2002年を振り返る
○今年の仕事は
今年は、比較的順調に仕事をこなしてきたように思う、受注のタイミングが良く、仕事が切れて遊ぶことも無かったし、ピークが重なって夜中まで仕事をすることもなかった。しかし、受注金額の集計は決して満足出来る額ではない。さらに仕事の内容を思い起こしてみると、いったんまとめた成果品の修正や、急きょ提出がきまった業務の手伝いといった雑用が殆どで、ましなものでも基本レイアウトの決まった設計の図化と数量といった、相変わらずの状態であった。
年末に、ある程度まとまった仕事の依頼が来たが断ってしまった。最近の業務の報酬額は無理して仕事に臨む意欲をなくしてしまったようである。
○二人の受験生
「お父さん、何の勉強してるの?」
「おまえが○○高校受かる位、難しい試験を受けるための勉強だよ」
三年前の夏、中一の娘に技術士試験をこう説明して望んだ第一回目の挑戦は、試験中に結果が分かるほどの惨敗だった。
試験を終えて、力無く開けた自宅の玄関の扉の向こうに現れた娘の一言
「おとうさん、どうだった?」
「ダメだった」
「な〜んだ、お父さんが受かったら、私も○○高校行けると思ったのに」
試験がダメであったことより、この言葉によるショックが大きかった。
娘が○○高校を希望していることを、この時初めて知った。そして、親としての娘の期待を裏切ってしまったことに胸を痛めた。
この受験の体験により、技術士は以前にも増して遠い存在となっていたが、現在の成績では到底無理な娘の○○高校志望に何とか希望を与えてやりたい。こんな思いが、二度目の挑戦の動機となった。
中二になった娘が、真夏の太陽のもと真っ黒になって部活に明け暮れるなか、私は二度目の受験に望んだ。試験終了後、答案用紙を全て埋め尽くした満足感から合格への期待を持ったが、秋に届いた技術士会からの通知には「不合格」の文字が鮮明に浮かび上がっていた。
中学生としての部活も最後の試合を終え、いよいよ本格的な受験対策のため進学塾の夏期講座に通う娘に
「お父さんも頑張るから、おまえも頑張れよ」
と言って、共に勉強に励んだ今年の夏。
娘は、その後成績が伸びてきて○○高校の合格に手の届く位置にきていた。私の方は、試験制度の改定により、実質的に今年が最後の挑戦となっており、娘のためにも、自分のためにも是が非でも合格しなければならない必要に縛られていた。
十分な試験対策と、今年を最後とする執念の思いから、今年の答案は自分の力の全てを出して書き尽くすことが出来た。試験終了後感じた、二度目の時とは違った合格への予感は、その後に判明した択一問題の不出来のために不安に変わったが、私の誕生日にアップされた技術士会のHPに掲げられた合格者受験番号のうち、1203E0153 は、間違いなく私の受験番号であった。
筆記試験の合格により娘への面目は立ったが、技術士への道はこれで終わりでは無かった。筆記試験の合格のみを目指して、3年の夏を受験のために費やしてきたが、その先のことは考えていなかった。しかし、そこに控える口頭試験は、過去三年の時間を全く無意味にしてしまう可能性を秘めたものだった。
口頭試験は一般には合格させるための試験と言われている。しかし、部門にもよるが、ある程度の不合格者も出す必要があるらしい。筆記試験では何とかごまかせたものの、技術士として必要とされる「高度な専門的応用能力」を必要とする仕事など殆どしていない私のような下請屋は、この「不合格者」として選ばれる可能性はきわめて高いと思われた。しかし、せっかくここまでたどり着いた事を無駄にしたくない一心と、周囲からの励ましもあり、プレッシャーと戦いながら約1ヶ月間励んだ勉強の成果は、新調のスーツと慣れないネクタイで望んだ口頭試験において、十分発揮することができたと思っている。
今、娘は進学塾の冬季講座に通っている。来春の試験に向けてラストスパートがかかっているようだ
ちょうど、私の結果発表のころ試験があるらしい。
来年の春、我が家に二人の合格者が出ることを願って、明日の模試には私が塾に送ってやることにしようと思っている。
○来年は
暮れに公表された来年度予算の数字は、今更ながらこの業界の先細りを痛感させられる。国公省が建設業の救済処置に乗り出すなど、建設関連業界が淘汰の時代を迎えているのは明らかだ。国土の保全と社会資本整備を担う建設業は社会的に必要不可欠な業種であり、これが途絶えることは無いであろう。また安全で安定した食料供給の基礎を築き、自然との共生による環境創造型事業を目指す農業土木事業も終えることの出来ない重要な事業である。
しかし、自分自身がこれに携わっていける保証は何処にもない。
口頭試験の最後の質問で
「我々と同じ技術者である、田中さんがノーベル賞を受賞され、マスコミ等で盛んに取り上げられていますが、これについてどう思われますか?」と聞かれた。
「田中さんが好感度高く受け入れられているのは、自分を飾らないからだと思います。自分を飾らないのは自分の技術、自分の仕事に自信があるからでしょう。田中さんの望むものは、ノーベル賞でも、華やかな世界でもなく、自分の技術、仕事が世の中の役に立つことです。私は、自分の仕事にプライドを持っている田中さんを尊敬すると同時に、社会に必要とされる仕事に携わる田中さんを羨ましくも思います」
試験の質問に対しては好ましくない回答ではあったが、思わず漏らしてしまった本音であった。
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