| 加藤さんからのおすすめ作品 |
| The Sparrow by Mary Doria Russell 時々,格別期待もせずに読みはじめた本が,年に何冊も出会えない素晴らしい本で,だから読書はやめられないと再確認させられることがある.この本もそのひとつ. 不幸な少年時代を送ったイエズス会の神父が,血のつながりのない家族ともいえる仲間を得,まるで神に導かれるかのような偶然の積み重なりから,アルファ・ケンタウリに見つかった知的種族を訪ね,仲間を失い,すべてを失って,ひとり地球に生還する. 物語は,いったい何が起こったのかを焦点に,悲劇を再体験するかのように事件までの経過を追う下降線と,心身ともにぼろぼろの神父が,教会の査問を受けるなかで次第に癒され,ついには再度神と真正面に向かい合うにに至る上昇線とを交互に 語っていく. 設定はSFであり,SF的アイデアの部分も過不足なくスムーズに書かれているんだけど,やはりメインは神父の苦悩.神と共にあると感じていたのは誤解だったのか.これが神の意志であるのなら,なぜひとり残し責めさいなめるのか. 題名の 'Sparrow' は,'神は一羽の雀が死ぬのも見落とすことはない' という聖書の一節から取ったもの.この一節に続くのは 'だが雀は死ぬ' という一言. 作者は元カトリックで現ユダヤ教徒.宗教とは全く縁がないんでよく知らないんだけど,ユダヤ教の神は導くけど救わないものらしい. それではなんでイエズス会が出てくるかというと,どこへでも出かけて行ってひとり苦悩し,時には悟ることもあるのはイエズス会士をおいて他になく,物語上の必然からこうなったそうだ. でも,カトリックでも認識はあまり変わらないようで,この作品とテーマを同じくする遠藤周作の '沈黙' でも,神は最後まで沈黙したままだった. '沈黙' の主人公は結局潰れてしまったけど,ここでの主人公は,'何故か' を問い続ける道を選ぶ.'なぜ苦難の道に人を導くのか,教えていただこう'. * * * * * ストーリーも素晴らしいし,構成も抜群,キャラクタも魅力的だし,テーマも秀逸.アイデアもいいし,小道具の使い方もうまい.これが処女作なんて,いままで何をしていたんだろう.特に,ご都合主義の部分を逆手に取って,神の采配を匂わせてしまうあたり感心してしまう. だが何よりも魅かれるのは,相反する要素をごく自然に共存させていること.重くて軽くて,暗くて明るくて,おかしくて悲しくて,ふざけてて真剣で,辛辣でやさしくて,厳しくて寛容で,陰惨で慰めに満ちて,俗っぽく崇高で,男の話で女の話で,SFで小説で,シンプルで複雑で,浅く深く,繊細で力強い...どうも意図的というよりは,作者の資質,これらが同居しているのが人間という作者の人生観がそのまま反映しているようだ. ちなみに,この作品は,主人公が男であるにもかかわらず,フェミニズムSFとしての賞を受けているが,蹂躪された主人公の尊厳の回復という点が評価されたのだろうか.[注:これは私の全くの勘違い.この作品が受賞したティプトリー賞は,ジェンダー・イッシュをテーマとした作品を対象とする]教会を題材にしていることで '薔薇の名前' を思い浮かべたり,神父が主人公の悲しい話ということで 'ふくろうが私の名を呼ぶ' を思い出したり,どうもSFというよりは宗教色の強い普通の小説という感触.そのせいか読者の感想もさまざまで,私のように手放しで感動した人が多いものの,SFとしてはつまらないとか,ここまで残酷な描写が必要なのかとか,登場人物が書けていないとか,否定的な感想も少なくない.それだけSFとしてではなく一般の小説として読まれていることの証拠. 作者は人類学者で,今回のアイデアを生かすためたまたまSFの設定を使ったとのこと.それにしてはすごく手慣れてると思うが,続編の 'Children of God' で,もう一度神父をアルファ・ケンタウリに送り込み,今度は異星の社会を重点に描いたあとは,現代史を背景にした作品にとりかかるとのこと.やっぱりSFって,いごこち悪いんだろな. ぜったいお奨めの作品なんで,すぐにとは言わないけど,翻訳がでたら必ず読むべし. 98/06/16 加藤 * * * * * まえに話した傑作 'The Sparrow' と続編の 'Children of God' のハードカバー/初版のサイン本がそこそこの価格で売ってたんで買ってしまった.'Sparrow' は remainder mark (バーゲン品にマジックできたなく印を付けたやつ)付きなんで心配したんだけど,ほとんど目立たないんでほっとした. (なんせ完全美品サイン入りは $100以上してる.$25なら大満足) 2冊とも素晴らしく作りのいい本で,カバーもきれいだし,良質の紙を使ってる.本作りのお手本になるような出来. 中身の方は,残念ながら危惧が当たってしまった.続編というのはやはり難しいみたいで,前作のテーマ (神の沈黙) を受け継ぎながら発展させ話としては決着(主人公の意識の中での神との和解) つけてはいるのだけど,前作の緊迫感とドラマは消え失せてしまい,うまくまとめたけど感動の少ない作品となってしまった.決して失敗作ではないけれど,SFとしても小説としても並みの作品.新規一転,次の作品でがんばってもらいましょう. 98/08/03 加藤 [追記]これもあまり内容紹介にはなっておらず申し訳ありません. ただ,素晴らしい作品であることは間違いなく,私の中では日がたつにつれて逆に印象が強くなっていき,98年のベストというより,今ではここ数年での最良の作品の位置を占めています. 作品としては決して欠点がないわけではありません.というより,随分下手な点が目立ちます.初の恒星間飛行が安易にすぎるとか,一流の知識人であるはずの登場人物たちの言動が幼稚すぎるとか,登場人物たちが皆女性的だとか,殺されるためだけのキャラクタを突然登場させたりとか.ところが,主人公の受難と回復の物語は,欠点さえも微笑ましいものに思わせてしまうほどのインパクトがあります. 20人以上の出版エージェントに断られたというこの作品は,純然たるSFでありながら主流文学としてマーケティングされ,まず一般読者に支持されました.SFフアンはいわば遅れて認知することになったわけですが,それはこの作品の感動の源がSF的アイデアとは離れたところにあることの証拠.万人にお奨めできる作品 です. 続編については点が辛くなりましたが,第1作があまりにもよすぎたからではないかと今では思っています. ≫≫このホームページ全体に関するご意見はこちらへ 投稿していただいた方のページにもどる ホームページにもどる | 書名タイトルリストへ | 著者名リストへ |