技術士口頭試験体験記

平成14年12月11日 15時30分より、新宿ワシントンホテルで技術士二次試験口頭試験を受けてきました。
その時の体験を、再現フィルム風にして、ここに紹介します

登場人物
試験官A (優しい感じの役人風。40代前半か?)
試験官B (刑事のような鋭い目をしたオッサン)
私(私の心の中)

 案内のおねさんがドアを開けてくれたので、中に入る
 ブースのようなものの手前に荷物置き場があったので、そに荷物を置いて
 E0153 小久保克道です
 というと、奥に座った試験官二人が
 どうぞ
 と言ったので、イスに座る

A「リラックスしてください」

私「はい、緊張しております
ここで、どこから来たか?とか聞かれるんだろうなあ)

A「今回、初めてですか?」
 (あれ?聞いてくれない。回答が用意してあるのに)

私「今回で3回目で、やっと筆記試験に合格できました」

A「そうですか、それはそれは何度もご苦労様でした」 
 (いえ別に、そういわれても困りますが)
 「経験論文、読ませていただきまして、大変良いアイデアだと思いましたが、
 
(論文の主旨を直接技術的な事から外した事かな?)
 既設部と新設部はどのように接続したのですか?
  
(なんだ、そんなことか)
 

私「平面的に、ここに既設、ここに新設がありまして(と空中に指で図を書きながら)、すいません、言葉で旨く説明できないので」

A「はい、良いですよ」 (いい人だなあ)

私「ここを、パイプで結んで、制水弁を付けまして・・・としました」

A「ほ〜、なるほど」 (こんな事で、感心してもらえるとは思わなかった)

B「別に詮索する訳では無いのですか、経歴書の中に空白の年があるのですが、これはどうしてですか?」
  
(経歴説明の練習してきたのに、こんな形できたか)

私「はい、大学卒業後○○コンサルに入社しここで大変勉強させていただきましたが
  (○○コンサルの関係者の可能性もあるので、こう言っておいた方が無難だろう)
  福井県の水道業者が新しく会社を作るため、技術者として招かれたため、その会社に転職しました。
  ここでの仕事は農業土木に直接関係していませんでしたので、業務経歴から除いてあります。

B「そうでしたか、大学卒業後、57年に○○コンサルに入ったのですね」 
 (このオッサン、何が聞きたいんだ?)


「はい、そうです」 

B「それでは、それまでは何していたんですか?」 

私「え? 卒業後すぐに入社したんですけど?」
 (そういえばさっき57年て言ってたなあ)

B「そんなこと言うけど、ほれ、ここに書いてある」といって経歴書を差し出した 
 
(役人に良くある、やなタイプだ)

A「経歴が57年から書いてあるだけで、○○さん入社は52年からですね」 
 (そうそう、この人ほんとにいい人だ)

私「はいそうです、入社直後はまだ修行時代と考えていますので、経験年数から外しました」
 (「修行」なんて言葉使っちゃったけど、この世代の人なら、理解してくれるだろう)

B「そうですか、そういう経歴もあるのですね」
 
私「はい」 (なんだ、それだけのことか)

A「それでは、現在の業務について教えてください」 
 
(進行中の業務かな?大したことやってないから聞かれたく無かったのに)

私「現在、行っている業務の事でしょうか?」

A「いえ、現在の事務所でどのような形で業務を行っているかなどを話してください」
 (よかった、これなら準備してきた)

私「はい、私は個人で農業土木のコンサル会社から仕事を受けています」 
 (覚悟を決めての回答だった、さて敵はどうでるか)

A「事務所はどこかに登録とかされているのですか?」

私「いえ、何処にも登録されていいません」
  
(登録していませんと答えるべきだったのか?)

 (ここで、二人の試験管がなにやら書き込んでいた)
  (これで、落とすつもりか?)

A「ご自身が責任者となって業務を行われている訳ですね (そうそう、そうです)
  この場合(経験論文を指して)土木部との協議等は、ご自身でされているのですか?

私「はい、この業務はあるコンサルさんが、パイプラインの移設および、ファームポンドの移設の
  測量と設計を受注しましたが、このコンサルさんにファームポンドの設計の経験が無かったので
  この部分について、私のところに依頼が来ました。
  土木部との打ち合わせは、全体をまとめるコンサルさんの担当者に同行して、
  ファームポンドに関するものについて、私が説明を行いました。
  (一括下請で無いこと、コンサルに提供出来る技術力があることをアピールするため、準備した回答のとおり)

 「ふむ ふむ
 (二人とも、これで納得した様子)  (第一関門、クリア!)

B「それでは、普段、設計をされる上で必要になると思われますコンクリートの応力はどのように求めるか、述べてください
 (こんな事なら、まかせなさい)

私「材令強度に安全率を見込んで設定します。  通常設計に用いる許容圧縮強度は・・・・」
  と得意げに述べていったがBさんの反応が無い

B「そういう事では無く、コンクリート応力の求め方です」

私「試験方法のことですか?(Bさん頷く) 学生時代、やった記憶があるのですが・・・
  えーと、テストピースを作って・・・
  それを、こう(手で押しつぶすまねをして)圧縮して・・・
   (う〜ん、これ以上、言えない)
  
  (Bさん、こりゃダメだ、という表情で何か書いていた。)

A「これまで、3度も受験されておられるとの事でしたが、受験の動機は何ですか?」
  
 (よかった、これは準備してある)

私「先ほど申し上げたとおり、私は個人で仕事をしております
  幸い、これまでは仕事の内容を通して顧客の信頼を受けることができ、
  10年以上、今の形で仕事を続けて来ることが出来ました。
  しかし、最近では何処の会社もISOを取得するようになり、
  このような体制の下では客観的な評価が必要とされるようになってきております。
  このため、技術士の資格を取って、今後よりいそう顧客からの信頼を高めると共に、
  自分自身も技術者として責任と誇りをもって業務に当たりたいと考えたからです。」
  
  (二人とも ふむ、ふむと頷く、感触としてはいい感じ)

A「他にはどんな資格をお持ちですか?」

私「一級土木施工管理技師、一級管工事施工管理技師、下水道技術検定二種、二級建築士、測量士を持っております」
  

A「ほ〜、全部持っておられるんですねえ」
B「ほ〜」
  
(なんか、いい感じになってきたぞ。もっと喋っちゃおうかな)

私「これらの資格は・・・」

B「それについては、もう良いです」
  
(やっぱ、やなやつ)

B「マンニング式は覚えておられますか?」
  
(こういつ、何考えとんじゃ?)

私(覚えているか?との問いかけなので、少し考える振りをして)
  「n分の一 ・・・、Rの1/3・・・・Iの1/2」とゆっくり答える

B「Vイコールですね」

私「はっはい、そうです」

B「それでは、それぞれの記号の意味をいってください」
 

私「Vは流速、nは祖度係数、Rは径深、Iは勾配」
  とひとつずつ思い出すように答えて終わると

B「はい、良くできました(笑い)」
  
私「ありがとうございます(笑い)」 
(これって技術士の試験じゃないの?)

B「次に、PFIについて述べてください」
 
 (なに! さっきのは、フェイントか?)
  (PFI? PIや CPDなら勉強してきたのに)
  (どこかで聞いたような気もするけど、何だったかな?) 

私 (いくら頭をひねても思い出せないので)
  「申し訳ありません、これに付いては勉強不足で、お答えできません」
  
(マニアル通りの逃げ口上だけど、どうだ?)
 
A「良いですよ」 
  
(この人、やっぱりいい人)
  
B「では、自然エネルギーの利用について、農業土木はどう関わって行くと思われますか
?」
  (また、へんな質問だな)

私(母校でバイオマス発電の実験中、爆発事故を起こしたニュースがふと浮かんできたので)
  家畜の糞尿を発酵させ
(あれ?糞尿を発酵させたら臭いなあ、ああ、違った)
  いや、おがくずを発酵させて発電を行う研究が現在行われておりますが
  
(あれ、反応がないぞ。他のこと言った方がいいかな)
  農業土木はこれまでも小水力発電にも関わってきましたので
   (ここで、二人とも、ふむふむと頷く)
(よし、いけた!) 
  今後、この関連でバイオマス発電にも関わって行くことが考えられます
 
B「なるほど」
  
(随分無理のある持って行き方だったけど、なんとかOKみたいだ) 

「つぎに、平成11年、食料・農業・農村基本法が制定され、
 現在それに基づいて事業が進められておりますが、この基本理念を述べてください」

  
(よし、これなら勉強してきた)

私「 食料の安定供給の確保、多面的機能の発揮、農業の持続的な発展、農村の振興です」
   
(どうだ、完璧だろう)
   
「そうですね、それでは、その中のひとつについて、農業土木の役割を述べてください」
   
(え!まだあるの? 何か筆記試験の問題みたいだな)
   (どう答えたら良いんだろう)

A「たとえば、多面的機能の発揮でも良いですよ」
  
(ためらっていたので、きっかけを作ってくれたようだ、この人いい人)

私「では、多面的機能の発揮について述べます
  農業土木は、これまで農業生産の増大、経営の安定、農村の生活環境の向上を目指して来ましたが
  (A氏、一語一語頷いてくれるので、A氏の方を見ながら)
  土地改良法の改定により、環境への配慮が義務付けられる等、
  農業土木事業は多面的機能発揮による社会資本整備の事業へと変わってきております
      途中省略
  これからの農業土木に求められるものは変わってきますが、先輩諸氏の作り上げてきた施設や
  積み重ねられた技術にはすばらしいものがあります
(Bさん、あなたも含めて)ので
  これらを尊重して、今後の事業展開に生かしていくべきだと考えます」
  (A氏、始終、頷きながら聞いてくれた)

B「先ほど、土地改良法の改正を言われましたが、これによって農業土木はどう変わるのですか」
  
(今言ったこと聞いてなかったの? やなやつ)

私「まず、先ほど申しましたとおり、環境との調和への配慮が義務づけられました。
  そして、受益対象が変わります。
  (二人が「何?」といった表情を見せた)
  つまり、これまでは農家の同意のみで事業認可が行われましたが、
  今後は、事業認可に当たり、市町村長や地域住民の意見を聞くことが義務づけられました
  これにより、農業土木事業の受益者が、これまでのように農家のみでなく、地域住民全体となります
  このことが、農業土木事業の大きな変化です。

B「はい、わかりました」

B「では、性能設計というのがありますが、今後、農業土木にどのように取り入れられると思われますか?」
 
 
(またまた、困った。でももう逃げ口上は使えない、何か言ってみよう)

私「建築設計で良く聞かれる言葉ですが、土木では、国公省の舗装工事で試行されたようです」

B「そういう事ではなく農業土木への関わりを聞いているんです」
  
(そんなこと、何処にも書いてなかったよ、農業土木に関わって来ることなのか?)
  (あ!そうだ)
私「環境との調和に配慮した水路の設計などでは、植物や生物を対象とすることになりますから
  一律の設計基準どうり設計すれば良いというわけにはいきません。
  このような部門で、今後は性能設計の考え方が取り入れられるかも知れませんね

B「なるほど」 
  
(よかった、何とかかわせた)
   

B「それでは、少し前の話ですが、
BSE問題における技術者の対応をどう思いますか?」
  
(なに!今更BSE? 筆記の択一に出なかったのに。それと技術者がどう関わるんだ?)  
  (う〜ん、何も言うことが無い)

私「えーと。牛の事ですよね」
   (ばか、なに言ってんだ)
   (う〜ん、やっぱり何も言うことが無い)
  「情報公開が遅れたことが、問題になりましたが・・・」

B「それは誰が悪いのですか」(やや語気が強まってきた)
  (しまった、農水省批判はタブーだった)

私「いや、それは、マスコミが騒いだだけで・・・」

B「マスコミが悪くて、技術者は悪くないのですか(怒)」
  
(やばい! このままでは相手の思う壺だ)
  (とにかく、表情だけでも対抗しよう)
   (^_^) (取りあえず微笑んだ)

私「いえ、この件について私は詳しいことを知りませんので、正しいことは言えませんが
  技術者は皆、責任と、倫理感をもって業務に当たっております
  同じ技術者として、技術者が悪いとは思いたくありません(キッパリ)」

B「・・・・・」(「あ、そう」といった感じで、何か書いていた)

A「それでは、技術士補についてお伺いします」
  (何? 何で技術士補? 技術士はもうダメだから?)

A「技術士法にある3つの義務と2つの責務を言ってください」
  
(なあんだ、”士補”ではなくで”士法”だったのか)  

  (それなら、バッチリだよ)

私「信用失墜行為の禁止、 秘密保持の義務、名称表示の義務、公益確保の責務、資質向上の責務です」

A「はい、ではこのうち、秘密保持の義務に対する罰則規定を御存じですか?」
  
(はいはい、これもOKですよ)

私「
1年以下の懲役又は50万円以下の罰金です」

A「はい、ではこの中で、日頃特に心がけている事は何ですか?」
  
(えーと、何にしようか。無難なせんでいくか)

私「
我々の仕事は、常に勉強していないと取り残されてしまいます
   (A氏、頷く)
   そういう意味からは、資質向上の責務になるかと思います。

A「はい分かりました」

B「コスト縮減についての取り組みが行われておりますが、
  このようにしてコスト縮減をした、というような事例がありますか?

  (う〜、これも今更の感じの質問だなあ)
A「この中でも、検討されていますよね」と経験論文を指さした
 
 (この人、やっぱりいい人だ)

私「最近の業務では、殆ど経済比較等を行ってコスト縮減を図っています(今更聞くなよ)
  あえて上げるとすると、排水路の改修設計で、重力式擁壁で出来た既設護岸の取り壊しをさけるため
  センターを振って、この全面にブロック積護岸を設置したことがありました。
  最近では、取り壊した殻の処分費が高くなっており、壊さない配慮がコスト縮減につながる上に
  環境面でも有効になるといった事例です。

B「なるほど」

A「では、これまで携わった業務の中で、これは旨くいった、と言うような事がありますか?」
  
(え! それは用意してなかった、失敗例なら用意してあるのに)
 「失敗例でも良いですよ」

  (この人、神様だ!)

私「では、失敗例ですが。
  業務経歴に上げた(A氏が経歴票を見ていたので)最初の方に書いてある
  既設ファームポンドの改修工法の検討
  ですが、ここではファームポンド改修に当たり、工事中も潅漑ポンプが止められないと言うことで
  仮の吸水槽を計画しましたが、水使用の時間的集中を把握していなかったので
  水使用に支障を来し、農家からのクレームを受けてしまいました。
  しかし、この時の失敗が、経験論文に書いた業務で役立っています」

A「お〜、そうだったんですか」 
   
 (よし!作戦通りだ)

A「はい、それではせっかくですので」
  
(何がせっかくなのだろう?)
  「我々と同じ技術者である、田中さんがノーベル賞を受賞され、
  マスコミ等で盛んに取り上げられていますが、これについてどう思われますか?


私(おまけの質問のようなので、緊張もほぐれて)
  「田中さんが好感度高く受け入れられているのは、自分を飾らないからだと思います。
  自分を飾らないのは自分の技術、自分の仕事に自信があるからでしょう。
  田中さんの望むものは、ノーベル賞でも、華やかな世界でもなく、
  自分の技術、仕事が世の中の役に立つことです。
  私は、自分の仕事にプライドを持っている田中さんを尊敬すると同時に、
  社会に必要とされる仕事に携わる田中さんを羨ましくも思います」


A「はい、ではこれで終わります。ご苦労様でした」

B「ご苦労さまでした」(にこやかな表情で)
 
 (この人も、いい人なんだ)

私「ありがとうございました」

(荷物を持って外に出て)
(おわったー!)


口頭試験を体験した感想

 試験前一週間は、筆記試験に合格したことを後悔するくらいの、強いプレッシャーに苛まれましたが。いざ、臨んでみると普段の打ち合わせのような雰囲気で、気が付いたら終わっていたと言った感じです。試験中感じたことは、試験官の方たちは、話し方が上手で、尚かつ聞き上手だと言うことです。ですから、普段の業務で、物わかりの悪い担当官と協議する事を考えたら、ずっと楽かも知れません。内容については、私は決して十分な回答は出来ませんでしたが合格点がもらえたようです。年の功かも知れません。ちなみに、農業部門のうち農業土木を選択した受験者の筆記試験合格者は245人、うち、口頭試験合格者は226人、つまり19人の方が、残念ながら不合格となったようです。たぶん、この19人の方は、まだ若い方で経験不足が原因での結果でしょう。私の体験からは、口頭試験は、それほど完璧な回答が出来なくても「おじさんなら合格出来る」ような気がしました。




                                       もどる