複雑系の科学と現代思想 生命システム 金子邦彦・郡司ペギオ-幸夫 高木由臣 青土社 1997

 

複雑系の科学と現代思想 生命システム 金子邦彦・郡司ペギオ-幸夫・高木由臣 青土社 1997


 複雑系の科学は、この書の出た頃、すなわち 1997年頃がブームのピークであったように思うのだが、そのブームも、その後急激にさめてしまったような気がする。複雑系は、どうも眉唾ものだという話も上がっていた。実際、その当時は、この書の著者も後書きで述べているが、誤解に満ちた報道がなされていたのだろう。

 私自身は、複雑系に対してそれほどの知識はなく、どちらかというとひょっとしたらすごい科学なのかも知れないと思ったのは事実である。しかし、現在の時点では、それはそれほど夢の科学ではないということは明らかになっているようには思う。地道な研究が求められていて、遠い将来、ものになるかも知れないし、ならないかも知れないというレベルなのだろう。

 ただ、この書のテーマである生命システムに関しては、興味がある。と言っても、知識の方はそれほどあるわけではないのだが、分子生物学が扱うDNAレベルの生物学と細胞レベルの生物学、そして多細胞の個体としての生物学との間の境界面というべきところの話は、この読書日記で、先に述べた「外部認識」と「内部認識」との関連とよく似た関係を感じているからだ。

 DNAによって生命体は、分子レベルでタンパク質の合成などの情報を得て実際にそうした合成をするわけであるが、それで細胞が一意に決定されるわけではなく、細胞間の相互の関係性において、様々な細胞に変化していく。この著者は、そうしたことを一対多と呼んでいると思うのだが、そうした複雑な過程がどのようにして起こるのかということは、専門家ではない素人としても非常に興味がわく問題である。

 とにかく、厄介で難解な学問の領域だという感じはする。読んでいてそれだけ面白いと言うことでもあるのだが、複雑系と言われる科学で、それが解明できるようになったりしたらなおさら面白いなと思う次第である。もちろん、他のアプローチの仕方もあるだろうし、そうした方向で研究している人達も多いのではないかとは思うのだが。

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