外伝☆幽霊屋敷大捜索!

ある日の昼下がりの炎天下、俺達ハンティング・プラス1(ジェシーのことだ☆)は、クシル通りの外れにある、有名な幽霊屋敷の庭に居た。

あまりの暑さに、みんな――ヨハンとファーダの二人を除いては――、汗も態度もダラダラだった。Tシャツなんて、汗で色が変わるほどだよ。

俺達を呼び付けたのは、軍さ。いつものごとく、ブレストンの野郎だった。奴は、この気温31度っつう炎天下の中、長袖の軍制服をびしっと着込んでいた。

「で」

と、ブレストンは、俺達のだらしない態度を見まわした。庭の塀に沿って青いシートが張り巡らされ、外を完全にシャットアウトしている。ヘリだって飛んでない。

外には、マスコミ各位がぞろぞろさ。

なんてったって、ここ1ヶ月ですっかり有名になった幽霊屋敷に、とうとう軍が調査に乗り出したって言うんだから。

「で、君たちに中に入ってきて貰いたいんだけど、いいかな?」

「涼しくなるなら入ってきてもいいぜ」

と、ランディが豪胆なことを言う。彼は、手で顔を仰いだ。

「なあ、ファーダ。入ったっていいよな。きちんと説明をしてくれれば」

「もちろんさ」

と、ファーダはにこにこと微笑む。これは、法外な報酬を要求している笑顔だよ。

俺達他のメンバーは、黙っていた。ブレストンは、要求されなくったって、法外な報酬を提示するに決まってるんだから。

そして、法外な報酬が払われるってことは、内容が予想外なんだ。絶対。

「ようするに…」

ブレストンは、もう一度皆を見回した。関係者が忙しく歩き回り、仮設テントの中では、ソナーを使って屋敷の中を探査している。

外観は、まあ、ディズニーランドのホーンテッドマンションと同じ、チェーダー朝様式とでもいうのか、まあ、平たく言えば、石で出来た堅固な、イギリスのおとぎばなしに出てきそうなお館風なんだ。見かけより、中は広いらしい。

「ここの幽霊屋敷、最近有名だから知っているだろう?」

「ガキの頃から知ってるよ。俺達、地元民だもん」

と、ファーダが答える。。まあ、俺も、有名になる前から知っていたよ。

俺がこの国に来た当時、つまり10年くらい前なんだけど、その頃は小さなホテルだった。ホテルっても、お屋敷を改造した、ヨーロッパ風の民宿。規模の大きなペンションといった程度なんだけどね。

結構流行っていたと思ったんだけど、オーナー夫婦が突然夜逃げしちゃって、閉鎖になったんだ。以来、何度も持ち主変わってるけど、何故か誰も居着かないっていう、典型的な幽霊屋敷。

「じゃあ、失踪したオーナー夫婦が地下室で、死体で見つかったことも知ってるね?」

と、ブレストンは念を押した。そんなの、地元民じゃなくても知っているさ。ここ数日、テレビの情報系番組は、この話題で持ちきりだもの。

働き者で、客の評判も良かった老夫妻は、ホテル経営を手伝っていた甥に惨殺されたのさ。甥は、現在も服役中だ。

ファーダは、うんざりした顔で呻き声を上げる。

「知ってるよ。俺、師事してた神父様と一緒に、夫妻の鎮魂ミサしたもん。も〜お、凄かった。柩の中覗いた瞬間、胃の中がひっくり返っちまったもんね。13歳のイタイケな少年見習い僧になんてもん見せるんだって、俺はその後、神様に愚痴ったよ」

「お前、俺にも愚痴ったよな(--;) 凄惨な状況を、細か〜く喋りやがって…」

と、ランディが間髪いれずにぼやくと、あまり同情してない苦笑いが、俺達やブレストンたち情報部連中から漏れる。

ブレストンは、ニヤニヤしながら肩を竦めた。

「それとね、マスコミにも知られていない事実がもうひとつあるんだ。このホテルは、夫妻が殺されるまで30年も営業していたんだが、警察のブラックリストに載っていたんだよ。このホテルも、夫妻も」

「ブラックリストぉ?」

ダレてた俺達は、ちょっとだけ興味をそそられた。殺された夫妻は、実は悪者だったのか?

「その当時、行方不明者や遺棄された死体を調べると、あそこのホテルを出てからの足取りが全く分からない…。つまり、オーナー夫婦が玄関で見送ったのが最後の目撃情報、っていうことが少なくなかったらしい」

俺達は、ごくりと生唾飲んだよ☆

「でも、オーナー夫婦に怪しいところはないし、警察も何度かあのホテルを調べたんだが、何も出てこない。そんな中、例のオーナー夫婦惨殺事件が起きて、ホテルを手伝っていた甥が逮捕された。彼は、ホテルで最後の食事を取った行方不明者や殺人被害者のことについて、犯人は夫婦二人だと供述したんだが、決め手に欠けてね。結局、夫婦殺害の罪だけで、現在服役している」

ブレストンは一気に話し、ふうと息をついた。

「で…近所の子供たちが、まあ、悪戯にこの屋敷に潜り込んだのがこの騒動の発端だ。子供たちは幽霊を見たって大騒ぎでね…。それに、情報番組が飛びついたのさ。曰く有り、長期空き家。好まれそうなネタだろう?」

「幽霊が出るなんて、昔からの噂だぜ。オーナー夫妻が殺されてからさ」

と、俺。みんなも、肯いた。

「幽霊のことは、僕だって知ってるよ。一番上の兄さんにここに置き去りにされて、おもらしした苦い経験があるからね」

と、ブレストンも決まり悪そうに再び肩を竦める。

「でも、今回の幽霊騒動は違うんだ。子供たちが見たのは幽霊じゃなくて、ホンモノの死体、だったから」

「……死体?」

ブレストンの決めゼリフに、俺達は一気に凍り付いたのだった。


セミが、うるさいくらいに鳴いている。あああ、死体、殺人事件…

「それと俺達と、どういう関係があるんだよ(--#)」

最初に文句言ったのは、やっぱりファーダだった☆

「毎回言うように、俺達は便利屋じゃなくて、フリーの傭兵隊なんだよっ」

「分かってるよ」

と、ブレストンは穏やかに応じた。

「子供たちは、二階の一室で、死体を見つけた。それで、警察に連絡してきたんだ。ポリスマンたち6人は、子供たちの案内で死体を確認し、状況証拠としてまず数枚の写真を撮り、本部に連絡を入れるためと、まあ、ここが幽霊屋敷という心細さから、みんな揃って外に出た。そして、応援部隊と共にもう一度屋敷に入ったら…」

と、そこで彼は大袈裟に両手を広げた。

「死体は血痕を残して消えていた。証拠は床の血と、警察官が撮った写真。腐臭。とそこに、女の高笑いが聞こえてきたからさあ大変。屈強な警察官と鑑識課30人は大パニックだったらしい」

「…………」

「その後、応援を増やして詳細に調べたんだけど、死体を持ち出した痕跡も、人が住んでいた痕跡もない。なのに人の気配がして、果てには幽霊を見た者…いや、全員が何らかの怪奇現象を見た。…という真実の、面白そうなところだけがマスコミに漏れたんだ」

「………警察には、特殊部隊もあるだろう(--)」

と、ヨハン。ブレストンは首を振った。

「彼らは一回突入して、懲りたらしいよ。何があったかは詳細に語ってくれないとかで、警察でも報告書がまとまってないんだけどね」

「お前ら、軍の特殊部隊が行けばいいじゃねーか」

と、ヤーブ。ブレストンは再び首を振る。

「行ったよ。そうしたら、…10人行った内、3人帰ってこないんだ。しかも時々、爆発音や銃声が聞こえてくる。どうもパニックに陥っているらしい。つまり、危なくって入れやしないということだ☆」

「俺達は、危なっかしくないと…(--#)」

ファーダは、マジ切れしそうだったよ。でもまあ、分かるよ、ブレストンの気持ちは。たかが幽霊屋敷にこれ以上レベルの高い実戦部隊を投入するわけには行かないんだろうし、幽霊とか錯乱している味方に対するマニュアルが、整備されてないんだろうなぁ。

つまり、どんな作戦でも柔軟に対処してくれる、機動力の高い傭兵のが、簡単に、ぱぱっと片付けてくれるんではないかと、そういうことだな(--;;;

「君たちのが、馴れてるだろ?こういうパターン。報酬は弾むよ。戻ってこない3人については、生死は問わないから」

と、ブレストン。あ〜あ☆

そして俺達は、結局中に入ることになったのだった☆


入る直前、ドアの前まで、ブレストンは送ってくれた。

中に引きずり込んでやろうか、こいつ…

「言い忘れたけど、今の持ち主…殺されたオーナーの妹なんだが、彼女はここを、全面的に改装する予定にしてたんだ。それで、ホテルを再開するつもりらしいんだけど…。その矢先にこの事件だからねぇ」

と、ブレストンは同情的だった。

「改装の見積と下見の時は、何も無かったんだけどね。はい、そのときに作られた改装用見取り図」

奴は俺に、地図を渡した。俺ねぇ、本当は…

「改装用の、簡単な配線工事はしてあるから、電気も点くし、冷房も効くってさ。不必要な家具類も、全部運び出してある。さ、あとは頼んだよ。あ、通信機も渡しておこう。着替えるかい?」

「いや、いいよ」

ファーダは、ため息交じりに答えた。俺達は、かなり普段着に近い格好だった。このくそ暑いのに、上下とも迷彩服なんか着てらんねーよ。だけど俺等は武器は持ってたし、それぞれジャケット程度とアリスバッグは持っていた。情報部は、ソナーを運び込んでくれるが、セッティングしてさっさと出て行く。

「なあ、死体の身元は?」

「写真に写った顔から調査中。他に質問は?」

「帰ってこない3人の装備」

「対テロ装備ってほどじゃないよ。相手は殺人犯、の予定だったから。ということで、じゃ、あとよろしく(^^)」

ブレストンはもひらひらを手を振り、俺達が中に入るとドアを閉めた☆

中は、綺麗だった。壁紙ははがれていたけど、改装の準備の為に、何度か入っているせいだろう。電気工事の、なんていうか、そういう匂いがするし、不必要な家具を処分した際、簡単に掃除もしたようだ。蜘蛛の巣もかかっていない。

吹き抜けの玄関ホールは、天井に近い窓から日が降り注ぐ。外見は窓が少なく暗い感じだったが、中はそんなことなかった。外からは見えない窓がいっぱいあって、明るい。お化けなんて、どこにも居そうに無い。

「さてと。ミーティングしようぜ」

と、ファーダは迷彩柄のパーカーを着こむ。俺達も、それぞれ身支度したよ。

結局みんな、シャツの上にボディアーマー着て、その上から好みのジャケットやパーカー、下はジーパンにアサルトブーツを履くといった格好だった。

正規の特殊部隊の装備に比べたら、はるかに簡単で頼りないけど、まあ、これが俺達の『売り』だからな。

で、装備のほうは、各自の好きな銃に、警棒とナイフ。警棒というよりは、フーリガン・ツールと呼ばれる工具的な棍棒とでもいうシロモノだけどね☆

アサルトジャケットを着ないから、これらは腰に吊るすか、脛に固定しておくしかない。

そして最後に、防弾シールド付きのヘルメットとグローブ。サムだけは、金属の仕込まれた、特別製のグローブだけどね…(^^;)

何しろ、狭い場所での突入だ。あまりハードな武器は必要ない。が、グレネードランチャーを3丁用意してある。

俺は貰った地図を広げ、大体の概要を説明した。

「3階に二人、2階に一人いるぜ」

と、アーサー。ソナーには、俺達以外の人影が確認できる。

「こことこの部屋だな」

と、俺は迷子の3人が潜んでいるそれぞれの部屋を、指先でトントンと叩いた。

「見取り図をだと、ほら、大きなクローゼットがあるだろ。バス・トイレも完備してあるし、部屋としては広い」

「窓は、どうなってんだ?その気になれば、窓から出ればいいだろう?」

「天井が高いから、3階でもけっこう高さがあるぜ?それに、窓のほうも、人が出入りできるようには開かないはずだ。武器なら開くだろうけどね」

と、俺はホテルの窓の様相を説明した。

「ブレストンのくれた資料だと」

と、俺は彼らの装備一覧表と、顔写真と身体的特徴の記されたメモを広げた。

「ラペリング(懸垂降下)の準備はなかったみたいだぜ」

「まあ、何かあったって窓から逃げないといけない、ってほどの建物じゃないからなぁ」

ファーダは、ふう、とため息をついた。だけど俺達は、それぞれズボンに、ディセンダー(昇降)金具を準備してる。

「ふむ。じゃあ…希望を取ろう。探索に行きたい人」

ファーダの言葉に、誰も手を上げない。

「どっちでもいい人」

手が、ぱらぱらと上がる。ファーダは、手を上げなかった俺とアーサー、そしてサムをちらりと見た。

「絶対に行きたくない、ここで、通信担当をしていたいという人」

「はいっ!」

俺とサム、そしてアーサーの3人は、とても元気よく手を上げた。さしずめ、「先生、僕指して〜っ♪」って感じ。

「ああ…(^^)」

とファーダは、俺とサムの手を、「押し下ろし」た。そしてにっこり笑う。

「居残り希望は、アーサーだけだね(^^)」

「俺も希望してるだろ!」

俺の抗議より、サムの抗議のが先だった。

「自慢じゃないけど、俺はこういうの駄目なんだっ!」

あああ、同感。俺も、お化け屋敷関係はちょっとね。

「出るのは人間と、せいぜい幽霊だよ。サムの嫌いなキョンシーは、出ないぜ?」

と、ファーダは真顔でサムを説得する。

「それにここ、オルダール国だし。キョンシー思想ないし」

「だって、死体が無くなったんだろ?!それって、要するに、キョンシーになったからじゃねーかっっっ!」

サムの「妖怪嫌い」は、筋金入りだもんなぁ。いつだったか、死にきれないでヒクヒクしてる敵をキョンシー呼ばわりして、殴り付けてたっけ…(^^;)

「キョンシーじゃなくて、ゾンビかもしれないな」

と、ランディがチャチャを入れる。が、サムはぞっとしたように首をすぼめた。

「バイハザも、Hデッドも嫌いだ」

「ああ…なるほどね。今回はそのノリだ。楽しそうじゃん」

と、ワンコイン王の異名を取るジェシーは、嬉しそうに笑った。ま、本業がスナイパーだからね。ああいうゲームはお手の物なんだ。

「でも、先攻のサムが居てくれたほうがいい」

と、ファーダはサムの抗議を、あっさりと棄却した。

「コージはナビだから、居残るなんて言語道断。アーサーは、ソナーと通信、担当してくれ。それとヨハンとヤーブ、護衛に残って」

「リョウカイ」

と、新たに居残りを指名された二人は声をそろえた。その時の、サムの恨めしそうな顔。笑っちゃ悪いけど、笑いそうだったよ。

「あとは、いつも通りな。とりあえず、どうする?」

と、ファーダが俺を見る。俺も、観念したよ。こういうとき、地図読みは辛い…

「人間から片付けようよ」

「そうだな。そのほうが、後の探索が楽だもんな。じゃ、コージ。ナビ頼む。ジェシー、コージのガードな。サムとレイは真ん中。俺とランディとで後方行くから」

そして俺達は、中央の階段を上っていった☆

階段は、玄関ホールの真ん中から二階に伸びているんだけど、そこはすぐに踊り場とゆーか、ギャラリーになっていて、すぐに客室のほうには行かれない。

3階に通じる階段もあって、ホールからは死角になっている。

「えーとね、一人目が潜んでいるのは、この部屋のはずだ」

と、俺は3階一番奥の部屋のドアを、少し離れたところから指し示した。アーサーから、ターゲットが動いたっていう連絡は来てないし、その物体の温度が周りより高いから、生きているのは間違い無い。

窓は閉め切られているから、少し空気が淀んでいるが、かび臭くはない。

「やっぱり、行くのか…」

と、サム。俺は、奴の肩を叩いた。

「少なくとも、あの部屋にいるのはキョンシーじゃないよ。ちゃんと、36度の体温があるんだから」

「まあ、そうだろうな。キョンシーに体温はないさ。あったら、腐っちまうんだ」

サムは、自分に言い聞かせているようだったよ。俺だって本当は、幽霊屋敷をナビするというか、先頭切って歩いていくのは嫌なんだ。でも仕事だし、とりあえず、俺達の他に3人の生きてる人間がいるんだ。恐くはない…

とはいえ、訓練を受けている戦闘のプロが、なんのトラップも無い屋敷から丸一日も脱出できないでいるっていうのが気になるけどね(^^;;;

「どうする?」

と、サムは一縷の望みを賭けて、往生際悪くファーダを振り返った。ファーダは、肩を竦める。

「どうするって、サムが行けよ。先攻なんだから」

「……やっぱり?(TT)」

「…ランディ、サムのサポートに入ってやれよ(--;)。レイは後方にさがりな。廊下見張ってて」

で、俺達はその指示通りにドアの横にそれぞれ張りついた。

「鍵かかってるぜ」

ランディは、言いながら銃口で鍵付近を撫でる。

「中の奴は、俺達に気付いてるかもな」

「うん、じゃあ声かけようよ」

とファーダは警棒でドアを激しく叩いた。

「開けろ!軍に雇われたチームだ!救援に来たぞ!」

返事がない。

「コージ、部屋の間取りはどうだっけ?」

「長方形。ドアは、長い辺のちょうど真ん中。向かいに窓。右にベッドスペース。左にクローゼット。その隣り、窓際寄りにバス・トイレ」

皆、確認するかのように肯き、そしていっせいのせっ!で踏み込んだ。誰もいない。日差しのおかげで部屋は明るく、おかげて蒸し暑い。

クローゼッから、気配が漂い、俺達は視線を交わし合う。と、その瞬間だった。クローゼットからマシンガンがぶっ放される。後方担当のファーダとレイ以外の4人は、部屋の中に飛び込み、クローゼットからの狙撃の死角となる窓辺に寄った。

かちん、と金属音がする…その瞬間を、キレる寸前のサムは逃さなかった。サムは、例の「アチョーッ」っていう雄叫びを上げると、ターゲットがマガジンを差し替える前に、クローゼットの扉を蹴り一発でぶち破ったんだ。

ジェシーがトリガーを引くより速いんだから、すごい…というより、ジェシーはすでに、サムの行動を見ている側に回ってた。

まあ、妖怪アレルギー発病中のサムに、援護射撃はいらないよな(^^;)

「このキョンシー野郎!ぶっ殺してやる!!!」

サムは相手の頬を一発殴り、みぞおちにも一発、肩にも一発。そして仕上げに、バレリーナよろしくの回し蹴りを数発。

可哀想なターゲットは、ヘロヘロになって座り込んだ。

「たったっ、助けてくれ…」

もう、必死の命乞い。彼、泣いてたもんね。

「うるせえっ! キョンシー野郎!」

「その程度で勘弁しておいてやれよ…」

と、ファーダがようやく止めに入る。

「俺達は、軍に雇われたフリーのチームだ。トラップも何もないこの屋敷から、訓練された兵士であるあんたが、どうして脱出できないでいる?」

「幽霊だ!幽霊がいたんだ!」

彼は、鼻血を吹き出しながら訴えた。

「それから、ゾンビも!」

「この世の中に、そんなモノいるもんかっっ!んああ?てめえ、その年にもなって、幽霊なんか信じてるんじゃねぇよっ!」

と、サム。こいつ、幽霊や化け物を否定することで、恐怖を克服する戦略に切り替えたらしい(^^;)気持ちはわかるけどさ、極端なんだよ、お前はよ☆

「違う!本当にいたんだ!夜はゾンビが歩き回っていた!それから、幽霊も…」

「いねえっつってんだろうがっ!」

「……(^^;)」

もうみんな、苦笑するしかない。サムは可哀想な兵士に、噛み付きそうだったよ。兵士のほうも、怯えてたしね。

「とにかく、行こうぜ。これで3階はクリアだ」

と、ファーダ。

俺達は念のために彼の武器をあずかり、代りにガーゼを数枚渡し、上がってきた階段まで戻った。

吹き抜けになってるから、二階の踊り場から下の玄関ホールが見える。

「一人見つけたぜ」

と、俺は待っているヨハンとアーサー、ヤーブに手を振った。

「ごくろうさん。ブレストンから、水と氷の差し入れがあったよ」

アーサーが、クーラーボックス二つを、爪先でトントンと蹴る。

俺達は階段から降り、そこへと行った。

「おや、すごい怪我だねえ」

と、ヤーブがサムをちらりと見て、苦笑いしながら兵士を床に座らせる。

「俺は衛生担当だ。怪我を見せてごらんよ」

ヤーブは兵士の背中をさすった。彼は、またしても泣き出したけど、今度は安堵の涙だろうな。

「予想通りだったな」

と、アーサーが意味ありげにヨハンとヤーブに言う。何が?といっう顔の俺達に、ヨハンは肩を竦めた。

「彼の怪我の程度さ。何しろ、サムの雄叫びがここまで聞こえてきたからね。これはきっと、ボコボコにやられているんじゃないかと、話していたのさ」

「何を呑気な…」

サムがぼやく。

「でも、口笛吹いて、はやし立てるのはやり過ぎじゃないか? サムの暴力は、早めに止めないと危険なんだから…」

と、ヨハン。

俺達は、顔を見合わせた。

「口笛? いくらなんでも、そんなことはしてないぜ?」

と、ランディ。

「そ、そうですよ。この金髪の人が、本当にすぐに止めに入ってくれて…」

と、兵士。

玄関ホールは、し〜〜んと静まった。そして、沈黙の時間がたっぷり1分は過ぎていく。

「やっぱり、幽霊かどうかはともかくとして、ここには何か『ある』らしいな」

ジェシーが、言葉を選んで呟く。居るんじゃなくて、ある…ねえ。

「とりあえず、俺達には害がなかった。それは確かだ。屋敷の中の様子を教えてくれ。それから、外に出してあげるから」

こういう時、ファーダは吹っ切るのが速いよ。彼のその言葉に、兵士は気を取り直して、ヤーブに渡されたおしぼりで血まみれの顔を拭いた。

「何から話せばいい?」

「どうして一人ではぐれた? 他に二人、まだこの屋敷に残っているのは知ってるか?」

質問するのはファーダだ。兵士は、困惑ぎみに肯いた。。

「二人、というのは知らないが、残っているとは思っていた。たまに、銃声が聞こえてきたから…。俺がはぐれたのは、偶然…だと思う。地下と2、3階は二人ずつ、1階は広いから4人で回った。もう終わりって頃、二階から悲鳴が聞こえてきて…」

と、兵士はため息をつく。

「正確には、俺は悲鳴を聞かなかった。相棒が聞いて、階下に駆け下りていった。その時は、恐いなんて思わなかったからな。俺も後から用心して下りていったら…」

彼は、俺達をぐるりと見まわした。

「テレビゲームと同じさ。二階から、仲間のゾンビが上がってきたんだ。結局俺は、あの部屋まで逃げて、それっきり動けなかったというわけだ」

まあ、こういう時に嘘をつくことはないだろう。嘘で無ければ、幻覚だ。戦場や、遭難したときにはよくある話。だから、俺達は否定も肯定もしなかった。サムもその辺はわきまえていて、無言だったよ。

「隠れている間に、銃声を聞いた…んだよな?」

「ああ。何度か聞いたから、仲間が襲われていると思っていた。が、俺が部屋を出ようとすると、ゾンビが廊下を歩き回るんだ」

「持ち込んだ装備から考えて、残弾数は、どのくらいだと思う?」

「もう、尽きると思う。かなり撃ちまくっていたようだから」

「ふーん…」

「感覚的には…1マガジンあるかないか、だ。9ミリパラは、まだ相当あると思うが…」

「他に、気付いたことは?」

「特にはない。が…他の二人というのは、誰のことか分かるか?」

「ああ、これこれ」

俺は、行方不明者3人の写真と特徴を書いた紙を出した。

「これがあんただろ、だからこの二人かな」

と、俺はA4用紙を差出した。と、兵士の顔色が変わっていく。

「二階担当した奴等だ…。俺は、こいつらのゾンビをみ…」

どげしっ!と、すごいいい音がして兵士が後頭部を押さえる。とうとう、サムが彼をはたいたんだ☆

「ゾンビもキョンシーも、いるわけないだろっ!」

「理性的に、サムに賛成しておくよ」

と、アーサーがため息交じりにモニターを顎で指す。

「ほら、二階にまだ潜んでる。熱反応もあるから、生きてるぜ(--;)」

兵士は、頭をさすりながら冷静にそれを受け止めた。

「幻覚なら、いいんだが…」

「とにかく、幻覚だろうとホンモノだろうと、今の時点では、身元不明の人間はこの屋敷にいないよ」

アーサーの結論に、みんな賛成する。

「じゃあ、彼を外に送るか」

と、ヨハンがマイクを取った。

「ブレストン、聞こえるか? こちら屋敷1階、ヨハンだ」

“ああ、ブレストンだ。どうした?進展あったかい?”

「ああ。3階の一人…ええと、名前なんだっけ?彼を生け捕りにしたよ。今、ヤーブが彼を外に送り出すから」

“了解”

で、兵士はヤーブに付き添われ立ち上がった。

「あとの二人のこと、頼む…」

と、彼が言いかけた時だった。

ガチャ。

「……?」

ガチャガチャ。

「………」

“おーい、どうした?出てきていいんだよ?”

スピーカーから、ブレストンの声が響く。

ドアノブをガチャガチャやっていたヤーブは、振り返った。

「…開かないようだ(--;)」

「……ブレストン、ドアが開かないから、出られないようだ(--;)」

ヨハンがマイクに向かって言うと、ブレストンが絶句してしまう。そして、まあ、いつも通り、喚いてたよ。でも、出れないんならしょうがないよな。

扉は、外からバンバンと叩かれ、俺達も一通り、ガチャガチャと試した。

「俺、神様は信じてるけど、幽霊は信じてなかったんだよな」

と、ランディ。

「僕なんて、科学で解明できないことは信じてないよ」

と、レイが冗談にならないことを言う。お前の存在だって、怪しいと思うぞ(^^;

「とりあえず、ドアが開かないっていう現実は、変わらないらしいぞ」

ファーダはそう言って、玄関ホールを見回し、ヨハンからマイクを受け取った。

「ブレストン、俺だ。ファーダ。窓もテラスもあるけど、士気が下がりそうだから、開くかどうかの確認はやめておくよ。玄関ホールにはヨハンとアーサー、ヤーブ、それから兵士の計4人を残しておくから」

“わかった。他のメンバーは、捜索に行くんだな?”

「ああ。開かないドアと救助した兵士のことはヨハンたちに任せるから、こいつらと連絡取り合ってなんとかしてくれ」

ファーダはマイクを置いて、ため息をつく。

「ということで、残り二人を捜してこよう。アーサー、何かあったらすぐ教えてくれ。それからサム」

彼は、まじめな顔してサムの肩を叩いた。

「…キョンシー避けの呪文とかおマジナイ、ないのか?」

「あったらとっくに試してるよっ(^^;;;」

「…十字架、効くかなぁ?」

「ゾンビにだって効かないもの、どうして中国妖怪に効くんだよ?」

と、ランディが呆れる。

「ま、行ってこようぜ。こうなりゃ一回、ゾンビだかキョンシーだかに遭遇してみようよ。そうすりゃ、対策立てられるんじゃないか?」

まあ、ごもっとも。どうせ、騒いだってどうにもならねぇんだしさ☆

そして俺達は、またしても階段を上っていったのだった☆


二階は、三階よりもずいぶん広かった。建物の造りのせいだ。

「俺さあ、一回だけ幽霊見たことあるんだよ」

と、ジェシー。

「イギリスは、人口と同じだけ幽霊いるんだろ?」

と、俺。

「ああ、そうなんだよ。けっこうみんな、まじめに信じてるんだ。俺がガキの頃に住んでいたマンションでも、下の階を独身の女幽霊が借りててさあ」

俺達は、ジェシーの話を聞きながら、部屋を一つ一つ調べていく。

「そういうの、借りてたっていうの?」

と、レイ。

「大家のばーさんは、貸してるって言ってた。ばーさんが、嫁に来た時はもう住んでたから、今更立ち退きなんか求めないってさ。で、ある日俺は、友達とその部屋に忍び込んで、幽霊を見ようとしたんだ」

「…見たのか?」

と、サム。

「見た見た♪」

ジェシーは、急に嬉しそうな顔をする。

「部屋の中を、すっげえ美人がホウキ持って掃除してたんだよ。別に透き通ってなかったんだけどさ、あれ、人が住んでるじゃん…なんて思ったら向こうが俺達に気付いてさ」

彼は、忍び笑いをもらした。

「その女、きゃって悲鳴あげて、消えちまったんだよ。と同時に、ホウキがパタン、と床に倒れてさ。俺達はもう、大パニック。うちに逃げ込んで、オフクロにそのことを話したんだよ。そうしたら、もう、凄いんだぜ。俺と友達と、5人くらい居たと思ったんだけど、すっげぇ叱られてさ」

「叱られたって…」

「そ。例え住人が幽霊でも、人様の家に忍び込むとはなんてこと!…と、一喝されて、尻叩きの刑さ」

「…(^_^;)」

「あの日以来俺は、幽霊を信じているどころか、彼らも立派なイギリス国民だと思ってる。だから、家賃も税金も取り立てるべきだと主張してるよ」

「さすが幽霊とユーモアの国だな☆」

と、ファーダが妙に感心する。

「で、サムは、キョンシーを見たことあるのか?」

「ないけど、あっちじゃ定番のお化けだからな。「きょう屍食人血」と言うし」

「食人血?」

「ああ、キョンシーの行う怪異のことさ。人肉と人血を食らうのがキョンシーってこと。他に、“しへん”“そうし”なんてのもあるんだ。つまり死体が、腐った匂いの吐息を吹き出しながら、猛スピードで走って追っかけてくるのさ。そしと捕まえた相手の脳みそを吸い出すんだ」

サムはそう言って、身震いする。ジェシーも、肩をすくめた。

「追いかけられるのは、嫌だな…」

というところで、俺達は目的の部屋についた。

「どうするよ?今度は二人だぜ?」

と、ランディ。

「こんどは、ゾンビの可能性もあるしね」

と、レイ。ファーダはレイの脇腹を肘でつついた。

「やめろって(^^;)体温の無い奴が、あのソナーで関知されるわけないだろ。とにかく、さっきと同じ方法でいこうぜ。コージ、間取りは?」

「今見た隣りの部屋と逆パターン」

俺は、ジェシーと一緒に扉の前をすっと横切り、反対側の壁にへばりついた。今度は二人、一緒だからな。反撃される可能性は大。

レイは少し離れて、突き当たりと反対、つまり階段のほうを伺う。

「レイ、気合いれて見張っとけよ。俺は、こいつらのフォローにまわる」

と、ファーダも銃を抜いた。レイは、OKと親指を付き立てる。

今度は、ランディが警棒を抜き、その先端でドアを叩いた。

「救援に来たチームだ。返事しろ」

返事は、銃弾だった。俺達は、ドアの付近から飛びのいたよ。壁を突き破って弾が飛んでくる可能性だってあるからな。

ドアの蝶番が、パァンという音を立ててはじけ、穴だらけのドアが倒れかけた。

「ぅアチョョォオ!」

サムが、ドアを盾にして部屋に突っ込んでいく。それをフォローするため、ジェシーが部屋の中にスライディングしていった。

無駄口多いけど、ジェシーは上手いよ。素早いし…。そして続くのが、俺とランディとファーダ。

サムは、さっきよりも張り切っていた…と言うべきか、手加減なかったと言うべきか。彼は正面に居た一人に立ち向かい、殴る蹴る殴る蹴る・蹴る蹴る殴る蹴る…(^^;

と、その隙にジェシーはもう一人に襲い掛かった。それにランディが続き、二人でそいつを押え込む。俺とファーダは、奴等が抵抗しないよう、落とした銃を拾って警戒する。

「……サム、そのくらいにしておけよ(--;)」

ファーダのストップに、サムは素直に従った。

「あ、あんたたちは人間か?」

と、兵士二人。

「当たり前だろうがっ!」

答えたのは、サムだった☆

「てめえらこそ、人間なのかっ?!」

「ひっ」

サムに殴られた兵士は、座り込んだまま後退った。

「人間だっ!た、助けてくれっっ!」

「サム。怖がってるからさ(--;)もう少し優しく、やさし〜〜く。な」

と、ランディがサムをなだめた。

「俺達は、救援に来た雇われチームだ」

ファーダの言葉に、二人はあからさまにほっとしたような顔をする。が、言うことはやっぱりゾンビのことだった(^^;)

「あんたたちは、ゾンビや幽霊に会わなかったのか?」

「今の所、会ってないよ。とりあえず、一階の玄関ホールに行こうぜ」

と、ファーダが立ち上がった。

「おい、レイ…」

俺達は、黙ったよ。レイは廊下で、階段のほうをじっと見ている。

「レイ?」

ジェシーの呼びかけに、彼はちらりと瞳だけ動かす。

「…一階、応答せよ」

レイは、ヘルメットについた通信マイクに話し掛けた。

「ああ、僕だよ。レイ。いや、特に用っていうわけではない…こともないんだけど、そっちって、全員いる?…そうそう。4人とも、居る?…うん、確かなんだよね?わかった。ランチャーぶっぱなすけど、そこにいて。絶対に、駆けつけないで。じゃあ、また後で連絡するよ…」

彼は階段のほうを向いたまま、そう話し、そして、ほんの一瞬の動作で背中のランチャーを引き抜いて構えた。

「ジェシー!援護っ!!!」

ドンドンドン!というランチャーの発射音とレイの声が入り交じり、ジェシーが脊髄反射としか思えないような超人的な動きで廊下に飛び出す。

「!」

俺達が行動を起こすより先に、ジェシーは何発かぶっ放して、レイを部屋に引き摺り込んだ。

「どうしたんだよ?」

と、俺達は尻餅ついてる二人に駆け寄った。

「誰か居たのか?」

「………」

レイはジェシーをちらっと見る。ジェシーもちらりと見返す。

「…居た…な。ゾンビが」

「居た居た。テレビゲームと同じ様なのが」

ちょっとした沈黙のあと、ガチーンという鈍い金属音が響く。サムが両拳をぶつけ合ったんだ。こんな固い金属の入ってるグローブで、こいつは人を殴ってんのか…(汗)

「どいつもこいつも、ゾンビだキョンシーだって大騒ぎしやがって、そんなの居るわけないだろうがよっ!!!」

大騒ぎしてんのは、お前だよ…(--;)

「んああ?ガキじゃあるまいし、いちいち大騒ぎするんじゃねぇっ!」

「そんな事言うなら、覗いてみな。手足が散らばっているんじゃねーか?(--;)」

ジェシーのイヂワルに、サムは、奴の頬を思いっきりつねりあげた☆

「いででででででででで☆わかったっっ悪かったっっ」

「子供なんだか余裕なんだか…」

と、ランディは呆れながら扉に寄り、廊下に柄付きの小さな鏡をちょっと出す。

「…………」

彼は少し考え、それから俺を呼んだ。

「ファーダはそこに居てくれ。コージ、これさあ…どう思う?」

ランディは、俺に鏡を渡す。鏡の中、階段の所にいるのは3体のゾンビ…。彼らは、腐敗した赤黒い体を小刻みに震わせて立っている。

「…どこかで見た。ランディと一緒に居るときに」

「そうそう。2、3日前にやりまくった、ゲームの中にいたよな、あんなの」

俺達は顔を見合わせ、そして部屋の中に戻った。ドアはなくなってしまったが、ゾンビが入ってくる気配はない。

「今もそこに、ゾンビがいるんだけどさ、あれは、ホログラフィだと思う」

と、ランディ。俺も肯いた。

「ホログラフィ? でも、襲い掛かってきたよ?」

と、レイが不満気に反論する。

「ああ。俺達の撃った弾が、確かにヒットしたぜ。通過したとか、ホログラフィが俺達の動作に合わせたとか、そんな感じはなかったな」

ジェシーは不満そうではなかったけど、あまり納得がいってないようだった。

「人…というかどうかはともかく、何かを撃ったという手応えはあったぜ」

「…ランディ、鏡貸して。ジェシー、援護頼むわ」

ファーダは手鏡を受け取り、ドアに近付く。ジェシーは、その少し後ろで銃を抜いて腰を落とした。

「…ジェシー。ランディ」

彼は、くっくっと手首を動かして二人を呼ぶ。

「………残りは待機」

3人は、鏡の中をちらっと確認すると、一斉に飛び出した。

ドン!とファーダが持っていたランチャーの発射音と銃声、それから、バタバタバタッと階段を降りる音だか登る音がする。

「うわーーーーーーっっっ(^^;;;)」

続いて3人の、何だか余裕のある悲鳴がハモって聞こえてきて、またバタバタ足音がしたと思ったら、彼らは部屋に飛び込んで来たんだ☆

「…何やってんだ、お前ら…」

と、俺。兵士二人とサムは、すっかり硬直していた。レイは、呆れた顔しながらも、俺と一緒に銃を構えて警戒していてくれる。

「半分はホログラフィだと思うけど、半分は違うんじゃないか?」

と、ファーダが息を切らせる。

「はあ?」

「何ていうのかな、その、うーん…」

彼が考えている内に、通信機が鳴る。

『一体、何やってるんだよ?』

アーサーの声だ。

『ヨハンを、応援に行かせようか?』

「ああ…アーサー」

ファーダは前髪をかき揚げ、屈んだ。

「いや、誰も来ないでくれ。来ないほうがいい」

と、彼はレイと同じように、1階のメンバーが揃っているかどうかを確かめる。そして、絶対にそこにいるように念を押して通信を切る。

「…1階に全員が揃っているということを考えると、誰かをゾンビと見間違えているという可能性はないな」

ファーダは、ふっと息をついた。

「階段のところに立っていたゾンビは、ランディとコージが見破ったとおり、ホログラフィだ。だけど、3階に逃げていったのは、実態があった。外見はゾンビだったし」

さすがにサムも、反論しなかった。

「とにかく、1階に戻ろう。危険があるとしたらそこの階段だけだと思う。サム、絶対に飛び出すなよ」

俺達は、今まで以上に神経使って、階段に行った。何かの金属片が散らかっている。

「俺が撃ち落としたんだ。投影機だろ」

と、ジェシー。3階に行く階段には薬莢がいくつか落ちていて、グレネード弾の弾痕も残っている。

そして、腐臭も漂っていた。

階段を降り始めると、ヨハンが階下から銃を構えて援護してくれる。俺達は、ようやくホールに辿り着いたのだった。

「はあ、ゾンビ」

俺達の話を聞いたアーサー、ヤーブ、ヨハンの3人は、返事に困ったようだった(笑)。

3人で顔を見合わせる。

「ゾンビ…1階は異常なかったけどなぁ」

と、アーサー。

「うん。俺もほら、レイたちのようなゾンビは見たことがあるから、存在は否定しないけどさあ」

と、ヤーブ。

「制御が利かなくなった薬強化兵の存在は、どうなんだ?」

と、ヨハン。この3人は、やっぱり冷静だよな(^^;だけど、保護されて、互いの無事を喜び合っていた3人の兵士たちも、首を振った。薬強化兵がいたなんて、俺達だって聞いてないしなぁ…

そしてレイは、不満を顔いっぱいに浮かべて、ヨハンからスポーツドリンクを受け取った。

「僕たちはゾンビじゃない。それに、僕たちみたいに細胞の短期再生が可能な強化兵が入り込んでいたとしたって」

レイは、ずずずっとストローを鳴らす。

「それには相当な代謝エネルギーが必要なんだよ」

「だよな。熱を関知するこのソナーにひっかからないはずがない」

と、ヤーブ。

「じゃあ、ホンモノのゾンビってことで、決着つけようぜ」

ファーダは、冷静に俺達を見回した。

「ゾンビかどうかはともかくとしても、さっき、何者かが3階に逃げたのだけは間違い無い。だが、俺達は軍の依頼を果たした。扉さえ開けば、あとは軍に任せて撤収してもいいんじゃないかと思う」

異論はなかったよ。ただ、扉は相変わらず開かない。

「扉は、こっちのOKが出れば破壊するって、さっき言ってたぞ。ブレストンがさ」

と、ヨハン。ファーダは肩をすくめた。

「そうしてもらおう。ヨハン、その線で話進めておいて。それから…」

その時だった。一階の奥、厨房のほうから、ウオオオオッという、遠吠えみたいなのが聞こえてきたんだ☆


俺達は、凍り付いたよ。今狙撃されたら、誰も生き残らないな(^^;)そのくらい、しっかりと固まっていた。

「アーサー、この3人に、武器返してやりな」

と、ファーダはランチャーに弾を補充した。

「ここは、アーサーとヤーブで頼む。あんたたちは、ここで、この二人の指示に従ってくれ」

兵士たち3人は、神妙な面持ちでファーダに肯いた。

「あとは、厨房に確認に行く。ジェシーは前方、ヨハンは後方を頼む。ヤーブはブレストンと協力して、ドアか、向こうのテラスに出る窓をぶっ壊してくれ」

「了解」

玄関ホールなんかで悠長に作戦立てているあたりが、普段の作戦とすでに違う。時間的にはまだ昼が過ぎた頃で、スポーツドリンクがすきっ腹に染みるよ。

「テレビゲーム的だな。これで、アイテム何かが必要になったら、最悪」

と、ランディ。

「少なくとも、鍵は必要ないだろ」

ファーダが、ため息をつく。まあ、ランディは鍵開け名人だからね。俺達は、2分ほどかけて、ゆっくりと厨房の地図を広げて憶えた。遠吠えに惑わされて慌てて行ったって、メリットなさそうだもんな。

向こうから来ない限り、こっちが行くしかないわけだし。

「さて、これを最終の見回りにしておきたいよな」

「最終どころか、行きたくない心境だよ…」

サムが、しみじみと呟く。それでも彼は、予備の警棒をもう一本ベルトに差した。

「ああ、なんでゾンビなんか…」

と、その後は中国語で文句たらたらだ。それを見て、ヤーブはにやついた。

「人間、恐い時ってお喋りになるもんだね」

サムはちらりとヤーブを見たけど、反論はしなかったよ。

「まあまあ、頼りにしてるから連れてくんだよ」

と、ファーダに肩を叩かれ、彼は大袈裟にため息をつく。

「ゾンビを殴るようなことがあったら、新品のグローブ、請求するぜ」

「いくつでも、許可するよ。な、レイ」

チームの会計を握っているレイは、苦笑いしながら肯く。そして俺達は、一階奥の厨房に入って行った。

厨房っていっても、そんなに本格的でもない。流しが3つ、それぞれ水道がついていて、大きな鍋がかけられそうな、ちょっと低めの位置にコンロが4つ。壁にはめこまれたオーブン。食器戸棚。中はカラ。奥に、幅2メートル、奥行き3メートルの貯冷室。もちろん作動していない。

厨房の真ん中には、大きな作業台があったよ。ここに、切り落とされた手首でも乗っかってたら、クーンツの小説だよなぁ…と、思ったのは俺だけじゃなかったらしい。

「戸棚、確認しようか?」

というヨハンの言葉に、レイが首を振ったんだ。

「今、戸棚やオーブンの中を確認して酷い目に逢った女性が主人公の小説を思い出した。やめよう」

「ああ、あれね…」

ヨハンが、忍び笑いをもらす。

「なんの小説?」

と、サムが俺に聴いてくる。俺は、苦笑した。

「ホラーだよ。とびきりハードな奴。怖がってると相手が付け上がるという、教訓めいた内容さ」

「じゃあ、知らないままでいいよ…」

「ああ、そうしたほうがいい。アメリカの小説は、限度無しで凄いから」

と、ジェシーは貯冷室の扉の前で俺達に合図を送ってきた。中で、何か音がする。

「中、確認するか?」

と、ランディ。

「閉じ込めておきたいよ」

ファーダは、うんざりした様子で銃を抜く。

「出入り口はここだけだぜ。開けたら飛び出してくるよ、きっと」

俺は、せえのっと勢いをつけて扉を開けた。

バァーン!開けるのと同時に、凄まじい爆発音がして、俺達は反射的に飛びのいた。

「玄関のドアが爆破され…」

ファーダの声が尻すぼみになり、視線は貯冷庫の入り口に集まった。

赤黒いゾンビが、ぼへ〜っと立っている。

「でたっ(^^;)」

ヨハンとジェシーが銃を乱射しまくるけど、完全に面白がっていた。だって、そのゾンビもホログラフィだったからね。

二人は弾の無駄遣いをしてから、ようやく投影機を破壊した。ゾンビが消え、そして、貯冷庫の中がようやく見渡せるようになる。

そこには、何もなかった。

「物音は、してたよね」

と、レイが懐中電灯で中を照らす。床から天井からくまなく照らしてくれるけど、蜘蛛の巣だってない。

「ネズミくらいは、居て欲しかったんだけど…」

それはもう、みんながそう思っていたよ。とくにサムなんて、物音の合理的理由と正当な発生原因を求めていただろうな。レイが照らすのをやめ、俺は貯冷庫の扉を閉めた。

「問題は、誰がこんな悪質ないたずらをしたのかってことだよ」

と、ランディ。だけどファーダは、ため息をついた。

「…そんなのはブレストンが調べればいいけど…。とりあえずさ、地下室も覗いてみようよ。ワイン置き場…なんて言うんだっけ?ワイン用の部屋があるはずだろ?」

「機能してないけどね…」

俺がいいかけた時だった。きーんという耳の痛い音がして、ファーダの通信機から、ブレストンのわめき声が聞こえてきた。

『行ったっっっ!!!!ファーダっ!そっちにゾンビが行ったっ!』

「はあ…?」

と、思ったその時さ。厨房に、ゾンビというか何と言うか、全身弾傷だらけの半裸死体が飛び込んできたのだった☆


「………」

実物だぜ、実物。俺達は一瞬凍り付き…最初に我に帰ったのは、ジェシーとヨハンのスナイパー二人組だった。

だけど、ゲームみたいに、そう簡単に頭が吹っ飛ばないんだ。フルメタルジャケットの9ミリパラじゃ、仕方ないか…

「ファーダ!後ろからも来たっっっ(^^;」

レイの声に、皆がぎょっとして振り返る。今度は地下への階段から、ゾンビが、というか、なんていうんだろう。正確には、ゾンビというより、単なる動く死体が、上がってくるところだった。

それに対しては、サムが反応する。反応したということは、恐いから嫌だという通常の精神状態が失われたということだよね(笑)。

彼はベルトから警棒を二本とも引き出し、両手に一本ずつ持ってゾンビに殴り掛かった。

「うぉりゃああああっ!!!」

サムはそいつらを、殴った挙げ句に蹴り倒し、死体は階段を転がり落ちていく。

「サム!どいてろ!」

ファーダとレイが、地下に向かってグレネード弾をふっぱなす。ヨハンとジェシー、そしてランディは、入り口から入ってきたゾンビと闘って、勝とうとしていた。

俺は、勝手口のほうに行った。鍵を銃で壊し、逃げ道を確保…

「グハァアアアアァァァァ」

もう、目が点☆ドア開けたら、そこは屋根付きのガレージのはずなんだけど、そこにゾンビが…

「わ―――――――っっっ(^^;)」

ホログラフィだって分かったけど、だめだったよ。悲鳴が出たもん。ヨハンがドアの燦に仕掛けられた投影機を打ち落とし、映像が消える。

が、地下からと入り口からのゾンビは、消えなかった。

ヨハンの銃撃が自分からそれたと気付いた、入り口から来たゾンビは、いきなり突っ走り、サムとレイ、そして俺の目の前を突っ切って地下室への階段を転がり落ちていく。

「野郎、逃がさねえっ!」

「あっ、サム!!!」

ファーダが制止しようと手を出したときには、サムはすでに地下だった。

「ヨハン、レイ!他は待機!」

呼ばれた二人とファーダが階段を駆け降りていく…・

「おおおおっっっ!」

3人が地下に降り切らないうちに、なんだか物凄い声が聞こえてきて、ファーダたち後から降りた3人とサムは、我先にと階段を駆け上がってきた。

「でででででででででっっっっ!!!!!!」

サムは中国語で、キョンシーがなんたらとまくしたてたけど、あまりの早口に言ってることの半分も理解できなかった。

「落ち着いて話せよ…」

「!!!!!!!」

これが落ち着いていられるか、ばーろ、そう言うんなら、コージが自分で見て来いよっ!ってなことをまくしたて、彼はふうっと息をついた。そして、なんだかオマジナイめいた言葉をぶつぶつ言い出す。

「あ〜、見たものより、サムの悲鳴のが恐かったよ…」

と、レイが膝に手を置き、呼吸を整える。

「何があったんだよ?」

「死体だよ。殺されてる…って、サムが階段から蹴り落としたのが死因ではないと思うけどね」

ファーダはそう言って、深呼吸をした。


屋敷から出た俺たちは、装備をとって日陰で涼んでいた。

「玄関の扉を破壊して、ヤーブと話をしていたら、1階からなんか変なのが下りてきて」

と、ブレストンは身震いをする。俺達が保護した兵士たちも、それに気付いて声を上げたらしい。

それで、ヤーブとアーサーが撃ったんだけど、けっきょくゾンビは厨房に入っていき、ブレストンがヤーブの通信機で喚いた…というのが、さっきの通信の真相のようだった。

「助けてもらった兵士のうち、一人の姿が見えなくてね…。錯乱してどこかに行ったみたいで、今、探してるんだ。それと、厨房の地下室からも、死体を運び出してるよ」

と、ブレストンは続けた。

「下に降りた奴等がざっと確認しただけで、18体だってさ」

「俺達、4つくらいしか見てないよ」

と、ファーダ。

「壁の中にもありそうだって言うんで、掘り返してるよ。警察が最初に撮った写真の死体だと思うよ、ファーダたちが見たのは」

「4つもあったわけ?」

「いや、写真のは2体だけど…」

そこに、また兵士がブレストンに何やら報告をしに来る。兵士は、ブレストンに何やら耳打ちをした。

「……」

彼は、ちらりとサムを見る。

「何だよ?」

「いや…」

ブレストンは、くらくらしそうになって天を仰いだ。

「…3人の行方不明兵士のうち、3階に潜んでいた奴なんだけどね… 地下室に散らばってた一人がそうだったってさ」

と、そこに担架に乗せられた死体袋が運ばれてくる。

「確認お願いします」

返事をする前に、運んできた奴等はシートをめくった。

「…………」

それが3階にいた兵士かどうかはわからなかったけど、それは、厨房に飛び込んできたゾンビ野郎だった。

「損傷は酷いけど、どうみても、死後24時間は経ってそうだ。どう解釈しよう?」

と、ブレストン。解釈も何も、俺達は呆気に取られて黙ったのだった☆


「結局オーナー夫妻は、客を殺して金品を取っていたんだよ」

夜、冷房の効いたアジトで、ファーダはみんなにそう説明した。手には、ブレストンからのファックスを持っている。

「新しい死体は、別口の事件みたい。死体を隠そうとした矢先に子供たちや警官に発見されたんで、慌てて地下室に投げ込んで、それから、隠すまでの時間稼ぎと人避けのために、ゾンビのホログラフィをとりつけたんじゃないかって、そういう見解らしいよ。夏に向けて、ああいうくだらないお化け屋敷セットが売られてるらしいから」

「でも、ホログラフィだけじゃ説明つかないことが多すぎるんじゃないか?」

と、ランディ。

「警察官が聞いた女の高笑いに、俺達が聞いた口笛やはやし立てるふざけた様子の声」

と、ヨハンが息をつく。

「それに、厨房に飛び込んできたのは、少なくとも生きてる人間ではなかった」

「俺もそう思うね」

ジェシーも、そう呟いてコーヒーをすする。

「素人目でみたって、あれは、ブレストンの見立て通り死後相当経ってるよ。あの弾傷は、生前のものじゃない」

「見つかった死体の死因は、自殺だってさ。サムが殴った跡も、俺達が銃弾浴びせた創も、全部死後のものと断定…と、書いてある」

と、ファーダはファックスをひらひらと振る。

「でも、解決したわけだし、こういうことは、どうせマスコミに漏れないよ。この怪奇現象については、軍の研究所が一生懸命解明してくれるさ(^^)」

そうだよなぁ、と、みんな納得すべく肯きあうが、サムだけは別だった。

「あれは怪奇現象なんかじゃないっ」

と、サムは立ち上がった。

「幻聴も幻覚も、俺の精神鍛練が足りなかったから見えたんだ」

「いや、でも、皆見たし…こういうのは、多数決に従ったほうが…」

と、ヤーブ。

「いや、違うっ!この世に死者が動くなんていうことがあってたまるかっ!俺は、もっと修行をするっ!!!!!」

「……ということで、今夜はお開きにしようぜ…。ランディ、お前の部屋に泊っていい?」

ファーダは、そう言って立ち上がった。

結局その夜は、みんなそれぞれ、誰かと一緒に複数で過ごしたようだった。まあ、一人ではちょっと、寝たくないよね。

俺はヨハンの部屋に泊ったし、サムはレイのところに泊り込んだようだ。ヤーブとアーサー、ジェシーは朝まで飲んでいるという話だった。

「ウァチョオオオオ!!!」

朝、俺とヨハンはすさまじい雄叫びで目が覚めた。午前5時。仕方無しに、リビングまで下りていくと、レイがぼんやりと庭を見ながら、紅茶を飲んでいた。

「やあ、おはよう」

彼はそう言って、庭を顎で指す。そこには、サムが一人で朝の鍛練の最中だった。杭に向かって殴る蹴るの大乱舞。外はもうすっかり明るくなっていたけど、朝の空気はまだ冷たい。

「気合はいってるなぁ。いつもは、7時頃まで雄叫び上げないでやってるのに」

と、ヨハン。

「声を上げずには居られないんだって。僕なんて、一緒に起こされちゃってさ…」

レイは、ふああ、と欠伸をした。

「紅茶、飲む?寝直す?」

サムに付き合わされて起きているレイを見捨てて寝直すのも、何だよな。ということで、俺達は紅茶をもらった。その間に、他の連中も起きてきた。

そして、サムの気合のこもった姿に呆れるわけさ。

「ハアアアッ!ハア!ヤア!ウォリャアアアッ!タアッ!!!」

雄叫びというより、奇声に近い。

「庭が広くてよかった…。いくらなんでも、外までは聞こえてないだろう」

と、ヨハン。

「いや、聞こえてるだろ。ただでさえ、奴の鍛練のせいで奇人館とか呼ばれてるのに…。日曜ミサの時に、よく聞かれるもん。あの声の正体をさ」

ファーダはため息をつく。それを見て、ジェシーが、笑いながら言った。

「そのうちにさ、あのクシル通りの屋敷じゃなくて、ここが、幽霊屋敷だと噂されるようになるぜ、きっと(^^)」

皆が起きてきたのに気付き、サムはこっちに来た。

「うっす」

「どう、鍛練は。快調?」

俺の問いに、サムは得意そうに肯いた。

「鍛えれば、無駄な想念が消える。従って、キョンシーともおさらばさ。俺はもう、キョンシーに怯えたりしないぜっ!!!」

「………(^^;)」

ああ、今日も暑くなりそうだ☆

一週間も経つ頃、近所のガキんちょの間で、お前の雄叫びが噂になるぜ。そしてセキュリティを担当する俺とランディが、近所のガキの侵入防御に苦労することになるんじゃないかな。

だれも口にしなかったけど、この予想は絶対に当たると思うよ。


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