<1>
もう幾つ寝ると♪クリスマス♪
俺たちの住むオル・ダールにも、クリスマスの季節が到来した。町中が赤と緑と金と白になって、電飾でキラキラだ。
世界中のクリスマスソングが流れてきて、嫌でも気分はHappy&Merry。
といっても、別に何かするわけじゃないだよな。俺たちメンバーの中でこの行事に一番熱心なのは、ファーダだけといってもいい☆
他のメンバーは、それほど熱心でもない。せいぜいイブの晩に、ファーストフードでチキンを食う程度さ。
でも、今年は違った。何しろレイがいるからね。
「せっかくだもの。聖夜のお祈りしなくっちゃ」
と、ファーダとよろしくやっている。とはいえ、ファーダは「宗教的行事」として熱心で、レイは「一年最後のイベント」として楽しんでいるわけなんだけどさ(^^;)
ただしアジトには、レイのおかげで、12月に入った最初の日曜日に、クリスマスツリーが登場した。
中古品とはいえ、淡い緑と白の混じったツリーは、なにも飾られてなかったけど、とても綺麗だった。高さは1メートルしかないけれど、存在感は抜群だ。
これを見て、俗世のクリスマス騒ぎに批判的なファーダも、レイの軽いノリに黙認を決め込んだ。ま、ファーダだって純粋に楽しみたいわけだ☆
実際、ツリーの登場は、俺達にちょっとした刺激をもたらした。何しろ「あの」ヨハンが、まずサンタクロースの格好をした、小さなクマの飾り物を10個も買ってきてツリーに吊るしたんだ。これにはもう、みんなびっくりさ。
結局これが解禁の合図となって、翌日からみんな、広場で24日までやっているクリスマスバザーに出かけては、何かしら買ってきてツリーに吊るし始めた。
ファーダは控えめにメッキの天使を飾り、アーサーは白い綿をごっそり買ってきて、ツリーに綿雪を積もらせた。
もちろん雪は、窓の外にもごっそりあった。今年は例年以上の寒さで、「ホワイトクリスマス」が確実らしい。
ランディはリボンを結びまくったし、サムはクッキーを買ってきて、ツリーに飾った。
もちろん、クリスマスまでクッキーが無傷で残っているはずが無い。
飾った翌日にはクッキーは全て食われ、サムは呆れながらも月餅を買ってきて吊るした。
白と緑のツリーに、月餅がぶーらぶーら…
その怪しさに、今度は誰も手を出さなかった。
そしてヤーブは、小さくて綺麗なラッピングを施したプレゼントを、9個吊るした。
「本物のプレゼントだ。25日に開けようぜ(^^)」
「でも、9個あるけど…俺達8人だぞ☆」
「大丈夫。24日のクリスマスミサを目的に、ジェシーが来るよ」
と、ヤーブ。みんなそれは予測していた。けっこう信心深いあいつのことだ、絶対にファーダのミサを聞きに来る。
俺はといえば、食った分を補おうと、杖の形のキャンディーを飾ったよ。それとシャンパンを買ってきて、ツリーの下に置いた。クリスマスまでお預けってところだ。
もちろんこれも皆の間に流行して、ツリーの下はあっという間に酒瓶の森が出来上がってしまった☆☆
おかげで俺達の気分も盛り上がってきた。いつもの殺伐とした仕事も、年内は引き受けないことに決めてたから、これで心置きなくクリスマスを楽しめる…
そんな楽しいクリスマス一週間前のことだった。アーサーが、妙な物を「借りて」きたんだ!
<2>
がしょーん☆がしょーん☆がしょーん☆がしょーん…
「アーサー、これは何です?」
と、訝しげなのはレイ。もちろんみんな、訝しんでるさ。俺達の目の前でテスト歩行してるのは、10年くらい前のタイプの『お手伝いロボット』だった(^^;)
「こんなの、100年前に絶滅したかと思ったぞ」
と、ランディ。ま、みんなそう思うさ。
そのロボットは、何て言うのかな、マンガに出てきそうな感じ。丸い二つの目がついていて、鼻はないけど四角い口はある。口といっても、開けると中に、充電式のバッテリーとコードが入ってるんだけどさ。そして、手は、UFOキャッチャーのアームのようになっていて(ただし3本指)、瓶の蓋が開けられる程度に回転する。
二足歩行はするけど、ま、上の擬音の通り、なかなか不格好。身長は、ツリーよりもちょっと高いくらいで、なんだかスターウォーズに出てくるロボットみたい。
かなり遅れた人工知能式だから、あまり難しいことはできない。
「だからこれは、11年前のタイプだってば(^^;」
と、アーサーはロボットのつるつる頭をぽんと叩いた。
「考えてみろよ。これは凄いことなんだ。11年前、庶民への利用が許されていたロボットは、この程度なんだぜ」
「11年前の日本の介護ロボットのが、まだ進んでるぞ」
と、俺。
「軍事機密を家電に使うような、危機意識が特別に低い国と一緒にしないでくれよ」
言いながらアーサーは、不満そうに鼻をひくつかせた。
「とにかく、こいつのレンタル料金が破格だったんだ。きっと、ここにある酒の、一番安い奴よりも、まだ10パーセントOFFくらいの値段さ」
と、アーサーは大威張りだ。
「年明けまで、使いたい放題さ。ただし、定期的に企業広告なんかを受信して流しちゃうんだけどね。でも、結構優秀なはずだぜ。これでみんなのプライベートの負担が軽減されるよ」
「でも、今のところ、レイが頑張ってくれてるもんなぁ」
と、ヤーブ。確かに、レイが来てからというもの、俺達の日常は変化したよ。当番制だったメシもレイが毎日楽しくやってくれてるし、洗濯も、掃除も、公共範囲についてはレイがやってくれた。
その結果、当然の成り行きとして、チームの予算は奴が掌握することになったんだけど、それでも文句は出なかった。
レイのことは信用していたし、みんな、そういう煩わしいことは嫌いだし。
「でも、手伝いが居たら、レイも楽か。俺達があんまり手伝わないし…」
と、ファーダ。
「そうだろ!」
と、アーサーは意気込んだ。
「これは本当に凄いぜ! こいつが進化するとレイになるんだ!」
「僕はロボットじゃない(^^;」
レイの抗議も、アーサーは無視だ。
「ネアンデルタール人と、我らホモサピエンスが一緒に包丁使うってなくらい、画期的な対比だぞ。こいつら二人がキッチンで作業するのは」
「だから、僕はロボットじゃないってば!」
レイの抗議とアーサーのへ理屈に、皆の間に苦笑が広がる。それを遮るように口を開いたのは、ヨハンだった。
「何でもいいが…」
と、彼はロボットのハゲ頭に手を置き、アーサーを見かえした。
「結局このロボット、どうするんだ? ツリーに吊るすのか?」
「テメエは人の話を聞いてないのかっ!(^^;;;;;」
「いや、拝聴させていただいたが」
と、ヨハンは嫌味な口調でそう言って、にやーりと笑う。
「君の持ってくる機械が、成功した試しがないものでね。本気と思えなかったのさ」
「本気なんだっ(^^; 」
「で、結局このロボット、どうするって? いつもど〜り、バラして失敗作を作るのか?」
「作る前から失敗作って言うなよ!(^^;;;;; っとにお前は、やな奴だな☆人の話を聞け。こいつには、レイの手伝いをしてもらうの。データーを取って、うまくいけば、自家製の『傭兵マシーン』が出来るかもしれないだろ!!」
「アーサー…お前って、何てすごい奴なんだっ!」
感動するのは、ランディ。彼はアーサーの手をぐっと握った。
「俺も協力するぜっ!」
「おうっ! 二人で、傭兵マシーンを完成させようっ!!!」
この二人、修理は得意だけど作り出すのは苦手だもんね。うまくいって信用できるのは、トラップだけか☆
「…傭兵マシンの導入は、永久になさそうだな」
ヨハンのつぶやきは、全員の代弁だった。
そしてロボットの名前は…ロボットには「 ゛」、つまり濁音が使われてる名前のがそれっぽくていい、というアーサーとランディの提案で、「グゲゴン」に、決まった。
すっげぇセンスだわ☆
<3>
で、グゲゴンはなんでも出来た…というのは、ちょっと嘘。料理以外は、大抵のことが出来た、というほうが正しい。
ただ、洗濯はしてくれても、干すのと畳むのは苦手だし、掃除機は使えても雑巾掛けは出来ない。
料理は、やらせないほうが無難だった。
3本指の手に専用カッターをとりつけると、野菜の皮剥きが出来るんだけど、ジャガイモもニンジンも、皮とともに質量も半分に削られちゃうのさ。
そんなんで、俺達はグゲゴンを、「使い方によってはとっても便利」という程度に評価した。アーサーが買ってきたにしては成功だ。
……と、思っていた。大半の奴はね。でも、彼にアイロンを使わせたことで、評価は一気に下落した。
グゲゴンは、アイロンかけが上手なんだ。ハンカチはもちろん、ワイシャツでもスラックスでも、クリーニングに出したのかと思うくらい、上手にアイロンを掛けてくれた。それでまあ、いつものごとく、レイが彼に、洗濯物のアイロンがけを頼んだわけ。
そして彼は、やっちまった。
ちょうどヨハンのシャツにアイロンを掛けている時に、広告電波を受信しちゃったんだ☆
ジュ----------ッッッブスブスブス…焦げた匂いに気付いたレイが、グゲゴンの腕を持ち上げようとしたけど駄目だった。
「南米でとれた風味豊かな美味しいコーヒーの…」
「新発売、○×オイスターソース…」
なんて、スポンサーたちの広告を受信している間、グゲゴンは完全に止まっていた。
「グゲゴンっっ(^^;;;いいから手を持ち上げてっっ!アイロンを放すんだっっ!」
レイが慌てふためき、他のメンバーが呆然と見ている中、グゲゴンはアイロンを押し当て、シャツを焦がし、アイロンは、危険を報せるか細いアラームを鳴らす。
そして1分余りの広告が終わると、グゲゴンは元通りに動き出し、おっきな穴が開いた、ヨハンの高価なシャツをハンガーにかけ、茶色く焦げ付いた跡が残ったアイロン台にセンサーの目玉を向けた。そして、レイを見上げる。
「レイ、あいろんだい、汚レテマス」
「…………………………ああ、そうだね」
レイは、苦笑とも困惑ともつかない顔でがっくりとうな垂れ、ヨハンは憮然としたのだった。
---------
「次は、どこ?」
と、俺はレイに紙コップのホットココアを差出した。
「銀行行って、おわり」
と、レイはコーンポタージュを俺に渡し、俺達は互いに交換したモノを飲んだ。
クリスマスイブの夕方、俺とレイは買物に出たんだ。夕方っていってももう暗くって寒い。それで、暖房の利いたスーパーから出る前に、入り口付近にあった屋台でお茶タイム。
「しかし寒いよな」
こんなことなら車で来ればいいのにとも思うんだけど、駐車場がないんだよね。それに、どうせ商店街をうろつくわけだから、かえって徒歩のが便利…なんだろうな。
それに、除雪されているとは言え、路上はスケートリンクだ。俺もレイも、そんな道を運転するほどの技術は持ち合わせていない。
しかも俺等は、例のお手伝いロボット・グゲゴンを連れていた。子守ロボットはレンタルが出回ってるし、家事補助ロボットがある家庭も多いから、連れて歩くこと事体はそんなに珍しくない。
それでもこんな旧式は、さすがに見かけなかった。
つるつるの金属ボディは、スーパーの暖房で火照っているけど、外に出たら触った指がくっついちゃうほど冷えるのは、行きの道筋で経験済みだ。
それで今は、俺の帽子をかぶせてレイのマフラーを巻いてある。
「あ…サムだ」
と、レイがふと顔を上げた。サムが白いダウンジャケットの襟の中に顔を埋めるようにして、こっちに来る。
「よう。遠くからでも、よく目立つな、こいつ」
サムはニヤニヤして、グゲゴンの背中のフックに、白い買物袋を引っかけた。
「サム、バイトの帰り? その袋は?」
と、俺。
「杏仁豆腐。残ったの、くれたんだ」
「賞味期限は?」
との、シビアなレイの問いかけに、サムは、「昨日」と肩を竦めてみせた。
「ところでこいつ、ラジエーター、ついてないの?」
と、サムはグゲゴンをくるっと眺めた。
「それくらいは、ついてるんじゃないか? 一応動く機械なんだし…」
と、俺。
「付いていたって、機能してなきゃ無駄だね」
俺とサムの会話を、レイが嫌味で締めくくる。
結局こいつ、アーサーにからかわれたのは良いとしても、グゲゴンというライバルが登場したのが気に入らないんだ。
まあ、レイのライバルっていうほどグゲゴンは活躍してないし、レイだって、掃除機を掛けることは、すっかりグゲゴンに任せきりだ。結局レイは、それなりにグゲゴンを気に入っているわけだし、便利に使っているんだ。
アイロンがけ以外はね☆
サムは、俺たちの飲んでいたものを全部飲み、暖を取る。
「サム、帰るだけだろ? 俺達銀行行くんだ。付き合えよ」
「いいよ」
と、サムは機嫌良く応じた。
「バイト代、確認しなくちゃならないし」
なるほどね。俺達は、グゲゴンの背中のフックに荷物をひっかけ、寒い外に出た。
銀行は、比較的空いていた。今日はイヴだからね。今更、金を下ろす奴はいないだろう。皆もう、帰ってチキンでも焼いているのかな。
5時まで窓口やってるのに、客は少ない。俺は椅子に座り、一息ついた。窓口の女の子たちが、グゲゴンを珍しそうに見る。
レイは窓口でなにやら始め、サムはATMに通帳を突っ込んでいる。サムは、比較的すぐに戻って来て、俺の隣りに座った。
「どうだった?バイト代は」
「入ってた。メンツがいつもの半分くらいの時、飯でも食いに行こう。おごるよ」
「年が変わった週に、ヤーブとファーダとヨハンが、3人揃って出かける日があるぜ」
「じゃ、その時にな。みんなに、こそっと声かけといてくれ」
「OK」
俺とサムは、拳をこん、と軽くぶつけ合った。そこに、レイが戻ってくる。
「もうしばらくお待ち下さい、だってさ」
「よかった、もう少し休める…」
と言いかけた俺の隣りに、レイが座ろうとした時だった。
キキキキキッというブレーキ音と悲鳴が、外から聞こえてきたのだった。☆
<4>
はっと振り返ると、黒塗りのトラックが止まり、中から黒の作業服とゆーか、警察の特殊部隊かと思うような格好の男たちが、数人降りてきた。手に手に銃やマシンガンを持っていて、銀行の中になだれ込んでくる。
警備員はいたけど、まあ、飾りだよね。こんな小さな支店だもの。シルバー事業団からの派遣のような、かなり年配のオジサン。彼はあっさりと殴り倒され、男たちは銀行の中の客に、銃口を向けた。
あまりのことに、俺達は呆然さ。
しかし今時、正面切って入ってくる銀行強盗って、あり?せめて輸送車を襲うとか、もっと逃げやすい方法を考えればよいものを…(^^;
「立て!全員立って、壁際に寄れ!!!」
2人が俺達客に向かって怒鳴り、残り2人は銀行員に銃を向ける。残る1人は入り口を見張り、もう1人は裏口のほうへ行く。6人の銀行強盗ねえ…
しかも、最初から立てこもることを前提にしている・・・(--;)
店員は、窓口担当の若い女性2人と若い男性1人、それから、奥に支店長らしきオジサンと中年のおねえさん。
相手の人数多いから、誰も抵抗しなかった。強盗たちは手早くブラインドを閉める。
って、店員の誰かが、非常ベルは押したらしい。俺達が固まっている間に、ガラス窓の外は野次馬が集まり、遠くでパトカーのサイレンが聞こえてくる。
「早く立つんだ!壁に寄れ!!!」
客は、俺達3人とグゲゴン、それから乳母車の赤ちゃんと若い母親、オバサンが2人。近所のハイスクールのワッペンをつけた私服の女の子が2人。
みんな、大人しく従ったよ。でも、強盗たちは乳母車を押す女性を呼び止めた。
「お前はそっちじゃない。ガキは泣かれると面倒だ。銀行から出ていけ」
ほう。意外と紳士。若い母親は、恐怖で今にも倒れそうだった。足が竦んだようで、身動きできないでいる。でも、サムが「大丈夫だよ」と背中をぽんぽん叩いてあげると、泣きそうな顔で振り返り、すぐに銀行から出て行った。
俺は座る時に、ポケットの発信機のスイッチをオンにして、ついでに集音機のスイッチも入れておいた。アーサーたちが受信してくれれば、警察に役立ててもらえる。
しっかし、銀行強盗に遭遇なんて、初体験だよ。だから俺は、けっこうルンルンだった♪
向こうも、身体検査とかしなかったし。まあ、取り上げられても、俺のナビ端末は電子手帳みたいなものだから、集音してるとばれることはないだろうからね。
<5>
外で警察官が、拡声器で何か叫んでいるけど、あまりよく聞こえない。銀行強盗が入ってきてまだ10分くらいだけど、けっこう長く感じる。
店員たちは、みんな椅子に座ったままカウンターの向こう側で、一ヶ所に集められている。
で、サムはあぐらかいて、何だか妙に落ち着いている。こいつにとっては、これも修行のうちなのかもしれない(^^;)。
レイは膝の上に顎を乗せて、早くも飽きてきた様子。ハイスクールの女の子2人は、仲良く手をつないで大人しくしている。
オバサン2人も、静かにしていた。
そしてグゲゴンも、余計な電子音を立てたりせず、レイの横で大人しい。
俺は、レイと同じような格好でじっとしていた。ジーパンのポケットに入っているナビの端末が、さっき3秒ほど震えたのは、アーサーたちからの連絡だ。受信してるよ、てな意味だ。
受信してもらえたんなら、他にすることは無い。
強盗たちは、2人が警官との交渉に応じているようだったけど、あとのメンバーは、俺達から目を逸らすこともない。
トイレっつーのも白々しいし、まあ、余計なことしないのが身のためかな。
交渉の内容は、なんだかローカルな政治的なことだった。銀行に対する市政に不満があるんなら、市庁舎に立てこもれよっ、と言ってやりたい気分だよ。
そして、俺達を見張っている強盗は、どうやらグゲゴンが気になるらしい。俺達を見張りながら、この旧式のロボットをちらちら見ている。
「おい、そいつを壊せよ」
と、リーダーらしい男が、仲間にそう言った。
え?壊すの?(^^;;;
「最近の子守ロボットは、対犯罪者用のシステムがついている。警察に通報したのはそいつじゃないだろうが、余計なことしでかす前に壊しておこう」
「これは、子守ロボットじゃなくて、お手伝いロボットだよ」
と、レイが不満そうに抗議する。
「それに、こいつにそんな高級な機能がついてるわけないだろ(--;)」
ごもっとも☆強盗たちは、レイにちらっと視線を向けただけで、何も言わなかった。
まあ、最近のロボットには、確かにそういうシステムがついてるよ。子守用のロボットには誘拐防止機能があるし、一般の手伝いロボットには、盗難や火災報知センサーが搭載されている。
グゲゴンは古いから、自転車と同じさ。登録番号があるだけなんだ。まあ、本体の迷子防止のための発信機はついているけど。
「とにかく、電源を落とせ」
と、1人がレイに銃口を向ける。でもレイは、ケッて感じ。
「レンタルだし、広告受信型だよ。充電池が切れないと、止まらないよ」
そりゃまあ、そうだ。電源を切りたいなら、3ヶ月くらい充電しないでおくしかないよ。強盗たちも、それ以上は何も言わなかった。
また、30分くらいが過ぎていく。
ポケットの端末が時々プルプル震えてるから、まあ、警察に役立てて貰えてるのかな。
で、交渉役の1人が、中に入ってくる。
「女を1人、見せてやったほうがいいかもしれない」
その言葉に、店内は凍り付いた。ありゃま。でも、強盗が選んだのは店員の若い女性だった。銃を突き付け、入り口まで連れて行ってしまう。
暫くなにやら交渉すると、彼女はまた戻された。今度は、客用のソファに座らされるけど、膝が微かに震えている。足が長くてきれいだけど、ふくらはぎに筋肉ついてるみたいだから、何かスポーツやっているんだろうけど、この場面じゃ役に立たないかな?
「今度は、他の女にしよう」
と、強盗が選らんだのは、高校生2人のうち、小柄なほうだった。彼女は、もうだめさ。竦んじゃって、立てないんだ。
「早く立てっ!」
強盗に強く腕を引っ張られ、彼女は前のめりに転んだ。ソファに座っていた女性が、とっさに手を差し伸べる。と、強盗は彼女を殴り、高校生の首に腕を回した。
「イライラさせるなっ!」
と、その時さ。なんとグゲゴンが、ガショガショガショ!!!!と強盗に歩み寄ったんだ。
<6>
「暴力ハ、だめデス」
店内は、それこそし〜んと静まった。
「暴力ハ、だめデス」
「このっ…。ポンコツめ!」
竦み上がって動けない女の子にイライラしていた強盗は、ぶち切れた。グゲゴンの額部分に向けて、銃を一発撃ったんだ!
キン!と音とともにグゲゴンの額で火花が散り、全然別方向の、カウンターの上の花瓶が割れて花と水が散らかった。
「……」
何が起きたのか、一瞬わかんなかったよ。
強盗は自分の銃と花瓶を見て、グゲゴンを見つめた。
「この、何しやがった!」
パンパンパン!という銃声と、キンキンキン!という金属音がセットで響く。その度に壁のポスターに穴が開き、窓口の名札が吹き飛び、電灯が割れてショートする。
窓のブラインドも、紐が切れてだらしなく宙吊りになり、防弾ガラスに弾がめり込む。
人に当らないのが、不思議だよ!
俺とサム、レイ、そして他の人質も、頭を抱えて体を丸めるしかない。
「な…?」
強盗は、何がなんだか分からないでいるし、ほかの強盗たちも、グゲゴンの回りに集まってくる。
「おいっ!こいつは一体…」
と、1人がレイにつかみ掛かろうとした時だった。
グゲゴンが、例のごとく…多分銃撃のおかげで、ボリュームのつまみがいじられて…最大音量で、食品のコマーシャルを流し始めた。
その音量の大きさ!凄いんだよ。鼓膜が破れそうなくらいの音で、
「今夜のおかずはミートボール!」
って、叫んだのさ。
<7>
「アチョーーーーーーーオオオオっ」
その一瞬のすきに、サムが銀行強盗に飛び掛かった。
その声の大きさっていったら、グゲゴンが受信している広告に負けてなかった。
「ローストビーフに、△△のスパイシーソース」
「トリャアアアァ!!!」
「××は、今年最後の大バーゲン!!!」
「アイヤーーーーーーーッッッ!!!」
「全国どこにでもお花を届ける、花の宅配…」
「ウオリャアアアア」
「ハッピーニューイヤースペシャルディナーショウ!!」
「ハアッ!」
…と、あらかたの強盗を倒したところで、サムは攻撃を止めた。
裏口を見張っていた強盗が騒ぎに気付いて戻ってきて、店長のオジサンを人質にとったんだ。
禿げた頭に銃口が突き付けられている。それだけならまだしも、強盗は、反対の手で自動小銃を握っていた。
「それ以上暴れると、店長の頭が吹っ飛ぶぞ。ポインセチアの葉みたいになる」
サムが攻撃を止めたからって、立ち上がれる強盗は誰もいない。皆、肋骨の5〜6本は折れてるだろうし、サムは、容赦しないもの。万が一の為に、利き腕だって折ってあるはずだ。
…手加減してありゃ、ヒビ程度なのかもしれない。
呻き声ばかりで、誰も起きないというのは、残った強盗にとって予想外の事態だったに違いない。彼は、味方が誰一人として起き上がってこないことに、焦ったようだった。
「殺したのかっ!」
「うめいてるから、死んでないと思うな」
と、レイが辺りを見回してそう言う。そういう問題でも無いんだが…(^^;)
「こっ…こうなったらもう、お前ら全員殺して、俺も…!」
と、彼の声が一際大きくなった瞬間、人質に突きつけられていた銃が強盗の手から弾き飛ばされた。
あっと思った瞬間に、サムの回し蹴りが男の顔に入り、その口からキラキラ光る白い歯が吹き出されたのが、スローモーションで見える☆
俺達が我に返るより先に、警察の特殊部隊が突っ込んできたのだった。
<8>
「いいとこ一番獲りっ♪」
俺たち3人に笑顔で手を振ったのは、シャンペンを抱えたジェシーだった。
シャンペンは、ピンクと白と赤と緑のリボンが派手に飾られている。
「いやあ、ちょうどお前らの所に行く途中だったんだよね。そこの酒屋で、これ買ったんだけどさ」
と、ジェシーはいつに無く上機嫌だ。
「しっかしまあ、お前ら、随分古臭いお手伝いロボ使ってんなあ。おかげで、役に立ったけどよっ」
ジェシーは、グゲゴンの頭をペシッと叩いた。
「全身防弾加工の重量級ロボットなんて、今時すっげえ珍しいよ」
「でもジェシー、あの人込みの中から、防弾ガラスをよく撃ち抜けたね」
と、レイ。
「ああ、ほら、強盗の跳弾がガラスに当ったてただろう? それにマグナムの弾ぶちあてて、弾の速度落として・・・ あんなの、ちょろいちょろい」
クリスマスイヴのせいなのか何なのか、事情聴取は簡単だった。ファーダたちも、来ている。
「災難だったね」
と、ファーダ。
「でもまあ、コージの端末のおかげで中の様子がよく分かってたし、簡単に済んで良かったよ。グゲゴンも、活躍したみたいだしね。結果的には、ジェシーとサムのお手柄か」
「何もしなかったのは、レイだけ、と」
と、アーサーがからかう。
「グゲゴンの活躍は、偶然だろ。僕は努めて冷静に振る舞っていただけさ」
レイも負けずに言い返す。そして俺たちは、家に向かって歩き始めた。空はもう真っ暗で星も無いけど、イルミネーションが綺麗だった。
雪も舞っていて寒い。
「今夜は、宴会だな」
と、俺。
「…静かにクリスマス、っていう訳には行かないのかなあ…」
と、ファーダ。その瞬間、先頭を歩いていたグゲゴンが、停止した。
「グゲゴン?」
ピーーーピピピピグググ、ガゴガグ…ググググク…シューーーーーーーー
「…………」
「あの、グゲゴーン…」
俺たちは、顔を見合わせた。まさか、撃たれすぎで…
「うそっ! この坂、まだ200メートルも登らなきゃいけないのにっ!」
「何でこんな所に止まるんだよっ!」
俺たちが叩いても揺さぶっても蹴っても、グゲゴンはすっかり止まっていたよ。まあ、蹴ったりするからかもしれないんだが…
「担いでいくしか、無いんじゃないか?」
と、ジェシーのシビアな一言に、俺たちは再び顔を見合わせた。
「………アーサー、ランディ、二人で担げよ」
と、ファーダ。
「なっ、何でだよっ?!」
「どうして俺たちが…」
「君たちが持ってきた物だ。自明の理っていうモノだな」
ヨハンのシビアな一言で、アーサーとランディは諦めがついたようだった。二人で、よっこらしょっと声を掛け合い担ぎ上げる。
総重量100キロ。ま、二人で50キロずつ。作戦中に背負う装備と同じくらいだ。
「だから、大丈夫だろ」
と、ファーダ。
「何が、だから何だよっ!」
「作戦中でもないのに、こんな重いの担ぎたくねーよっ!」
アーサーとランディは文句ダラダラだったけど、それでも5分ほどで坂を登り切った。
アジトの門には、赤いリボンが飾ってあって、降ってる雪とマッチしている。
俺たちは騒ぎながら、玄関の中に入った。
グゲゴンが、どさっと勢い良く下に下ろされる。
「ああ、しんどい。やっぱ、安いと駄目なのかなあ…」
と、アーサー。
「原因究明、出来るかねえ」
と、ランディ。そこに、留守番していたヤーブが奥から出てきた。
「やあ、ご苦労さん。あ、いらっしゃい、ジェシー。…何、グゲゴン、壊れたの?」
「そ。何で壊れたのかは、チキン食いながら話すよ」
と、俺。
「そして、これも天の啓示と受け止めて、傭兵マシーンの開発はいい加減に諦め給えよ」
と、ヨハン。この意見は、もっともだ。俺たちが苦笑したとたん、グゲゴンは蘇った。
「ガガガガガガ…ザザ…
Silent night! Holy night!
All is calm, all is bright,
Round yon Virgin Mother and Child.
Holy Infant, so tender and mild.
Sleep in heavenly peace………」
「え、ええと…?(^^;;;)」
俺たちは、それが終わるまで立ち尽くしちゃった☆グゲゴンは、ザーザー言いながらくるっと回転した。
「We wish you a merry Christmas
We wish you a merry Christmas
We wish you a merry Christmas
And a happy New Year.
Glad tidings we bring
To you and your kin;
Glad tidings for Christmas
And a happy New Year!」
次の瞬間、俺たちは大爆笑だった。
「メリークリスマス!」
ジェシーがいきなり、シャンペンの栓を抜く。ぽんっと良い音がして瓶から泡と甘い香りが吹き零れる。
「うわっ、こぼれてるっ」
「もったいねえっ!」
俺たちは、シャンパンの瓶を取り合って回し飲んだ。その間も、グゲゴンのクリスマスメドレーは続いていた。
「結局こんなオチかよ☆」
アーサーが、ほっと溜息をつく。
「あーあ、今年も有意義で使える発明には恵まれなかったって事かあ☆」
「今くらいは、そういう非生産的で無駄の多い欲望と反省は忘れ給えよ」
と、ヨハン。
「テメーに言われると、やっぱりすっげぇ腹立つぞ☆」
「事実を突つかれてるからだろ。それよりも今は、wish you a merry Christmas And a happy New Yearさ」
ヨハンはそう言って、アーサーにウインクする。
「…それも、そうか」
アーサーは、肩を竦める。
「純粋に、ハッピーな来年に期待するか☆」
「アーサーとランディの失敗作に期待するより、自分で購入資金をやりくりするほうが絶対に早いよね」
レイがまた、きつい事を言う。
「奥に入ろうよ。暖かい部屋で、飲み直そう」
「グゲゴン、どうするよ? もう、駄目かなあ」
と、ランディ。
「買い取りかもな」
「まあ、今日のところはツリーと一緒に飾ろうよ。活躍してくれたんだから」
ファーダが取り成して、俺たちは暖かい居間へと入った。
「グゲゴンに酒飲ませたら、錆びるんだろうけど、何でレイは錆びないのかなあ」
「その辺を解明しないと、自前の傭兵マシーンは完成しないかもしれないな」
「そんなこと言っているうちは、絶対に完成しないね」
アーサーとランディとレイが毒を吐きあっている横で、ジェシーが俺の耳に口を寄せる。
「なあ、レイって、ヨハンと性格似てるんじゃないか?」
「でも、ヨハンよりはいい奴だと思うな」
「全員に平等に被害を及ぼさないところは特にね」
と、ファーダが話に割り込んでくる。
「ほら、レイはランディとアーサーとだけ、敵対してるもの。その点では安心だよ」
どういう安心なんだろう…と俺とジェシーが顔を見合わせると、
「全員から暖炉の薪代を徴収するという案を、レイと検討してみようか」
ヨハンが、そういいながら俺たちの横を摺り抜けていった。テーブルの上のボトルを手に取ってにやーりと笑う。
「そのほうが、優秀な傭兵マシーンがすぐ手に入るぞ」
「いいね、それ。僕、その話のった!」
レイが、ヨハンにグラスを差出す。俺たちは、しーんと静まった。
「…ファーダっ!」
「えっ、何?!」
「やっぱりお前の一言が、一番余計なんだよッ!」
結局オチは、これだったらしい。ファーダはボコボコにのされた。運び込まれたグゲゴンは、どこが壊れたんだか、ずっと宣伝を流し続けていたけど、結局ランディとアーサーは、皆の意見を取り入れて、グゲゴンを強制的に黙らせる事を諦めた。
まあ、どうせクリスマス一色の宣伝だ。BGMとしては悪くない。
「来年は、でっかい仕事をしたいよなあ…」
と、ヤーブ。
「いつもやってるじゃんよ。でっかい仕事をさ」
と、アーサー。
「入り口はいつも小さいじゃないか。で、やってるうちに想像を超えるような仕事になっていくのが常なんだよね。入り口と同じサイズの仕事がしたいんだよ」
これにはみんな、同感だった。
「じゃあ、俺が仕事持ってきてやろうか?!」
と、ジェシー。
「君の仕事を受けるんなら、君のことはもう二度と、客とは思えなくなるね」
と、ヨハンが肩を竦める。それはけっこう、みんなが思っているはずだ。
何はともあれ、クリスマスだ。
「ヤーブからのプレゼント、あけてみようよ!」
レイが屈託無く笑って毒吐き合戦が終わる。
来年は、どういう年になるんだろう。
もちろん、何が起きてもいい。
それでも絶対に、来年のクリスマスも全員で過ごせますように。
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