FAIRY SWORD

外伝/吹雪


俺は絶対、彼を守るよ…


登場人物
セディ>
第7代聖総帥。とある事情により、冬の西域を1人旅している。その途中で、カイと出会う。
カイ>セディに拾われた、人と精霊人のハーフ青年。人間で占い師でもあった母親は、「7の数字を背負う男がフェーリを滅ぼす」と予言した。
アーク>空飛ぶ帆船「ヴィーア」の女船長。カイやセディの知り合いらしい。


<1>

外は、激しい吹雪で真っ白だった。わずかな壁の隙間から覗いたカイの前を絶え間無く風が吹き荒び、景色は何も見えない。積雪を考慮して作られた高床の軒下を、風が通り過ぎて行く。

まるで、空中にいるかのように、部屋全体が風の流れに包まれている。

彼は隙間に元通り木の枝を詰めて塞ぎ、暖炉の前に戻った。忘れられて手入れもされていないこの猟師小屋も、吹雪をしのぐには充分だった。一間しかないが、その分部屋全体が暖かい。

「カイ…?」

咳の混じった弱い声と視線が、カイを見上げる。

「まだ吹雪いてるよ、セディ。寒い?お湯、飲んでみる?」

カイは、暖炉の前で毛布に包まって横たわっているセディの横に、座った。下がらない高熱で、あまり意識がはっきりしていない。セディが力無く首を動かす。

振ったのか肯いたのか分からなかったが、カイは「首を横に振った」のだと解釈した。ぐったりした体を抱きかかえ、膝に乗せ、その頭を自分の胸に押し当てる。

「大丈夫だよ。吹雪が止んだら、アークを呼ぶから…」

「帰らなきゃ… フェーリ・ソード・エリアに…」

熱で倒れてから、何度も繰り返すうわ言だ。カイは、肯いた。

「大丈夫。ちゃんと送り届けてあげる」

「…………」

ほっとしたような顔をして、セディは再び眠りに落ちて行く。

猫のアイボリーも、改めて丸くなる。セディの胸が、呼吸する度にヒュウヒュウと音を立てて苦しそうだ。それでも、抱きかかえられて楽になったのか、咳はしなくなった。

セディの長い金髪が、床に渦巻いている。高熱のために何度か短く切り落としたが、だめだった。切られた髪はキラキラ光って空気に溶け、1時間もしないうちに元通りの長さまで伸びてしまう。

セディはこれを「呪縛が解けたからだよ」と笑ったが、カイは信用していなかった。確かにその瞬間から、カイの止められていた成長も一気に解放された。本来の、18歳の姿に戻ったのだ。

呪縛が解けたのではなく、呪縛されたから、本来の姿に戻ったんだ…

だが、セディよりもまだ背は低い。剣も、セディより随分と弱い。

「それでも、絶対に守る」

と、カイは呟いた。アイボリーの耳だけがぴくんと動く。

…カイ、お父様を守って。あなたの弟は、いずれ精帝になる。その精帝とお父様を守ってあげて。

7の数字を背負う男から、滅びを願うその男から、フェーリ・ソードの大地を守って!

彼女はただの「人」なのに、何故精霊人の世界を守りたいと思ったのだろう?と、カイは苦笑した。

彼女は、精帝になるべき者を生むのは自分ではなかった、だから彼の前から姿を消したのだと言った。
だとしたら、彼女は何のために彼と出会ったのだろう?

そして、今ここにいる自分は、何のために生まれてきたのか?

「母さんの予言は、当らないよ」

と、カイは再び呟いた。自分がいま抱えている男こそ、「7の数字を背負う男」だ。

セディは、カイの母、千夜(せんや)の予言など知らない。知っているのは多分、自分と父親、そしてアークの3人だけだ。

だが、自分に救いの手を差し伸べてきたのは、セディである。

利害も損得も考えず、ただ、ちょっと寂しくなったからだと言った。

君が望むなら、フェーリソードに連れていってあげる。君さえ良ければ、フェーリで、ずっと一緒に暮らそう…

「一緒にはいられない。でも、絶対に守る。セディが望むなら、俺が、フェーリの大地を滅ぼしてあげる…」

外の吹雪は、止む気配が無かった。

<2>

とんとん、という軽いノックで、カイは飛び起きた。隣りで、セディが眠っている。足元の焚火は消えかけていたが、部屋はまだ暖かい。

「アイボリーが、何か鳴らしたのか?」

アイボリーが、金色の瞳で自分を見あげる。

トントン…

空耳ではない。アイボリーが扉に向かって走って行く。カイも、慌てて立ち上がって扉に向かった。

「カイ、いるのでしょう? 吹雪が止んだわ。迎えに来たわよ」

アークの声だ!カイは慌てて、扉を開けた雪が、すぐ足元まで積もっている。が、風は止み、辺りはとても静かだった。月の光だけが降ってくる。

「…アーク」

カイが呼びかけた相手は、その静けさの中にたたずんでいた。白い景色に黒髪が映える。

「やっと、吹雪が止んだわ。セディは、まだ生きている?」

「……ああ」

彼は、肯いた。ほっとして、力が抜けて行く。

「まだ生きている。良かった、来てくれて…」

「…」

「1人ではまだ、セディのことが守りきれないからね…。どうしても、アークに頼らなきゃ」

「じき、1人でも守れるようになるわ。さあ、行きましょう。再び吹雪いて、この大地が閉ざされてしまわないうちに…」

カイは2度肯き部屋の中に戻った。アイボリーが、アークに抱かれて甘えている。

「セディ、アークが来たよ…。さあ、治療してもらおう」

彼は荷物を肩にかけ、セディを抱き上げた。

――――――――

アークもセディに味方してる。だから絶対、あなたの予言は当らない。

俺はセディと一緒に、フェーリ・ソードの大地を滅ぼすよ………………


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