にしみて思いました。
今回の作品でも、なんやかやで、3回も全面的に書き換えました。 他の翻訳者の皆さんも似たようなことをしたり考えたりしていると思います。翻訳に質があるとすれば、それはきっと推敲の量に関係してくるのではないでしょうか?
作家の大江健三郎の推敲癖は有名で、肉筆の原稿用紙を見たことがあるのですが、書き込み、削除、修正の跡が生々しく残っていて、どうしてあれが、1冊の完結した本になるのか不思議でたまりませんでした。
エピソードと言われて思ったのですが、原書に、辞書に載っていない単語や用法が使われている場合には、それこそ、「日本語」で、ない知恵を絞って考えないといけません。「thimk」という単語は「think」のもじりなのですが、日本の大英和辞典、あるいは英英辞典、海外で使用されている大英英辞典にも記述がありません。もちろん俗語辞典のたぐいでもそうです。でも、インターネットの、すこしくだけたホーム・ページには、「thimk」は頻繁に出てきます。それこそ、「thimk」しないと翻訳はままなりません。
というわけで、翻訳家は、半分は作家だと思いました。翻訳書があったらその中身の、そうですねえ、3%くらいは翻訳家の想像や創造が含まれていると思います。「誤訳」とは、少しイメージが違うのですが、なんと言いますか、異なる文化の相違を埋めるための「技術」というと、わかってもらえるでしょうか?
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