下請事務所の生き残り方
○仕事は減っていく
事業量の減少と、受注価格の低下が年々激化し、コンサル業界も経営的に厳しい状況に置かれ、倒産するコンサルもその数を増してきているようである。
この、弱体化したコンサルに宿り木のように寄生する我々下請け事務所の未来は暗雲立ちこめた状態であり、闇の向こうに微かに見えている底なしに深い崖の存在に気づかない振りをして、日々の業務をこなしているが現状ではないのだろうか。
今後、この業界の仕事が益々減っていることは明らかであり、コンサル自体が生き残りのために奮闘している今、下請け事務所としても何らかの対応を余儀なくされる時期に来ている。今回は、このような状況のなかで、下請け事務所はどう生き残るべきかを考えてみる。
○コンサルにとって外注することの利点は何か?
コンサルも営利企業である以上、利益のない行為はしない。コンサルが下請けに外注することの会社としての利点を考えてみると
@ 業務量の急増に対して技術者の確保策として有効である。
A 業務量が減少した場合に、社員の解雇は難しいが、下請けの切り捨ては容易である。
B 熟練技術者を社員として社内におくより、外注要員とする方が人件費の面で有利である
C 赤字が予想される業務については、外注する事により、その被害が軽減出来る。
D より安く外注することにより、社内でやるより確実な利益を得ることができる
E 技術的に自社で対応できないような業務も受注できる
等が考えられる。一方、実務を担当する技術者にとっての利点としては
@ 面倒な作業をしなくて済む
A 社内でやるより早く出来る
B 無理な工程も指示するだけでよい
C 技術の未熟さが補える
D 発注者として 優越感がもてる
等が上げられる。コンサルにとってのこれらの利点に対し、自己の利益を守りながら、如何に対応していくか? こらは生き残りを考える上で重要な要素であると思われる。
○どのような下請けが選ばれるか
誰もが裕福であると錯覚していた平成の初め頃、この業界に仕事は溢れており、コンサルの技術者は下請け探しに奔走した。年間の発注額を保証して専属の下請け契約を結ぶ会社もあり、下請けの売り手市場であった。コンサルの社員も独立して下請け業を始め、急増した収入に笑みを浮かべながら仕事をこなすものも多かった。
しかし、今は違う
業務量の減少に輪を掛けた受注単価の減少により、どのコンサルからも一時のような華やかさは消え失せている。しかし、業務の数は減ったものの、発注者からの成果品に対する要望事項が増える一方、工期や工程に関する管理が厳しくなり、実務を担当する技術者にとっては、減ったのは収入だけで、作業量は相変わらず多く、コンサル会社の明かりはいまも夜遅くまで消えることが無い。
だから、実務を行う技術者としては外注したいと思う。しかし、経営側は「外注したら儲けが無くなる、自社で処理しろ!(おまえらいくら働いても給料同じじゃ)」とくる。それで、技術者は外注の必要性を説く理由付けを考える。
@ 発注者から期限を切られており、社内の人員ではとても対応出来ない。
A この業務、自社で行った場合、明らかに赤字になる
B 技術的に自社では対応出来ない
これで、経営側が納得すれば、後は簡単である。以前と違い、下請けは、巣から身を乗り出して口を大きく開け、親鳥の運んできた餌を求めるヒナ鳥のように、みな仕事を待っている。選り取り見どりの選択は、こんな事を考慮してされるのであろう
@ 迅速で正確な仕事をしてくれる
A 安く受けてくれる
B 技術的に優れている
C 無理を聞いてくれる
D 手直し等に文句を言わない
E 金の事をうるさく言わない
F 気軽に接することが出来る
G 態度が大きくない
H 恩がある
このようにして選ばれた下請けは、自らの身を痛めながら、コンサルの社員を助け、会社の利益に少なからず貢献していくのである。そして、それが下請けの存在価値の一つであることも、否定できない事実である。
○何を売るか
右下がりと右上がりの二つの曲線が交差したグラフが示され、ものの値段は需要と供給のバランスによって決定されると説明されていたのは確かケインズの理論だったと思う。少し表現を変えると、売り手と買い手の要求が一致した地点でその値段が決定されることになる。これは、売り手から見ると買い手の望む度合の大きいほど高い値段を付けることができ、より効率的に利益を増やすことが出来ることを意味している。
では、今のコンサルが下請けに望むものは何か?、最近の傾向から推察し、下請け事務所を飲食店に置き換えて、端的に示すなら
安い、早い、満腹になる
では無いだろうか。こんな人達の住む地域に、高いがネタのよい寿司屋や、高級なステーキハウスを経営しても繁盛する事は無いだろう。牛丼屋やバイキング形式の焼き肉等、単価は安いが経費をかけず数で勝負の商売が適している。現実に今これらの商売は繁盛しているらしい。
では、もとにもどって、牛丼屋でも焼き肉やでも無い我々コンサルの下請け事務所は、何を売れば良いのか?買い手であるコンサルの要求に答えようとすると
☆安い → 安く受注する事は受注機会を増大させるが、処理できる量に限界があるこの仕事では収入の増加につながらない。
☆早い → 短時間で仕上げる事が要求される業務は体力が勝負となるが、こんな仕事ばかりやっていては体が続かない
☆満腹になる → 作業量の多さが評価され、質の評価は金額に反映されない。下請け選定の際の条件としては考慮されるが、与えられるのはやはり「安い」仕事になる。
どうやら、コンサル相手の我々には効率的に利益を得られる売りものは無いようである。つまり、この商売、儲からない商売なのである。
○下請けにとっての利益は何か
仕事の溢れていた頃、私は地元のコンサルの社長に対し「私は、下請けをしているのでは無く、営業を貴方に外注していると考えています」と豪語していた。売り手市場のあの当時は、こんな言葉も通用したが、今ではこんなこと言ってたら、たちまち路頭に迷うことになるだろう。
しかし、今でもこの考えは捨てていない。元々、何故、下請けをやっているのかと言うと、自分では仕事が取れないからである。やる気もないが、会社にして従業員をやとって、名刺を配って、入札に行って、なんて事は私には出来ない。一人でコツコツ仕事をこなしていく事の方が自分には合っている。
そう考えると、仕事が出来るのはコンサルさんのお陰なのである。自分が設計した構造物を見たり、建設系の新聞で、自分の係わった仕事が記事になっているのを見ると、つくづくそれを感じてしまう。
大した努力もせずに、大きな仕事に参加出来る。これは、下請けのメリットであり、仕事の報酬以外に与えられる利益と考えるべきである。
○安定した収入を得るためには
仕事が出来ることは自己の満足とはなるが、これでは家族は養えない。今後、仕事量が減少し、収入の減少が明らかとなっている今、安定した収入を得るためには、何らかの方法を考えなければならない。考えられる方策としては
☆新しい業務に挑戦する。
誰でも出来るような仕事ばかりしていたのではいずれ仕事は無くなってしまう。まだ下請けとしてやる人の少ないビオトープ等環境関連の仕事や、CGに関する仕事に挑戦するのも、方策としては有効である。しかし、依頼者は経験と実績を重視する。即戦力の要求される下請け事務所にとって、新しい分野でのを経験を積んでいける可能性は極めて少ない
☆作業の効率化を計り、薄利多売方式で収入を増大させる
コンピュターシステムとソフトの充実により、図面作成や計算業務を効率よく処理できるようにし、低コスト化により受注量を増やすやり方は、一時的にはその効果を発揮するであろうが、設備投資や情報技術で可能な方策は元請けにも可能であり、下請け事務所の存続のための方策とはならない。
☆同業者と連帯し、組織力を強化して受注を増やす。
大きな仕事を個人事務所に任す事は発注する側も敬遠するため、連帯する事により利益率のよい仕事の受注機会が増大する。また、業務が重なった場合や、時間的な制限を受ける仕事など、協力体制を持つことによてその処理を円滑化できる。さらに、不得意な分野を含む業務であっても作業を分割する事によって対応可能になる。 しかし、現実的には、仕事の分担や利益配分に当たって、何らかのトラブルの発生は避けられない。組織の構築には縦の関係が必要であり、同等のものの集まりで組織力の発揮は難しい。
と、思い浮かぶものは、全てダメである。なら、どうすればよいか? 最後の手段として
☆兼業化する
経済の発展に伴い、収入の増大と安定した生活への希望から、「兼業農家」という新しい形の農家が出来た。経済が低迷し、維持することが精一杯の時代になっている今、我々コンサル下請け業には「兼業事務所」という形態が時代の必然として現れるのではないだろうか。これまで考察してきたとおり、この仕事だけで将来的に安定的な収入を持続していける可能性は少ない。別の収入源を設けることにより金銭的な不足を補足し、「この仕事が出来る」ことの利益を享受することが生き残りの一つの方法ではないだろうか?。これは行けそうである。
○どのような兼業事務所とするか
副業と兼業の違いは良く分からないが、副業が本業の合間に単発的に行われる収益行為であるのに対し、兼業は2以上の収益行為を継続的に行う事であると定義して「兼業事務所」を考えてみる。
我々の仕事と兼業できる業種は何か? 兼業農家は、サラリーマンに休日があること、妻・老人等の労働力で大半の農作業が処理出来ることによって可能になっている。このことから考えると、時間の区分と、利用可能な労力の使用法により、兼業出来る業務内容が決められるようである。
東北の方に、冬期だけコンサル下請け業、他の季節は農業をやっている人がいるらしい。コンサルにはあらかじめその事が伝えてあるため、コンサル側も冬期以外は業務依頼はしないとのこと。出稼ぎの風習からでた発想なのだろうか、コンサルの忙しい年度末に的を絞った戦略は、参考とすべき事例である。
かなりレベルに差があるが、夫が弁護士で妻が会計士で一つの事務所を構えている人がいる。事務所の中は法律事務所と会計事務所が区分されておらず、どちらの所員かわかならい補助者と思われる女性が数名配置されている。この女性たちは、状況に応じ両方の仕事をしているようだった。これは合同事務所と呼ぶべき形かも知れないが、妻や身内に独立開業の資格または能力があれば、この業務と連帯した兼業化が可能かもしれない。
以上のような例を参考にして、では、具体的に何を兼業とするか? ここで答えが出てきた人は、生き残りが可能かも知れない。
○生き残るためには
人生の満足感はその目標が達成された時、あるいは希望がかなえられたときに味わうことが出来るものである。だから、目標や希望を低く設定することが、幸せな人生を送るために有効な手段であるといえる。収入の確保のために力むのをやめ、人並み以下の収入での生活を覚悟すれば、それなりに幸せな人生を送ることが出来、この仕事を今までどおり続けることも可能であろう。これも一つの方法である。
ここまで読んで、「こんな事なら別の仕事をさがそう」と思われた方は、早めに転職を考えるべきである。「それでも何とかこの仕事を続けたい」そう思う人しか生き残りは出来ないであろう。そしてその気持ちが生き残りに必要な唯一の条件である。
あなたは、どうします?
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