Places in the Dark by Thomas H. Cook



Places in the Dark

    あらすじ

    1937年、秋。見知らぬ若い女がメーン州の小さな海辺の町ポート・アルマのバス停に降り立つ。緑色の眼をしたその美しい女は持ち物もほとんど持たず、多くを語らず謎に包まれていた。

    彼女の名は、ドラ・マーチ。間もなくドラは町一番の金持ちの老人の家の家政婦として住み込むことになる。そしてその老人は亡くなる。老人の遺書には全財産をドラに遺すとしてあった。ドラは金目当てに老人の家に来たと噂されるが、彼女は遺産を受け取る意思のないことを告げる。

    そのドラに翻弄されるがごとく運命を大きく揺すぶられる二人の兄弟がいた。弟のビル(ウィリアム・チェイス)はドラを深く愛するようになる。しかし、ある日、弟は何者かによって殺害され、同時にドラは忽然と姿を消す。その後を追う兄のカル(カルヴィン・チェイス)。母譲りの情熱家でロマンチストの弟ビルとは対照的で、理性的なカル。しかしカルの心の奥底に秘められた本当の思いとは…。そしてドラがひた隠す秘密とは…。しだいにドラの恐ろしい過去の出来事が明らかになる。



    感  想


    弟ビルの死の謎と平行して、謎に包まれたドラという女の存在が読者を最後まで一気に導く。これこそまさに著者の腕。私が以前読んだ"The Chatham School Affair"もそうだったが、それを凌ぐ展開の妙。美しい文体、優れた情景描写、時代背景、そして何よりも登場人物の深層心理を探り見事に表現する著者の筆致に圧倒される。特に主人公カルの心理は抑制の効いた描写の中から、少しずつ、少しずつ、見事に浮かび上がってくる。そして読者は、もしや…という思いが拭い切れぬままに読み進めることになる。読者の想像や予測を一つ一つ打ち消しながら迎える驚愕のラスト。

    上質のミステリーであり、優れた人間ドラマでもある。特に主人公カルの父と母との決定的な価値観の相違。そのそれぞれを受け継いだ二人の息子たちの関係。母の愛情を一身に受けた弟ビルと、愛を渇望しながら生きてきた兄との屈折した心理。その文体には文学の香が漂う。

    英語は平易。映像的(視覚的・聴覚的に)に迫ってくるので実に読み易い。私はこの時代背景がたまらなく好きである。各章に載っている写真もいい。場面、登場人物の服装など、想像をたくましくして大いに楽しんだ。ページの残りが少なくなるのを惜しみながら読んだ作品。

    英語本がなかなか読了できないと苦しんでおられる方にぜひお薦めしたい作品。まもなくペーパーバック版(2001年2月27日)が出版されるらしい。

    (2001年2月10日記)

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