フーンさんの子育て日記(後半)
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これは日本人と結婚して、昨年初めて赤ちゃん
   を産んだベトナム人女性・フーンさんの半年間
  の子育てを、日記ふうに綴ったものです。
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* 4ヶ月目*

 さて今月から離乳食を少しずつ赤ちゃんに与えることにしました。ベトナムで赤ちゃんに食べさせる離乳食は、母に聞くと私が子供の頃にはその種類も少なく、米を柔らかくお粥のように溶いたものや、豆乳くらいしかなかったそうです。でも今はお店に行けば色んな種類が有ります。

 米を粉にしたもの、牛肉や鶏肉を粉にしたものや、果物ではバナナやイチゴを粉にしたものなどがあり、あるいは私がビスケツトを砕いて粉状にしたり、それを数種類混ぜて毎日お湯で溶かして60ccくらい飲ませています。オリーブ油も一緒に混ぜて入れています。これを飲み干してしまうのに20分も掛かりませんでした。やはりお乳とは違う味を美味しいと思ったのでしょう。

 さらに今月に入って一週間を過ぎたころに、突然嬉しいことが起こりまし た。それは赤ちゃんが寝返りを打てるようになったのです。まず右のほうだけに回ろうとして(将来は右利きになるのでしょうか)肩に力を入れて回転しようとするのですが、中々上手く回転することが出来ません。それで赤ちゃんの肩に少し力を入れて軽く押してあげると、見事にクルリと回り寝返りを打ってくれました。これには2人で大喜びしました。

 この寝返りの楽しさを覚えてからは、赤ちゃんにとって今までの寝たきり だった位置から見た世界は天井だけだったでしょうから、寝返りを打つようになってから全く違う世界が現われて来たことに味を占めたのでしょうか、それからは何度も寝返りに挑戦しては失敗するそのたびに肩を押してあげました。

 そうこうするうちに寝返った時に、右手の置き方を少し前に出すと体が安定し易いことも覚えて来たようで、何とこれからさらに7日後には誰の助けも借りずに、自分一人で右に回る寝返りをとうとう成功させました。

 他の子どもと比べて早いのか・遅いのか、私も初めての子供だけに良く分かりませんが、子供のこのような目に見える成長が現われて来るのは本当に嬉しいことでした。赤ちゃんを持ったお母さんは、たぶん私と同じような気持をみなさん持たれているのでしょうね。

* 5ヶ月目*

 今月は春さんが日本に帰りました。春さんも子供とのしばらくの別れを、本当に辛そうにして日本に帰って行きました。「日本に帰ったらまた時々電話するからね!」と、子供を抱きながら話していました。私も大変辛かったです。

 春さんが日本に帰って一週間後には、赤ちゃんは寝返りを右にも左にも自由に打てるようになりました。それでベツドの右から左まで自由に寝返りを打ちながら移動しますので、大変危なくなりました。少しの間も目を離せないし、ベツドから落ちてもいけないので、そばを離れる時にはベツドの隅に枕を並べて落ちないようにしました。

 そしてまた今月も病院に行き身長と体重を測ると、身長が61cmで体重が6.4kgになっていました。でもこの頃からベトナムは雨期に入る前特有の暑い季節になります。部屋の中の温度も38度くらいになり、夜の過ごしにくさと言ったら有りません。今私が寝ている部屋も扇風機は有りますが、クーラーは有りませんので、さすがに赤ちゃんも過ごし難くなって来たようです。

 今までは夜中でも2〜3時間は熟睡していましたが、この時期は1時間も経つと夜に目を覚ましてすぐ泣き出します。頭に手を触れるとビツシリと汗を掻いていますので、そのたびにウチワで扇いであげます。

 この頃からでしょうか?この前までは離乳食も旺盛に食べていたのが、最近はその量も少なくなり、食べるスピードも遅くなって来ました。お乳や粉ミルクを飲む量も以前よりは少なくなりましたので、やはり食欲が落ちて来たようです。

 でもそれとは反対に、他人を見る時の目つきや同じ年くらいの子供に出会った時には、相手をしばらくじっと見つめた後に、ものすごい高い声で「キ〜〜〜、キャー〜〜〜」と猿のような悲鳴をあげて注意を引こうとします。これは本人なりに会話しているつもりなのでしょう。時には相手の髪の毛をしっかりつかんで離さないのです。

 春さんからは毎週一回決まった曜日に、日本の家から電話が掛って来ます。
いつも「2人とも元気かい?」と尋ねます。その時に赤ちゃんの耳に受話器を
当てると、この5ヶ月目でもすでに聞き覚えのある声であることが分かるのか、「ニコ〜ツ」とした顔をするのは不思議でもあり、可笑しくもあります。

 さらに一週間に一回だけ日曜日にデパートに出掛けると、その店に入った時からそこで働いている人たちや、そこで売っている物や、店の中に置いてある動いている物、例えばおもちゃの人形や熱帯魚などにはものすごく強い好奇心を示しているのが、そばで見ていても良く分かります。家の中にいても毎日同じ単調な世界しかないでしょうから、やはりこういう家とは違う世界に時々出掛けることは、赤ちゃんにとっては大いに刺激になるようです。

 そしてこの5ヶ月目の後半ころから、少しずつ人見知りが始まり出しました。
デパートに行った時なども、ベトナムの人は子供好きなので、そこの店員さんがすぐ抱こうとします。そういう時にも以前は誰に抱かれても、「ニコ〜ツ」としていましたが、最近は人によっては大きな声で泣き出すようになりました。

 私の実家に帰った時にも、以前は父母に抱かれても泣き出すことはなかったのですが、最近は母が抱いたり、父が抱いたりした時でも「ワーー、ウエ〜〜ンン」と大きな声で泣き出し始めました。そういう反応を見ると、もうすぐベトナムに帰って来る自分のお父さんの顔を見た時に、(こんな調子でまた大きな声で泣き出さないだろうか…?)と春さんが帰る前に、そのことが少し心配になって来た私でした。

* 6ヶ月目*

 5月にようやく春さんが日本から帰って来ました。私は子供と家で待っていました。そして家のドアを開けて春さんが入って来た時には、春さんは私と目を合わせた後、わざと黙って子供の側まで近づき、赤ちゃんと顔を合わせてそのままジーツと見ていました。

 私は(すぐ泣き出さないかな…?)と心配していましたが、2・3秒の沈黙の後に「ニコ~ツ」と笑顔を見せてくれたので大変安心したのと同時に、(一ヶ月近くも前の記憶がもう赤ちゃんの中には出来ているのだろうか?)と不思議な気もしました。

 春さんは日本で買って来たいろんなお土産をすぐ広げて見せてくれました。そのほとんどが子供のおもちゃや、服などでした。その中で私が、「あ、これはいいな!」と思ったのは食事の時に使う、子供用の短い箸です。ベトナムでは普通、子供も大人も食事をする時には同じように長い箸を使います。

 実際にベトナムの箸と日本の箸の長さがどれだけ違うか測って見ましたら、ベトナム人が普通に使う箸は長さが26.5cm、日本の箸は22.5cmのと20cmのと2種類有りました。ですから大人が使う箸だけでも最高で6.5cm、最低でも4cmもベトナムの箸のほうが長いのです。

 その長い箸を幼い子供が食事する時にも使っていますので、見ているとやはり大変使いづらく、それが原因でベトナムでは大人になっても正しい箸の使い方が出来ない人も多いのです。

 春さんが今回買って来た子供用の箸は、長さが16.5cmでした。奇麗な色が塗ってある、竹で出来たその柔らかそうな箸を見ていると小さい子供も楽しく使ってくれることでしょう。さらには何とその箸には「あいちゃん」「ゆきちゃん」というように子供の名前まで入り、「おとうさん」「おかあさん」という名前の箸まで有りました。

 ベトナムの箸はそのほとんどがプラスチツクで出来ているだけの味気ないものですが、日本の人は本当にこういう細かいところまで良く考えたものを作るな〜と思います。

 また日本からの友人や、会社の人からプレゼントされたと言って数冊の子供用の絵本を持って来ました。厚い装丁で出来た本ですので、子供が少しくらい乱暴に扱っても破れないような造りになっています。

 その絵本の内容は私には良く分かりませんが、春さんに聞くと日本の昔の物語や新しい子供向けの話しだそうです。子供が少し大きくなれば、毎日寝る前にその絵本を読んで聞かせるのだと、春さんは今から張り切っています。

 さて春さんが帰ってから落ち着いてすぐ言ったのは、「少しAiちゃんはやせたような気が…」という言葉でした。私は毎日見ているのでさほど感じませんでしたが、以前よりは飲むミルクの量や離乳食の量が確かに少なくなって来てはいましたので、どこか病気でもしていないかな?と心配していたところでした。それで春さんが帰った翌日に、恒例の一ヶ月検診に行きました。

病院で測定した時には、身長は63cmで体重が6.9kgでしたので、順調に体
重も増えていましたので安心しました。ですから標準よりも大きくはないですが、心配するほど小さいということでもないようです。

 そしてこの6ヶ月目には、さらに目に見えて大きな成長の跡が出て来ました。それは下の前歯が、2本小さい・白いのがうっすらと生え始めたことです。この下の歯が生え始めたこの月というのは、思えば今までで一番変化の激しい第一歩だったようです。

 歯が生え始めるとむずがゆいらしく、自分の指だけでは物足りないのか、とにかく目の前にあるあらゆるものを口に運ぼうとします。そして何回も噛んで・噛んでその感触を味わうのが好きのようです。

 市販されている柔らかいゴムのようなものも与えましたが、すぐそれにも飽きて毛布・新聞紙・雑誌・風船・ウチワ・リモコンのスイツチ・ビニール袋・縫いぐるみなどを口に入れてしまいますので、最近は危なくなって来ました。

 子供が良くタバコの吸殻などを口に入れる事故がありますが、本当に目を離せません。幸い春さんはタバコは吸いませんが、口に入れて飲み込むような小さいものは、赤ちゃんのそばに置かないよう気を付けるようになりました。

 最近一番の好物(?)が、電話機と電気コードです。この二つには異常な好奇心を示します。電話機が好きなのか、その長い線が好きなのか良く分かりませんが、電気コードも同じように興味を示しますので、赤ちゃんにとっては恐らく長いものが興味を惹くのでしょう。

 電話機に興味を持ち始めてから何と、ハイハイの第一歩が始まりました。今までは寝返りだけで、カニのように横だけに移動していましたが、今度は目の前にある電話機に少しでも近づこうと腰を上げ、両手を動かしてその目標に近づこうと縦に動こうと必死に頑張っています。でもまだ一歩しか進めません。

 さらにまた人見知りも激しくなり、知らない人から抱かれると火が点いたように泣くようになりました。このことは身近な人の顔と、そうでない人の顔の区別が付き始めた証拠でしょう。だんだんと赤ちゃんの記憶の中に、両親の顔がしっかりと刻まれてきたのでしょうか。そのせいか以前は「イナイイナイ、バー」をしてもキョトン?とした顔をしていましたが、今はケタケタと笑い出します。

 私の赤ちゃんの場合、半年経ったこの時期の特徴としては全体的に感情表現が豊かになり、自分の好き嫌いを強く主張するようになりました。ミルクや離乳食を与えても2〜3分もすると、(イヤイヤ)と首を横に振り、もう要らないというジェスチャーをして強く拒絶します。それと併行して、寂しい時や自分の要求が満たされない時には激しく泣きます。嬉しい時にはまた激しく笑い、その喜怒の落差が大きくなり始めたと思います。

 ですから以前は離乳食を無理に与えても一応全部は飲み干していましたが、最近は首を横に振るとそのまま口を開けないので、5ヶ月目の時よりも食べる量が減って来ましたので、心配になってお医者さんの所に行きました。

 すると身長は前月とあまり変わりませんでしたが、体重がやはり300g減っていたのです。お医者さんに相談すると、「今までのただ起きてミルクを飲み、寝て過ごすだけの世界から、この時期はいろんなことに興味を持ち始めて来るので、食べる量が減ることもあるが全然心配ない。」と言われるので、一応シロツプだけもらって来ました。

 今ようやく6ヶ月を過ぎてもう少しで7ヶ月目に入ります。まだまだ安心も出来ず、さらにこれからがますます手が掛るのでしょうが、今のところは大きい病気もせずに成長してくれていますので、それでいいと思います。またこれからの続きも明るく、嬉しい成長の記録をみなさんに届けたいなあと思います。

おわり
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