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   フルームとフレーム

T 始めに
  フルームとは、水路側壁と底版が構造的に一体となって土圧、水圧等の荷重を支持する形式の水路と「設計基準・水路工」では定義されているが、「設計基準・ポンプ場」などでは、U形ラーメン構造をフルーム構造と表現している。一方、フレームは、骨組モデルによりラーメン計算を行う構造解析手法を表わす言葉として一般的に使用されている。
  「設計基準・ポンプ場」では、導水路や浅いピットと見なされる吐水槽でフルーム構造として解析するよう規定しているが、このフルーム構造を「設計基準・水路工」に示されるフルームの構造計算法によるか、U形ラーメンとしてフレーム計算を行うかで、設計の結果が大きく異なることがある。ここでは、構造規模、荷重ケースごとに両者の計算結果を検証してみた。、

U フリュームフレームの構造力学的な違い
  ここで言うフレームはU形ラーメンを解析する場合で、基礎地盤を弾性体として取り扱うため底版に分布バネを設定した解析モデルに特定する。
1.底版反力の違い
  フルームフレームで差異が生ずるのは底版上面のモーメントであり、これは下記のような底版反力の違いが原因となっている。
 (1)フルームの底版反力
   側壁荷重が底版全体に均一に分布するとしている
 (2)フレームの底版反力、
  側壁荷重はバネ反力として分布するため、端部が大きく、中央部が小さくなる。底版反力について「設計基準・水路工 7.2.1 P242」では、実用上、等分布荷重と仮定しても大差ないとしているが、後述する検討結果より、これは一般的な水路形状の範囲内で言えることで、壁高に対して水路幅が広くなる場合、この影響は大きくなる。

2.底版に生ずるモーメントの違い
 底版に生ずるモーメントは底版反力によるモーメントと側壁から伝わる材端モーメントを加算したものとなる。
 
(1)底版反力のみ作用した場合のモーメントの比較 【図.1】 
 @フルームの場合、等分布荷重のかかる単純梁となるため、スパン中央部が最大となるモーメント図となる。
 Aフレームの場合、底版と側壁の長さの比が小さい時はフルームと変わらないが、底版が長くなるにつれて、図のように中央より両側2ヶ所に最大モーメントが生ずるようなモーメント図となる。

(2)材端モーメントのみ作用した場合のモーメントの比較  【図.2】 
  材端モーメントは荷重ケースにより、外→内向きのモーメントと内→外向きのモーメントの2種類がある。
@フルームの場合、材端モーメントの向きに係わらず、底版に作用するモーメントは材端モーメントの大きさで一定である。
Aフレームの場合、端部が大で中央部に行くにしたがって減衰するようなモーメント図となるが、材端モーメントの向きが 内→外モーメントの時、分布バネの反力が下側に働く(地盤が底版を引っ張るような力が働く)事は現実的でないため、実際の計算では、分布バネを無しとし、フルームと同様、材端モーメントが底版に一様に作用するような計算条件を設定しなければならない
      
V 構造規模によるモーメントの違い
 底版上面モーメントについて、水路工に規定するCASE1(水路内空) とCASE3(水路内満水)につて比較を行った。計算のモデルは次のとおりである
 
H B B/H t1 t2 t3
3.00 3.00〜12.00 1〜4 0.20 0.35 0.35
2.50 2.50〜10.00 1〜4 0.20 0.30 0.30
2.00 2.00〜8.00 1〜4 0.20 0.25 0.25
1.50 1.50〜6.00 1〜4 0.20 0.20 0.20
  上表において
     H : 側壁高 (m)   B : 底 幅  (m)  
     t1 : 側壁上端厚 (m)  t2 : 側壁下端厚 (m)  t3: 底版厚  (m) 
     分布バネ値は道路橋示方書・同解説・W下部構造編よりN値10として算出

(1) CASE1(内側空)の場合 【図.3】
 @B/Hが2程度が共に反極点となり、これよりBが大きくなった時,底版上面に引張力が働く
 AB/Hが2程度まではフルームの場合もフレームの場合もモーメントの値は殆ど変わらない
 BB/Hが2程度以上では、フルームの場合に一定勾配で増加していくのに対し、フレームの場合は殆ど変化が無い。つまり、底幅が広くなっても底版上面のモーメントは増加しない。
 Cフルームの場合とフレームの場合を比べると、壁高が高い程、B/Hが大きくなったときの差が大きい。
 DB/Hが大きくなったときのモーメント図は 【図.4】のようになっている。

(2) CASE3(内側満水)の場合 【図.5】
 @ フルームの場合はB/Hに対し、一定勾配で増加する。この時、壁高が高いほど増加勾配が大きい
 A フレームの場合は、B/Hにとってモーメントは殆ど変化しない
 B B/Hが大きくなったときのモーメント図は【図.6】 のようになっている。

W 配筋計画上の違い
 現実的には配筋計画にどれだけ影響するかが問題となる。 【図.7】のように、底版上面の配筋は通常CASE.3で決まるため、CASE.3のモーメントで底版上面の配筋を決定すると【表.1】のとおりとなった。これより
 @ B/Hが1の時は両者とも変わりない
 A B/Hが大きくなるに従ってフルームの場合の配筋量は増加する
 B フレームの場合は,B/Hの変化に係わらず、一定の配筋となる
 このように、B/Hが大の時、フルームで計算した場合、フレームで計算する場合に対して、かなり大きな配筋を行うことになる。

X フレーム計算についての考察
 これまでの検討結果より、フレームで計算する方が、フルームで計算しる場合に比べ経済的な設計になることが分かったが、フレームで計算する場合の妥当性、について考察してみる。
 フレームでの計算で底版モーメントがフルームの場合より少なくなる原因は、フレームが底版に分布バネを持たせていることにある。従って、この分布バネの値が適切でなければ、モーメントの値の妥当性は保証されない。
 これまでに示した計算はN値を10としてバネ値を求めていたが、N値を変えた場合との計算結果と比較してみると
H=3.00m B=9.00mの時 
N値 バネ値(N/m3) 曲げモーメント(kN・m) 必要鉄筋量(cm2) 配  筋
20 33000 40.75 10.73 D19@250
10 16000 44.02 11.70 D22@250
5 8100 49.38 13.12 D22@250

 上表に見るように、バネ値が小さくなるほど底版モーメントは大きくなるが、その変化は微少である。バネ値の決定は実務的にはN値による場合が多いと思われるが、N値から判断しても、一般的な地盤の場合、底版モーメントがバネ値に左右されることは殆ど無いと考えてよい。よって、フレームで求められる底版モーメントは実務的に妥当なものと判断できる。

Y 設計への適用について
 フレームの計算で設計する方がフルームの計算による場合より経済的な設計になることは分かったが、一般の水路の設計には「設計基準・水路工」で規定しているため、フルームの計算で設計すべきである。もっとも、一般的な水路形状では、ここでの計算結果から、両者に大差が無いことが分かっているため、あえてフレームとするメリットも無い。
 吐水槽、ファームポンド、遊水池などの、広く浅い構造物の場合、側壁を擁壁、底版をコンクリート版として設計する場合が多いが、用地に制限される場合や、水密性が要求される場合は、一体構造とする場合もあり、このような時、U型ラーメン構造として計算する場合は、フレームでの計算が明らかに有利になる。
 
Z おわりに
 ここでは、 モデルケースについてフルームフレームの計算結果の違いを検討してきたが、実際の設計においては、荷重条件、事業主体の設計基準等を考慮して、その適用を判断しなければならない。また、地盤のバネを考慮する考え方は「設計指針・ファームポンド」にPCファームポンドの設計の章で取り上げられているが、他の基準には見受けられないため、採用に当たっては協議・確認も必要であると思われる。