6

「大変な事件が起こってるわね。」
「一体なんだい。」
「のんきなこといってるわね。当然、ペルー日本大使館の人質事件じゃない。」
「あぁ、そうか。そんな事件が起こってるね。」
「ひどくのんきね。いつものあなたらしくない。」
「いやぁ、少し忙しくてね。ニュースも見ている暇がなかったんだよ。」
「で、どうなの。どう思うの。」
「そんなこといわれてもね。とにかく、人質にされている人たちが無事救出されることを祈っているだけだよ。」
「何か名案はないの。」
「そんなこといわれても、専門家の人たちがテレビとかでいっていること以外に何もないだろう。」
「以外と冷たいのね。何かまた言ってくれるのかと思っていたわ。」
「こういう問題はね。焦っちゃいけないんだよ。人質が次々に殺害されるとかいった緊急事態を除いては。」
「じゃあどうするの。」
「しつこいな。とにかく、祈ろう。無事でありますようにって。」
「もう、いざというときには役に立たないんだから。」

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7

 今年の冬は、例年に比べて訪れが早いのかも知れない。年も越さないうちに雪が降ったのは久しぶりのことだ。木沢村の山には数十センチの雪が積もっていたという。私が行ったときは数ミリだったが、森林組合の人によれば、雨で融けてしまい、その日、また新たに降ったものだという。
 そんなときに、ペルー日本大使館の人質事件だ。豊かになった日本。しかし、どこかで、そんな日本を標的にしている人たちがいる。日本国内では、それほど意識されないことだが、外国では、やはり日本人というのは目につくのだろう。そうしたことに、日本人はどちらかといえば鈍感なのではないだろうか。よくは分からないけれど、人の気持ちを理解するのは、想像力だといわれている。 つまり、現代の日本人に欠けているのは、その想像力だ。伝統的に日本人は人の気持ちを思いやる、思いやりとかいたわりを大切にしてきた民族だと思う。しかし、私が最近思うのは、日本人の思いやりとかいたわりというのは、日本人に対して向けられたものなのだ。そうでない人には、思いやりもいたわりもない。それが現実なのではないだろうか。それでは、広い世界の中では、やはり、恨みを買わずにはいないだろう。最近は、その日本人に対する思いやりやいたわりさえ失われたような気がしないでもないが。
 今年も後わずかになった。今年一年を振り返って、みんなでこれからの日本について考えてみよう。たいしたことは、思いつかないかも知れない。でも、考えてみることに意義があるんだということを、私たちはやはり知っておかなければならないだろう。
 よいお年を。

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8

「またまた、大事件ね。」
「ああ、ロシア船からの重油流出事故だろう。」
「そう。重油ってあんな風になっちゃうのね。全然知らなかったわ。」
「僕もだよ。人海戦術が一番頼りだなんて、大変だよね。急に寒くなってきたし、ボランティアの人の中から死者が出たって話しだし。」
「そうね。私も、行ってみたいと思ったけれど、邪魔になるだけのような気もするし。」
「テレビの映像で見る限りのことだけれど、僕なんか、田圃仕事で泥んこになることはあるけれど、油だからね。水で洗って取れるものでもないしね。そりゃ、大変だと思うよ。」
「でも誰かがしなければならないわけでしょう。やっぱり手伝ってあげる人が必要よ。」
「そうだな。でも、今回のことでも分かったように、環境問題というのは、決して一国の問題ではないと言うことだよね。自分ところだけきちんとしていたらそれでいいというわけではないところが、なんといっても問題の難しさだね。」
「そうね、ロシアだけを恨んでも仕方ないわけね。いつどこで、同じような問題が起こるかも知れないんだから、やはり環境問題というのは地球全体で考えなければいけないというわけね。」
「そういうことだろうな。」

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9

 今年のお正月は、本当に穏やかな日が続いた。このまま一年が過ぎてくれれば、問題はないのだが、世の中そう簡単にはできていないようだ。昨日から急に寒くなってきた。今年の冬で一番寒いだろう。重油処理作業にあたっている人たちは、本当に大変だと思う。自分たちには、何の責任もないのだから、余計にそう思う。しかし、考えて見れば、本当に環境の汚染というのは、一国の問題ではなくなっているようだ。突然海から重油が漂着するようなことは、自分たちだけではとても防ぎようがないからだ。それだけではないだろう。酸性雨や二酸化炭素の増加はかなり前からいわれているし、大気の汚染は、大陸からもたらされることもあるだろう。国内の原子力発電所の放射能も気になるだろうが、まだ比較的安全なものだろう。それより、今回の事故でも分かるように大陸からもたらされることもあるかも知れない。私の子供の頃は核実験の影響で死の灰を帯びた雨が降り、雨に当たると髪の毛が抜けるなどといわれたものだ。
 とにかく、いろいろと事件が起こるものだが、さあ、一年しっかりと生きていこう。インフルエンザがはやっているようだし、体には注意して。

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10

 「この間、日本は比較的安全だなんていっていた原子力関係のことなんだけど、動燃って、どうなっているの。」
 「このところ、話題になっているね。プルトニウムの再処理だとか、いろいろあるようだけれど。とにかく、このところの事故とその対応ぶりは、あまりにもひどすぎるって感じかな。」
 「どうして、ああ隠そう隠そうとするのかしら。」
 「まあ、人間都合の悪いことは言いたがらないものだけど、そこに、理念とか倫理観が問われているわけだよ。わかりやすく言えば、いったい何が一番大切かと言うことだね。自分一人の利益のためか、多くの人々のためかと言うことだよ。」
 「そう言われてみれば、なんとなくわかるんだけど、でも実際にその立場に置かれたら、どうなるんでしょうね。私自信ないわ。」
 「気持ちはよくわかる。でもね、そこいらのおじさんたちじゃあ、ないわけだよ。近所のおじさんおばさんたちが、何を言おうと、それは大したことはない。そんなの日常茶飯事だし、そんなことばかり気にしていきていたんじゃあ、生きていけないよ。そうじゃなくて、一つ間違えば、多くの人たちを犠牲にしてしまう、そう言う仕事をしている人たちなんだ。そう言う人たちが、妙に平等意識を持って、世間の人だって同じことをしているじゃないか、何て言うのはとんでもないことなんだ。最近の役人さんたちは、そこらあたりがおかしいんじゃないかと思うのだけど。」
 「そうね、平等といっても何もかも同じではない。それぞれにその人たちは責任を負っている訳ね。」
 「おっ、今日はやけに物わかりがいい。まさにそう言うことなんだ。だから、特別な地位にいない、僕たちのような者でも、それなりに責任感というか、正しい理念に基ずく倫理観というか、そういうものを持っていないといけないというわけだ。」
 「うん、今回はなんとなくよくわかるわ。私も、一人の市民として、正しい判断ができるように頑張ってみる。」
 「むやみに頑張る必要はないと思うけど、自然にそうなれば一番いいだろうね。」

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 いつの間にか、四月も半ばを過ぎてしまった。今年の桜は、どうだったのだろう。近くの寺院の裏山にある公園の桜、いつもは一面に咲き乱れるのだけれど、今年は、ほんの少ししか咲いていなかった。桜の名所であるはずなのに、これではどうにもならない。数年前にもそんなことがあったそうだ。その時は、今年よりもずっと花が少なかったそうだ。寺の住職さんが不祥事を起こして大問題になっているときで、そのため桜も怒って、花を咲かせなかったという話だったが、今年はどんな理由が人々の間で生まれてくるのだろうか。何か予期せぬ不都合の前兆なのだろうか。
 私は、本来そんなことは信じないタイプの人間だ。人々の間にどういう影響がでて、どんな噂が流れるのか、そちらの方に非常に興味がある。しばらく様子を見てみよう。

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