農業土木技術者の建築知識
 

 農業土木はポンプ場などを扱うため、建築設計に係わってくることがしばしばある。建築の設計は社内の建築士が担当したり外部の建築設計事務所に外注されるため、農業土木技術者が直接設計することは少ないが、業務の管理技術者としては、ある程度の建築に関する知識は必要である。さらに、最近では予算の関係か小規模の建屋など建築士に頼まず、土木屋で処理することも多いようで、私のところにもオマケで付いてくることがある(私は一応、建築士の端くれではあるのだが)。といっても参考例をまねて出来る程度のものであるが、この際にもある程度の知識がないと、不適格な設計をしてしまうことになる。そこで、ここでは、小規模な建屋を対象として、最小限知っておくべき建築に関する知識を私の知る範囲内で列挙する。

設計者の資格
 建築の設計といえば建築士であるが、建築士には、1級建築士、2級建築士、木造建築士の3種類があり、建築士法によりそれぞれの設計・工事監理のできる範囲が下表のように定められている。
  
区  分 一級建築士 二級建築士 木造建築士
木造建築 制限無し
延べ1,000m2まで
(平家は無制限)
延べ300m2まで
(平家または2階建)
鉄筋コンクリート造等 延べ300m2まで 延べ30m2まで
(平家または2階建)
学校・病院・集会場等 上記の範囲内
かつ延べ500m2まで
上記の範囲内
            ここで、鉄筋コンクリート造等には、鉄骨造りやコンクリートブロック造が含まれる
 
 農業土木で扱うことの多い鉄筋コンクリート造について見ると、30m2までというとファームポンド等に設けられる用水機場の建屋の規模であり、300m2はかなり規模の大きい排水機場や集落排水処理場の建屋が対象となる。
 表に示したのはそれぞれの建築士の出来る上限値であるが、実際には建築士法は下限値を示しており、この下限値以下であれば建築士でなくても設計が可能となる。無資格者でも設計が可能な範囲は下表の通りである。
      
区  分 無資格者が設計出来る範囲
木造建築 延べ100m2まで
(平家又は2階建)
鉄筋コンクリート造等 延べ30m2まで
(平家又は2階建)
学校・病院・集会場等 上記の範囲内

 よって、用水機場の建屋ような小規模な建築物なら、必ずしも建築士が設計する必要は無く、土木屋が設計しても問題はない。


建築確認の必要な建築物
 建築確認とは、建築主が建築士等によって設計された内容が法令に適合していることの確認を受けるため建築主事または民間検査機関に確認の申請書を提出して確認を受けることである。建築主事とは、役所の職員のうち建築主事の試験に合格した者がなるもので、民間検査機関とは、建築主事の不足、確認・検査事務の効率化のため、規制緩和の一環として、建築主事の業務を民間に委託したのもで、耐震偽装の事件で名前のあがっていた○○ホームズなどが、これに当たる。
 この建築確認を出さなくてはならない建築物は建築基準法で決められており、都市計画区域及び知事指定区域外では
   木造 では3階以上又は500m2をこえるもの
   鉄筋コンクリート造等では2階以上または200m2をこえるもの
となっているが、都市計画区域内及び知事指定区域内では全ての建築物が対象となる。
 ここで、都市計画区域とは通常市街地のみでなく、市街化調整区域も含まれるため、農村部に建設する小規模なポンプ小屋であっても、建築確認が必要になることがある。
 もっとも、建築主が国、都道府県の場合は建築確認とは言わず「建築通知」というが内容は同じである。

構造計算の必要な建築物
  建築基準法は構造計算で構造耐力を確認することの必要な建築物の規模を定めており、農業土木で扱う建築物に関しては次の通りである。
  木造の場合、3階以上または延べ面積500m2,をこえるもの
  鉄筋コンクリート構造等の場合 階数2階以上 延べ面積 200m2をこえるもの

 よって、小規模なポンプ小屋程度では、本来構造計算は必要とされていないが、コンサル業務の中では法で定める以下の規模でも構造計算を要求されることがある。
 法は、小規模な建築物の構造計算を否定しているものではなく、小さな集水桝でも構造計算をするような土木の世界では、配筋図の有るもの全てに構造計算が必要と考えるのも当然の事なのかも知れない。
 建築の世界では、ある程度の規模までは現場技術者や職人の裁量にゆだねる思想があり、勘や経験が尊重されているが、土木の世界では、こういった思想がなくなっているようである。

構造形式
 構造形式の選定は建築物の規模に応して経済性などを検討して決定される。排水機場などで天井クレーンなどを設ける場合で梁間10m〜15mまでは、鉄筋コンクリートラーメン構造が多く用いられる。鉄骨構造は鉄筋コンクリート構造に比べ、高層、大スパンに適した構造であるが、寒冷地で雪のため冬季の施工が制限されるような地域では工期短縮のため、通常鉄筋コンクリート構造となるような規模でも鉄骨構造とされることもある。
 小規模な建物については、経済性からコンクリートブロック造や鉄筋コンクリート壁式構造が採用される。コンクリートブロック造はコンクリート空洞ブロックを鉄筋で補強して耐力壁とするもので、一見頼りなく思えるが、当地にある豊川用水事業で建設された揚水機場のコンクリートブロック造ポンプ小屋は、40年経った今でも何ら損傷がなく、その機能を継続しているものが殆どである。また、鉄筋コンクリート壁式構造は梁や柱の無い、壁だけで構成された構造形式で、用水機場のポンプ小屋や集落排水の処理場建屋などで採用されている。
 最近では、環境への配慮から間伐材などを使った木造建築も施工されているようである。木造建築は防火上、大規模建築物(高さ13m、軒高9m又は延べ面積3,000m2をこえるもの)や、防火地域内での建築が禁止されているが、通常、農業土木で建設する建築物においては、法的制限を受けることは少ないと考えられる。しかしながら、土地改良施設は受益者が維持管理する事になるため、耐用年数や維持管理の面から敬遠されることが多いようである。

建築設計で使用する基準
  建築設計での基準は建築基準法であり、その具体的な内容を規定しているのが、建築基準法施行令である。これらは法であるから、ここに示された事は必ず守らなければならない。しかし、これらは最低限の条件が定められているだけであるため、実際の設計では建築学会の定める「規準」が使用される。
ここで、「基準」 とは、守らなければならない最低の条件であり、「規準」 とは標準的な内容が決められているもので。必ずしもこれに従うことは無いがこれにしたがっておけば間違いが無いという、一種の道しるべのようなものである。
 実務で使用されると思われる規準書には次のようなものがある
  
鉄筋コンクリート構造計算規準・同解説
壁式構造関係設計規準集・同解説(壁式鉄筋コンクリート造編)
壁式構造関係設計規準集・同解説(メーソンリー編) (コンクリートブロック造を含む)


壁式鉄筋コンクリート構造の特徴と設計上の留意事項
 ・床面積に応じた耐力壁の延長が必要である
 ・耐力壁の厚さは部屋の高さによって最小寸法がきまる
 ・耐力壁の配筋(せん断補強筋)は建物の階数に応じて決められている

コンクリートブロック造の特徴と設計上の留意事項
 ・使用するコンクリートブロックにはA種、B種、C種があり、
  階数と軒の高さによって使用制限がある
 ・通常の平屋の場合、A種ブロックでよいが、
  耐力壁の最小厚さの規定から15cmを使うことが多く、
  15cm厚のブロックの市場性からC種を使用することが多い
 ・平屋の場合、軒の高さは4.0m以下で無ければならない
 ・耐力壁により囲まれた面積は60m2以下で無ければならない。
 ・床面積に応じた耐力壁の延長が必要である 
 ・せん断補強筋は横D10以上@800以下 縦D10以上800以下 かつ 3/4・L (耐力壁実長) 
  ブロック400×200であるため、通常、横方向はブロック目地2段に1本
  縦方向は全ての目地に配筋する。
 ・隅隔部及び開口部上縁及び下縁にはD13×1本を配筋する
 ・ブロック壁頂部に臥梁(がりょう)を設ける 
  平屋で鉄筋コンクリート屋根スラブを設ける場合は省略できるが、
  一般には省略せずに設ける場合が多い

鉄筋コンクリート構造の構造細目
  ◇梁
  ・最小鉄筋量は断面の0.4%または、計算によって求められた鉄筋量の4/3のうち、
   小さい方の値以上とする
  ・主筋はD13以上とする
  ・主筋のあきは2.5cm以上、かつその径の1.5倍以上とする
  ・主筋の配置2段以下とする
  ・あばら筋(スターラップ)はD10以上、間隔はD/2以下かつ25cm以下、
   あばら筋比は0.2%以上とする
  ◇スラブ
  ・引張鉄筋はD10以上とする
  ・配筋間隔は短辺方向20cm以下、長辺方向30cm以下とする
  ・最小鉄筋量は短辺、長辺共に コンクリート全断面積の0.2%以上とする
  ・鉄筋位置の固定や施工時の乱れを少なくするため、
   D10のみとなる配筋を避け、D13を混用する
  ◇コンクリート強度
  ・構造体コンクリートの調合強度は、設計基準強度に3N/o2加えた値とする。
   構造体コンクリート強度と供試体強度の差を考慮した割増しであり
   構造計算で21N/mm2としていも、数量では 24N/mm2で計上する必要がある