液状化
    

Tはじめに
 私が「液状化」という言葉を学んだころは、土木の専門用語と思っていたが、最近ではマスコミの報道でも聞くことが多く、一般にも馴染みの有る言葉となっている。実務の上でも液状化を取り扱うことが多くなっており、「液状化の判定」を行うが、単なる数値計算として対処している場合が多い。
ここでは、土木技術者として、一般人より少しは詳しく液状化を知っておくべきと思って勉強した結果をまとめる事とする。

U液状化判定の歴史
 液状化が注目されたのは、1964年の新潟地震であり、この時の被害調査をもとに液状化の研究が進められ、昭和46(1971年) 道路橋耐震設計指針が液状化しやすい地盤の判定方法を世界で始めて導入した。1)
その後、道路橋示方書は昭和55(1980年)、平成2年(1990年)、平成8年(1996年)、平成14年(2002年)と改訂を重ねてきているが、平成8年の改訂では、兵庫県南部地震(1995年)の被害状況を踏まえ、判定条件に大きな変化があった。平成2年版と平成8年版の「液状化の判定を行う必要がある土層」の判定条件を下表に比較する。

改訂年 基となった
地震
地下水位 対象範囲 細粒分含有率FC 粒径
平成2年(1990) 新潟地震(1964) 現地盤面から10m以内 現地盤面から20m以内
平均粒径D50 0.02m以上2.0mm以下
平成8年(1996) 兵庫県南部地震(1995) 現地盤面から10m以内 現地盤面から20m以内 35%以下(IP15以下) 平均粒径D50 10mm以下       D10 1mm以下

従来、地震時に液状化現象が生じるのは、ほとんどの場合 沖積砂質土層であるとされていたが、
兵庫県南部地震や近年の地震において沖積砂質土層以外でも液状化した例が見られたため、このような改訂が行われた。洪積土層は兵庫県南部地震を含む既往の地震において液状化した事例は確認されていないが、平成8年版の解説では、低いN値をしめしたり、続成作用を喪失した沖積土層については液状化の判定をおこなうのがよい、としている。2)
 このような基準の改定と社会認識の変化により液状化の対策を検討する機会が増えてきているが、判定技術の歴史は基準制定から40年未満と浅く、事例と共に成長しているものであることを認識して、その結果を判断すべきと考える。

V液状化の判定方法
 液状化の判定方法は、下表のように各機関から指針及び基準が出されている。
指針・基準名 判定方法
道路橋示方書・同解説X 耐震設計編  日本道路協会 2002 地下水位、細粒分含有率FC、平均粒径D50より対象となる土層を判断、これについてFL値を求めて判定を行う。
港湾の施設の技術上の基準・同解説 運輸省港湾局 1999 粒度分布図から可能性の判定、可能性の有る場合、等価N値と等価加速度により判定
建築基礎構造設計指針 建築学会 2001 道路橋示方書と同様の方法だが、細粒分についてコーン貫入試験を用いた推定法を用いたり、水平震度のかわりに水平加速度を用いる等の違いがある。
水道施設耐震工法指針・同解説 日本水道協会 1997 道路橋示方書と同様
下水道施設の耐震対策指針と解説 日本下水道協会 1997 道路橋示方書と同様
共同溝設計指針 日本道路協会 1986 道路橋示方書H8年の改訂前と同様
河川堤防の液状化対策工法設計施工マニュアル(案) 建設省土木研究所 1997 道路橋示方書と同様
 
 港湾の基準以外は基本的に道路橋の方法と同じである。農業土木の基準となる「土地改良施設 耐震設計の手引き」では、両方の方法を紹介しており、特に指定はしていないが、道路橋の方法で検討する事が多いようである。2つの方法が存在する経緯は定かではないが、いずれにしてもこれらは、室内液状化試験や地震応答解析を行う詳細な判定法、及び模型振動実験や原位置液状化試験を行う判定法に対し、”簡易法”と位置付けられているものである。FL値の計算など、かなりの数値計算を行って算出しているが、所詮”簡易法”なのである。

W液状化の構造物への影響
 液状化の判定法は、港湾以外、全て道路橋の方法であるが、その結果の構造物への影響の評価は、基準によって若干異なっている。これを、下表にまとめた。
指針・基準名 構造物への影響
道路橋示方書・同解説X 耐震設計編  FL値に応じて土質定数(地盤反力係数、地盤反力度の上限値および最大周面摩擦力)を低減する。
港湾の施設の技術上の基準・同解説 対策工を行う事を原則としており、構造物の影響は考慮しない。
建築基礎構造設計指針 地盤剛性の低下、水平地盤反力係数の低減を考慮する。
水道施設耐震工法指針・同解説 水平地盤反力係数の低減、浮き上がりの検討を行う
下水道施設の耐震対策指針と解説 水平地盤反力係数の低減、浮き上がりの検討を行う
共同溝設計指針 過剰間隙水圧を求め、浮き上がりの検討を行い、安全利率が1.1未満の時は対策を講じる
河川堤防の液状化対策工法設計施工マニュアル(案) 液状化の判定後、過剰間隙水圧の上昇を考慮した安定計算(円弧滑り)を行い対策工の必要性を判断する。最小安全率により沈下量を算定する。

 構造物への影響の評価の違いは、次のように分類される
  @地盤を構造物の基礎として扱うもの → 支持力の低減を行う
  A地盤に埋設されるもの         → 地盤内での安定を検討
  B地盤上の盛土構造物          → 間隙水圧の上昇を考慮した安定を検討
 これより、液状化による構造物の影響は、支持力の低下、間隙水圧による浮き上がり、間隙水圧上昇による土のせん断抵抗の低下があり、構造物の特性に応じ、各基準で対応の仕方を示していると言える。
 ここで、農業土木の扱う構造物について考えてみる。液状化が発生する地盤を考慮した耐震設計の方針が「土地改良施設 耐震設計の手引き」(以下「手引き」)に示されており、構造区分と重要度により液状化対策の必要性を次のように規定している。
構造物区分 地中構造物 地上構造物 基礎
構造種別 パイプライン ため池・調整池 杭基礎(橋梁・ポンプ場・頭首工)
重要度 B種・C種 A種 B種・C種 A種 C種 A種・B種
液状化対策 × × ×
                               ○:対策必要 ×:対策不用
「手引き」の表のまとめ方には難解なところがあり、上表は個人的な判断によるが、
 ・パイプラインでの対策は、曲管やスラストブロックの支持に対する対策や管の浮き上がり対策、
 ・ため池・調整池については、土堰堤を対象としていると思われ、液状化を考慮した安定解析により対策工を検討すること、
 ・杭基礎については、道路橋の基準により土質定数の低減をして設計すること
を示していると解釈出来る。
 では、農業土木の一般的な構造物、開水路や暗渠はどうすれば良いのか?重要度による区分は、地中構造物及び地上構造物のどちらと考えても同じであり、液状化の対策を検討するのはA種の時のみである。このA種に区分される施設は、幹線水路が市街化により住宅地を通っていたり、高速道路や鉄道に隣接したり交差したりするなど、少なからず存在する。これらを改修する時に、液状化の可能性があると判定された場合、何をすれば良いか?
「手引き」には明記されていないと思うので、ここで考察してみる。
 液状化の構造物への影響は、前述のとおり
  @支持力の低下
  A間隙水圧による浮き上がり
  B間隙水圧上昇による土のせん断抵抗の低下
である。このうちBについては対象外であるが、@については、道路橋の基準により土質定数の低減が考えられる。しかし直接基礎の場合、通常の支持力計算で、地盤反力係数や最大周面摩擦力の要素は出てこない、地盤反力度の上限値についても、道路橋に示されている値が開水路及び暗渠にとって極めて大きな値であるため、低減の意味をなさない。支持力を評価するにはFEM等の解析によらなければならないのだろうが、それ以前の問題として、地中にある構造物には液状化により揚圧力が働くため、地盤反力は減少し、支持力よりもAの検討が重量であるとも考えられる。
これについて、地盤の状況を下図のように区分して考える。



 タイプ1の場合、水路は非液状化層内にあるため、水路下の非液状化層のみで水路を支持出来れば問題はない。これは、地盤反力の影響範囲がどこまで及ぶかの問題となり、簡易な方法としてはMeyerhofの支持力公式の基となるすべり面から算出する方法があるが、「小規模建築物基礎設計の手引き(日本建築学会)」で、液状化に対する表層改良厚を2.0m程度としていること、「埋立地の液状化対策ハンドブック(運輸省監修)H19」で木造住宅など軽量小規模構造物では、非液状化層の厚さが3.0m以上あれば、レベル1程度の地震で液状化の影響がないとしていることから、通常の開水路及び暗渠であれば、非液状化層が基礎下に2.0〜3.0m程度あれば、問題は無いと予想される。
 次に、タイプ2の場合は、静水圧による揚圧力(浮力)の他に過剰間隙水圧による揚圧力が加わるため、幅の広い開水路や大断面の暗渠では、浮き上がりが心配される。この検討は共同溝の基準に準ずれば検討できる。しかし、ここで扱う過剰間隙水圧による揚圧力は、土中の間隙水圧の消散が拘束されている状態で発生するものであり、液状化の終了時点では、噴砂や水と土の分離により沈下や支持力低下が起こる可能性がある。3)  このため、水路の沈下が予想されるが、周囲地盤より水路が沈下することは、水路機能の障害にはなるが、溢水等による二次災害に結びつく事は少ない。そもそも重要度Aが、周辺への二次災害を念頭に置いたものであることを考えると、水路が沈むことへの検討は不要であるとも言える。
 ここで「手引き」では、重要度Aの場合のみ、液状化対策を検討し、その他の場合は液状化を考慮した耐震設計を行わなくて良いとしている。これは、その損壊が、直接人命や財産の喪失に結び付かない施設に過度な費用負担を負わせない配慮であろうが、実際に地震がおこると、通常の水路でも液状化による被害は大きく、復旧に要する費用も膨大と思われる 4) 5)  このため、重要度Aに区分されない水路でも、昨今のライフコスト低減の思想のもとでは、多少割高になっても路線変更や、被害を軽減する構造の採用などの配慮が必要と思われる。

X液状化対策工法
液状化の対策工法としては、一般に次のようなものがある。
工法 概要 適用範囲 事例
粒度改良 置換工法 軟弱層の土を除去し、良質土又は貧配合のコンクリートに置き換える工法。 GL-5m程度まで   
固結 深層混合処理工法 地盤内に石灰やセメントなどの化学的安定材を混合して強度を増加させる方法 GL-30m程度まで 格子状深層混合処理工法
DCM工法
表層混合処理工法 現地の掘削土とセメント・セメント系固化等の土質改良材を混合し、強度を増加させる工法。 GL-5m程度まで ケミコライザー工法
注入工法 砂地盤やクラックの入った岩盤中にセメント・水ガラスなどの固結剤又はこう結剤を高圧で注入する工法 ボーリング深さに応じて可能 シリカ薄液液状化対策工法
エキスパッカ工法
SLP工法
密度の増大 サンドコンパクション工法 衝撃あるいは振動により、砂を密に充填した砂柱(サンドパイル)を数多く打設する工法。 GL-35m程  Geo−KONG工法
バイブフローテーション工法 地盤中に砂杭を造成する事により砂質地盤の締固めを行なう工法。 GL-20m程度まで      
間隙水圧消散 グラベルドレーン工法 改良しようとする砂質土よりはるかに透水性の良い粗骨材(砂利・砕石)の柱又は有効パイプなどを地盤内に一定間隔で配置して、地震時に砂層内に発生する間隙水圧の上昇を安全限度以下に抑える方法。
GL-20m程度まで 砕石ドレーン工法
砕石ドレーン工法

砕石ドレーン工法
バーチカル ドレーン工法 砂地盤中に合成樹脂製のドレーンを打設し、地震時に発生する過剰間隙水を消散させることにより、液状化を防止する         

 これらは主に地盤を改良して、液状化が起こらないようにする工法であるが、液状化の恐れのある層の全層を改良するのではなく、構造物に係わる表層のみ改良して液状化層に浮かす形とする工法や、特殊発泡樹脂材を用いた工法などもある。また、マンホールの浮上り防止を支持層へのアンカーで防止する工法も、水路への適用の可能性が考えられる。

Y終わりに
  液状化に対する社会の関心は高まっており、ネットで検索しても液状化に関するサイトは非常に多い。また、対策工法を掲げる施工業者も多く、液状化対策が建設業界において前途有望な市場となっていることが伺われる。しかし、地盤改良等の対策工は多額の費用を要するものであるため、その採用に当たっては、その必要性について十分検討する必要がある。農業土木の場合、特に重要とされる構造物以外、液状化を考慮した耐震設計は必要とされていないが、現実には液状化による農地や水利施設の被害は、施設の復旧費用のみでなく、農家収入の減少や農業生産の減少による消費者への影響が生じるため、被災時の住民協力による復旧システム構築等、ソフト面を含め、対策を講じて置く必要があると考える。



参考文献等 
 1)http://seismic.cv.titech.ac.jp/common/PDF/lecture/ocillation/note1.pdf
 2)道路橋示方書・同解説 X耐震設計編 平成8年12月
 3)http://www.mmjp.or.jp/honki/ie/ekizyouka/kiso001.htm  
 4)http://nkk.naro.affrc.go.jp/library/publication/seika/seikajyoho/2006/50.pdf
 5)http://www.agr.niigata-u.ac.jp/study_report/report/57-2/139-144.pdf