長文です,時間のない客人には,戻りをすすめます


桃太郎の彼方滑紀行

栗胡桃太郎

 栗胡桃太郎と新車寅次郎と眠梨三四郎と森五蘭丸の恒例であるスキーシーズンを締めくくる遠征スキーの「’○○ SKISUMMIT IN ○○○○○」は,有名な長野県の八方尾根・白馬岩岳・栂池・志賀高原,群馬県の草津万座,新潟県の苗場・石打,山形県の蔵王,岩手県の安比,そして北海道の札幌国際・ルスツ等と国内ではスキーのメッカといわれる斜面をこなした。

 1996年の今シーズンは、遂に大英断,海外遠征スキーでビックにカナディアン・ロッキーを滑ることになった。

 ベルトラこと新車寅次郎の大黒屋トラベルサロンが催行する,「Big Ski in Canadian Rocky」への参加である。

 今回のイベントには常連とともに,いわきスキーフレンズのメンバーとファミリーが同行,十一人のスキーヤーのメンバーによるグループとなった。

 栗胡桃太郎は,勿論,海外に出るのが初体験である。

 「いわきで一番パスポートを使っている男」新車寅次郎の引率のもと,海外スキーはスイスで経験のある眠梨三四郎,そして海外にでるのは初めてとは意外であった森五蘭丸の常連4人,半日双六,宝樹七大,鮒鯉金八,天重九地,カモマイル姫,サクラ姫,新車寅次郎の愛娘マリリン姫の七人,合わせて11人の面々が,1996年3月15日の8時30分出発地に定めた,いわき市南部,眠梨三四郎宅近くにあるセブン・イレブン裏の駐車場に集合した。

 桃太郎は,さっそく用意していた「きびだんご」ではなく,「アメリカの隣へ行くから『アメ』をどうぞ」とノンシュガーのど飴を配り,3台の4WD車に分乗し,いわきを出発,成田空港へ向け,雨の常磐自動車道を走行した。


 絶対信頼の新車寅次郎に「すべておまかせコース」の11人の旅,ともかくカナディアン航空に搭乗,機上の人となる。

 15時30分成田発カナディアン航空015便トロント行,定刻どおりに空路カルガリーに向けてのDC10である。

 桃太郎のシートは,15D,隣のシートの15Eは森五蘭丸ということで一安心。

 「モリちゃんでよかった,見知らぬ外人が隣席では十時間もマイルからねー」と本音を吐いた。

 しかし,どっこい問屋はおろさぬ,なんと15Cのシートにカナディアンヤングレディが荷物を置きながら『にっこり』と笑顔を見せて座りつつあった。

 彼女が着席の際にする笑顔の挨拶に引きずられるようにしてひきつったような笑顔で挨拶をしてしまった桃太郎,しばしの沈黙の出会いとなった。

 左席には,美人外人いい気分。右席には、気の合う森五蘭丸という,救われるようなシチエーションを感ずる旅の始まりであった。

 離陸前の機内アナウンスに合わせて説明資料を読もうとするが全部英文のため理解は無理と知る。

 神妙な袋があった。右席の森五蘭丸に質問するが,やはり解らない。

 その隣席の15Fが新車寅次郎であるのが幸運であった。

 「気分が悪い場合に使う袋ですよ」という説明に納得。

 船酔いとか車に酔うようなことが旅客航空機でも起こるのかと知った。

 酒には酔っても,そういう類の酔いを経験していないため,桃太郎は『知らないのは当たり前』としておいた。

 英語の学習とばかりに横文字をながめていると左席美人外人が突然に「ワカリマスカ?」ときた。

 突然日本語で話しかけられたため,英語に訳し,また日本語に訳すという,複雑な言語の変換作業を脳がしていることで,桃太郎は自分がおかしかった。

 混乱の脳が非正常のままに,初めから日本語であったことに気づいても言葉で返事を出来ずに首を縦に振るだけであった。

 外人なんだから英語で話しかけてくれれば,それなりの対応をする予定であったのに,と言い訳をしたい心境であった。

 これが桃太郎の初めての海外での会話であり,ボタンの掛け違いの始まりでもあった。

 10時間のフライトということなので,用意してきたJTBのポケットガイドブック「カナダ」と新村出の「語源をさぐる」を読む。

 搭乗者に配られた新聞や雑誌を読んだり,ビデオを見たりの隣席美人外人が席を立って機内後方へ行った。

 知人でも搭乗していて,その席の方へでも行っていたのかと思っていると,席に戻って来るなり「ヒマネー」と言った。

 キョトンとしている桃太郎に対して「ヒマ ワカリマスカ」と再度聞いてくる。

 解っているが、どう対応してよいのかが解らない。

 彼女は一旦着席すると,再び席を立ち,前の方へ行き,また戻って来た。

 彼女は,カナディアン航空デザインのトランプの新品を二つ持ってきて,そのひとつを桃太郎に手渡してくれた。

 「サンキュウ」とやっとのことで英語の使用を開始した。

 桃太郎は,トランプ遊びをしなければならないのか,と少々不安を覚えた。

 桃太郎「これはたいへんよいものをいただきました。わたしのむすめへのきねんのおみやげになります」とお礼をいった。

 礼を言っていることは解るらしいが本当に解っているのかが不安なので新車寅次郎に通訳をお願いした。

 功を奏してか彼女も笑顔を見せ,「それはよかった」というような状況になった。

 国境がなくなったような瞬間でもあった。

 桃太郎は,カナダのガイドブックのバンフのページを開きながら,「わたしたちは,いわきふくしまから,カナダのバンフへ,スキーにいくところなんです,あなたは,どちらへいくのですか」と日本語で言い出すと「オー バンフ! ナイススキー! トゥ トロント フロム オビヒロ」と言うように,日本語とイングリッシュの会話が始まった。

 勿論,桃太郎は日本語と英語である。

 桃太郎 「あなたはスキーをやりますか?」

 美人外人「オビヒロ フラット クロスカンリースキー」

 桃太郎 「ミー アルペンスキー」

 美人外人「オーケー」

 桃太郎 「バンフへ行ったことありますか」

 美人外人「バンフ ノー  バット オビヒロ フレンド エブリ ワーッ ワァーッ オビヒロ フラット ドゥ ユウ アンダースタンド」

と話したところにカナディアン航空の日本人パーサーが通りかかったため,彼女はそのパーサーに聞いた。

 「フラット ジャパニーズ?」と。

 そこでパーサー「まったいら」と桃太郎に対してあざ笑うかのように通訳した。

 そこで桃太郎,そんなこと解ってらい・・・・と思いつつも,この日本人パーサーに,あと数時間は頼らなければならないという予感により,

首を縦に振ったのだった。

 『帯広の友達は,バンフでスキーをするといったら大騒ぎになる,うらやましい』 というようなことを彼女が言った内容を桃太郎は既にとらえていたのである。

 そんな謙虚な態度の桃太郎を気に入ったのか日本語と英語とイングリッシュの奇妙な会話のラリーが続いた。

 桃太郎 「カナディアン航空の,このシートに乗り合わせたのも何かの縁,一期一会という,ことばは解らないでしょうが,このカナダのガイドブックのカナダのマップにサインを下さい」

 美人外人「オーケー」

 と快く引き受けてくれ,手渡したガイドブックのページに『 Lisa Mayer リサ メイヤー 96・3・15 』とサインをしてくれた。

 桃太郎 「リサ どうもありがとう サンキュウ これはわが家の家宝になります」

 リサ(美人外人)「カホー?」眉をひそめるリサ,桃太郎の言う『家宝』が通じない。

 桃太郎 「先ほどいただいたトランプとともに最高の記念品になります」なんとか感謝の意を伝えたい桃太郎。

 またまたの虎の巻か,というところだが,『ヘルプ』キー,力強い味方の新車寅次郎の通訳により彼女へ伝わる。

 リサが「キープセイク」と言うともに,サインしたページに『Keepsake』と単語を書いてくれた。

 桃太郎「なるほど、サンキュー」

 そして,「SAKE=日本酒ダヨネ? Keep=保つ? 日本酒を保存=家宝・記念品 ????」とつぶやく桃太郎であった。

 リサがまた眉をひそめそうなので「サンキューベリーマッチ リサ」と再び礼を言うと,ガイドブックのマップのページに, 『 Good Luck in Calgaly ! Have fun ! 』 と,サインをしてくれた下側に追記してくれた。

 『 カルガリーでは幸運あれ! 楽しんで! 』ということだった。

 『FUN』,ハハァーン,いつだったか,どこかで,これを(楽しむ)忘れないで,遊び,学び,仕事する。というようなことを手帳にメモしたことを思い出したのであった。

 この後,森五蘭丸が加わっての日加交流の場の時となって,リサ・メイヤーは,英会話教室の講師であり,これから帰国しトロントの家に戻り,大学院に入り,6月には結婚すること等を聞いた。

 桃太郎 「ジューンブライド」

 リサ  「Yes」

 英語とイングリッシュがスムーズになった。

 桃太郎は,『結婚おめでとう お幸せに 1996.6』と持ち合わせのカードに日本語で書いて手渡した。

 リサ  「カンジ ワカラナイ」

 桃太郎は読んであげた。

 右隣席の森五蘭丸が「マリッジ」と通訳した。

 桃太郎は,「コングラッツレーション」とつけ加えた。

 桃太郎と森五覧丸の二人でお祝いのことばをのべるとリサは本当に喜んでくれた。

 そしてそのカードを自分のバックに大事そうに納めた。

 パッチワーク的な日本語と英語の祝辞であったが,雰囲気は十分だと感じた。 

 リサの入国証から1969.12.28生まれを知った。

 カルガリーの到着前にロッキー山脈が窓から翼下に見えたがこの景色もリサ・メイヤーとの日加交流にはおよばないほどのカナディアン航空への搭乗の思い出となった。

 桃太郎は「ピクチャー オーケー」と言って,2ショット。

 カルガリー空港へ着陸すると機内での別れ際に,森五蘭丸の2ショットという記念をフィルムに印した。

 「空港内に遊園地でもあるのか?」

 「どうして」

 「ロデオの遊具があるぜ」  

 「いや油田のポンプか」

 「そうか 油田開発のカルガリー」

   機内から窓越しに見えるカルガリー空港の景色に,桃太郎と森五蘭丸は,そんな会話をしながら比較的ゆったりと降りた。

 快調に初めて踏む外国地,難関は予想外に早くやってきた。

 入国手続きだった。

 出国は記憶に残らずの状況であったが,日本語の解らないカナダ人にイングリッシュで質問されるのでよく聞き取れない。

 どうせ審査されるなら,女性の方が良いと思って並んだ列の女性審査官であった。(これが結構美人,しかし撮影禁止)

 「チンプン カンプン・・・・・・・・・・・・・・・」

 外国で聞く本当の外国語は,右の耳から左の耳へスゥーッとアルファベットが簡単に風のように抜けていった。

 本当のところ聞こえなかったのか,ヒアリングがダメだったのかは定かでなかった。

 他の男性審査官2人に審査を受ける列の人達の3倍くらいの時間を要したのであった。

 まさか,『桃太郎の鬼退治』という名目のテロリストとでも疑われたかとも少々あせったが,イングリッシュヒアリングに心がけたのがいけないのであった。

 今の状況を察し,「20日まで,トゥエンティ マーチ,えーとバンフ スキー」 と桃太郎は言った。

 女性審査官「Five Day OK Good Ski」と5日間と訳,『早く,それを言ってくれよ』の心境だった。

 口が滑らないのは,時差ボケと自分に言い聞かせ,合理化をはかった。(合理化とは行動のあとで理屈をつける)

 荷物の受け取りでスーツケースとスキーを受け取った。

紺のスーツケースに赤のベルトは,目立っているので自分の荷物であることが判別し易く,良かったなと感じた。


 早速,新車寅次郎と森五蘭丸はレンタカーの手配であった。

 その他の者は荷物とともに空港ロビーでボーッとしていた。

 新車寅次郎に「両替でもしてたら」と促され,荷物看視を交替でしながら,空港内の両替所で両替をした。

 カナダドルは、約82円であった。

 レンタカーの手配は予想に反し時間を費やしており, また,会話量が多そうな事情である。

 傍らから見ていて異国の地へ来ては,やはり新車寅次郎の引率なしでは困難であることを感じ,一層の有り難さを覚えた。

 レンタカーのミニバン2台に分乗の予定であったが,スキーキャリヤがないので荷物が入りきれない状況となり,乗用車を1台追加して借りることになった。

 当初は,新車寅次郎と森五蘭丸の2人の国際免許を所有して,運転することの予定であったが,半日双六もハンドルを握るということになった。

 念のためにと,半日双六と宝樹七大との2人も国際免許取得の手続きをしていたのだ。

 バックアップの重要性をあらためて確認したのであった。

 空港の駐車場を出る。まさに外国の道路であるロードである車は右側通行の世界。

 まずは,カルガリー市内のカルガリータワーに向けての走行である。

 桃太郎は,かって所有していたアメ車マスタングのため,

左ハンドルには驚かないが右側通行は解っていても大変である。

 しかし,心配をよそに平然,軽々と日本国内でのように運転する森五蘭丸,なかなかスムーズ。

 トップを走行のミニバンはトラドライバー,2番目を走行の乗用車はハンドライバー,3番目のミニバンはモリドライバーで,栗胡桃太郎,眠梨三四郎,宝樹七大の同乗である。

 大排気量のエンジンは快調,トヨタ・エスティマに似た白い車だ。

 カルガリー空港から市内に向かう郊外風景はどういうものかとも想像しないままの目に入ってくるのは,まさに異国の様。

 送電線がなんと木柱,配電線が見えない(地中線であろう)と視野に入れる。

 桃太郎は送電線に感心が強いのである。

 それはともかく,広々とした草原,凍った川,小さく古い車そして女性ドライバーの多さなどなど。

 びっくりしたのは,交差点での縦型の4灯の信号機である。

 最初の個所では幸運にも青信号であったため無事に通過していたものの気がかりを覚えた。

 車寅次郎からの説明もなかったし,ガイドブックの説明にもなかった。

 日本と同じで矢印でも表示されるのだろう程度が3番車での認識であった。

 気がかりは,すぐにその状況になった。

 交差点を1番車が通過中,謎の4ツ目信号が表示変わって,予想をしてない他の車が発進しつつある状況に,判断の迷いが出てきたのだ,明らかに日本国内と異なる表示と知ったのは,次の交差点での左折の場合だった。

 2番車が正面の青信号で左折を完了しつつあり,当3番車が左折開始状況で交差点中心付近にいるとき,対向車線の現地車がスタートし始め,こちらの車が『なぜ走行しているのか!』という雰囲気であり,対向車線を直進する車の青い目のドライバーの白い目を感じ, 赤面の思いをしたのだった。

 ハンドルを握っていない前部右側シートの眠梨三四郎はさぞ青い目の白い目を間近に見たのだろうと同情した。

 カルガリータワーについた。

 立体駐車場であることに意外性を感じ,空きがなく,相当な時間を費やすのも意外であった。

 やっと空きをスペースを見つけ駐車しようとした新車寅次郎,青い目にクレームをつけられている様子。

 会話の流れと言葉は桃太郎には通じなかったが,顔の歪みで何の事情かを察することができた。

 その区域には,『 Canadian Air Line Only 』という表示を見つけ,間違いなく関係者以外駐車不可であることを理解した。

 やっとの事で駐車の空きスペースを探し当て,止めることがてきた。

 街を一望できるというカルガリータワーでは,エレベーターが重力と速度を感じさせないまま,わずか1分位の所要時間で190.8mの展望階まで案内してくれた。

 遠くにカナディアン・ロッキー,中程の丘陵にはパラパラと住宅が点在,近くにはカルガリー市街が整然と落ちついた色で眼下まで眺望できた。 

 ひとまわり出来るこの展望階からカルガリー空港方面を望むとその背景は地平線。

 ゆるやかな弧を描き,まさに地球。まるい。

 小名浜のマリンタワーから太平洋を望む水平線は海球とでも言い替えか・・・と感じる光景であった。

 しかし,こんなに果てしない広大な土地なのに何故か市街地には高層ビルもあり,この下は立体駐車場と集中している。

 一極集中がいけない。分散。遷都。とか現在日本では言っているが所詮,人間は群れたがる

のではないかと覚えた。

 エレベーターで階を降りると出口の横には,『カルガリー・オリンピックの記念にこのタワーを建設した』の旨をしるしたプレートがあった。

 入口でもあるこの出口だ,このプレートをまず見てから昇るのが常識であったと反省した。

 つづいて,市内を少々徒歩し,グレンボウ・ミュージアムを見学する。

 北米の開拓の歴史を知ることが出来る博物館であった。

 映画でお目にかかるものばかりの陳列品に,見学時間の足りなさを感じたが,カナダ到着の初日からスキーを予定していたところを,カナディアン・ロッキー南玄関口であるカルガリー市内の観光に変更して,この行程にした新車寅次郎にまたまたの感謝。

アルバータ州と北西カナダの歴史を学べたのであった。

 カルガリーからバンフへ向けて再びドライブとなった。

 市街地を抜け,郊外へ出るとまもなく,カルガリー・オリンピックが開かれたスキージャンプ競技会場のシャンツェがありどんな冬季オリンピックであったかを思いだそうとさせた。

 そこを過ぎると,もう牧場ばかり,季節柄,牛の姿はない。

 とにかく真っ直ぐのハイウエイ。素晴らしい広大な景色だ。

 トランス・カナダ・ハイウエイを北西へ走行する。

 大平原にポツリとガススタンドに併設されたコンビニエンスストアーに立ち寄る。

 昼食のタイミングを逃していたので,めいめいにより軽食,ドリンク等を買った。

 店内は,桃太郎の住む町のセブン・イレブンよりも小さくて意外であった。

 一挙に11人が入店のためか一層窮屈に感じ,レジを扱っているカナダ人青年が真剣そのものという雰囲気であった。 

 桃太郎は,カナダだからカナダ・ドライ・ジンジャエールを買った。

 しかし,ブラジルではないがコーヒーも買った。これは正解であった。     

 初めての買い物、カナダドルの使用開始である。

 時刻の感覚がないまま,喉の乾きから先ほど求めたジンジャエールを飲むと,それはびっくりするような未体験の味でありトルコ石の色のような飲料水で,とても全部飲めるような代物でなく残すはめとなった。

 しばらくすると,ポテトチップスを食べていた音が消えた,ドライバーの隣シートでは,既に夢の世界の眠梨三四郎。

 「大きいよ,このポテトチップスは・・どうぞ」と桃太郎にすすめてくれていたのは,ほんのちょつと前だったのに。

 航空機内でも,離陸後水平飛行になって,まもなくは,新聞を見ていたようだったが,機内食をとる時以外は眠っていたようである。

 こんなに良い景色を見ないのは勿体ないのに。

 日付変更線を越えたので,夜がなかったままの昼間。

 眠りにつくのが普通なのかもしれないが,勿体なくて眠っていられない桃太郎,後部シートのドライバーのうしろで,車のウインドウに顔をつけるように流れる風景を見る。 

 ドライバーの森五蘭丸に「モリちゃん,いいね,異国の道をドライブできてね,ドライバーは得だよね,眠られないもの,フロントは眺めは良いしね,一番良く景色を眺められるシートでも眠ってしまうのは惜しいよねー」。

 本当は,森五蘭丸も『絶対眠いはず』と思っても,桃太郎はやさしい言葉をかけるのです。

 普通の日本人は,きっと「悪いね」とか言って苦労をかけている人,世話をしてくれる人に対して,ご機嫌をとるのだが,異国人は,「悪いね」と言うと,言われた方は『何か悪いことをしているのか』と誤解されるからなのです。

 やはり,効果てきめん,モリ・ドライバーは,益々の余裕ができ,目と口と耳がしっかりしたのでありました。

 電圧15万ボルト級の木柱の送電線が,ハイウエイと並んで延々と建っている。

 鉄塔の好きな桃太郎には拍子抜けの光景。

 カナディアン・ロッキーが目前にせまり,壮大な景色に一睡もしていないながらも目を見張る。

 雪を頂く高峰,切り取ったような岩,岩,岩壁の山脈だ。

 その雄姿は,かって日本中央アルプスの雪景色を初めて見たときも感動したが,その比ではない。

 ロックなのだ。「Rock。そうかあ・・,ロッキー山脈の由来はこれか,愛称でRockyか・・」 と桃太郎は言った。

 宝樹七大に「なあるほど」と感心してもらえ,早稲田大出に受けたために気を良くした桃太郎。わが意を得たりの満足。

 地理の学習や,地図で見る文字のロッキー山脈,それよりも「百聞は一見に如かず」である。

 何故『語源をさぐる』(日本語)の本を選んで持参したかの的を射たことに喜びを覚えた。

 300kmほど走行すると『BANFF』の標識があった。

 いよいよバンフと左側の風景を見ていると,パンフレットやカレンダーの写真で見ている,森と山の背景の中に,バンフ・スプリングス・ホテルの古城のような姿があった。

 明日の夜の宿泊のホテルだ。

 きょうの宿泊は,もっと西へと通過する。

 ジャンクションで,ボウ・バレイ・パークウエイに向かう。

 すると,有料道路の料金所とおもわれる建物があった,ログ・ハウスのしゃれた建物であった。

 1番車が停止し料金をまとめて支払う。

 そういえば,ハイウエイの料金を支払うのは出口か,と思いきや手,バンフ国立公園を通過するために,1日当たり8ドルを必要だったのである。

国立公園の入口だった。

 いよいよ最初の宿泊地のレイク・ルイーズまで50km余。

 風景の良い観光道路の様子,右も左を見ても絵はがき写真。

 大自然は,あたりまえだが写真のようにフレームがない。

 1番車の新車寅次郎の車がトラックを追い越しかたと思ったら突然,右側の空き地みたいなところへ入り停車した。

 いつのまにか2番目になっていた当3番車のモリドライバーは急にその場所に右折できず通過してしまった。

 新車寅次郎は眠いので,仮眠でもするのだろうと思ったので,待つことにし, 道路の右端に停車した。

 ハイウエイであるので停車はどうなのかなと不安ながらも停車していると,寅次郎の車は空き地を一回りした後に追ってきて停車した。 

 景色の良い連続だったが中でも有名という山,キャッスル・マウンテンを見せるための停車だったらしい。

 先ほど山の中腹で人が立ち入り不可能なところに大きな口のような横穴を見つけ,何だろうと気になっていた山であった。

 車から降りると道端には雪があって,すぐそばには凍った河があり,ここまで来た方向の南東に流れているように見た。

 やはり,新車寅次郎は眠りたいらしく,居眠り運転の一歩手前の状態だったらしく「ちょっと眠っていくから」と休憩。

 1番車と2番車では,ドライバー以外の同乗者全員が眠っていたらしい。

 桃太郎 「ちょっと,サーモンをとってくるから」と言って河の写真を撮った。

 桃太郎は犬にも化けるのであった。河の岸にマーキング。

 しかし,後でバンフに着いて,新車寅次郎に「このボウ河は,『帰らざる河』の映画の舞台となった河ですよ」と聞かされ,マリリン・モンローが舟下りのシーンの河があったモノクロの映画のことを思い出した。

 このマーキングした河は,ボウ河の上流の方でそれにそそぐ支流であったことを後で知った。

 新車寅次郎の眠気の回復は早い。

 再び車を走らせ『LAKE LOUISE』の標識に従って1番車に後続し,左折しようとしたところ,これまでは順調にドライブしていた当2番車が突然,中央分離地帯を右の状態で走行,木材を積載したトラックを前方に見る状況に なった。

 『右側通行の車両は,ロータリーを廻ると勘違いする』との事は,新車寅次郎のレクチャーがあった。  

 まさかそれの実証かとノンビリもしていられないので「モリちゃん,右」と言う。

 車は,ホテル・シャトー・レイク・ルイーズに到着。

 無事,カナダで初日のドライブ350kmを終えた。 

 後で森五蘭丸に交差点の件を聞くと本当に間違ったらしい。

 シャトー・レイク・ルイーズは,フランス王朝風のホテルで外観は意外や近代的で,館内は,シックであった。

 早速,「トイレは何処」とメンバーがキョロキョロ。

 引率のトラさんは,只今チェックインの最中。

 誰もカナダ美人案内カウンターに行って聞けない。

 そこで桃太郎は,建築の様子を見渡し,家相から歩き出すとまずレディ用を確認。

 並んでいるか,反対側がセオリーと見返るが殿方用がない,通路を左に曲がるとそれはあった。

 桃太郎は用をすました。

 戻ると,面々は「よく解かりましたね,聞いたんですか」と言う。

 「イヤイヤ,言葉は通じなくとも,家相と匂いは共通よ」と桃太郎は得意顔で,まず,森五蘭丸を案内した。

 チェックインを済ましたベルトラさんこと引率者の新車寅次郎からルームキーを渡される。

 桃太郎は,6階,639号ツインルームに眠梨三四郎と共に入室した。

 窓のカーテンを開けるとレイク・ルイーズ湖畔にある建物とすぐわかった。

 眼下は一面氷原の様な湖面であり,観光客がその氷上を散歩していた。

 目線を水平に戻すと,湖の両側が岩壁で正面には氷河の様な斜面が見えた。

 見上げると3000m級の山にはガスがかかり,その頂きは確認できなかった。

 桃太郎は,わが家を出発する際に「外国ではホテルに着くと家族の写真を立てるのよ」と言われて持参の写真と,また,娘に「わたしのかわりに,この皇帝ペンギンを連れていってね」と 言われて持参した『ぬいぐるみ』を持ち窓から景色を見せた。

 ペンギンを窓際に立たせ,記念撮影をするという念の入れ様という家族思いの桃太郎であった。

 正面に望む山は、ヴィクトリア(3423m)と観光マップで知った。

しばらくして,新車寅次郎が桃太郎の部屋に来てくれ,景色について説明してくれた。

 「好天の日には,目前に素晴らしい山が見えますよ,それを見に来るため,このホテルに泊まる観光客が多いので,夏にはホテルが満室で,予約が難しいん です」と。

 「夕食前に庭にでも出て,湖畔を散歩しよう」という設定であったが,時差ボケのせいか移動疲れか誰も出てこなかった。

 夕食時には,男はタキシードおよび女はイブニングドレスとまではいかなかったが,ドレスアップということで,ホテルのメインダイニングに向かった。

 新車寅次郎の手配で,素晴らしいテーブルが用意されており,面々,ニコニコと席に着く。

 しかし,サクラ姫は,なかなか着席しない。

 桃太郎の左の席が気に入らないのだろうか。

 ハッと気づいた,ここはレディファーストのカナダである。

 もう彼女は『なりきって』いるのである。

 あわてる桃太郎。最年長の一老と威張っていたわけではないのだが,サクラ姫に態度でレクチャーされたのであった。

 ディナーでは,ワインの注文から,もう何から何まで,全て寅次郎におまかせフルコース。

寅次郎さまさまである。

 国内で志賀高原プリンスホテルのディナーすら注文できない面々,メインコースの肉類だけを思い思いの好みで選択する。

 メニューが英語と日本語の併記が少々救われた気がするが,サクラ姫の食事のレクチャーをも受けて選択する。

 注文を聞く金髪の美人バーバラは,カモマイル姫に注文を聞くと,森五蘭丸と桃太郎をとばして,次にサクラ姫に注文を聞き,そして眠梨三四郎と宝樹七大をとばして,新車寅次郎の愛娘マリリン姫というように,時計回りに注文を聞いてまわる。

 やはり,カナダでは,レディファーストなのである。

 桃太郎は,隣席のサクラ姫が頼んだら『同じものを』と注文する目算がはずれる。

 桃太郎に注文を聞きに来た時には,覚えたものも忘れておりメニューを指すだけであった。

 ワインで乾杯の準備。長老ということで桃太郎に音頭の指名がかかる。

 「晴れていれば,明日の朝,窓から見えるレイク・ルイーズの景色は素晴らしいそうです。これからの天候とカナディアン・ロッキーでのスキーの楽しみを祈って,乾杯します,乾杯」

 「乾杯」。演奏付きの最高の雰囲気。

 食事中終始男女全員笑顔満足。

 半日双六,宝樹七大,鮒鯉金八,天重九地は楽しそうに飲む食べる。

 さらに目の保養までしていた。

 金髪カナダ娘の『バーバラ』のことです。

 宝樹七大は,「カナダで1番の人です」と決めつけている。

 食事は量もたっぷり時間もたっぷりあり,音楽は生バンド。

 ただし,サクラ姫と桃太郎が食べた子牛の肉は,子牛というわりには硬いようで,いわき日本のオルロフの方が,おいしいようである。

 サクラ姫は,日本のステーキのつもりで食べると予想が違いますよ,またまたのレクチャーであった。

 バッファローの肉を食べたあとは席で眠りに就く眠梨三四郎。

 そして,ワインとビールをおいしく飲んだ新車寅次郎がこれまた席で眠り始める。

 いつのまにか,年輩の夫婦とおぼしきカップルが演奏にあわせて軽快にダンスをしていた。

 ♪菜の花畑にー いりひうすれ・・・・♪・・・・・♪♪・・・・♪・・・・・

においあわし♪(メロディーのみ)

 「これは,あれれ『おぼろ月夜』だ」と桃太郎は日本の曲に反応した。

 面々にはあまり古すぎる文部省唱歌なのだろうか,それとも食事に魅せられているのだろうか,感激は薄そうである。

 折角,日本からの客ということで選曲しているのだろうに。

 しかし,曲が終わると面々が拍手,バンドのカップルも笑みで応え,日本の曲を他に演奏したが彼らは気に入っているのか,日本のレパートリーが少ないのであろうか,

 『おぼろ月夜』を一般の曲の間に繰り返し演奏した。

 曲がかわって,ここで,桃太郎はサクラ姫にダンスを申し込む。

 サクラ姫「スローはダメよ」というのでリズムの早い曲に再び誘うと「オーケー」。(なにか勘違いしていたよう)

 ジルヴァを1回踊ったのである。

 もう外国は,こういう風にするのが常識と思っている桃太郎です。(ゴルフと会食は社交であると)

 ホテル内のショップで最初のおみやげを買う。

 勿論,桃太郎の愛娘の大好きなベアのぬいぐるみ。 

 買う準備をしているが,店番のカナディアン・ヤングレディは電話中で,どういうわけか電話を中断どころか気配すらないのである。

 そういえば,カルガリー・タワーのおみやげ売場の場合でもそうであった。

 店内にディスプレイ風に並ばせた,ベアのぬいぐるみを撮影したいと思って,桃太郎は指差しながら,そのカナディアン店番に「ピクチャー,オーケー」と 聞くと「OK」と応答があり,撮影した。

 そして,その中から表情の良いベアのぬいぐるみを選んだ。

 桃太郎「プレゼント フォー マイ ドーター,ピクチャーオーケー」と言いながら,20ドル紙幣を手渡した。

 通じたようであった,電話中とはうってかわっての応対で,カナディアン・ヤングレディの店番は『ベアのぬいぐるみ』を片手に持ち笑顔のポーズで写真を撮らせてくれたのであった。

 森五蘭丸が笑って見ていた,もしかして変な光景だったか。

 隣の宝石店には,若い日本女性が店員としていた。

 どうせ買うのなら,カナダ人と英会話で買った方が付加価値が高いのにと思ったものの,なかなか可愛い日本女性なので森五蘭丸に似合いとツゥーシヨット。

 なにも買わずに「ありがとう」と言うと,彼女は「いいえ」と言いつつ複雑な表情をしたのを見ないふりををした。

 なんの意味があるのかと考えてしまうと出来ないことをするのが桃太郎,まるで修学旅行気分なのだ。

 新車寅次郎,マリリン姫の親子のおみやげ買いに合流する。

 一番奥の店で,カナディアン・ロッキーのロックを加工して作った飾り皿を見つけた。

 その皿は朝顔の花の絵をあしらったもので,桃太郎には模様も朝顔で石の皿とはと珍品に感じ,伴侶へのカナダのおみやげには最適と思った。

 まして,朝顔がカナダにも咲くこともうれしかった。

 しかし,その展示しているものはサンプルとおもっており,カナダ人の男性店員に「これと同じものを下さい」と日本語の桃太郎、英語では口から音にならなかったのである。

 勿論,通じるわけがない。

2人のカナダ人男性店員は顔を見合わせて何も解らない表情。(何語かも知らないよう)

 彼らは,桃太郎が異国人に急に話しかけられたときと同様の状態である。

 そして,首を左右に振り,手を広げて(わからないという)ブロック・サインをする。

 桃太郎は通じないことをおもい知った。

 店内の離れたところにいた新車寅次郎に「アサガオは英語ではなんて言うの」と聞くが,突然の質問に,さすがの新車寅次郎もとっさには変換できかねたようであった。

 あとで,『外国では,花はフラワーであって,種類は気にしない,この花は何とか種類まで関心をもつのは日本人ぐらい』ということを知る。

 とりあえず,その皿が欲しい桃太郎は再び店のカナダ人男性店員に立ち向かう「ジィス デザイン プレート プリーズ」。

 眉間にしわを寄せた彼らは,頭を右に傾けながら,手によりその皿を示す。

 『そのものだ』というようなジェスチャーである。

 日本のおみやげ店と同じシステムと思い,展示品と同じもので,箱入りの物を商品としては別な物を渡されるものと思っていたのである。

 何とか買い求めることにやっとたどりついて,おみやげ買いを終わる。

 部屋に戻ると眠梨三四郎が「2日分として,タップリ2時間かけて風呂に入っていた。

 気持がちいい,風呂は用意ができていますよ」と言いながら浴室から出てきた。

 森五蘭丸が部屋に遊びに来て,出発から今の時間までの事をいろいろな話をしているともう眠梨三四郎は既に眠っていた。

 まもなく続いて,森五蘭丸もソファーにもたれたまま眠りに就いてしまったので,桃太郎も風呂に入ることにした。

 風呂から出ると森五蘭丸が目を覚まし自分の部屋に戻った。

 長い1日が終わり,全ての面々が睡眠時間に入ったようだが桃太郎は寝つかれなかった。

 桃太郎はテレビジョンを見ながらを眠る性質がある。

 しかし,カナダのテレビジョン放送は『イングリュッシュ』ばかりの番組である。

 桃太郎は,眠れないままに朝を迎えた,しかし,夜明け前のレイク・ルイーズの光景もファンタスチックで,このシーンを見られたのも幸運であった。

 新車寅次郎からのモーニングコールのベルは,一夜寝ないまま聞くことになった。

 『ジリジリジリ』という音に眠梨三四郎は,電話を一所懸命抑える動作をする。 (どうやら、目覚まし時計の音を止めるしぐさのようである)

 そして,ムックリと上体を起こして「なーんだ,もう起きていたの」と言った。

 桃太郎が「ずっと,起きていたよ,眠れなくてね」というと三四郎「桃太郎さんの寝ているところをまだ見たことないね」と言う。

 そういえば,よく眠る人と眠れない人との関係はそうなのである。

 桃太郎,眠梨三四郎の眠りながらの観察力に妙な感心をするのである。 


異国2日目(1996・3・16)

  

 ホテル・シャトウ・レイク・ルイーズの朝食はバイキングであった。

 どれをとっても美味しい,パンの味が殊更に記憶に残る。

 スキー初日のスキー場は,近くのレイク・ルイーズである。

 レイク・ルイーズ・ドライブという道路とホワイト・ホーンロードが直線で接続されており,わずかな時間でスキー場駐車場に着いた。

ベース・エリア着き,新車寅次郎がチケットの手配をしているのを待つ間に,ガイド・マップを見ているとここはアルツ磐梯スキー場に似ていると感じた。

 景色は比較にならないが,レイアウトと斜面のネーミングがそっくりだった。

 猫魔ボールTとか猫魔ボールUとか,まさしくこのスキー場のものまねであったことを知った。

 カナディアン・ロッキー最大を誇るというスキーエリア。

 不意に,日本人女性が声をかけてきた。

 「スキー教室ですか」と。事情がすぐには解らなかった。

 日本から来て,まさかここでスキー教室からはぐれた人かな,

 とも,はじめは思った,しかし,その後の説明で要領を得たので「スキー教室程度でなく,われわれメンバーは,スキー大学ですよ」と答えた。

 その彼女は,スキー教室ならば,同行して,ビデオ撮影するということの営業していたのだった。

 「スキー・ナウをご存じですか,あれは,私たちが撮影しているんです」という。

 桃太郎「勿論、知ってるよ,出演の上原由は,もっと知っているよ,去年,一緒に飲んだし,ゴルフも一緒にやったしね」

 彼女,なんだか,えらいのに声をかけてしまった,という顔をしたようだった。

 「福島のカメラマンの鈴木晋平さん知っているか」というと本当なのかは疑問だが,その彼女「知ってますよ,ああそうですか」と言って,名刺を出してきた。

 その名刺は,カナディアン・ロッキー・ビデオ 西山早由美とあった。

 傍らで,眠梨三四郎が「ずいぶん,ローカルな話しになってしまったね,ふくしまの話しとは」と評していた。

 桃太郎は「今日のメンバーには,専属のカメラマンを同行しているよ」といって,森五蘭丸を紹介すると,なんと彼女は「是非,ここでカメラマンをやってって」という話しとなってしまった。

 正面の「オリンピック・チェアー」というリフトに乗った。

 カナダでは,リフトをチェアーということを知った。

 チェアで中腹にさしかかり,後ろを振り向くと南西方向に,レイク・ルイーズとホテルが俯瞰で見られ,きのうは見えないビクトリア・マウンテンの頂上まで見ることが出来た。

 写真を撮ろうとしたが,温度が低いためか,カメラの調子が良くなくシャッターを思うように落とせなかった。

 後ろのチェアに乗っていた新車寅次郎が,「朝顔は,モーニング・グローリーですよ。おもいだしましたよ」と桃太郎に大きな声をかけてきた。

 昨夜のギフトショップで,朝顔の模様の皿を買う際,店員に説明するために必要だった単語のことである。

 新車寅次郎は朝になって自然を見て『アサガオ』を思い出したようである。 

 続いて,森五蘭丸が突然「リスがいた!,見た?」と声をかけてもらったが,桃太郎と眠梨三四郎はその姿を見つけることができなかった。

1本目の滑走。勇んで滑り出すのは睡眠時間たっぷりとった眠梨三四郎だ。

 続いて滑り出す新車寅次郎。全員順調。

 森五蘭丸はビデオを撮りたいのにみんな滑り出してしまう。

 パウダースノーというふれこみの先入観念があったためか,雪質の良さは感じられなく,アイスバーンのようではないが,硬い雪だなという印象だった。

 コースを案内をしている新車寅次郎がコース分岐点で止まる。

 スキーエリア・マップを広げてコースの確認する。

 ブラック・ダイヤ・マーク(上級),ブルー・スケア・マーク(中級),

 グリーン・サークル・マーク(初級)の斜面を見極めている。

 それぞれの技術に応じたコースを選び,滑り降りられるようマップにマークが表示されており,コース入り口と分岐個所に立て看板により,案内されている。

 車寅次郎は,面々が初日の滑りであり,1本目ということでブルー・スケア・ マークを選択の配慮をして,滑り出した。

 続いて滑り出すはずの眠梨三四郎が,「アレッ、カネダ!」と言ってかがんで手で雪を掴んでいる。

 ここは,『カナダ』なのに『カネダ』と言って,雪を確かめているにしては,洒落たことするなと思ったら,な,なんと,カナダ・ドル紙幣を拾っているではないか。

 「20ドル,いや,40ドルだ」と驚き声の眠梨三四郎に,「まだ,その脇に落ちてるよ!」と森五蘭丸が斜面の20m位の上から叫ぶ。

 また拾う眠梨三四郎「合計70ドルもあるよ、アハハハ」と満面笑みの状態。

 「三四郎は,よく拾うね、何処のスキー場にいっても何かを拾うものねー」と桃太郎は,言いつつ,十数年前の遠征スキーの際も苗場のゲレンデ内で腕時計を拾った件を思い出したのであった。

 「カナダへ来ても,下ばかり,見ているの」と冷やかした。

 眠梨三四郎「きょうのお昼は,みんなでこれでいただこう」というと「賛成!」と面々ためらわず同意。

 レイク・ルイーズの前面という南斜面は,初級,中級,上級斜面が入り交じった状況で,コース選定に迷いが出る。

 チェアで乗り継ぎ,頂上(2591m)へは,Tバーリフトによって届く。

 Tバーリフトが苦手というサクラ姫が別行動となることからチェアリフトの乗り場までエスコートする。

 Tバーリフトの乗る場所へ行くとマリリン姫がポツンと一人で待っていた。

 Tバーから脱落し、振り出しに戻ったとのこと。

 桃太郎「再挑戦してみる?」というと,「のぼります」との元気な返事。

 Tバーリフトでのぼる。

 途中結構急な斜面があるので,姫には大変難度が高い上りである。

 マリリン姫,今回は成功である。

 しかし,これは上りの困難度D(殿方でも)である。

 頂上では,レーク・ルイーズを背景として記念撮影。

 降りるコースはブルー・スケア・マークとなっている尾根状の斜面を東方に滑り出す。

 マリリン姫が同行しており,深雪の状態だったので『コースの選択ミスか』と心配したが,彼女は克服し,滑り降りる。

 つづいて沢状の狭いコースを滑り降りた。

 そこは比較的混んでいて滑りにくかったようだった。

 滑り降りる途中に,先に頂上に登って,一旦,先に下ったマリリン姫の父,新車寅次郎が愛娘を心配してか,再びリフトで上って行くところに上下で交差した。

 「桃太郎さん」と頭上を行くリフトから声がかかる。

 桃太郎とマリリン姫が同一行動しているのを見ての安堵の顔と声だった。

 滑って見て,なお,「アルツ磐梯」は似ていると思った。

 ホワイト・ホーン・ロッジという位置のレイアウトも,ほぼ同じだった。

 ただ建物の雰囲気は違っていた。

 『適度な休憩』をと,午前のコーヒーブレイクとした。

 新車寅次郎「いやー,カネ落としてしまたっぜ」

 桃太郎「いくら」 新車寅次郎「70ドル」

 桃太郎・森五蘭丸「それじゃあ,さっき拾った70ドルか」

 新車寅次郎「なになに!,それ・・・?」

 桃太郎 「さっき,コースの分岐点で止まったとき,三四郎が丁度70ドルひろったよ,それだよきっと」

 眠梨三四郎「なーんだ,もうけたと思っていたのに」

 森五蘭丸「身内で拾って良かったね」

 桃太郎 「トラさん,カナダの法律では,拾得物を届けるというのはないんでしょう,これは,どういう裁定になるのかな」

 眠梨三四郎「ここのコーヒー代は,トラさん持ちね」(権利を主張せずポケットから70ドルを取り出して渡す)

 新車寅次郎「助かったよ,コーヒー代,オーケー」一件落着。

 まあ,愉快な仲間なのである。

 休憩の時まで滑っていたところは

 『 Front Side/South Face 』(前面/南斜面)の比較的容易な斜面だった。

 それでも,コースになっているが,行ってみると,下が見えないほどのこぶ斜面があり,幅はそんなに広く感じなく,結構体力を要する斜面でもあった。 

 しかし,山の背面にまわると難度は比較にならない。

 パラダイス・チェアで昇ると,チェアの下に見える斜面は,見たこともないような『急で,広くて,長く,こぶだらけ』であり,パラダイス・ボウルMost Diffcult)という名の斜面であった。

 かって,初めての長野県八方尾根を訪れ,黒菱の斜面を見たとき,その斜面の凄さに驚いたときと同じ印象であった。

 ただ,あの時は,どうやって滑り降りるかと一瞬ひるんだが今は違う,どの技術を屈指してこの斜面を征服するかである。

 右側の斜面は,テレビの『SKI NOW』の撮影シーンに使うような岩壁に雪がついたような斜面(Paradice Comice)で,極度に困難なところで,転倒したら滑落を覚悟しなければならないような,モーグルのプロスキーヤー・モヒカン小林が滑るような垂直に近い斜面(場所)であった。

 楽しみに来たスキーヤーの立入る斜面ではなく,パラダイスとは,『極楽』という意味(阿弥陀仏の居所・・・まだ早い)を良く理解した。

 桃太郎,眠梨三四郎,宝樹七大,天重九地の4人は,お迎えの来ない,左側の斜面,パラダイス・ボウルを滑り降りることにする。

 他の面々は,サドルバックという名のとおり,日本でいえば,馬の背コースの迂回路を新車寅次郎のガイドで降り,合流することにした。

 南斜面と北斜面の稜線から滑り出すため,スタート地点を定める,ブラック・ダイヤモンド・マークであるが,これまでの上級者コースと比較すると,最上級の難度の斜面と覚える。

 一層,心身を引き締めさせられる状態になるのである。

いまから滑り降りるこの斜面は,一気には行けないと判断,刻むことにする。

 『3区分か』と桃太郎はつぶやく。

 桃太郎は,三四郎に「Par 3」と言う。

 三四郎「OK」と返事,『あ・うん』の呼吸である。

 栗胡桃太郎と眠梨三四郎は,ともに初めて滑り降りる斜面に立ち向かうとき,コース長,難度,天候等を総合的に勘案し,コースレートにより,踏破するのである。

 日本国内のスキーエリアの多くの困難な斜面を克服してきた二人の久々のゴルフコースに見立てての設定である。

 異国のスキーエリアでは,まずは初めての設定であった。

 全力の滑りであったが,タフでなければ『Par 3』維持のは無理であった。

 3回停止を余儀なくされ,4区分にしての滑り降りの結果となった。

 『Bogey』のスコアであり鬼退治はおあずけとなった。

 桃太郎「楽でないコースだね」

 三四郎「長いねー」

 といいながら斜面を振り返るのであった。

 しかし,二人とも逃げの精神と大きなダフリがなかった満足があった。

 苦闘して,まだ滑り降りてくる七大と九地を見守った。

 ラーク・エリアに移動すると,リフトに並ぶスキーヤーが多くなった。

 人気があるようだ。

 スキーヤーがリフト待ちで並ぶ列がセパレートされており,まずもって感心したのは,というか,なんというか,そこには「ティッシュぺーパー・ボックス」があった。

 早速利用する桃太郎。「異国のスキー場は,違うねー」と言いながら,眠梨三四郎にもティッシュペーパーを分けてやった。

 スキーヤーのマナーも良い。

 「ソーリー」と言って,カナダ人の子どもが親から離れたために桃太郎の脇を通過するのに声をかけて行く。

 当たり前なのに,感心である。

 カナダ人は,子供の躾が良いので,随所にこういうケースがある。

 それに比べて日本のボーダー族は,と思い出した。

 雪質も良く,滑走感覚も良いし,良いことばかりがだんだんはっきりしてきた。

 桃太郎は,西向き斜面であることを確認する。

 日付変更線を越え,カルガリーにつくと,早速に現地時間に腕時計合わせた宝樹七大に時計の針で方角を確認させていた。

 桃太郎の時計と森五蘭丸の時計は,日本時間のままである。

 桃太郎が言う「短針を太陽に向け,文字盤の12時の文字との狭角の中間が真南」ということを,宝樹七大は,半信半疑でいるのだ。

 桃太郎も日本ではそれは役に立っても,日付変更線を越えてカナダでも役立つかについて実証を試みていたのだ。

 勿論,磁針を携帯しての確認であり,自信を深めるだけだがマッキンリーに消えた植村直巳だってこれをやっていたかな,ということでの桃太郎の戯れであった。

 テンプル・ロッジで食事。

 セルフ・サービス・スタイルで,建物内は相当な混みようであったため,テラスで屋外での食事となった。

 食事の後で,ロッジの建物と背景の山を写真に撮ろうとしていると,中年のカナダ人が現れ,撮ってやるからみんなで並びなさい。

と言うようなイングリッシュで声をかけてきた。

 「ノー・サンキュー」と桃太郎は言うが,なんとしても聞き入れてもらえないのである。

 実は,このカメラはもう電池が消耗してしまい,暖めた後にやっとシャッターが落とせるのだ。

 このカナダ人には説明出来ない桃太郎。

 しかし,新車寅次郎はイングリュシュをわからなくて,断っていると見えたのか,「写してやるからって,いっているんだ」と言うので,やむを得ず面々全員で並び被写体とあいなった。

 カナダ人は,後ろにさがったりして懸命にフレームを決めていた。

 もうダメだ。日本のカメラの信用が落ちる。

 それも馬鹿でも誰でも使えるカメラとはいえ,好きなニコンがバカにされる。

 と心配していたのだが,その親切カナダ人はシャッターに指をかけ,押して,指を離して,良いことをしたという満足な顔をしているではないか。

 音もしなかったのに。

 巻き上げの音がしなかったので,確かに写っていないことは間違いないのである折角並んで,「チーズ」とは言わないまでも被写体になってもらった面々に対し,桃太郎「この写真は,確実に写っておりません,折角並んでもらったのですが,申訳ございません」と平謝りするはめになったのであった。

 日加交流には神経を使う桃太郎であった。

 午後は,新車寅次郎一人舞台の如く,彼が先頭になって滑る。

 リフトから降りると「オニバー」と言っては,滑り出すのに面々はタジタジ,勢いがついてしまったのである。

 『オニバー』とは,フランス語で『さあ,行きましょう』ということらしく,志賀高原へ遠征スキーの際に,初めてトップを引いた新車寅次郎が披露した 言葉だ。

 彼がこの言葉を使ったらもう『のっている状態』である。

 昨日は,ホテルに到着後直ちに睡眠し,ディナータイムにも睡眠を頂いているし,昨夜は早く就寝したような状態,充電,燃料ともフルなのである。

 一老の桃太郎が「マイッタ」を言わなければ,今日のスキーは終わりそうもない状況となった。

 桃太郎が遂に「トラさん,マイッタよ,きょうは,あがりにしよう」という。

 新車寅次郎「桃太郎のマイッタというのを初めて聞いたよ」と得意満面の笑顔。

 本当に余裕がありそうだった。

 本当に助かったのは,レディスメンバーだったのである。

 桃太郎はやさしいのである。姫の代弁をしているのである。

 しかし、新車寅次郎は厳しいのではない。

 「みんなに,いろいろなところをすべってもらいたいから」という本音,愛情なのである。 

 まだまだ滑っていない斜面を多く,未滑走斜面を残したが,レイク・ルイーズの一日の滑りを終えた。

 トランス・カナダ・ハイウエイを南東に60km戻るように走行し,ジャンクションでノーケイ・ロードを南進する。

 バンフの街にはいる。

 [WELL COME BANFF]の看板が大きく登場,観光拠点らしさを出している。

 すぐ鉄道の踏切があって,左側にはバンフの駅が見えた。

 少し走行し,右折すると南北に伸びる大通りになった。

 周囲を壮大な山々に囲まれた街並みは,お洒落に建築されたレストラン,ギフトショップ(おみやげ店)等が軒を連ねて,まるで映像の世界を車で走行しているような気分にさせられたバンフのメイン・ストリートの光景である。

 大通りを抜けると,ボウ川を渡る。

 その橋は,まるで皇居の二重橋の様な橋のデザイン,正面は国会議事堂風の建物である。

 後で新車寅次郎に「国立公園管理事務所ですよ」と教えられ,文化というか行政の違いを感じた。

 町はずれから1km程離れた森の中に石造りの古城のような重厚な建物,バンフ・スプリングス・ホテルがあった。

 カナダの2日目の宿泊個所である。

 建物の脇を通過し,正面玄関に向かう,到着。

 馬車に乗って来たような錯覚するほどの雰囲気のシーンだ。

 手荷物を持ち,玄関を入る。

 フロント・ロビーに入ると,ピアノ演奏が流れており,客を歓迎するホテル側のセンスの違いを感じた。

 曲が変わり,イントロ「♪あらしもふけば あめもふる・・・・・・・・」 これはなんと大津美子の『ここに幸あり』,日本のメロディーである。

 日本からの来客の姿で選曲し,演奏しているのであろう。

 勿論,「大津美子の歌だ」と桃太郎が言うと,キョトンする面々(若年層)ばかりであった。

 むしろ,面々は,異国のホテルのピアノの曲がまさか日本の歌謡曲とピンときなかったのかもしれない。

 新車寅次郎のチェックインが済み,ルームキーを渡される。

 1013号である。ハハーン「10階か,いい眺めだぞ」と喜ぶ,桃太郎の殿方七人。

 「私たちは,14階ということね」ともっと喜ぶ姫三人。 

 「部屋の方向は,あのレストランを左に曲がるとエレベターが有ります,荷物はホテルではこびますから,どうぞ・・」との新車寅次郎の説明を聞くやいなや歩き出す。

 フロントの左手方向に歩き,つきあたりを左にまがり,少し歩くと右側にエレベーターが確かにあった。

 早速乗る。ドドドッと乗る。ブザーがなる。

 「誰かが重いぞ,荷物あっからな!, 重量オーバーだ! 」の『流暢ないわき弁』に≠ミるむ鮒鯉金八ほか4人は,後ずさりして降りる。

 扉を閉めると再びブザーが鳴った。

 このブザーは,扉が閉まる際に鳴るブザーだったのである。

 階指定のボタンと表示には,9階までしかなかった。

 「10階以上は乗り継ぎにでもなるんだろう」と早合点し,ボタン9を押し上昇,9階に降り立つ,予想に反して乗り換えエレベーターがない。

 どういうことかと見渡していると,ちょうどタイミング良くホテルマンが現れた。

 桃太郎がルームキーを見せて,「フォェアー」。

 ホテルマン $「オー ジス ルーム ・・ フロア・・」

 ホテルマンは,『この部屋は階にはありません』と説明しているらしい。

 『そんなこと知ってるわい』だから,聞いているんだよ,と思ったが,

 桃太郎   $「プリーズ ガイド」

 ホテルマン $「エレベーター ダウン・・ リターン・・トゥ ワンフロア・・ ライトサイド・・・ ダイニングルーム スルー アウト レフトサイド・・  ニューカーペンター」

 桃太郎は,一姫のサクラ姫が,そばにいるので,聞いているものと思い,安心状態で,うなずきながら聞いていた。

 昨夜のディナーでの彼女の会話を見ていれば,頼って当然。

 しかし,桃太郎が「サクラ,解った?」というと,なんと,「聞いていなかった,なんだかボウッとして聞いてなかった」いうサクラ姫だった。

 スキーの疲れとかなんとか言い訳していたが,桃太郎と美男カナダ人中年男性ホテルマンの対話に見とれて,聞いていないのではと桃太郎は思った。

 どうやらボウ川を渡るとボウッとするらしい。

 マリリン姫にも問いかけたがやはり聞いてなかった。

 桃太郎は,責任を感じて脳を回転させ,通訳はできないが,断片的な単語訳をしたのであった。

 『そのエレベータで1階まで降り右側に行くと,ダイニングルームがある。

 そこを通り過ぎるとニューカーペンター』。

 『そ,そうか!』 

 『$ニューカーペンター』は,[%新しい大工〜#新しく大工を入れた〜¥増築]と解読したのであった。

 ($=イングリッシュ,%=概直訳,#=程度をあげ解釈,¥=日本語  桃太郎風展開)

 桃太郎は,「新館だ」と思わず声をあげ,面々を誘導した。

 エレベーターに戻ろうとすると,先ほど重量オーバーと思いエレベーターを降りて後続のエレベーターに乗って来た面々が9階に来た。

 桃太郎「リターン。1階まで戻り,まるで『すごろく』」と後続の面々に言い,再びエレベーターに戻って乗り,1階まで降りた。

 右へ向かうとレストランがあった。

 桃太郎は,レストランを通り抜けるのは,いくらなんでも恥ずかしいと感じた。

 窓から外を見ると先ほど車で玄関まで通り抜けた道をアーチでまたぐ建物にいることを知った。

 面々には「トラさんが来るのを待った方が良いね」と言い残して石の階段で外にでた。

 映画のワンシーンでお城のバルコニーから螺旋の石の階段を降りる気分であった。    

 ロータリーとなっている車道から玄関らしいものを探したが見つからない。

 しかし,通用門があり,若いホテル関係者がいたので,再び桃太郎は,ルームキーを見せ「フォェアー」と同じことを聞いたのであった。

 ホテルマン(青年) $「ステップ,ダウン,ストレート,ゴー,ドア,アウト,レフト,ゴー,ニュー・ビルディング,ユニフォーム,ルームキー・ルック」とゆっくりとした口調で単語を区切り,手振り身ぶりで教えてくれた。

 この階段を下りて,真っ直ぐ行くとドアがある。

 そこを出て左へ行くと新館があって,わたしと同じユニフォームを来た者がいるから,鍵を見せて案内してもらいなさい。ということが良く理解する事が出来た。

 カナダ人でも,中年と青年とでは,『新館』をニュー・カーペンターとニュー・ビィルデングとのボキャブラリーの使いの違いを知った。

 日本だって,都会地方と田舎地方では違うから,と納得し,知恵がついたと喜ぶ桃太郎だった。

 そのとおりに,行動すると,すでに面々は,新車寅次郎に引率されて新館入口のロビーに着いており,もう既に入室をすましていた。 

 部屋に向かうのに,エレベーターが下降するので,一瞬は,上昇するはずなのに,どうして,どうなっているのかを察するに時間を要した。

 渓谷に面した斜面を利用して造られた建物であり,日本旅館ならば, いわば『離れ』のようであった。

 桃太郎と同室の眠梨三四郎は,ルームキーを桃太郎が持っていたことから入室できずにおり,新車寅次郎と森五蘭丸の室内で待っていた。

 今晩の食事は,「バンフのダウンタウンに出て,夜の大通りを散歩し,前回訪れた際,次に来る店は『ここ』と決めていたレストランに行くから5時30分ロビー集合です」と新車寅次郎から説明された。

 そろそろ時間かな,と思っていると電話がなる。

 新車寅次郎からの「姫三人の荷物が,部屋に届いてないとので町へ繰り出す時間を遅らすことになった」という一件だった。

 しばらくして,電話で「出発用意オーケー」と連絡があった。

 ロビーに行くと面々は,ニコニコ相として,待望の夜の散歩を待ちどおしそうにしていた。

 新車寅次郎の後に続いて,虎の威を借りる如く散歩の面々。

 栗胡桃太郎,眠梨三四郎,森五蘭丸,半日双六,宝樹七大,鮒鯉金八,天重九地,サクラ姫,カモマイル姫,マリリン姫という総員11人である。

 土曜日のためか,町の広場ではバンド演奏があって,にぎやかな夜の町となって,昼間見せていた『おしゃれな町』というより,若者のまちに変貌していた。 

 目的の[Giorgio’s]という店は,あいにく満員のため入ることが出来なかった。

 次の狙い,[CASCADE PLAZA]にも行ったが,何れも満員のため,道路向かいの[WOLF&BEAR]の一店,イタリヤレストランに決めた。

 テーブルは、面々が揃って座ることが出来なかったが確保。

 桃太郎,森五蘭丸,サクラ姫が一緒。

 食事のメニュー選択は,食事に関する英会話の得意なサクラ姫におまかせ。

 ワイン,前菜,スープ,肉,デザートともに全てが美味しく,おまかせメニュー,オーケー。

 ただし,タバコを吸う眠梨三四郎は食事後,外に出て街頭で吸っていて,何やら楽しい思いをしていたらしい。

 ホテルに戻るとホテル内のショップはまだ開いていた。

 今度はショッピングであった。

 ホテル内は,ショップ,飲食店等が数が多く,名店街としているようであった。

 ギフトショップでは,いろいろとすすめられたが,たいした買い物はせずに24時ちかくとなり,「シンデレラ・タイム」と言って帰ろうとすると,けげんそうな顔をしていた,桃太郎のジョークは,カナダでは通じないのである。

 最も,宝樹七大に「シンデレラ・タイムとは,なんですか」との質問される。(日本人でも早寝の方には解りがたい)

 桃太郎「23時59分,片方の靴が抜けた。馬車がかぼちゃに戻ってしまう時間のことよ」

 宝樹七大「なーんだ」。

 それ急げと部屋に戻ったのであった。

 お城のようなホテルで喜劇の舞台のように振る舞う桃太郎であった。


長文の半分です,時間がなく,急ぎの客人には,戻りをすすめます

異国3日目(1996・3・17)

 2日目のスキーは,カナディアン・ロッキーで一番人気の高い,サンシャイン・ ビレッジである。

 ロープウエイによりスキー場に向かうことと,日曜日ということから混雑を予想し,朝食は町でとることにし,出発。

 ボウ川橋を渡り,バンフ大通りを北に向かう,車のフロントウインドウにカスケード山が朝日に照らされて輝いて見える。

 バッファロー通りを左折,郵便局を右折するとベアー通りを北進,すぐのY字路を左折し,リンクス通を進むとウォルフ通りの交差点少し前の右側に,モーニングなら絶対「ここ」と車寅次郎が推薦の[BREAKFAST1990]という看板のかかった店があった。動物の名前をつけた通りの名が記憶に残った。

 早朝過ぎたために,店はまだ開いていない,待っていては,ロープウエイの駐車場と乗待ち時間の都合が悪くなるからと今朝は断念,明日のお楽しみということにした。

 昨日バンフの町へ入って来た道路を戻るように北進,バンフ西側からの出入り口となるノーケイロードからジャンクションでトランス・カナダ・ハイウエイを西進する。

 ノーケイロードから正面に見えるノーケイ山も絶景。

 バンフ入りと出るときの反対向きになっても,左右をみても360度全方位が美しい山岳景色なのである。    

 サンシャイン・ビレッジへは,山あいというより谷のような道路を16km北西に走る。

 ロープウエイの駐車場に近くなると左手の雪山の中腹地点に電柱があり,スパンが1000mはあろうかの配電線がある。

 高低差は,約500m位,驚異的な電線路である。

 眠梨三四郎も「ねーねー,何よあの電線は?」と桃太郎に声をかけてきた。

 桃太郎がカナダの送電線を気にしていることを知っているのである。

 ロープウエイ駅は[Gondora Base Station]となっていた。

 どうやら,最も早い到着のスキーヤーだったようである。

 せこい気もしたが,駐車場は最も便利な位置を確保できたのである。

 まだチケット販売もしていないことから,面々は,のんびり行動している。

 たちまち,駐車場に車が集まってきた。早い到着をかしこい選択したと感じた。

 しかし,ステーションがオープンの気配を見せ始めたのに,面々は,依然として悠然としている。

 桃太郎,眠梨三四郎,森五蘭丸の3人は,早く[Sunshine VillageGondora Station]まで上ってから朝食をとりたいと願っているのに。

 しかたないと,飲み物を注文し飲んで待っているたら,来たと思いきや,面々も飲み物を求め始めた。

 もう面々は北米大陸に順応し,大陸的行動なのである。

 当然,ゴンドラ一番乗りと予想していたのに,そんなことは気にする様子もなかった。

 桃太郎は,どうせ早く到着したのだから,語り草になると,当日一番乗りを果たしたかったのだ。

 「○○一の桃太郎」と。

 車寅次郎から「ゴンドラに乗ったら,左に曲がってから少し行くと中間駅がありますが降りないで終点まで乗っかって行って下さい」と説明を受けた。

 ゴンドラが左折する?,鉄塔設計にうるさい,桃太郎,はてどのようになっているのか気になりだした。

 ゴンドラといはいうので,蔵王ロープウエイを想定したいたところ,6人乗りのキャビンであった。

 乗ってみると,山々の眺望が良く,長野で,テレキャビンといっていることを理解した。

 まもなく左折の位置に来てビックリ,な、なんと「直角」に左折の索道であった。

 索道がロープウエイ,吊りものが舟のゴンドラ,屋根付きの室だからキャビン,みんな同じなのだ。

 桃太郎は,勝手に大きさで分類していたのである。

 全方位に見える雪山の斜面に広くレイアウトされいるスキーエリアを眺める。

 [GOAT’S EYE MTN.]という「山羊の頭の形で目の部分が張り出ている形」の山。

 [THE EAGLES MTN.]という「鷲が羽を広げた形」の山を左手に見ながら,終点[Sunshine Village Gondora Station]に到着する。

 そこは標高2160mの[Dayloge]のあるところでリフトが放射状に配置された要点である。

 とりあえず簡単な朝食をとった。

 さて,スキー開始。

 頂上までは,2本のリフトを乗り継ぐ,[エンジェル・高速クワッド]4人乗りリフト(1588m)で標高2539mで降りる。

ウォーミング・アップに手頃な斜面を選び滑り出し,山頂線ダブルリフトの乗り場に移動乗る。

 [グレート・デビット・ダブル](1138m)で,標高が2730m[LOOKOUT MTN]の山頂付近に昇る。

 「見ろ!」

 『ルックアウト』という山の名のとおりの眺望である。

 自然の展望台だ。

 ロッキーの壮大な山々が,シネラマ,パノラマの眺望。

 レイク・ルイーズの[ホワイト・ホーン]でのリフト終点が2591mであったので,この地点が今回のスキー・サミット最高地点となったのである。

 真の頂上までは見上げる程の高さを残したが,2700mと面々の記憶に記録した。

 素晴らしい自然の斜面,誰もが上手なスキーヤーに変身し,楽しめる斜面である。

 気温は低いようだが,風もなく,湿度も低い,暖かいのだ,太陽の光のおかげである。

 「サンシャイン」だから「サンシャイン・ビレッジ」の命名なのであろう。

 こうして,山の名,川の名,湖の名,谷の名,町の名,通りの名,村の名,スキーエリアの名,斜面の名,リフトの名までさえも,当然のようにぴったりのネーミングである。

 振り返るのもつらい日本のスキー場の名前,斜面とリフトの名前である。

 今回滑った斜面の内,最も気に入った斜面のネーミングは,『#42 Strawberry Face』,この日は整備が行き届いて,

 フラットであったが,きっと『イチゴの顔といわれるような,凸凹の丸山』を想像させる。

 スキースクール専用,キッズ・キャンパス・リフトもある。

 『#22 Tee Pee Town』ここが今回スキーの最大斜度であった。

 ブラック・ダイヤ・マーク(上級)の急で大きなこぶ斜面・ ブルー・スケア・マーク(中級)の中・急な斜面,グリーン・サークル・マーク(初級)の緩・中斜面を思い思いそれぞれの技術と楽しみを体験した。

 昼時もトイレも忘れるように,滑る,夢中ですべる,これがスキーの醍醐味であろう。

 朝食は遅かったので腹は減っていない状態なので休憩なし。

 しかし,新車寅次郎が,愛娘マリリン姫のためデイ・ロッジへ戻ることになった。

 それでは,全員,一旦山頂まであがって,一気に滑降しようということになった。

 面々が全員集合し,いざ一斉にスタートをしようとすると,ウサギ年生まれの眠梨三四郎「あそこに見えるロッジまで誰が一番先に滑りつくかの競争」を提案した。

 そこで,桃太郎,「それでは,だいたい勝負は決まったようなもの,ロッジへ入り,トイレを済まして,テラスのテーブルについたら一番」と修正案。

 眠梨三四郎「トイレに行く必要のないものもいるし,ロッジの前に着いて,スキーラックに一番先にスキーを立てかけた者を一着としよう」と再修正案。

 合意,可決。

 「レデーカウントダウン5,4,3,2,1,スタート!」 標高差約540m・距離約2500mのダウンヒルレースとなった。

 トップにたったのは,やはりウサギの眠梨三四郎。

 2番手には宝樹七大。

 3番手は新車寅次郎。

 4番手はビデオ・カメラマンの森五蘭丸。

 そして様子を見ながら,やや遅らしてスタートしたスチル・カメラマンの桃太郎である。

 面々パラレルで滑っている。

 桃太郎はすぐにクローチングにしたのでたちまち追い越す。

 そこで,ウサギの眠梨三四郎,目を覚ましてクローチングにフォームを直し,再びトップに立って左方の中斜面へ。

 カメラの桃太郎は,急斜面だが最短コースを選定,直滑降で軽くトップに再び出る。

 左後方にクローチングのウサギさんを確認し,桃太郎は悠々と滑る。

 緩斜面に入り前方にビギナーのカナダ人のスキーヤーを見つけたので安全のため減速する。

 するとたちまち,チャンスとばかりに追い抜くウサギさん,疲れたから『ま,いいか』と諦めつつある桃太郎,ところが,なんと,おっしゃるウサギさん右側へ滑って行くではないか,カメになっていた桃太郎にチャンスが出たのである。

 右側は最後を歩かねばならない,左側を行けば最後まで滑られる斜面なのだ,1回既に降りていたので状況を知っていた。

案の定,リフト乗り場付近を通過する頃,ウサギ三四郎は,勝利を確信したかのように,悠然とスキーをはずし,後ろを見ながらスキー片手に歩き始めるところだった。

 桃太郎が約30m横側を滑りながらスキーラックに近づき,スキーを立てる姿を見たときは,三四郎ウサギの目はまんまるであった。

 桃太郎カメの勝利であった。

 昼は,デイロッジの3階「バードゲージ」というレストランに入る。

 格子の中におり,鳥かごの中のイメージの内装である。

 何故,食事を鳥かごの中でとるのかが謎のままだった。

 メニューに「KAMIKAZE」というドリンクがあった。

 異国の地で,あまり味の合わないドリンクの類が多いので,

 日本人向きの飲み物かなとも思ったが,スパゲティとコーヒーを注文した。

 新車寅次郎と半日双六は,ビールをおいしそうに飲む。

 遅れて森五蘭丸が来たので「KAMIKAZEおいしいぜ」というと,彼はためらわずそれを注文した。

 彼は,滅多にこういう類の茶目をしない桃太郎の話を信じてしまったのだ。

 ウエートレスが「ホォーッ」と言い,目を見開いたときは,一瞬後悔したが楽しみもあった。

 森五蘭丸が「いいですよ,たのみましょう」にホットした。

 しかし,届いて彼が飲んだとたん「ナンダこれ!」と悲鳴に近い声をあげ,彼はグラスをおいた。

 桃太郎は責任を感じ,ストローでちょっと吸うと強烈な酒,カクテルなのである。

 ベースは,ジンか焼酎か,それも薩摩焼酎のような味であり,あとは何を混ぜているか不明だった。

 酒の飲まない五蘭丸は,コーラを注文し直し,その「KAMIKAZE」は,半日双六が飲み干した。

 小さい文字で『これを飲み過ぎた場合は,スキーは遠慮してもらいます』というようなことが記されていた。

 この店のインテリアは,もしかして,トラになったスキー人を捉える檻か,なかなか洒落ていると感心したのであった。

 注意書きを忠実に守るつもりなのか昼を食べた後,半日双六は「午後は滑りません,車に戻っています」と休養に入ったのである。

 実は,靴づれがひどく,リタイヤしたのが真相である。

 「ビデオカメラのバッテリーがないので取りに戻る」という森五蘭丸とともに駐車場に戻った。

 午後のスキーは「GOAT’S EYE MTN.]を滑ることにした。

 ブラック・ダイヤモンド・マークが多いので,姫スキーヤーのことを考えたが,ブルー・スケア・マークの迂回路コースもあることを確認し,クワッドリフトで上った。

 『#84 Mother in Law』大きなこぶ斜面であり,広く長い,手応え十分の難度の高いコースであった。

 続いて,ダブル・ブラック・ダイヤ・マークのエキスパート斜面『#80 Free Fall』の中間に入り,途中から滑った。

 この斜面は,リフトから見おろすと極急斜面で,幅も狭く,リフトと交差,支持物あり,という超難度Eと見た。

 安全を考慮,下からだけでも見上げておこうと斜面中間から入ったのだ。

 一本目を滑り降りると,森五蘭丸が麓で待っていた。

 「ダイナミックなコースだ,是非ビデオを撮って欲しい」と桃太郎は頼んだ。

 リフトで桃太郎は,「モリちゃん,ダイナマイトコースだ,爆発するぜ,いただきシーンが撮れる,ご馳走様となるかも」と話しながら,再び[GOAT’EYE HIGH SPEED QWAD]で標高2500mまで上った。

 一回目より,難度の高いブラック・ダイヤモンド・マークのコース『#85 Goat’sHead Soup』を滑り降りる。

 迂回路を廻って待ち構えているビデオカメラマンに向かって滑った。

 その斜面は,先に滑った眠梨三四郎がスタートすると上から見えなくなるほど急であり大きく深いこぶである。

 桃太郎は,ビデオ撮影しているので,『転倒して爆発の状態は避けなければならない,止まっては絵にならない』と必死の思いで滑り降りた。

 生涯,ノンストップ最長のこぶ斜面でなかったかと覚える。 

 最大限で心臓と肺臓に負荷をかけたと思った。

 肩でする大きな息づかいと,鼻みずがとまらない,ハンケチで拭き取る。

 きのうのレイク・ルイーズのラーチ・エリアのリフト乗り場にあったティッシュ・ボックスの必要性を再認識したのだ。

 カナディアン・ロッキーでは,吸い取り紙程度のポケット・ティッシュでは足りないのだと。

 また,カナダ人が『なぜか鼻の下にヒゲをたくわえている』男性が多いことを解明した。

 彼らは,決して女性の前で鼻の下が長くなるのを隠すためではなく,『鼻みず』をヒゲで隠すためで,長くて,急な斜面を平然と滑り降りるかのように振る舞うためである,と。

 後から,新車寅次郎と宝樹七大と天重九地が,やはり全力を出し切るように滑り降りてビテオに向かってきた。

 しかし,後にこの撮影のビデオは,機材の不調で映像として記録されてないことをこの時滑り降りた5人は知る由もなく,カナディアン・ロッキーの征服感に酔いしれて,鼻みずを拭き取り,『アルバトロス(Par4としてノンストップ)』達成としてレンズ付きフィルムの静止画像におさまったのである。

 気力と体力の必要な斜面はもうゲップ。

 やっぱり快適に楽しめる斜面は,ルックアウト・マウンテン『#29 South Divide』であると再び戻る。

 難易度は,ブルー・スケア・マーカー(中級)としてあり,比較的困難ということで選択する斜面だが,完全整備のせいか容易。

 そして,ネーミングどおり南斜面なので暖かい,もう全員の面々が大の気に入り斜面であった。

 時間の許す限り滑る滑る。

 しかも鮒鯉金八は,『グレート・ディビット・ダブル・チェア』に乗り飽きたのか,チェアからも滑り落ちる。

 あげくにリフト係員に『なにか,緊急を告げる意味のイングリッシュ』を告げられるがご本人は知らんふり。

 桃太郎は,鮒鯉金八がスキーを肩に,雪上を歩いて乗り場に戻る状況に,頭上のリフトから「大丈夫か」声をかけた。

 知らないふりをするわけにはいかない。

 このリフトでは『いろいろなこと』をやって見せ,やらせて,見てやり,笑わせて,笑われてである。

 並ぶ際,面々以外の日本人を見ると必ず話しかけ,また一人はなれて異国人とダブルシートに乗り合わせ,何を話してくるのか「楽しかった,いろいろ話した」との報告の眠梨三四郎。

 「なにを話すの」と聞くと「ジャパニーズ・キャンディー」と切り出すと『反応バッチリ』とのこと。

 並んでいる最後尾の異国人スキーヤーに突っこんでしまい,相手とともに転倒の森五蘭丸。

『大丈夫かモリちゃん,弁護士が必要か』の一瞬の出来事。

心配は無用であった。

 その異国人,突っこまれても『なんのなんの』,森五蘭丸に手を貸して立たせている。

 スキーも直してもらっている。

 異国人が優しいのか,森五蘭丸を少年と勘違いしているのかを推し量ることが出来ない出来事であった。

 『16時30分下山』の注意書きがある。

 パトロールに見送られ,ゴンドラの下にある『バンフ・アベニュー』の帰路でゴンドラ・ベース・ステーションに戻った。

 駐車場へ戻ると日曜日だったためか,大きな駐車場は満車で道路まではみ出しの状態であった。

 森五蘭丸から宝樹七大に交替,車を出発させるとカナダ人の若者が手を挙げてヒッチハイクのポーズをしている。

 七大の目には入らなかったのか,無視したのか,通過する。

 こんなところでヒッチハイクとは,何処まで乗せてもらう気なのかと思ったが,駐車場を過ぎるとそれが理解できた。

 道路に止めてある車がある,そこまで歩くのはかなりの距離である。

 そこで,その車までちゃっかりするつもりだったのだ。

 夜は,バンフの街でギフトショップでのおみやげ買いと夕食である。

 車2台に分乗し,新車寅次郎に街の中心地で待合せのかっこうの場所としてよく利用されるという有名なホテルに案内され,「今夜は,肉をたらふく食べられるところで食事します。

これからおみやげ買いにしますが,必ずここに時間まで戻ってきてください。

それから食事の店へいきます」と告げられた。 

 ホテルのロビーを出発と集合の場所とし,制限時間を定めてのフリーの行動である。

 誰かは一緒に行くだろうと思っていたら,解き放された飼い犬のように街へ散っていった。

 真っ先に眠梨三四郎,森五蘭丸と次々に面々に出ていかれ,あてにしていた新車寅次郎は「きのうの夜のこともあるので夕食の予約に行きますから」と車に戻ってしまった。

 またしても桃太郎は単独行試練の場面となってしまったが,前夜のインスペクションを頼りに行動を開始した。

 一応家族へのおみやげはシャトー・レイク・ルイーズと昨夜のバンフ・スプリングス・ホテルのショップで買い済んでいるが,まずスポーツ・ショップに入る。

 娘のスキーウエアで,『これは』とおもったら買ってきてといわれたのを忘れない。

 しかし,現地のものは地味過ぎてなんだかピンとこない。

 この店の奥には,過去のオリンピックに使用したという記念のスキー道具,出場の記念写真などを展示してインテリアにしてあった。

 『Head360』,『ROSSIGNOL』,皮製の靴等,懐かしい代物ばかりであった。

 元オリンピック選手の経営する店かなという雰囲気である。

 桃太郎の持っている古いスキーも十分肩を並べられるな,と感じた。

 そうしていると,三四郎と五蘭丸が同じ店に入ってきた。

 何処を経由して来たのかは知らぬが,やはり入る個所は同じかと思った。 

 五蘭丸と店を出て,日本関係の別の店に入ると日本製が高価な値段で数が揃っていた。

 結局『これは日本で買った方がやはり良い』ことを知る。

 『メイプル・シロップ』を買っていなかったので,五蘭丸と,大橋巨泉の私の店です『OK GIFT SHOP』に入る。

 探しても見つからないので店員に聞く,ここは日本語OK,日本人女性店員の説明で,すぐにわかった。

 イメージと異なる容器が見つからなかったのだ。

 ガラスの瓶ばかりと思っていたからである。

 桃太郎が「円でよいですか」と聞くと「OK」とのこと。

 大橋巨泉のイニシャルを使っての店のネーミングかな,と思っていたが,なんでもオーケー「Anything OK」の「OK」かと桃太郎は決めつけた。

 フィルムも買う,高いなと感じていたら現像料込みの値段であり, 日本国内で現像するので二重に支払うハメになることを知った。

 まだ時間に余裕があったので,集合場所に近い,もう一軒の日本名の店『コウヤマ』に入る。

 日本語版のカナディアン・ロッキーの写真集とピンク・サーモンの缶詰等を買った。

 結局,付加価値の高い異国人との会話で買うという狙いは,容易であるという条件には崩れてしまうものであった。

 思い思いの『おみやげ』を手に,面々が待ち合わせのホテル・ロビーに戻ってきた。

 いよいよ夕食,車でバンフ大通りを中心部から北東へ移動。

 『Bumper’s The Beef House 』に入る。

 人気のある店らしく満席の状況,並んで待っている客もいるほどである。

 新車寅次郎が予約してあったのでスムーズに席に着くことができた。

 その後もどんどん客が続いて訪れており,『予約しなければ』と新車寅次郎が自分のおみやげ買いの時間をさいて予約した配慮にまたまた『ありがとう』である。

 新車寅次郎から「今晩も,スープ,前菜かサラダ,メインコース,デザートの4点から選んで下さい」と説明がある。

 桃太郎のメインコースの選択は『ニューヨーク・ステーキ300g レア』 であるとした。新車寅次郎に同じである。

 宝樹七大,鮒鯉金八,天重九地も焼き加減が,ミディアムで同じ。

 森五蘭丸のメインコースは,もう『サーモン』が定番だ。

 眠梨三四郎は『マン・マウンテン・リブ・ステーキ』,そしてそのレディス版『リブ・ステーキ』はカモマイル姫。

 桃太郎の右隣席の半日双六は,「ううう」と悩んでいたようなので「どうせだから記念にアルバータ・ビーフ・1kgを食ってみろよ」とすすめる。

 半日双六は「うん」と一発回答。

 カナダ人ウエートレス嬢に,「これ」とメニューを指しての注文に,七大が「アルバータ・ビーフ・ワン・キロ・グラム」とサポート。

 ウエートレス嬢「オゥッ!」と感嘆の声を発した。

 これを注文する人は数少ない証明でもあった。 

 「半ちゃん,肉がきたら,休まず一気に食べた方がいいな」と変なアドバイスをする桃太郎であった。

 桃太郎は,1kgの肉など1回で食べたことも,また食べている場面に出会ったこともなかったのだ。

 サラダはバイキング風に自分でめいめい自由に持ってくるものである。

 これがいつもヘタをする,サラダを取りすぎてしまうのだ。

 食べすぎてステーキを食べるのに支障がでるのだ。

 肉は最初からさめていたのか,そういうものなのか,半分位口に入るとおいしさ感じなくなっていた。

 しかし,右隣席の半日双六,もくもくと何も言わずに食べており『ハッ』と気づき右隣をみると,あの1kgのステーキがあと1回ナイフを入れるところであった。

 思わず『ガンバレ』と心で叫んでいた。

「食べた」と言ってフォークとナイフをおいた。

 その1kgの肉は,直径12cm,厚さ6cm位の形状で,面積はともかく,厚さについては,初にお目にかかる巨牛肉であった。

 まだポテトが残っていたが「もう,なにもはいらね・・・」と言って両手で腹を抑えた。

 桃太郎は,300gを持て余したので『腹に入ってからまた膨らむだろうなあ』と後のこと想像すると心配でもあったが,彼の挑戦と『イダイサ』に最大の拍手をおくったのであった。

 また,眠梨三四郎のリブ・ステーキの量の多さも凄いと感心していたら,カモマイル姫のレディス版リブ・ステーキも多量であるのでヘルプということから,これも併せて食べた,という実績も見逃せない『胃』である。

 新車寅次郎のレアを宝樹七大が手を付けてしまい,新車寅次郎にミディアムを届けられたりのハプニングも有りであった。

 勿論,新車寅次郎がこういうトラブルでも英会話を駆使して解決にあたるのである。

 英会話の標準的,教科書どおりでは対応は無理だろうな,と覚える。

 バンフ・スプリングス・ホテルに戻り,就寝時間に間があったのでまたホテル内の店を歩いた。

 この夜は,快適な睡眠をとることができる。 


異国4日目(1996・3・18)

 本日は絶好の快晴なり。ホテルから屋外に出るとひんやりとするが寒くない体感。

車を玄関にまわしてもらう間,周囲の山々を見渡す,素晴らしい景色だ,2回目の朝の光景だが時間の余裕か一段と美しいところに気づく。

このカメラでは再現は無理だろうとホテルの建物を主に写真を撮る。

 3日目のスキーは,きのうと同じカナディアン・ロッキーのサンシャイン・ビレッジである。

 面々一致の快適度ナンバーワンの折り紙をつけた『ルック・アウト・マウンテン』に向かう。

 月曜日ということから,きのうの日曜日よりは混雑しないと予想し,のんびりとスキー純香[プウエイに向かうことにし,朝食は町でとることにし,出発。

 ボウ川橋を渡る前,エルクに出くわす「トナカイだ」。

 車の前を横断するところである,森五蘭丸が丁度うまい具合にビデオを撮影していたのでカメラにおさめた。がテープにはおさまってなかった。

 バンフ大通りを北に向かう,カスケード山が朝日に照らされきのうより一層の輝いて見えた。

 バッハァロー通りを左折,きのうと違って郵便局を右折せずボウ通りを北進,カリブ通りに右折,すぐの十字路を左折し,リンクス通りを進み右側へ路上駐車する。

 きのう時間が早すぎて食べそこなった,モーニングなら絶対「ここ」,と新車寅次郎が推薦の[BREAKFAST1990]という看板の店に入った。

 ログハウス造りの『Meliss’s』という店名だった。

 西部劇に登場するようなカナダ娘が笑顔で迎えてくれた。

 桃太郎は,相変わらず「トラさん,ここのおすすめメニューはなんですか」と新車寅次郎に聞く。

 新車寅次郎「そうですね,ホットケーキ,アップルパンケーキとありますが,ホットケーキがいいかな」。

 桃太郎は,ホットケーキにメイプルシロップをつけてと想像しながら,先ほど店の前で撮ったフィルムが静電気のため勝手に戻ってしまったので修復作業のためカメラをいじっているとカナダ娘がなにかイングリッシュを発しながら皿をテーブルにおいた。

何とテーブルには,30cmあろうかの白い皿,もっと驚く超大きなホットケーキが2枚,ベーコンを上に皿からあふれんばかりにのっていた。

 森五蘭丸は,このカナダ娘が一番気にいったようで会話を交わしていた。

 メイプメシロップをかけ食べ始めたが美味しいのだが食べきれない。

 1枚と3/4を食べたが,あとの1/4枚を食べきれないで残したのであった。 

 ゴンドラ・ベース・ステーションの駐車場に着くと既に到着の車が2列ほど並んでいた。

 ウィークディなのだが予想より人が出ている様で,ゴンドラ待ちで行列するほどである。

 桃太郎は面々に「カナダは床屋のスキーヤーが多いんだ」というが,反応がうすい。

 「日本では、最近、月曜日のゴルフ場は床屋が多いそうだ」というと,森五蘭丸が「アハハ」と軽く笑ってくれた。

 ゴンドラ待ちに行列に混じると,かわいいカナダ娘ばかり,高校生か,女子大生ばかりに半日双六,宝樹七大、鮒鯉金八,天重九地が目を輝かし,にこにこ。

 ビデオカメラの担当となった七大に「撮れ,撮れ」というと右へ左へのパンニング,あれあれ,カメラになれていないのか,かわいいカナダ娘にキョロキョロなのか,壁塗りパーンというビテオ撮影のタブーを行使していたのだった。

 桃太郎「左官屋じゃないんだから,コテで壁を塗るように左右に振っては,後で見るのに張り子の虎みたいに首を横に振りながらみるようになってしまうよ」 とレクチャーする。

 七大「いっぱいとって、フナくんへの提供サービスですよ」

 金八「なんでオレのせいにするの」

 というような撮影と会話とをしながらゴンドラに乗り込んだのである。

 6人乗りシートにサクラ姫,カモマイル姫,桃太郎,双六,七大と5人が乗り込んだところで,ステンマルクに似た外人,いや,わが面々が外人であるから異国人が『ニコニコ』とした笑顔でイングリュシュの挨拶をしながらゴンドラに乗り込んできた。

 一人でスキーに来て,気が良さそうで愉快にしている日本人グループと見て,同乗することに抵抗がなかったのだろう。

 わが面々はキャビンで,天気,きのうのスキー,景色などのネタで愉快に話をしているとその雰囲気にすっかり溶け込み,『ニコニコ』笑顔の異国人であった。

 桃太郎「イッツ ファイン トゥディ」得意の英語を使う。

 ステンマルク風異国人「Good」とイングリッシュ。

 桃太郎「ジィス メンバー イズ スキーフレンズ フロム ジャパン」 (スキーグローブについている日の丸を指し) ステンマルク風異国人「OH! Yes」(本当に解ったかは知らない)

 桃太郎「スキー イン サンシャイン・ビレッジ ? 」

 ステンマルク風異国人「Yes But Over Mountain」

 桃太郎「ナオミ・ウエムラ アンダースタンド ? 」

 ステンマルク風異国人「Yes」(本当に解ったかは知らない)

 桃太郎「オーバー マウンテイン トゥ アラスカ」

ステンマルク風異国人(目を丸くして)  「OH NO!  Cross Country Ski」

 桃太郎 「マイ スキー アルペン」

      「アイ アム  スキー アソシェーション オブ ジャパン オーソライズ インストラクター」

ステンマルク風異国人 (ゴーツ・アイ・マウンテインを指しながら,クローチング風の構えをし,大きなターンの手振りで)

           「OH! Dounhill Great!」

           (次に、半日双六を指し)

           「You?」もか,という雰囲気。

 どうやら滑降の選手と間違えられそうな状況。否定に懸命。

 桃太郎「ザット マウンテン ビック ディグリー スラント スロープ」

 ステンマルク風異国人「YES」

 桃太郎「ビック ディンプル」

 ステンマルク風異国人「YES」

 桃太郎「ダウンヒル ノー  パラレル オア ショートターン」

 ステンマルク風異国人「OH Mogle」(右の手のひらを下にして小刻みにする)

 桃太郎「モーグル ノー ユア スキー テレマーク」

 ステンマルク風異国人「Telemark OK」

 桃太郎「クリスチャニア オア ウェーデルン」

 ステンマルク風異国人「?????」

 ここで,英語とイングリッシュの珍会話が途切れた。

 桃太郎は,ドイツ語を使ってしまったのだ。

 そこでステンマルク風異国人は,先ほどから珍会話をビデオカメラで撮影したり,時折会話に入っていた宝樹七大の語学力に気づいたのか,まともな『イングリッシュ会話』したかったのか,宝樹七大に向かって「Can you speak English」とやるではないか。

 宝樹七大は「I can」といって,ビデオカメラを右手に左手の親指と人差し指で少しのサインをしたのだった。

 ステンマルク風異国人は,「○○・・Germany・・」と宝樹七大に話しているが桃太郎には読解不能であった。

 宝樹七大は桃太郎に通訳してくれた。

 「彼は,ドイツ系のポーランド人だが,ドイツ語は解らないと言っている」とのことであった。

 やはり,宝樹七大は随所にキラリと光る教養を発揮するのである。

 桃太郎の珍会話再開する。

 桃太郎(右手で親指を上にうねらせる)

 「スネーク スラローム アンダースタンド」とやる。

 ゴンドラで乗り合わせたドイツ系のポーランド人でカナダの山男は,(大きくうなづき理解したとの動作)「OK OK」と笑って応えてくれた。

 ジェスチャーは万国共通の言葉と桃太郎は確認した。

 続く会話は,日本語,英語,非公式手話,イングリッシュ,通訳とマルチ意思疎通の展開となったのである。

 面々を紹介する。

 半日双六を「ヨコズナ」と紹介。

 桃太郎「ヒー イズ ジャパニーズ レスリング チャンピオン」

 ドポカ山男「Yes」(本当のところに解ったかどうか?)

 桃太郎「ビコーズ イエスタディ ナイト ディナー イン バンフ ビーフ  ハウスバンパース でアルバータビーフ ワン キログラム サクセス」

 ドポカ山男(ドイツ系のポーランド人でカナダの山男)「OH!!!」 (目も口も大きくあけて手を広げてびっくり顔)凄い,うらやましい,自分は夕べはほんの少し(右手の親指と人差し指でギャップをつくり)ということであった。

 紹介されている半日双六も『にこにこ』として「ワン キログラム」と言って,異国人男女二人を驚かした満足感で昨夜を思い出すように2度あごを引き,二重顎の顔であった。

 スキー3日目開始。

 昨日同様,[エンジェル・高速クワッド]の4人乗りリフト(1588m)で上がり,500mを滑り降りて移動。

 続いて[グレート・デビット・ダブル](1138m)と、2本のリフトを乗り継いで,山頂付近の自然の展望台,ルックアウト・マウンテン(標高,2730m[LOOKOUT≠lTN])に立つ。

 きのうより快晴,快々,眺望はさらに良くなりカナディアン・ロッキーの壮大な山々が素晴らしいパノラマである。

 東方には,きのうは気づかなかった『MT.ASSINIBOIN 3620m』が頂上付近を雲がマフラーをまきつけるようにくっきりと見えた。

 青空と雲と山の形とほんとうに美しい景色に見惚れた。

 『ボイン』という名もいい。

 富士山級の高い山である。

 だが,形はさしずめ日本でいえば,乳頭山であろう,異国人の形である。

 大橋巨泉=カナダ=ボイン,11PM=朝丘雪路=ボイン,彼はこれをイメージして放送に使用したと推測した。 

 プロフェショナルのビデオ・カメラマンも,きょうの景色を撮影している。

 きっと最近では最高の気象条件なのであろう。

 スキー・サミット3日目。

 全員の面々が大の気に入り斜面,標高2700mからの滑走を体感する。

 面々は,斜面も熟知しているので,勇んでの快滑走である。

 今日も気温は低いが,風もなく,湿度も低い,暖かい。

 ピステンにより完全に整備されているのだろう,整備の跡が気づかないほどである。

 「サンシャイン・ビレッジ・ルックアウト・マウンテン」で最も快適に楽しめる斜面『#29 South Divide』で何度も滑る。

 ブルー・スケア・マーカー(難易度中級)として比較的困難ということで選択する斜面だが,面々は,手練れのスキーヤーにのように斜面を楽しんだ。

 [グレート・デビット・ダブル・チェアー]何度も乗る。

 ランチタイムにする,きのうの昼に同じくデイロッジの3階のレストラン「バードゲージ」に入る。

 格子の中,鳥かごの中のイメージの内装,何故,食事を『鳥かご』の中でとるのかが以前謎のままである。

 車寅次郎と半日双六,宝樹七大は,きょうもビールをおいしそうに飲む。

 遅れて桃太郎入っていくと既に森五蘭丸が同じセットランチコーヒー付きを注文していてくれたので,KAMIKAZEおいしいぜ」の話を思い出しながら食べる。

 このランチに付いてきたフライドポテトが凄い『オドロキ』まるで四角のエンピツが皿に山盛りの量である。

 とても,5本も食べれば十分に沢山であり,あとは新車寅次郎にお願いする。

 食事を済まし,タバコを吸っている眠梨三四郎に,カナダ人の若い男が近寄り,黙劇(パントマイム)をする。

 『タバコ1本分けて下さい』とのようであったので,気前の良い眠梨三四郎は,箱ごとあげてしまった。

 カナダ人若者は,大変喜んで(1本のところ箱ごとのこと)自分の仲間たちに自慢していたようであった。

 眠梨三四郎「親善,親善」と悠然としていた。

 午後は,再び[グレート・デビット・ダブル・チェア]まで上る。

 チェアの左側に見える斜面は『#32 Nouth Divide』約500m。

 斜度こそチェア右側『#29 South Divide』の同じだが,ブラック・ダイヤ・マーカー(難易度上級)として困難ということで選択する斜面である。

 『本物のモーグル・スキーだ』というような滑りをするスキーヤーを見て,『こぶはもうやらない三日目』という予定が,つい誘われるように,桃太郎,眠梨三四郎,宝樹七大の3人は2回滑る。

 桃太郎1回目,スピードオーバー気味で1/3斜面で休憩、2/3斜面はもう脚力不足,遂に大ダフリをしてこらえきれずカナダの雪とスキンシップする転倒。

 起きあがり,サングラスをはずし拭き取っていると頭上からイングリッシュ,「ユー オールライト!」とリフトに乗っている異国人からの声をかけられる。

 苦笑し「サンキュー オーライ」と応える桃太郎。

これは,スキーヤーどうしのカナダならではの『いいこと』だなと感じた。

 こういう場合,仲間内にだけしか声をかけられない桃太郎,また転倒によって一つ学ぶことがあったのである。

 あとの3/3の200mは,もう安全策のゆっくり,やっとの滑りであった。

2回目は,眠梨三四郎がノンストップでこのこぶ斜面を踏破した。

どの辺で止まるのかなとみていると,ゆっくりであったが一気に500mを完走てしまった。

 Par4の『ワン オン』の達成である。

 やっぱり,眠梨三四郎はやるときはやるのである。

 桃太郎と七大は,2回休みの3分割,『スリー オン』としまあまあの成果であった。

 再び,お口直し滑りとして,『#29 South Divide』を時間の許す限り滑る。

 なごりは尽きないがもうラスト前,桃太郎が「帰りたくないな・・,このスキー場で毎日滑っていたいな・・」というと,面々が「残って日本人相手のスキーガイドでもしたら」という声が多数あった。

 『それは本望・・・・・』と桃太郎は自問した。

 大ラストでは『MT.ASSNIBOIN 3620m』に向かって,何も言うことなし,面々がストックを高々と上げて振って別れを告げ,15時30分少し早めに下山する。

 ゴンドラの下の帰路で,桃太郎は山の風景写真を撮ったり,『まつぼっくり』を拾ったりしてスキー・ウエアのポケットに入れるなどで,面々より遅れてゴンドラ・ベース・ステーションに戻った。

 駐車場へ戻ると,新車寅次郎が「桃太郎さん,このままカナダに本当に永住するのかとおもいましたよ。

遅いし,まさか転倒するような帰路コースでもないし」という。

 そこで,桃太郎「ポケットいっぱいの思い出をゆっくりつめこんできたのよ」と,ポケットから「まつぼっくり」を取り出して見せる。

 新車寅次郎は「やっぱり,桃太郎さんらしいよ,アハハハハ」と笑いながら言った。

 桃太郎『国外の持ち出し(植物・特に種子)』これは難しいかな『それはダメですよ』と言われそうな気もあったので内心ホッとした。

 サンシャイン・ビレッジ・ゴンドラ・ベース・ステーションをあとに車でバンフの街へ戻る。

 バンフ大通りを抜け,ボウ河にかかる橋で信号待ちで停車,橋からの山の写真が撮れた。

 左折し,バンフ・スプリングス・ホテルに向かう走行すると道路と右手の木立の間を悠然と3頭の鹿が歩いている。

 「シカだ,シカだ,写真を撮るから窓あけて」と桃太郎が頼むが,ドライバーの右フロントシートの眠利三四郎は例の如く白河夜舟であった。

 桃太郎はしかたがなく,ドライバーに開けてもらい体を乗り出して撮影する。

 態勢を元に戻しながら「撮れた、撮れた」と桃太郎。

 すると「もう,ニクはいらない,ニクはもうイイ,ニクは,もうタクサンだ」と眠梨三四郎が言う。

 同乗の森五蘭丸と宝樹七大も『唖然』,なにごとなのか掌握不可能状態。

 「三四郎さんニクってなんのことだい?」と桃太郎が聞くと眠梨三四郎「なに,なに,」と目を覚ましたようす。

 どうやら,特技の『眠り会話』(三四郎の眠話)を披露したらしい。

 桃太郎「ニクはもうタクサン」という話しだったよ。

 眠梨三四郎「鹿を穫っている夢だった,そんなに鹿を穫ることない,それが肉となったのかな・・・・」というわけで,車内は大爆笑となった。

 どうやら,眠っている顔の前でシャッター音を聞いて,射撃か弓矢の発射音に聞こえたのかもしれないと思った。

 『ショット』という言葉は,弓矢,射撃,ゴルフ,写真等の的中に使う事を頭の中をめぐった。

 彼は,どうやら自分の眠りの世界と周囲の眠ってない人との会話をするらしいのだ。

 合歓(ネム)・・・・・・

 かって,スキー合宿の際にあった出来事で記憶から消えない一件がある。

 メンバーが寝静まった深夜の0時頃「でんわ!,でんわ!」と眠梨三四郎の叫ぶ声に,(むくっとと起きあがり手を耳に)「ハイ,みみです・」と眠ったまま『三光』が電話応対をしたという,メイ演技の『眠劇』を越える滑稽な場面であった。

 バンフ・スプリングス・ホテルに車が着くと,早速に桃太郎と森五蘭丸と宝樹七大の3人は口々に「三四郎さんは,肉はもう沢山でいらないそうです」と解説を付けて,新車寅次郎に報告する。

 新車寅次郎「三四郎さんは,きょうは,肉をいらないのね」と念をおす。

 眠梨三四郎「そんなことない,肉,いるいるいるよ・・・」と慌てて言う。

 今夜のカナダでのラストとなるディナー,気が気でならない。

 眠梨三四郎,大好きな肉を『おあづけ』にされては大変と否定をつづけるのであった。

 少し早めにホテルに戻ったのは,半日双六,宝樹七大,鮒鯉金八,天重九地の4人がホテルのプールで,どうしても泳ぎたいという願望のためであった。

 新車寅次郎から「今晩のディナーは,7時からホテルのメインダイニングルームでするので時間まで入口に集合して下さい」という案内がある。

 プールの4人パーティは待望のプールへ行く。

 新車寅次郎が『おみやげをまだ買ってない』ということなのでバンフの街へ出ることになり,同行する桃太郎,眠梨三四郎,森五蘭丸。

 新車寅次郎「サンクス・バレンタインを『カナダのおみやげ』ですると勤め先の女性団に目録を渡してあるので,買わないと次のヨーロッパ旅行のときまでにのびてしまうから」という。

 おみやげ買いを済まして,再びホテルへ戻ると,新車寅次郎もプールへ行く。

 森五蘭丸「欲しいスキーウエアがあるけど,どうするかな」

 眠梨三四郎「買え,買ってしまえ,買わないで後悔するより,買って後悔したほうが良いんだから」という。

 『フーン,へんな決め方もあるんだな』と思いつつも,同意する桃太郎であった。

 森五蘭丸が欲しい物があるというのはホテル内の店であり,桃太郎、眠梨三四郎が同行。

 森五蘭丸「これとこれ」(スキーウエアとフリースを指す)。

 眠梨三四郎「買ったら」と先ほどの論法。

 桃太郎「カナダのスキーウエアは日本にあわない,フリースだけにしたら,この色がいい」

 森五蘭丸「そうですね」(本人も大の気に入り)と決定。

 7時メインダイニングルームの前に集合。

 メインダイニングルームには素晴らしい席が用意されており,新車寅次郎から「今晩も,スープ,前菜かサラダ,メインコース,デザートの4点から選んで下さい」と恒例となった説明がある。

 車寅次郎から「ワインは白,赤どちらにしますか」とあったが、赤を希望したのはサクラ姫1人だったことから,白ワインに決定。

 カナダ人ボーイがおもしろいしぐさでメニューからの選択を聞いて歩く。

 桃太郎は,スープ,前菜,メインコース,デザートの4点をオーソドックスに選ぶ,メインコースのステーキの焼き加減をレアとする。

 おもしろカナダ人ボーイが血がタラタラ,ユー,大丈夫かというパントマイムをする。

 パントマイム(黙劇)からの理解は容易にできた。

 桃太郎「オーケー」

 しかし,おもしろカナダ人ボーイは,新車寅次郎にイングリッシュにより(本当に大丈夫なのか)というような内容で桃太郎の注文の内容を確認している。

 桃太郎も『血のしたたる』というのはどのくらいなのか少々不安になった。

 新車寅次郎は『それでよい』というようなことを代弁してくれたようである。 

 白ワインを飲んで愉快になっている桃太郎をからかうように接遇していた,おもしろカナダ人ボーイが急に真面目に接してくるようになっていた。

 新車寅次郎が「桃太郎さんを『サー』付けですよ,最上の敬称を使っていますね」

 桃太郎は,うすうす,自分を『だし』にしてこのボーイ君が場を盛り上げようとしているのを感じていたので,どのあたりから桃太郎に対して敬称を使っていたのか知らなかった。

 桃太郎は,ステーキをレアの焼き加減として注文すると最上の敬称を付けられると勝手に決めこんだ。

 食事中,メインダイニングホールには,ピアノで日本の曲,『♪瀬戸の花嫁』,『♪いい日旅立ち』等を演奏していた。

 ピアノは,『YAMAHA』と大きい金文字があった。

 また,ダンスを踊っている年配のカップルを見たが,今夜はダンスを控えた。

 食事中の会話が楽しかったのである。

 もう面々異国の生活に慣れたのか,異国でのディナーが今夜限りと思うからか会話がはずんた。

 圧巻は,プールへいった,半日双六,宝樹七大,鮒鯉金八,天重九地の4人組の『はなし』である。

 宝樹七大「フナ君がプールで溺れたんです」

 桃太郎 「フナが溺れた?・・・・・プールで・・・・」

 新車寅次郎「どういうことなんだ???」

 鮒鯉金八「・・・・・・・」

 宝樹七大「はじめは,フナ君がプールで溺れたようなふざけをしていたようなんですが,そのうちに本当に溺れたようで,まあ,実際は助かって,ここにいるわけなんですが」

 桃太郎 「フナが水に溺れるなんて聞いたこともないから,フナがオオカミ少年になったということか・・・・」

 食事の面々「・・・・・・・・」(ピンときてくれない)

 桃太郎 「童話,童話」(ちょっとピントがはずれたかなと恥ずかしい感じもした)

 食事の面々「あはははは・・・」(無理して笑ったかも)

 人が溺れたというのに冗談言っている場合ではないところだが,何故かそういうことになっていた。

 桃太郎は,高校の修学旅行でプールの底に沈んでいた友人を必死で人工呼吸したが心臓麻痺が故,亡くなったことの事故とダブッての出来事であって,『ヨカッタ』が本音である。

 プール組の状況説明は,事実が故,迫力があって,臨場感もあるが,笑いの方が優位のようであった。

 プールでの視界が良好で,カナダギャルのナイスバディに目が眩んだとか,アングルを変えようと,水中にもぐって,潜ったまま浮揚せずとか,プール組は,鮒鯉金八を探求の結果を公表する。

 桃太郎は,カナダ版「水中クンバカ」とまとめた。

 語り明かせばつきないけれど楽しいディナーも周りを見るとピアノ演奏も終わり,テーブルの客も面々以外は,もう一組であった。

 おもいおもいのデザートを食べ席を立つ。

 新車寅次郎「今夜は楽しくサロンでオール・ナイトでいこう」といい,サロンを案内する。

 大きなテーブルがなかったので3人づつ別々に座る。

 少々ドリンクを頂戴したが,盛り上がりは今一つで,気楽になった新車寅次郎は,シートで眠りについてしまった。

 24時を廻ったところで,オールナイトの一部達成ということで席を立ち,バンフ・スプリングス・ホテルの最終夜となるベットに就いた。


異国5日目(1996・3・19)

 異国の朝,バンフ・スプリングス・ホテル・マナからの出立も今朝でおわり,見送るボーイに別れを告げる。

 3台の車を連ね帰路のカルガリーに向け出発する。

 先頭車を運転する新車寅次郎がボウ河を渡り右折,対岸の道路を走行した。

 バンフ・スプリングス・ホテルの建物が美しく見える高台に案内されたのである。

 展望の良い高台は,ボウ河をはさんで森の中にバンフ・スプリングス・ホテルの建物の偉容が見ることができた。

 背景は,カナディアン・ロッキーとしては低い山なのだろう,樹木の山である,森と河に囲まれたグレー・シャトーであった。

 森と泉に囲まれた静かに眠るブル・ブル・ブルーシャトー,ちょっと肌寒かったが,ぶるぶるするほどの寒さでなく,それを背景に個人,全員とそれぞれの記念撮影をする。

 バンフの街へ折り返しの経路により,トランス・カナダ・ハイウエイでカルガリー向けとなる。

 4日前,カナディアン・ロッキー山中に入ってきたルートで山中を出るように走行する。

 景色は来たときと左右前後が逆向きとなる。

 見慣れた光景という感じで落ちついて車の窓の外を眺める。

 カーラジオからは,カントリー・ウエスタンが流れ,景色と本当にマッチしている。

 この道路には,日本の演歌は勿論,ニューミュージックも,安室・小室も合わない。

 約2時間のドライブ,カルガリー空港到着。11時。

 12時30分カルガリー空港発,カナディアン航空015便の搭乗手続きの際,約1時間の遅れを知る。

 始発のトロント空港で停電があったため航空管制がとれなくなったということであった。

 時間はたっぷりということで、空港内売店で買い物,食事。

 空港ビル内は禁煙,違反者には5千ドルの罰金という説明が旅行説明会であったことから,スモーカーの眠梨三四郎と半日双六と一緒に喫煙スペースへ行くと,その喫煙スペースは空気が悪く,タバコの匂いでいたたまれないほどであった。

 しかし,そこで仕事を持ち込み仕事をしている美人キャリヤウーマンがいた。

 桃太郎は,日本のタバコと異なる匂いの有煙ルームを後にしてスナックルームに移動した。

 スナックのスペースでみる,異国の人間模様はまた興味深い光景が種々に見ることができた。

 予定より約1時間30分遅れて,14時頃カナディアン航空に搭乗,空路東京国際空港成田に向けて帰路になる。

 桃太郎のシートは,中央部で右隣席に眠梨三四郎,左隣席に日本の女子大生風という状況だが,窓際でなく残念と思った。

 ちょっと離れた窓際席となったカモマイル姫が隣に誰が来るかしらないので席を交換して欲しいというねだりがあったので森五蘭丸はシートを交換してやっていた。

 しかし,その隣席は後で天重九地と知り,譲ったあとに後悔するカモマイル姫であった。

 桃太郎のシートは,周りは日本人と同行の面々のため映画,新聞,雑誌,本などで時間を過ごしていた。

 しかし,暫くすると,森五蘭丸が桃太郎に「席を変わりますか」と聞いてきたので「喜んで」と好意を受け,譲ってもらうことになった。

 桃太郎にとって,ラッキーである。窓に食い入るように外をみる。

 ガイドブックの地図にコンパスをあわせて,方向を見ながら飛行方向を見ている。

 西に向かって飛行,バンクーバーを過ぎると北へ向かうことが磁針の動きで確かめられた。

 機も右に傾き右に進路をとったこともわかる。

 思っていたとおり,磁針は航空機内でも使用できる,機はジュラルミン製であるからだ。

 自動車ではそうはいかない。鉄を使っている部分が多いためである。

 通路狭しと床が沈むように歩く太めのカナダ人スチュワーデスが珍しいのか手を出して見せてくれというしぐさをした。

 あるいは,不審なな持ち物と警戒して,確認のためだったのかもしれない。

 太めのカナダ人スチュワーデスが日本人チーフパーサーを呼び止めて(これは何ですかというようなこと)聞く。

 日本人チーフパーサーは,太めのカナダ人スチュワーデスに教えている(イングリュッシュ同士)

 カナダ人スチュワーデスが,笑顔で二重顎を縦にひきひき三重四重にしながら桃太郎に磁針を戻した。

 カナダ人スチュワーデスは,体格からいっても相当なベテランであることは間違いない,しかし,多数の乗客を扱ってきて,桃太郎のように地図と磁針をみながら搭乗の光景を初めて見たのかと察した。(誰もしてない事をしたという快感を覚える)

 航空機の右側窓から見おろす光景は,ロッキー山脈に続き,マッケンジー山脈が壮大に雲間に見えた,乗客の一部から歓声があがる。

 窓に食い入るように見たり,サングラスをはずして,写真を撮ったりしている桃太郎,サングラスを荷物に入れに携行して良かった,紫外線を遮蔽し,はっきり見えるのである。

 若い日本女性が「すみませんが,マッキンリーの写真を写して下さい」といって,カメラを持参し頼んで来た。

 桃太郎「素晴らしいから自分で撮って下さい」というのだが,その女性はどうしても桃太郎に撮ってもらいたいらしいので,カメラを預かり撮影してあげた。

 そして,桃太郎は,サングラスを貸してやり「これで見れば数倍綺麗に見えますよ,無料です」と親切,親切。

 すると,席を交換してしまった,この窓際席の第一権利者のカモマイル姫「わたしには,そんなに親切にしてくれなかったのに」と鋭いチェックが入り,不満を漏らされてしまった。

 折角楽しいカナディアン・ロッキーでの思い出をこんなことでクリヤーしては大変と弁解,弁解。 

 翼下の白い大地が広大にして,精密に河,海岸の線を描いている,まるで地図のよう,いや自然のモノトーン芸術である。

 機内は寝ている乗客が多い,旅慣れているのだろうか。

 しかし,桃太郎は,相変わらずもったいなくて眠っていられなく,窓ガラスにはりついている。

 幸いサングラスが貴重な役割を果たし目を優しくしてくれている。

 アラスカ・アンカレッジで,再び西に向かうように機を左に傾け進路をとり,千島列島の上空になる。

 北方領土らしい島が見えた,高度を下げながら北海道上空,青森,秋田,山形と右の窓に見ながら成田に近ずいているはずと思っていたら,右手になんと雲の上に富士山の姿があった。

 空から見る富士山の姿は勿論初めての桃太郎であった。


 東京国際空港到着,入国審査カウンターへ進みパスポートを提示,スタンプを押してもらう。

 ターンテーブルで荷物を受け取り税関カウンターの緑ランプへ進む。

 動植物を持ち帰った場合は,検疫検査が必要と案内があり,桃太郎は,バックの『松ぼっくり』はどうすればよいのかなと思っている内,

全ての帰国手続きが完了してしまい,サクラ姫とともに一番先頭にロビーを出ていた。

 カナダへの入国の際には,桃太郎を尻目にさっさと入国していた面々,どういうわけか帰国手続きにてこづっている様子,なかなか空港ロビーを出でこないのである。

 到着時間がかなり遅れたので駐車場の送迎バスが待ちくたびれるように待っていた。

 当然,わが面々を待っていたバスと確信していたところに,知らない男女2ペアグループの荷物を積み込み,乗り込み始めたのである。

 (アレレ)とあわてる桃太郎,面々はまだ出でこないし,頼みの新車寅次郎もまだ出てこない。

 桃太郎は送迎バスに乗り込み,運転手に「このバス,いわきの大黒屋トラベルサロンの客のじゃないの!?」と勢いのある使い慣れた日本語で話す。

£梼ヤ場送迎車運転手「そ,そうです・・・・」

 桃太郎「送られて来たとき,11人と荷物で満員と荷物満載だったのに,ほかの人を乗せたら,うちのメンバー全員が乗れなくなっちゃうのでないの!」 と語気を強めた。

 駐車場送迎車運転手「こちらの方も,うちの駐車場利用の方で,迎えの車が来ているはずなんですが,見つからないというので相乗りさせようとしたんです」 と言い訳している。

 桃太郎が「乗って乗れないことはないか,やってみるか」と静かに話した積もりだったが,乗り始めたその方たちは(あわてて)降車し,荷物をおろし始めた。

 旅の終わりに,なにもトラブルを起こすつもりはなかったのだが・・・・。

 桃太郎の人相が悪かったのか,口が悪かったのか,カナダの帰りと思われるそのグループは,桃太郎と目を合わせることないように退散したのであった。

 鬼退治でもあるまいし。

 桃太郎は,駐車場送迎運転手に「悪いことをしっちゃったかな」と言うと「いいんです,こうなんですから」という返事。

桃太郎は『彼らは,無理にお願いして,この車を利用しようとした』とまとめ,決して主張のしすぎはなかったと思った。

語気たれの本質を現象に出してしまったかなと桃太郎は自分を振り返った。

 まもなく,面々は,国内に帰ってきてから,こんな出来事があったことなどお構いなしで乗り込んできた。

 送迎バスにより,駐車場到着,いわき向け帰路につく。

 新車寅次郎「夕食にラーメンでも食べて行きましょう」ということで出発。

 先頭を走る新車寅次郎の日産サファリに続き森五蘭丸のスバルレガシィ,そして眠梨三四郎の三菱パジェロが続いて走行。(国内に戻っても,眠っていたらしく双六か七大の運転)

 森五蘭丸,国内に戻って,順調な左側通行と思っていたら,左側の過剰意識か『な,なんと』立体交差のアクセス部で左方へ向かうと東京方面なのに,そっちの方向へハンドルを回している,「右,右,いわきは右」と桃太郎。

 「日本だから左,左と意識のしすぎ」とさらりと森五蘭丸,冗談とも本当ともとれない国内ではささいなことであった。

 ラーメン店に着く,新車寅次郎は常連のように入っていった。

 新車寅次郎が「海外旅行(特にヨーロッパ方面)を長くすると3日位過ぎる頃に『ラーメンを食べたくなった』という客が必ずいるんだ」とよく言っていたのを思い出す。

 それで成田空港の付近でこのラーメン店を利用するのか,と察した。

 確かに新鮮というか懐かしいというかのラーメン。

 森五蘭丸が桃太郎の家族へ「カナダが気に入って,永住したいので現地で待っているとバンフへ残りました,といいますから,車から降りないで隠れていて下さい」と提案したのはカナダの最終日だった。

 「やってみろよ」の桃太郎。

 「やれ,やれ,やれ」という眠梨三四郎。

 いよいよ実行の帰途。

 森五蘭丸「まさか,奥さんに連絡済みで騙されたようにして,わたしが一人芝居で,まさか,わたしが騙されるようなことはないでしょうね」と桃太郎に念を押すのである。

 なんと,自分で企画したのに『いざ』となって,不安ながらも試したくて一所懸命なのである。 

 「ドアを開けたときルームランプが点灯しないように消せ」とか,つい小細工を指導する桃太郎。

 桃太郎の玄関先に到着し,森五蘭丸が車を降りる,あれれ,車のドアを開けたままなので足元灯が点灯したままで明るい。

 まずいな・・・,周到でないことはあきらか。

 森五蘭丸、玄関のベルを押す。

 出てきた桃太郎伴侶に,森五蘭丸はシナリオどおりのセリフを言ったが,一蹴される。

 桃太郎伴侶「なにいっているのよ,どうしたのよ,おそかったわね」

 すごすご車に戻ってくる森五蘭丸,思惑はずれてがっくり。

 森五蘭丸「ばれちゃいました」

 桃太郎伴侶「ばれるのもなにも,そんなことあるわけがないじゃないの,なにいってんの,まったく」

 この件があったからか,おみやげが気に入らなかったのか,桃太郎はカナダから帰って来てからの伴侶からの冷たい待遇を覚えたのであった。

 ちなみに,彼女へのおみやげは,石の皿とメイプルリーフのブローチであった。(石なら指につける輪っかの方を期待していたらしい)

 しかし,娘は,カナダの白い熊のぬいぐるみとカナダコイン等,もう予想以上におみやげを喜んでくれたのがせめてもの救いであった。

 栗胡桃太郎は,いっぱいの思い出と経験,知識の引き出しがまたまた増えたのであった。

 スキーのおかげ,遠征のおかげである。

 いやいや,友達のおかげ。

 遠征スキーのカナディアン・ロッキーはなおさらにである。

 この遠征スキーの発案は,元々,’96いわきスキーヤーズミーティングで大黒屋トラベルサロンが企画,募集した催事である。

 いわきスキーフレンズのレディスメンバーの願望によって話が進んだ行事であり,どういう訳か,どんな弾みでなったのかいつのまにやら桃太郎がメンバーに加えられているという経緯のものである。

 宝樹七大が顔を合わすたびに「行かれるんでしょうカナダ」というマインドコントロールの世界に誘われつづけ,次には,「パスポートはとりましたか」

とステージを上げられた結果のカナディアン・ロッキー行となったものである。

 新車寅次郎,眠梨三四郎,森五蘭丸にとっては,桃太郎を海外へ引き出すには,飛行機の北海道スキーが布石だったそうです。

 『○○に引かれてひかれて○○○参り』風の参加であったが,収穫大で貴重な経験を積もらせてもらったのである。

 昔,昔,桃太郎が犬と猿と雉をお供に鬼が島に鬼退治へ行き鬼退治した功績のことは万人が知っているが,犬猿の仲という犬と猿を同じ船に乗せて仲良く海を渡り,共に活躍させたことを知る人は少ない。

 ’96スキーシーズンは,桃太郎一家は,スノーボーダーに何度も危害を加えられ,大事に至らなかったもののスキー場のトラブルに,なんとかスキーヤーとスノーボーダーとの共存をと悶々としていたのである。

 遂に業を煮やし『許さぬ!』,栗胡桃太郎としてゲレンデに登場し,「ひとつ・・・・   ふたつ・・・ 」とやってはみたものの,所詮解らぬ暴徒族(ボード族)に憤懣やりきれぬままに,不愉快に終わってしまうようなシーズンであったが,素晴らしいカナディアン・ロッキーのスキーエリアを滑って,楽しいスキーライフを継続することができたのである。

 スキーをするという本質から現象として,多くの友人が増えスキーを継続している中で技術が高められ,こういうチャンスに恵まれ,素晴らしい友人とともに,同じ時に,同じ場所で,同じものを目にし,美味を感じ,雪の抵抗を感じ,風の抵抗を感じ楽しんだのであった。

 Good luck in Canadian Rocky Have fun!

 それにつけても『トラさん,ありがとう,本当にありがとう』感謝。




 桃太郎の引き出しに新入したこと

  キープセイク=家宝、記念品

  ハブ・ファン=楽しんで

  四つ目信号=????

  カナダ・ドリンク=日本人の舌に合わない

  ポテトチップス=大きい

  ロッキー山脈=ロック=岩石

  ボウ河=弓形の河

  モーニンググローリィー=アサガオ 

  レイク・ルイーズ=ビクトリア女王の娘、ルイーズ王女

  チェア=スキーリフト

  ゴンドラ=大きいロープウェイと決めつけない

  ブラックダイヤモンド=黒菱

  パラダイス=極楽浄土

  サドルバック=馬の背

  ボウル=へこみ=すりばち

  ストローベリーフェイス=こぶ斜面?

  ニューカーペンター=新館

  ニュービィルディング=新館

  ホットケーキ=超特大

  ユーオーライト?=大丈夫か

  OK GIFT SHOP=なんでもオーケー

  ボイン=ASSINIBOIN=大橋巨泉の造語?

                            等々。

                                       桃太郎彼方滑紀行


いわきスキーフレンズ

   これまでの遠征スキー
 

 1984年2月   蔵王スキーツアー(大黒屋トラベルサロン主催)

           丹野浩二と渡辺進が参加し、鈴木常雄と運命的な出会い。

           このあとの6月ごろ,鈴木常雄から丹野浩二へ スキークラブ設立企画話があり,

          渡辺進に 趣意説明すると賛同。

           スキーヤーズクラブ「いわきスキーフレンズ」を発足する。(1984年7月)

  

 1985年2月   蔵王スキーツアー(大黒屋トラベルサロン主催)

           参加者 丹野浩二,渡辺進,鈴木常雄ほか

  

 1986年2月   八方・白馬・栂池スキーツアー(大黒屋トラベルサロン主催)

           参加者 丹野浩二,渡辺進,鈴木常雄ほか

 1987年1月23日〜25日

           苗場スキーツアー(大黒屋トラベルサロン主催)

           参加者 丹野浩二,渡辺進,鈴木常雄ほか

1988年3月19日〜20日

          岩手県安比高原

           参加者 丹野浩二,渡辺進,鈴木常雄ほか

1989年3月19日〜20日

          長野県志賀高原

           参加者 丹野浩二,渡辺進,鈴木常雄ほか

 1990年2月   長野県志賀高原(大黒屋トラベルサロン主催)

           参加者 丹野浩二,渡辺進,鈴木常雄ほか

 1991年3月   長野県志賀高原

           参加者 丹野浩二,渡辺進,鈴木常雄ほか

 1992年3月   群馬県草津スキー場

           万座スキー場

           新潟県ガーラ湯沢スキー場

           石打スキー場

           参加者 丹野浩二,渡辺進,小野盛敏ほか

 1993年3月   北海道札幌国際スキー場

           ルスツスキー場

           参加者 丹野浩二,渡辺進,鈴木常雄,小野盛敏ほか

 1994年3月   山形蔵王

           参加者 丹野浩二,渡辺進,鈴木典男ほか

 1995年3月15〜18日

           長野県志賀高原

           参加者 丹野浩二,渡辺進,鈴木常雄ほか

 1996年3月15〜20日

           カナディアン・ロッキー


長文におつきあい,ありがとうございました。戻りです